宵の魔法つかいの二人が跳躍し、3人の伝説の魔法つかいはロキに向かって疾走した。
プリーステスとルーンは宙返りを繰り返して高速で回転し、ロキの頭上から攻め込んでいく。
『いやぁーーーっ!!』
二人の気合にロキの心が震えて、身をもって受けてやろうと考えていた彼を防御の態勢へと導いた。ロキが頭上で組み合わせた腕に、高速回転からプリーステスとルーンの踵落としが打ち下ろされる。受け止めた瞬間の衝撃で、ロキの両足が地面に沈み込み、その周囲に無数の亀裂が走る。そこにミラクル、マジカル、フェリーチェが突っ込んできた。
『はあぁーーーっ!!』
三位一体で放たれた三つの拳が相手の胸にめり込む。ロキは少しばかり顔をしかめた。
「その気迫は見事だ、少しばかり衝撃を受けたぜ。だがっ!」
ロキの胸の中心辺りに黒い球が現れ、それが一気に広がって闇の膜がプリキュアたちの体を通過した瞬間に、全員の体が動かなくなった。
「プリキュア共! ここまでよく戦った、ほめてやるぜ!」
ロキが体を回転させ、丸太のように太く重量のある足が伝説の魔法つかいの3人の腹部に、横一文字の形に撃ち込まれた。3人とも悲鳴をあげながら吹っ飛んだ。
次の瞬間にロキは、頭上にいるプリーステスとルーンの足をつかみ、二人同時に地面に叩きつける。
「くはあぁっ!?」
「あぐうぅっ!?」
背中から叩きつけられた二人の乙女の肢体が地面を粉砕した。この一撃で完全に戦う力を無くした二人を、ロキは前に向かって無造作に投げた。
先にミラクルとマジカルが墜落して枯れた花々の中を長い距離引きずられるように滑って止まり、そのすぐ後にプリーステスとルーンが二人の隣に落ちてくる。フェリーチェだけは吹っ飛ばされている途中で妖精の翅を開き、宙返りして態勢を立て直した。
フェリーチェは一人だけでもう一度ロキに向かっていく。
「はあぁっ!」
フェリーチェの鳩尾への正拳突きから空中で半回転しての回し蹴りのコンビネーションが見事に決まる。それを受けたロキは一寸も動いていなかった。
「まだ向かってくるとは、やはりお前は他のプリキュアとは違うな」
ロキが言うや否や、フェリーチェは腹に強烈な衝撃を受けた。
「くはっ!?」ロキの目に見えないほど素早いパンチが入っていた。
「今度こそ終わりだ」
ロキは組み固く組み合わせた両手でフェリーチェを叩き落し、地面に打ちつけられて跳ね上がった優美な乙女を容赦なく蹴り飛ばした。精も根も尽き果たフェリーチェは細い悲鳴をあげてすでに倒れている4人のプリキュアの間に落ちた。
ロキは痛快な笑みを浮かべつつ両手を高く上げる。ロキの手と手の間に暗黒の球体が現れ、大きく膨らんでいく。それはすぐに巨体のロキを凌ぐ大きさになった。
「プリキュア共! 終焉の時だっ!」
ロキが上体を大きく反らすと、闇の魔法によって生み出された邪悪なエネルギーの塊をプリキュアたちに向かって投げ放った。
巨大な暗黒球が5人のプリキュアの上に落ちて大爆発を起こした。黒い爆炎が広がり、凄まじい爆風が島の外側へと広がっていく。
「モフーッ!?」
「デビーッ!?」
モフルンとリリンは爆風に飛ばされまいとその辺の草に必死に喰らいついていた。
風が収まり、二人が目を開けた時、目の前に絶望的な光景が広がっていた。黒い瘴気が湯気のように立ち昇る大地の上に、深く傷つき力尽きたプリキュアたちが倒れていた。二人がぬいぐるみの足で必死に走ってプリキュア達の元に着くと、見るも無残な姿に心が痛んで自然に涙が溢れた。
「ミラクル、マジカル、フェリーチェ……」
「プリーステス、ルーン……」
ロキが足音を響かせながら近づいてくる。
「ついに終わった」
「モフーーーッ!!」
「デビーーーッ!!」
恐ろしい闇の王に、モフルンとリリンが立ち向かう。モフルンはロキの足にしがみつき、リリンは飛び上がってロキの胸にぬいぐるみの拳で柔いパンチを打った。
