魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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闇の魔法の王・覚醒

 闇の密度が増した邪悪な結界の内側では、ロキが絶対王者としての自信をもって笑みを浮かべ、口元に鋭い牙を覗かせながら一歩ずつ5人のプリキュアに近づいていた。

 

「キュアミラクル、お前は奇跡のプリキュアなんだよなぁ。俺様がヨルムガンドの力を手に入れることが出来たのは、お前のおかげかもなぁ。だって、こいつは奇跡だろう! ありがとうよ! キュアミラクル!」

 

 どこまでも人をバカにした態度だが、ロキの凄まじい力を感じて怒りよりも緊張の方が勝っていた。そして、ロキが揺さぶりをかけているに過ぎないと分かっていても、ミラクルは居たたまれない気持ちになってしまった。

 

「あなたに奇跡などあり得ません!」

 

 プリキュアたちの間に漂う嫌な空気を、フェリーチェの清絶な声がかき消した。

 

 ロキが足を踏み出し、枯れた草花を踏みしだき、充実した闇の魔法の力によって足が更に大地にまでめり込む。その状態で彼は足を止めた。

 

「じゃあ今のこの俺様な何なんだ? お前たちのお蔭で、俺様はデウスマストを越える力を手に入れた! 貴様らの敗北はもはや確定している! これを奇跡と言わずに何という!」

 

「ここにいる誰一人として、あなたに負けるつもりなど微塵もありません!」

 

 それを聞いたロキが顔を上に向けて痛快な笑い声をあげた。その声が闇の結界に反響してプリキュアたちの耳朶に不快感を与えた。それからロキは真顔になって言った。

 

「その心意気は大したもんだ。まじで感心しちまったぜ。お前たちが決して絶望したり諦めたりしないということが、よおく分かったぜ。だったらよお、完全に動けなくなるまで完膚なきまでに叩き潰すまでだ!」

 

 5人のプリキュアが構えを取り、その後ろに隠れているモフルンとリリンまでもが、これからロキに立ち向かっていくような精悍な顔つきになった。

 

「行きます!!」

 

 フェリーチェの声を合図にプリキュアたちの戦いが再び始まった。

 

「リンクル・スタールビー!」

 

 プリーステスが右手を横に叫び、スタールビーのリンクルストーンを腕輪に呼び出す。リンクルブレスレットで真紅の輝石が光を放ち、プリキュアたちに力を与えた。

 

「その程度のパワーアップなど何の意味もねぇ。すぐに思い知らせてやるぜ」

 

 ロキは直立不動で拳を固く握りしめてプリキュアたちを待ち構えた。

 

 乙女たちは声を上げ、凄烈な気合を込めて闇の魔法の王に迫っていく。プリーステスとルーンは左右からロキを挟み込んで攻撃する。

 

「だぁーっ!」

「とぉ~っ!」

 

 プリーステスとルーンの回し蹴りがロキの両腕に決まり、

 

「たぁーっ!」

「やぁーっ!」

「はぁーっ!」

 

 ミラクル、マジカル、フェリーチェが正面から突っ込み、ロキの厚い胸板に3人の拳が同時に入った。その瞬間の状態でプリキュアたちの動きが止まった。ロキは神殿を支える石柱のように微動だにせず立っていた。

 

「はっ!」その一呼吸の気合でプリキュアたちは散り散りに吹き飛ばされた。

 

 5人のプリキュアがバク宙して着地し、プリーステスとルーンが先に向かっていく。そして二人の気合が充実し、ロキの左右から膝蹴りで迫る。こんどはロキが腕を上げ、二の腕で二人の膝蹴りを同時に防御した。まるで鉄柱にでも攻撃したような硬質な感触がプリーステスとルーンの足に伝わる。そして二人の腹部に瞬間的にロキの黒く大きな竜の手が押し当てられた。

 

「喰らいな!」ロキの手から闇の衝撃波が撃たれる。

 

『くはぁっ!!?』

 

 二人とも腹に痛烈な一撃を受けて吹き飛び、枯れ果てた花園に沈む。二人ともすぐに起き上がろうとしたが、腹の中心から激痛が広がって動けなくなってしまった。

 

