魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

133 / 141
合成魔法の秘密

 シェフの白衣姿のフェンリルがハティを伴って校門の先に立っていた。彼女の目線の先に闇の結界に覆われた島がある。

 

「お姉ちゃん……」

 

 ハティがフェンリルの横にちょんと立って不安げに見上げていた。フェンリルは幼い少年の顔と闇の中にある島を見比べて言った。

 

「こいつの人生はようやく動き出したばかりだ。ここで世界が滅びるっていうのは、どうにも忍びない。ロキ様、申し訳ありませんが、今回はプリキュアの勝利を祈りますよ」

 

 同じころ、校長先生とリズは杖の樹のある塔の上に移動していた。校長は剣呑とした雰囲気の中で常に険しい表情をしていた。

 

「リズ先生、君を呼んだのは、わしにもしもの事があった時に代わりを願いたいからじゃ」

「校長先生、またそのようなことを……」

 

「生徒たちの為に、もう一度この命をかけよう。そうせねばならぬ理由がある。もしもの時は後を頼む」

「そんな……校長先生……」

 

 リズの目じりから涙が溢れそうになると、校長の緑の瞳が驚いたように少し大きくなり、それから彼は慌てて口にした。

 

「いや、言い方が悪かったな。命をかけると言っても死ぬつもりはない。ただな、年老いた姿になってしまうと、わしは何もできぬ故……」

 

 それを聞いたリズは涙をハンカチで拭って安心して微笑が浮かんだ。

 

「まあ、そういうことでしたか。わかりました。わたしのできる事であればなんなりと」

「うむ、よろしく頼む」

 

 校長先生がふと目を細めた。彼の見ている黒い雲の上に輝きを放つ何かが現れる。それはどんどん近づいてきた。

 

「あれは何でしょうか?」リズもその存在に気付いた。

「むっ!? あれは!?」

 

 輝きを放つ三つ子の宝石が校長の目の前に止まり、彼がそれを手にした。

 

「これは、13番目のリンクルストーンアレキサンドライトか……」

 

 校長先生がそれを握りしめ、より一層厳しい顔つきになった。

 

「このリンクルストーンがこんな場所に飛ばされてきたということは、何かよからぬ事が起こっているのか……」

 

 校長先生の言葉と様子にリズの不安も募った。

 

 

 

 倒れ伏す5人のプリキュアを巨大な黒竜の三つの頭が見下ろしていた。

 

「ヨルムガンドと一体になった俺様にもう自由はねぇ。こいつの持つ破壊衝動と共に生きていくだけだ。けどよ、それはそれでありって奴だぜ。この竜の頭上(とくとうせき)で人間どもが滅びゆく様をゆっくりと見られるんだからなぁ!」

 

 5人のプリキュアは傷つきながらも動き出し、一様に苦し気な表情を浮かべながらも立ち上がってくる。

 

「がんばるねぇ」

 

 ロキが黒い口をにやけた形にバカにしていると、5人の視線がこの男に集中した。圧倒的パワー、圧倒的優位、にもかかわらずロキはプリキュアたちの顔を見ていると不安になってくる。

 

「気に入らねぇ、その眼っ! 全然諦めてぇねその眼! 見ているとむかついてくるぜ! 今度こそプリキュアを完全に消し去ってやる!」

 

 ヨルムガンドの三つの頭が大きく口を開ける。プリキュアたちがステッキやワンドを構え、プリーステスがルーンの胸を肘で押した。

 

「あんたは後ろに下がりなさい」

「え? ど、どうして?」

 

「これで終わりだぁーっ!」

 

 三つの竜の巨大な顎から黒炎のブレスが吹き出す。プリキュアたちは同時にリンクルストーンを呼び出した。

 

「リンクル・ピンクトルマリン!」

「リンクル・ムーンストーン!」

「リンクル・ガーネット!」

「リンクル・ブラックオパール!」

 

 聖なる花の結界、白と黒の魔法の円盾、地面からせり上がった岩の障壁、プリキュアたちの守りの魔法が辛くも荒れ狂う黒炎のブレスを止める。しかし、みんな苦し気な表情で必死に魔法を維持していた。すぐに破綻が迫って魔法の盾や守りの岩に亀裂が生じてゆく。