「行かせないモフーッ!」
「今度はリリンが相手デビ!」
ロキは動きと止めてモフルンとリリンを片方ずつの手でつかみ上げた。二人は動けない状態で闇の王に睨まれても、邪悪に立ち向かう勇気を消さなかった。
「プリキュアは絶対に負けないモフ!!」
「プリキュアは絶対に勝つデビ!!」
「お前らはプリキュアと一心同体の存在だ。そう言うしかねぇよなぁ」
ロキがぬいぐるみたちをポイと投げ、モフルンとリリンはプリキュアたちの近くに転がった。
「お前らを消すのは簡単なことだ。だが、それをするとこいつらはプリキュアではなくなる。それじゃあ意味がねぇんだ。俺様を散々コケにしやがったプリキュアをこの手で完全に消し去る! それを成した時、俺様は真の支配者となる! そして魔法界もナシマホウ界も、俺様の闇の魔法に蹂躙されるのだ!」
ロキが再び歩み始めると、モフルンとリリンがプリキュアたちを守ろうと前に出てくる。その時、雪が降った。
「はあぁん?」
ロキが見上げると、白い雪のようなものが結界内のいたるところに降り始めていた。
「雪とはな。プリキュア共の最後には相応しい演出じゃねぇか」
ロキが勝者の余裕の下に口角を上げて笑う。この時、モフルンとリリンは深々と降る雪を見上げて星の宿る瞳を輝かせた。
「とっても、とーっても甘い匂いがするモフ!」
「みんなの思いを感じるデビ!」
一粒の雪がロキの体に触れる。するとその場所に痛みが走った。
「何だこの雪は!?」
それからロキは倒れているプリキュアたちを見ると、驚愕のあまり目を見開いた。
「な、なんだこりゃあっ!!?」
結界の中に降る雪の全てがプリキュアたちに集まっていた。そしてその一粒一粒がプリキュアたちの体に触れるとすっと体に吸い込まれるように消えていく。
「こりゃ雪なんかじゃねぇ! 光だ!!」
無数の光の粒がプリキュアたちの傷を癒していく。光の雪はなおプリキュアたちに降り続き、強き乙女たちが閉じていた瞳を開けて立ち上がる。淡い輝きをまとう5人のプリキュアを見たロキに恐怖が生まれた。
「バ、バカな!? どうなってやがるっ!!? あの状態から立ち上がれるはずがねぇ!!」
5人のプリキュアが一度にロキを睨みつけ、少女たちの眼力がロキに底知れない悪寒を与える。
「みんなの思い! みんなの魔法! 確かに感じたよ!」
ミラクルが元気で可愛らしい笑顔を浮かべて言った。
「魔法界の全てがわたしたちの味方をしてくれている。今それを実感したわ」
マジカルは神妙に、そして自分たちを助けてくれた全てに感謝をして言った。
「みんな闇の魔法なんてごめんだってさ。だからそろそろ消えなさいね」
プリーステスがロキの胸に突き刺さるような鋭刃のごとき目力で見つめて言った。
「みんなの魔法で元気百倍だよ~っ!」
ルーンが元気いっぱいに言って、片手を上げてぴょんと跳ぶ。
「わたしたちには魔法界の生きとし生ける者の思いと魔法があるのです。あなたのヨルムガンドの力などに負けはしません!」
フェリーチェの花咲く可憐な瞳に射抜かれて、ロキは心底震え上がってしまった。
「ふ、ふざけるなぁーーーっ!!」
フェリーチェの右手に、ペン型の魔法の杖が回転しながら落ちてきた。フェリーチェは右手に握った魔法の杖の中心を右と左の親指と人差し指でつまみ、指を左右に広げるように滑らせる。フェリーチェは魔法の杖が変化して現れた赤い花の蕾のワンドを右手に持ち、それに左手をそっとそえた。
「フラワーエコーワンド!」
ミラクルとマジカルも虚空に現れたステッキを手にして構えた。
『リンクルステッキ!』
ミラクルとマジカルはフェリーチェの右側に寄り添って立ち、プリーステスとルーンはフェリーチェの左側に寄り添って立っていた。そしてモフルンとリリンが5人のプリキュアの前に出てきた。
彼女らの姿を目の前にしたロキは、冷たい汗をたらしながら後退った。華奢な5人の乙女とちっぽけな二人のぬいぐるみが、今までに出会ったことのない強大な敵に見えた。