『はあぁーっ!』

 

 続けてミラクル、マジカル、フェリーチェが再びロキの正面から攻め込む。ミラクルとマジカルの蹴りがロキの両わき腹に入って挟撃し、フェリーチェの拳は笑みを浮かべる黒い竜魔人の顔面に撃ち込まれる。フェリーチェの拳を受けた顔に笑みが浮かんだ。

 

「ふうん!」

 

 ロキの右と左の拳がミラクルとマジカルの腹にめり込み、ロキの頭突きがフェリーチェの腹部を痛打する。3人がほとんど同時に苦し気な声を上げながら吹っ飛び枯れ園の中に落ちた。

 

 ロキは今まで散々にやり返されてきた5人のプリキュアが苦しみ倒れる姿を見て、確実なる勝利という実感をものにして声を上げる。

 

「なってこった! プリキュアがまるで塵芥(ちりあくた)じゃねえか! もはや負ける要素など一欠けらもねぇっ!」

 

 ロキは高揚する気持ちの全てを込めて叫んだ。

 

「素晴らしいぞ! この力っ!!」

 

 そんなロキの愉悦を邪魔するように、プリキュアたちが立ち上がる。

 

「いいぜ、いくらでもかかってこい!」

 

 どんなに力の差を見せつけられても、全く諦める気配のない魔法つかいの乙女たちを、ロキは何の憂慮もなしに迎えた。ヨルムガンドの力を手にする前は、プリキュアの諦めない姿を見る度ごとに恐怖心を感じていたが、今の彼にはそれがまったくなく、胸の底から爽快な気分だった。

 

 闇色の竜魔人に5人のプリキュアが殺到する。ロキはわざわざ両腕を上げて、無防備に体をさらしてプリキュアたちに好きに攻撃させた。ミラクルとマジカルが盛り上がって割れている腹筋にパンチを連打し、フェリーチェは胸に足で踏みこんで、そこから連続ので踏みつけ攻撃、プリーステスとルーンは岩のような肉体から黒い翼のはえている背中に高速パンチを連打する。

 

「かああぁっ!」

 

 ロキの気合の一声で周囲に衝撃波が広がり、プリキュアたちは全身に痺れるような衝撃を受けて宙に浮かんだ。

 

「そらそらそりゃーっ!」

 

 ロキが空中に漂うプリキュアたちに次々と攻撃を加えていく。目の前にいたミラクル、マジカル、フェリーチェは拳と蹴りで打ち飛ばし、背後にいたプリーステスとルーンは足を捕まえてて前方に投げ飛ばす。そして5人全員まとめて地面に叩きつけられ、土埃に混ざって無数の枯れ花が高く舞い上がった。

 

 その様子をロキがにやついて見ていると、もうもうと立ち昇る土煙の中から紫と白のプリキュアが飛び出した。

 

『やあぁーっ!』

 

 マジカルとプリーステスが上から攻めてくる。ロキは不興気に眉を少し動かし、腕を組んで上からの二人の蹴りを止めた。マジカルとプリーステスはそこからロキの腕を踏み台にして飛び越え、黒い翼の見えるロキの背後に回る。

 

「何の真似だ?」

 

 立ち昇る埃が消えると、そこにミラクル、フェリーチェ、ルーンの姿が現れる。ミラクルは右手にリンクルステッキを持ち、フェリーチェはフラワーエコワンドを両手で握り、ルーンはブレスレットのある左手を胸の辺りまで上げた。

 

 マジカルもリンクルステッキを左手に持ってロキを指し、プリーステスはリンクルブレスレットのある右手を同じようにロキに向けた。

 

 プリキュアたちの行動の意味を知ったロキが笑みを浮かべる。

 

「なるほど、そういうことか。合成魔法には今まで散々やられてきたが、今の俺様に通用するかな?」

 

 ロキは腕を下げると、顔を醜く歪めて憎々し気に言った。

 

「フレイアの生み出した小賢しい合成魔法を打ち破り、フレイアが何千年も前からしてきた努力など全て無意味だったと証明してやろう。あの女神が道化だったと教えてやろう!」