 

「あわわ!? どうしよう!? どうしよう~っ!?」

 

 守りを固める4人の後ろでルーンが慌てふためく。

 

「え~と、え~と、よ~し、これだ~!」

 

 ルーンは特に深く考えずに左手を横に、何となく感覚でリンクルストーンを出した。

 

「リンクル・スタールビー!」

 

 ルーンの左手のブレスレットに3条の光の線が交錯するルビーが出現する。ルーンがブレスレットと共に真紅の輝石を高く上げる。すると、その場にそろった五つのリンクルストーンが同時に光り、守りの魔法を使う4人の前にフェリーチェの魔法陣が大きく広がり暗黒の業火を防ぐ。その魔法陣はピンク、白、オレンジ、黒、赤、この五色がキラキラと移り変わっていく不思議な輝きを持っていた。

 

「な、なにいぃーっ!?」

 

 ロキが驚愕して見ている前で、四つの守りの魔法がスタールビーから力を得て変化していく。地面を突き破って無数の光り輝く蔦が生えて無数の葉が開き、そして蔦に付いた二つの蕾から白い光と黒き闇の二つの大花が開いてプリキュアた守る鉄壁の結界になった。

 

「おお~、なんかすごいのきた~!」

 

 4人のプリキュアが真剣に敵を見上げている後ろでルーンが陽気な声を上げていた。魔法から生まれた白と黒の二輪の大花が凶悪な闇の炎を完全に払ってプリキュアたちを守り切った。その一部始終を上から見ていたロキは凄まじく狼狽した。

 

「バ、バカな!!? ヨルムガンドを越える力は俺様の闇の結界の下では使えねぇはずだ!!?」

 

 見上げるフェリーチェの目力を受けてロキの心に小さな恐怖が生まれる。フェリーチェが前に出てくると、ロキは足があったら後ろに下がりたい衝動に駆られた。

 

「あなたの闇の魔法の結界は、最初から大きな力を持つものを拒みます。しかし、合成魔法は小さな魔法の力を合わせて大きな魔法の力にするのです。それならばこの闇の結界の中でも発動は可能です!」

 

「な、なんだ、とっ……!?」

 

「フレイアは闇の魔法に対抗する為だけに合成魔法を生み出したのではありません。何千年も先にあるこの戦いを見つめていたのです」

 

 ロキの目に滔々(とうとう)と語るフェリーチェがフレイアの姿と重なった。

 

「ぐぬううぅ……フレイアの奴め、俺様の邪魔ばかりしやがって!!」

 

 状況を理解できないほど混乱したロキは変なうめき声を上げて、その後に憎しみを爆発させた。

 

 冷静さを失ったロキにプリキュアたちが攻め込む。マジカルとルーンが左右に散り、ミラクルとプリーステスがフェリーチェを間に挟んだ。

 

「リンクル・ピンクトルマリン!」

「リンクル・タンザナイト!」

「リンクル・インディコライト!」

 

  フェリーチェ、ミラクル、プリーステスがリンクルストーンを呼び出し、ステッキとワンドとブレスレットが飾る右手がヨルムガンドに向けられる。

 

『プリキュア! ホーリーナイトレイ!』

 

 花の魔法陣、五つのハートの五芒星、三日月と六つの星の六芒星、この三つの魔法陣からそれぞれ光の魔法が放たれ、それが途中で一つに合わさり新たな聖なる光の魔法が生まれる。閃光が空を突き抜け黒竜の腹の中心に撃ち込まれ、大きな光の流れが途轍もなく巨大なヨルムガンドを後退させた。

 

 マジカルとルーンは一緒に跳躍し、

 

「リンクル・ペリドット!」

「リンクル・ローズクウォーツ!」

 

 ロキの頭上に至る。左手のステッキとブレスレットが竜の頭の上に居座る者に向けられた。

 

『プリキュア! フォレストフラワーストーム!』

 

 マジカルとルーンの魔法が一つになり、若葉と花びらが乱れる旋風が起こる。思考を鈍らせていたロキは、それをまともに喰らった。

 

「ぐがあああぁぁっ!!?」

 