「人々の魔法界を思う気持ち、家族や友達を思う気持ち、その思いが無限の力を呼び起こすのです!」
「うぐあぁ、がああぁ……」
フェリーチェから叩きつけられた言葉がロキに精神的な大打撃を与えて、プリキュアたちの迫力の前にまともな言葉も出なくなってしまった。
「全部の魔法の力を合わせよ~っ!」
ウィッチがウィンクして一本指を黒い天井に向かって突き上げると、全員が『うん!』と強く頷いた。
「モッフーッ!」
「デッビーッ!」
モフルンとリリンが雄叫びを上げると、胸元で輝くダイヤとブルーダイヤが強く輝き、強烈な聖光が周囲に一気に広がって、大地に沈み込んでいた闇の魔力の瘴気から島を覆う闇の魔法の結界までをも打ち消していく。そして女神の島は、まるで生まれ変わったように光が満ちた。魔法界の人々の思いと魔法がリンクルストーンにも宿って力を与えていた。
ミラクルとマジカルがリンクルステッキをまっすぐにロキに向けて、最初の魔法の呪文を唱える。
『万物の命の輝きよ!』
プリーステスとルーンは金色のブレスレットが輝く手をロキに向けて魔法の呪文をつなぐ。
『森羅万象の命の光よ!』
フェリーチェがワンドを両手で包み込むように持って先端の赤い花をロキに向けると、さらなに魔法の呪文を紡いでいく。
「生きとし生けるものの思いよ! 命を照らす魔法よ!」
そして5人の呪文の詠唱が一つになった時、あらゆる魔法の力がそこに集まった。
『わたしたちの手に!!』
フェリーチェのワンドの花が大きく開いて中のクリスタルから命の輝きが萌え上がる。ミラクルとマジカルのステッキの先端にあるハートと星のクリスタルからはダイヤの輝きが放たれ、プリーステスとルーンの腕輪のブルーダイヤも強き光を放つ。
そして最後に、モフルンとリリンがピンク色のハート型との星型の肉球模様の両手を前に出して、きりりと表情を怒らせた。
「モフッ!」
「デビッ!」
二人の胸元のダイヤとブルーダイヤがさらに強く輝くと、プリキュアたちの前に五つのハートを内に秘める、伝説の魔法つかいの桃色に輝く五芒星が広がり、五芒星の大外の円からさらに大きな黒い円が広がって別の魔法陣が創造されてゆく。そして六芒星の外側に六つの赤星を散りばめる、宵の魔法つかいの魔法陣の六角形の中に、ハートの五芒星が納められた。五芒星の五角形の中心に赤い三日月が現れ、宇宙の光と闇を現すプリキュアの魔法陣が一体となった。そこにリンクルストーンが出現する。六芒星の大外の円に沿って宵の魔法つかいの七つの支えのリンクルストーン、五芒星を囲む円に沿って伝説の魔法つかいの七つの支えのリンクルストーンが等間隔に並び、五芒星を構成する五つの三角形の中に、ルビー、トパーズ、サファイア、ブラックダイヤ、アウィン、五つの守護のリンクルストーンが入る。最後に中央の赤い三日月の中にエメラルドが出現し、宵の明星のごとく輝いた。
『プリキュアッ!!』
二十二のリンクルストーン全てが眩く光を燃え立たせ、宇宙から与えられ魔法界を構成する全てのエレメントの魔法が巨大な魔法陣に収束する。そして5人のプリキュアの声と、二人のぬいぐるみの意志により、究極の合成魔法が完成した。
『ユニバース・レインボー! ジュエリー・ストリーム!!』
全てのリンクルストーンから輝きがあふれ出し、巨大な魔法陣から彩光の波動が放たれた。
「うおおおぉーーーっ!!?」
恐怖のあまり声を上げたロキが、二十二もの光色が織りなす極光に呑まれた。そして全身を焼かれる苦痛の中でおぞましい悲鳴をあげる。
「あがあぁーーーーーーっ!!」
しかしロキはその苦しみの中で、何故か気味の悪い笑みを浮かべた。
「み、認めてやろう、友情だの愛だの思いだの、人間のもつ光が無限の力を生み出すということを! だがなあ、お前らはだあいじな事を忘れてるぜぇっ!」
