魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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エピローグ
おかえりなさい


 あの日、起こった黒い爆発を、魔法界中の人々が見ていた。それから魔法の世界に重く沈んだ悲しい空気に包まれた。伝説の魔法つかいプリキュアは、魔法界を守るために闇の魔法と共に消えてしまった。そんな噂が人々の間で囁かれていた。それを聞いた妖精の少年は、小さなリュックサックを背負って旅に出た。

 

「おいら信じないぞ。あいつらが消えたりするもんか。魔法界中探してでも必ず見つけるからな、待ってろよ!」

 

 チクルンが小さな体で魔法界の広大な海上を渡っていく。遠くの方には魔法界の中心にそびえる大樹が見えていた。

 

 

 

 黒い蝙蝠の紳士と聖なる白銀の騎士は、共に魔法の森に訪れて、周りに動物たちが集まる生命の花を遠巻きに見つめていた。フレイアはよくこの場所に訪れていた。かつて闇の女神に仕えた二人は、今は亡き主をその場所で偲んだ。

 

 フレイアがこの場所にくると、必ず動物たちが集まってくる。みんなフレイアの優しさと生命の闇に惹かれてくるのだ。特に永劫に近い時をフレイアと共に過ごしたルークスは、そこにいるかのように動物たちと戯れるフレイアの姿が浮かんだ。

 

「あの子らは本当に闇の魔法と共に消えてしまったのだろうか……? もしそうならば、フレイア様が浮かばれぬ……」

 

「残酷な現実ですね。しかし、プリキュアの存在がそう簡単に消えるとは思えません」

 

「プリキュアと何度も剣を交えた貴殿がそう言うならば、希望もあろう」

 

 ルークスがその希望が現実であるように願うような気持で微笑を浮かべた。それから彼はバッティに向うと、感謝と敬意をもって頭を下げた。

 

「バッティ殿、貴殿には礼を言う。フレイア様に忠義を尽くしてくれた事、その感謝と敬意の気持ちは言葉では語り尽くせぬ」

 

「何を今さら。礼を言うのはこちらの方です。再び真に使えるべき主を得て充実した日々を送ることができました。惜しむらくは、そのような主を二度も失ってしまったということです……」

 

 バッティは真っ赤な瞳を閉じて、フレイアやかつての主であったドクロクシィにも思いを馳せた。そんな同胞が過去の思慕から戻って目を開くのを見てルークスが言った。

 

「貴殿はこれからどうするつもりだ?」

「再び一匹の蝙蝠としてこの地を彷徨うのみです」

 

「そうか……」

「あなたはどうするのですか?」

 

「そうだな……殉教も考えたが、フレイア様はそれを許すまい。この魔法界で穏やかに生活し、人並みの幸せを手にするとしようか。それこそが、我が主を喜ばせることと確信する」

 

 それを聞いたバッティが微笑を浮かべる。自分の為ではなく主を喜ばせるために幸せになる、そんなルークスの言葉がバッティには快かった。

 

「互いの行く道は違います。あなたとはここでお別れですね」

「うむ」

 

 フレイアに忠義を尽くした二人は、そこで別れてそれぞれの道を行く。バッティは蝙蝠の翼を彷彿とさせるマントを大きく開いて飛翔し、ルークスは徒歩で生命の花から離れて生い茂る木々の中へと消えていった。

 

 

 

 魔法学校の食堂はまだ夏休み中でからんどうになっている。もうじき夏休みも終わる。そうすれば、ここは昼時には魔法学校の生徒で賑わう場所になる。

 

 ハティがフェンリルから大皿の料理を受け取り、それを頭の上に持ち上げて一生懸命運んでいた。彼はフェンリルと同じ料理人の白衣を着てお手伝いをしていた。

 

「うんしょ」

 

 ハティが背伸びして大皿に山盛りの料理を長いテーブルの上に置いた。魔法界の珍しい野菜と香草の炒め物から湯気が上がって良い香りが漂う。

 

「よし、これで最後だ」

 

 フェンリルが最後の料理を持ってきてテーブルの上に置いた。魔法界で重宝されているモッチリコーンのスープと焼き物だ。トロトロのコーンスープはナシマホウ界のそれよりもさらに甘くて重厚感のある味わい、モッチリコーンの粉を水で固めて焼いたものはお餅のような触感と弾力で、それに甘くて美味しいコーンの味わいがあって、単純ながら子供達には大人気のメニューだった。