 

「黙りなさい!」

 

 プリーステスが怒りを露わにすると、他のプリキュアたちの気持ちも熱くなった。

 

 ミラクル、フェリーチェ、ルーンが先に動く。

 

「リンクル・タンザナイト!」

「リンクル・ピンクトルマリン!」

「リンクル・インディコライト!」

 

 それに合わせてマジカルとプリーステスもリンクルストーンを呼び出した。

 

「リンクル・ガーネット!」

「リンクル・オレンジサファイア!」

 

 そしてロキの前方と背後から合成魔法が放たれる。

 

『プリキュア! ホーリーナイトレイ!』

『プリキュア! スカーレットウェイブ』

 

 ロキの前方から三つの光が融合した魔法が放たれ、背後からは大地と炎が融合した魔法が赤く燃えたつ地走りとなって迫る。マジカルとプリーステスから地面を走ってきた炎がロキの周囲を囲んで真円になり、その内側の範囲の地面が熱く煮えたぎるマグマに変化する。そして前から迫っていた光の魔法をロキはまともに受けた。さらに地面から高く噴き上がったマグマがロキの体にまとわりつく。

 

「こいつは丁度いい熱だぜ。まるで風呂にでも入っているようだ」

 

 ロキがにやけ顔で言うと、さすがのプリキュアたちも少し寒気がする。そしてロキが、今度はふっと目を細めて不快そうに言った。

 

「だが、この光の魔法はちとうざいなぁ!」

 

 ロキが右手を振ると手刀から黒い斬撃が出て光の魔法を真っ二つに裂きながら突き進む。そして光の魔法の元にいたプリキュアたちが斬撃をまともに受けて、バラバラに散って倒れた。

 

「ミラクル、フェリーチェ!?」

「ルーン!?」

 

 マジカルとプリーステスが叫び、ロキが赤く焼けた地面から跳躍する。そしてプリキュア二人が上空を仰いだ。鋭い爪が黒光りする竜の足が迫る。二人が左右に飛ぶと、その直後にロキが降りてきて両足が地面を破壊した。マジカルとプリーステスは着地するとすぐさま攻撃に転じる。

 

「はぁっ!」

「でやぁっ!」

 

 左右から同時に撃ち込まれたパンチを、ロキは両方の手のひらで軽々と防いだ。

 

「づあ!」

 

 ロキの両手から漆黒のエネルギー波が出て、近距離でそれを受けたマジカルとプリーステスは爆発し、吹き飛んだ。

 

『キャアッ!?』二人とも同時に悲鳴をあげて、別々の場所に墜落した。

 

「フハハハハハハァッ! これでフレイアが道化であることが証明されたなぁっ!」

 

 乙女たちは強き心の力だけで再び立ち上がる。遠くからそれを見ていたモフルンとリリンの瞳から涙が零れ落ちた。

 

「もうこれ以上はむりモフ……」

「でも、リリンたちには止められないデビ……」

 

 それを聞いたモフルンは涙ながらにプリキュアたちと心を一つにして表情を引き締める。

 

「そうモフ。モフルンたちは最後までみんなを信じるモフ!」

「その通りデビ! どんなことがあっても信じるデビ!」

 

 乙女の大喝が闇の結界の中に響き、ミラクルとルーンが二人でロキに向かっていく。二人のプリキュアを迎え撃つ彼は、両腕を上げて手を開き、柔道選手のような構えになる。懐に入ってきたミラクルとルーンの拳が彼の腹に炸裂した。

 

「バカめ! 何度やっても無駄だ!」

 

 全くダメージを受けていないロキは頭上で両手を組み合わせ、それをミラクルとルーンに向かって振り下ろす。その瞬間に後ろからロキの左右にマジカルとプリーステスが入ってきて、ロキの手首に手を置き、筋肉隆々の腕を下から押し上げて投げ飛ばした。

 

『でやぁーっ!』

 

「なにぃっ!?」

 

 ロキの両腕を打ち下ろす力が投げ飛ばす威力に変換されて、黒い巨体が盛大にぶっとんだ。そして、彼が墜落した場所が大きく陥没して土埃が噴火を思わせるほどに高く上がった。