強大な光の流れの中で悶絶するロキの周囲に次々と闇の結晶が出現していく。その数がロキの周囲を埋め尽くすほどの密度になると、全ての闇の結晶からあふれ出た濃密な黒い魔力が壁となり、全てのリンクルストーンの力を込めた光を遮断した。そしてロキが叫ぶ。
「人間の邪悪もまた無限だということをなぁっ!!」
ロキが両手を前に広げると、無数の黒い結晶からあふれた闇が彼の両手に集まり暗黒の流動となって放たれた。光の魔法が闇の魔法に押し返され、ロキとプリキュアたちの中間点で光と闇の力が拮抗してせめぎ合った。
「人は邪悪になど屈しはないわ!!」
「みんな、気合いれなさい!!」
マジカルが負けられない思いを声にして、プリーステスの激が飛ぶ。
『はあぁーーーーーーーっ!!!』
『ぬうおおおおぉーーーーーーーっ!!!』
プリキュアたちとロキの叫びが混合し、闇と光の流れがより一層、強く激しくなった。そして反発しあう光と闇の魔力が生み出すエネルギーが臨界点に達した。ロキとプリキュアたちの間で魔力爆発が起こった。
光と闇が融合し、闇の漆黒と光の白亜がマーブル状に混在する魔法のエネルギーが一気に拡大した。ロキもプリキュアたちも、光と闇の衝撃に襲われた。
『キャアアアアァッ!!?』
『うおわああああっ!!?』
暴走した魔力の爆発は島全体に広がっていった。
ロキとプリキュアたちの魔法の衝突で起こった爆風は魔法学校にまで届いた。
枯れ果てた花園の上にロキが大の字に倒れて、その上に無数の闇の結晶が雨となって降った。
一方、プリキュアたちはフェリーチェ以外の6人は倒れ、二十二のリンクルストーンが少女たちの周りに落ちてきて跳ねて輝き、痛ましい光景に花を添える。フェリーチェは両膝を付いて俯いている状態で動かず、フラワーエコーワンドは手元に転がっていた。
「くぅっ……ロキは!」
プリーステスが気づいて起き上がろうとするが、体が言うことをきかなかった。他のプリキュアたちも、モフルンやリリンまで同じような状態だった。先ほどの魔法で全ての魔力を使い尽くしていた。
「……きます」
フェリーチェの弱々しい声が、他の者たちに直に打撃するような衝撃を与えた。そして上空より黒い巨体がプリキュアたちから少し離れた場所に衝撃と共に落ちてきた。
「ぬぐあぁ……」
上から降りてきたロキが、着地するなり片膝をつき苦し気に呻く。
「そんな……」さすがのミラクルも絶望的な気持ちになり、
「うそぉ……」ウィッチは泣きそうな顔になった。
立ち上がったロキは、足をふらつかせながら一歩ずつ確実に、動くことのできないプリキュアたちに近づいてくる。
「さすがの俺様も、もうダメかと思ったぜ」
「どうしてなの! みんなの思いが、みんなの魔法が、こんな人に負けるって言うの!?」
マジカルが手元にある枯れた草花を鷲づかみにしてマゼンダの瞳に涙を浮かべた。その隣に倒れているプリーステスは、無念さのあまり声を殺して涙を流していた。そんなプリキュアたちの姿を見ても、ロキは笑わなかった。彼はプリキュアたちの底力を見せつけられ、完全に止めを刺さない限りは安心できなかった。
「そう悲観するなよ。お前たちは負けてねぇ、相打ちだ。ただ、ちいとばかし俺様の方が頑丈だった。ほんのわずかな差だったぜ」
ロキは勝利を目前にして喜悦が抑えきれずに、真顔を少し崩して口角をあげて笑む。
「俺様も大きなダメージを受けたが、てめぇらを潰すくらいの力は残ってるぜぇっ!」
ロキはプリキュアたちを目前にすると、まずフェリーチェに狙いを定めて拳を振り上げた。
「まずは貴様からだ、キュアフェリーチェ! お前さえ、お前さえいなくなれば、全てが俺様のものになる!」
その時、フェリーチェが手元に転がっていたフラワーエコーワンドをつかみ、顔を上げてまっすぐに相手の目を見つめた。ロキの全身の悪寒が走り、黒い竜の魔人の巨体が拳を上げた状態で凍り付いたように動けなくなった。