 

 テーブルの上には様々な料理が並んでいた。

 

「お姉ちゃん、どうしてこんなにお料理を作るの?」

「なんとなくな、そろそろ必要になりそうな気がしてね」

 

 それを聞いたハティが首を傾げた。

 

 

 

 校長室では教頭先生とリズが、机の前に座る校長先生と向かい合って神妙な顔をしていた。この一週間、校長先生はほとんど誰とも言葉を交わさず、ずっと辛そうな顔をしていた。そんな校長先生にさらなる苦しみを与えると分かっていても、教頭先生は教育者としての責務を果たすべく言わねばならなかった。

 

「あれからもう一週間になります。そろそろ親御様に連絡するべきでは」

 

 一週間前、あの悪夢のような黒い爆発があって、五人の生徒が行方不明になった。彼女らの存在を示す手掛かりは、今になっても何一つなかった。

 

 それを聞いた校長の顔が強張り、鋭い瞳が机上を見つめる。彼は水晶に触れていた右手を引くと、組んだ両手を額に当てて目を閉じた。その姿からリズと教頭に校長先生の苦悩が痛いほどに伝わった。

 

「……もう少し、もう少しだけ待とう」

 

「わかりました」

 

 教頭先生は納得はしていなかったが、校長がそう言うならと指示に従った。

 

「わたしは学校の見回りにいってきます。リズ先生、後はよろしくお願いします」

「はい」

 

 教頭先生の姿が消える。校長先生はしばらく同じ格好のままでいた。リズはその姿をただ黙って見つめていた。そうしていると、急に校長先生が大声をあげて両手を机の上に叩きつけた。彼はいつも清流の如き心で動じることなど殆どない。そんな校長先生が見せる苦悶にリズの心が痛んだ。

 

「わしは……わしは愛する生徒たちを助けることができなんだ! あの子らに何もしてやれなかった! わしは校長失格じゃ……」

 

「そんなことはありません。校長先生、あなたはその命をかけてまで、あの子たちを助けたではありませんか」

 

 真摯に言うリズに校長は首を振って答えた。

 

「あの子らが無事にこの場にいなければ、何の意味もないっ!」

 

 校長先生が固く握った両手の拳を机の上で震わせていると、リズが彼の後ろから肩に触れた。

 

「校長先生、あの子たちは帰ってきます」

 

 それを聞いた校長先生は、少し心が穏やかになって傍らに立っているリズを見上げた。

 

「なぜそう思うのじゃ?」

 

「あんなことがあって、リコが居なくなったというのに、悲しいという気持ちがまったく起こらないんです。そして、あの子が帰ってくるというのがわかるんです」

 

 リズの確信に触れて校長は驚き、グリーンの瞳で目の前にいる彼女を見つめていた。リズは微笑を浮かべた。

 

「姉妹ですから」

 

 校長室が静まり返ると、机の上の水晶玉に魔女のシルエットが現れた。彼女はリズの確信を証明するように言った。

 

「校長、リンクルストーンの兆しですわ」

 

「なにっ!!?」

 

「魔法界の中心に全ての魔法の輝石と二つの伝説が舞い戻ると」

 

 それを聞いた校長は立ち上がってリズを見つめる。

 

「言ったでしょう、帰ってくるって」

 

 

 

 黒いマントを広げて魔法の森から飛び立ったバッティが、ペガサスに跨り空に舞い上がったルークスが、別々の場所で同じ輝きを見た。ずっと高い空から魔法界の中心を成す大樹の頂上に向かって無数の彩の輝きが降りくる。

 

 海の上を飛んでいたチクルンも、大樹の頂に降りてくる輝きを見た。彼の顔に大きな笑みが浮かび、目には涙があふれた。

「帰ってきた! 帰ってきたぞーっ!!」

 

 

 

 空に浮かぶ五人の少女はリンクルストーンのゆりかごの中で眠っていた。一番外側に円環を形作る宵の魔法つかいの七つの支えのリンクルストーン、その内側で円に並ぶ伝説の魔法つかいの七つのリンクルストーンは惑星の自転のような軸回転をして球体を描いていた。その宝石の輝きが描く小さな惑星の内側に六つの守護のリンクルストーン、魔法学校の制服の5人の少女、クマと黒猫のぬいぐるみが浮かんでいた。そして緑と赤のエメラルドのリンクルストーンが輝石の惑星の中心にあって核となっている。この二つのリンクルストーンが発する輝きが、少女たちを温かく照らしていた。