 

「ぬうぅ……」

 

 土埃の中で片膝を付いていたロキが立ち上がって歩き出すと、目の前にフェリーチェがいた。

 

「お前ひとりで戦おうってのかぁっ!」

 

 ロキが爪を立てた竜手を突き出すと、その手首をフェリーチェに取られた。

 

「はぁっ!」

 

 攻撃を合気で返されたロキの巨体が凄まじい回転を伴って宙に投げ出される。

 

「うおおぉっ!?」

 

 ロキは顔面から地面に叩きつけられた後に腹ばいになって寝そべった。

 

「ヘヘッ、ハッハッハ!」

 

 ロキが笑いながら立ち上がると、フェリーチェの周りに他のプリキュアたちが集まっていた。

 

「またそれかよ。それで俺様に一泡吹かせたつもりか? 一回や二回投げ飛ばしたくらいでなんだって言うんだ? そんなもん一千回繰り返したって俺様は倒せねぇぜ!」

 

 ロキの右手の拳がどす黒い闇をまとう。

 

「貴様らにあるのは、この圧倒的な闇の魔法にひれ伏す未来だけだ!」

 

 ロキが地面に拳を叩きつけると、無数の黒い亀裂が入り、そこから地面の裂け目が八方に広がって黒い瘴気が噴き上がった。次の瞬間、ロキのいる場所から外に向かって闇の瘴気の噴出が激しくなり、噴き出る闇と一緒に地面がめくれ上がった。プリキュアたちは成す術なく噴泉のような闇に巻き込まれて無数の石くれと一緒に宙に投げ出された。そして全員が天上になっている闇の結界の壁に叩きつけられ、それから落ちてゆく。

 

 みんな大きなダメージを受けて意識が朦朧(もうろう)としていた。プリーステスだけが何とか意識を保って、近くにいたウィッチの手を握った。

 

「……っつう、ルーン、気合入れなさい!」

「……うぐぅ、プリーステス!」

 

 ルーンはプリーステスの声で覚醒し、二人で一緒に魔法を発動した。

 

『リンクル・スターサファイア!』

 

 二人の腕輪に三条の光線がクロスするサファイアが生まれ、飛翔の魔法が発動すると、プリーステスはフェリーチェとマジカルを両脇に抱え、ルーンはミラクルを後ろから抱いた。伝説の魔法つかいの三人が浮遊感の中で目を覚ます。

 

「ルーン……」

「プリーステス……」

 

 ミラクルとマジカルが少し呆然としながら同胞の顔を見る。名前を呼ばれた二人は笑顔を見せた。

 

「まだ行けるでしょ」

 

 プリーステスが言うと、マジカルも笑みを浮かべた。

 

「当然よ」

 

 プリーステスとルーンの機転によって、プリキュアたちは墜落を免れて緩やかに着地することができた。

 

「二人とも、ありがとうございました」

 

 フェリーチェが礼に対してプリーステスが首を振って言った。

 

「礼を言うなら、あいつを倒してからね」

 

 5人のプリキュアの視線がロキに集中する。彼は小島のように残った地面の上に立っていた。自身の闇の魔法の威力によって周囲が広範囲に崩れ落ちていた。

 

 ロキが翼を開いて飛び上がり、そこから飛翔してプリキュアたちの前に降りた。

 

「みんな、もう一度行くわよ!」

 

 プリーステスの声に他のプリキュアが強く頷く。プリーステスが右手を上げて、ブレスレットに再び真紅の宝石を宿らせた。

 

「リンクル・スタールビーッ! プリキュアに力を!」

 

 プリーステスのブレスレットから放たれた真紅の光がプリキュアたちに降りそそぎ、5人のプリキュアが体に炎のように燃え上がる真紅の光をまとう。

 

「こりない奴らだ」

 

 ロキは腕組みして悠然とした態度で言った。

 

『はあぁーーーっ!!』

 

 5人のプリキュアの気合が重なると、ロキは構えを取った。

 

「遊びは終わりだ。次の攻撃で引導を渡してやるぜ」

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