 竜の頭の上にいるロキの上半身が、背骨が折れると思うくらいにのけぞって苦しんだ。

 

「畜生めがぁっ! やりやがったなぁーーーっ!!」

 

 ロキが赤眼を醜く見開くと、ヨルムガンドはそれに反応してか両手で3人のプリキュアの聖なる光の魔法を受け止める。

 

「合成魔法が使えるからって何だってんだ! そんなもん屁でもねぇんだよぉっ!!」

 

 ロキが両手を前に出すと、二人でそろって空中にいたマジカルとルーンが闇の衝撃波を受けて吹き飛んで墜落していく。そして光の合成魔法を受け止めているヨルムガンドの両手から闇の波動が撃ちだされ、光の魔法が一気に押し戻された。合成魔法を破られたプリキュアたちは左右と上に危うく逃れる。

 

 マジカルとルーンが着地し、ミラクルとプリーステスが左右に逃げたタイミングを狙ってヨルムガンドが巨体を半回転させる。そして、途轍もなく長く巨大な黒竜の尾が地上にいる4人のプリキュアを一気に攫った。4人の乙女が悲鳴をあげ、一度に吹き飛ばされた。空中に逃げたフェリーチェだけが無事だった。

 

「みんな!!?」

 

 フェリーチェの視界のずっと先に4人が落下して四つの土煙が高く上がった。

 

 ロキが真っ黒な手のひらを広げると、それと同じ形の巨大な闇の手がフェリーチェの頭上に現れた。

 

「つああああぁっ!」

 

 ロキが開いた手のひらを虫でも叩くように振り下ろすと、フェリーチェの上にある闇の手も同じ動きをしてフェリーチェを叩き落した。防御が間に合ったのでダメージは大したことはない。フェリーチェは片膝を付く形で着地した。その彼女を黒い影が覆う。見上げてフェリーチェは息を呑んだ。ヨルムガンドの足の下が頭上に迫っていた。

 

 巨竜の足が重々しい音と共に落とされ、ロキの顔に再び愉悦が浮かんだ。

 

「勝った! ついにマザーラパーパを継ぐ者を倒した! これで俺様の邪魔をするものはもういねぇ!」

 

 その時、ロキは体が少し傾いた気がして赤い目をひそめる。

 

「はあああぁーーーっ!!」

 

「な、なんだとぉーっ!?」

 

 なんとフェリーチェは、巨竜の足の底に両手をついて持ち上げていた。

 

「なんて奴だっ!? いい加減につぶれろぉっ!」

 

 刹那的に四つの色彩の風が空中を駆け抜ける。

 

『だあぁーーーっ!!』

 

 正に疾風の如き速さで迫った4人のプリキュアの一体の跳び蹴りが、ヨルムガンドのわき腹にめり込んだ。

 

 ついにダメージを受けたヨルムガンドの三つの竜の頭から凄まじい声が上がった。打撃を受けた黒竜の巨体が横に傾ぎ、ゆっくりと倒れていく。体から先に横倒しになり、後からしなった三つの首が折り重なって大地に打ち沈んだ。枯れ花と土埃が吹き上がり辺り一帯に広がった。

 

「くそぉっ! なにしてやがる! 起きやがれヨルムガンド!」

 

 ロキの苛立ちに反応するように、ヨルムガンドは漆黒の翼を羽ばたかせ、その翼力で島中に暴風を呼び起こした。山のように巨大な黒竜の体が浮き上がり、そして両足を地上につけて立ち上がる。ロキの胸の深淵より忌々しさが噴き上がり、歪んだ黒い虚空の口と真紅の怒る目によく表れていた

 

「なんなんだっ、てめぇらは!? なんでこんなに喰らいついてきやがる!? 普通諦めるだろうが!?」

 

 ロキをねめつける5人のプリキュアの瞳の強さに、彼はさらに苛立ちを募らせた。

 

「ぬああああああああぁっ!!」

 

 ロキは胸を突き上げるよく分からない気持ちの悪さを追い出すように、狂気的な叫び声をあげた。それに連なるように、ヨルムガンドの三つの竜の頭から起こった強烈な咆哮がプリキュアたちに向けられた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。