 

 モフルンとリリンだけが意識を取り戻していて、ゆっくりと降りてゆく宝石の惑星の中から、近づいてくる魔法界の景色を見下ろして笑顔になった。

 

 5人の少女と二人のぬいぐるみは、リンクルストーンと共に魔法界の中心にある大樹の頂上へと至る。少女たちはまるで宙を漂う綿毛のように、ごくゆっくりと青草の絨毯の上に下ろされ、それと一緒に二十二のリンクルストーンも頂上の広場に落ちて、エメラルドとレッドエメラルドから眩い輝きが失せた。ただ一人、まだ空中にいたラナが浮力を失った。そして小百合のお腹の上にドフッと落ちた。

 

「ぐはっ!? ちょっ、ちょっとなに!?」

 

 小百合が目を覚ますと、ラナがうつ伏せで小百合のお腹の上に被さっていた。小百合は上半身起こすと周囲をぱっと見てからラナの体を揺らした。

 

「ラナの起きなさい!」

 

「みらい、リコ、はーちゃん」

 

 モフルンが三人の名を呼びながら体を揺すっていく。リリンもなかなか起きようとしないラナの頭の上に立って、その頭をペシペシと叩いた。

 

「ラナ、起きるデビ! ご馳走があるデビ!」

「うえぇ!? ごちそうぅ~っ!?」

 

 一瞬で覚醒して起き上がったラナに小百合は呆れかえった。

 

 ことはとリコとみらいも目を覚まして体を起こす。

 

「う~ん、ここは?」

 

 まだ寝ぼけ眼のみらいが目を瞬き、リコは周囲の状況を冷静に確認していた。

 

「ここは……」

 

「残念ながら、我々は天に召されてしまったようデビ」

 

 リリンが悲しそうな顔を作ってラナに言うと、

 

「うええぇーーーっ!!? じゃあここ天国~っ!?」

 

 近くで凄まじい声を出されて、小百合は心臓が止まりそうになった。それからラナは目に涙を浮かべて言った。

 

「ご馳走食べたかったなぁ……」

「天に召された後の言葉がそれなのね……」

 

 小百合の顔から苦い笑いが収まらなかった。それから彼女はため息混じりにラナに言った。

 

「安心しなさい。あんたの体重は死んだって感じじゃなかったわ。周りの景色を見てここがどこだからわからないかしらね?」

 

「うん~?」

 

 ラナはキョロキョロするが、どうやら思い出せないようだった。

 

 それまで無言だったことはが立ち上がって歩き、頂上の広場の端から先に広がる景色を見つめて目を輝かせた。

 

「はーっ! きれい~!」

 

 ことはが両手を上げて感動する。その周りに自然と他の少女たちが集まった。ことはを真ん中に、左側にリコとみらい、右側にラナと小百合が立ち、一番外側にいるみらいと小百合はモフルンとリリンを片手で抱きあげていた。

 

 少女たちは以前にもここから魔法界の広大な海や空や島々を見た事がある。それなのに以前とは全く別の景色をみているようで、深い感動が胸に沁みた。その穏やかな景色を見ながら5人の少女たちは自然に手をつないでいた。

 

「本当にきれいだね」

「なんだか不思議な感じね。まるで生まれ変わったような気分だわ」

 

 みらいとリコがラベンダーとマゼンダの瞳を潤ませて言った。

 

「帰ってきたのね、わたしたち……」

「よかった~、ご馳走が食べられる~」

「ああっ! もう、あんたは!」

 

 ラナに感動をぶち壊しにされて、小百合は怒ってしまいそうだった。そんな空気をラナがさらに急角度の発言で破壊した。

 

「フレイア様がいないよ……わたしたちは帰ってこれたのに……」

 

 それは小百合も考えていた。どうしようもないことなので、もう何も言うまいと心に決めていた。素直で直情的なラナには、その気持ちを抑えることはできなかった。

 

「フレイアならここにいるよ~」

 

 ことはが、こともなげに言うと、全員の視線が彼女に集まる。ラナと小百合は思考が停止して鳩が豆鉄砲を喰らったようになり、しばし呆然と、ことはを見つめていた。

 

『え? ええっ? ええぇーーーっ!!!?』

 

 二人の感情と言葉が爆発した。

 

「どこどこどこどこ!!? フレイア様どこ~!!?」

 

 ラナが訳もわからず、ことはの周りをぐるっと歩いて隅々まで見て、最後に四つん這いになり、ことはの足を上げて靴の底を見た。それを見ていた小百合は急に興奮が冷えて突っ込んだ。

 

「あんた、さすがにそこはないでしょ。まあ、気持ちはわかるけどね」

 

「はーちゃん、まさか」

 

 リコには思い当たる節があって言うと、ことはが頷いてリンクルスマホンを取り出した。

 

「フレイアはここだよ」

 

 ことはがスマホンの表紙を開けると、サークルの下にあるディスプレイの中で小さな存在が眠っていた。それを目の当たりにしたリコはやはりと思う。後からのぞき込んだみらいの目が輝いた。

 

「うわぁ! 昔のはーちゃんみたいだね!」

 

 小百合とラナがスマホンに顔を近づけて、まじまじと中で眠っている小さな妖精を見つめた。二人の疑るような目が次第に見開かれ、黒と碧眼の瞳が煌めいてゆく。

 

 妖精の赤子の大きさは親指程で、紫銀の髪の生える頭の上に青い桔梗のような形の小さな花飾りがある。ピンク色のベビー服の胸の中心に青い球の宝石があって、その周りに小さな葉っぱの飾りが四枚付いていた。ベビー服の袖から出ている小さな小さな手足が時々動いた。

 

「間違いないよ! すんごいちみっこくなっちゃってるけど、これフレイア様だよ!」

 

 例え姿かたちが変わっても、それがフレイアだと二人には分かった。

 

「……ことは、どういうことなの?」

 

 小百合はフレイアの無事を知ると、喜ぶよりも前に疑問をぶつけていた。

 

「ヨルムガンドの中にいる間は、レッドエメラルドがフレイアをずっと守っていてくれたんだよ。闇の魔法からレッドエメラルドがフレイアを守るためには、小さな命に戻す必要があったの」

 

「そう……よかった……」

 

 小百合の表情がくしゃっと歪んで目からポロポロと涙が零れ落ちる。感極まった小百合は、ことはをきつく抱きしめて言った。

 

「ありうがとう……」

 

「これはわたしの力じゃない。小百合とラナのフレイアを思う気持ちに、レッドエメラルドが答えてくれたの」

 

「でも、あなたがフレイア様とつながっていてくれなければ、こうはならなかった。だから、ありがとう」

 

 抱き合う二人の姿をみらいとリコは笑顔で、ラナは涙を浮かべて見ていた。

 

「う~」

 

 スマホンから声が聞こえて小百合は、ことはから離れた。

 

「起きたみたいだよ。二人とも、フレイアを見てあげて」

 

 スマホンの液晶のような画面から、小さな光が浮かび上がり、それが移動してゆっくりと小百合の手のひらに上に降りた。光が弾けて消えると、妖精の赤子に戻ったフレイアの姿が現れる。

 

「うわ~、かわいい……」

「こんなに小さいのね」

 

 小百合とラナが小さな命を見つめていると、リリンが羽を動かして小百合の手の高さまで浮き上がってきた。

 

「このかわいさには、さすがのリリンも敵わないデビ」

 

 小さなフレイアは小百合たちの姿を見ると、小さな手足を動かして可愛らしい笑い声を出した。そんな愛らしい姿を一緒に見ていたリコが言った。

 

「小さくなっても、ちゃんと小百合とラナのことがわかるみたいね」

「赤ちゃんになって喋れなくなっても心は通じ合ってるよ」

「とっても嬉しそうモフ」

 

 みらいに続いてモフルンが言った。小百合とラナは胸の底から温かい気持ちが湧いてきて、赤子のフレイアを何よりも愛おしく思う。ラナがフレイアのほっぺをつっつくと、小さな顔に満面の笑顔が咲いた。

 

 可愛らしいフレイアの姿はどれだけ見ても飽きなかったが、そのうちに欠伸をしてコロンと寝てしまった。小百合はそれを見守りながら言った。

 

「まだ眠いみたいね」

 

 ことはがスマホンを開くと、フレイアがまた小さな光になって、今度はスマホンの中に戻っていった。そして画面の向こう側に寝ている赤子の姿が映った。

 

「さあ、魔法学校に戻りましょう。きっと、みんな心配しているわ」

「戦いが終わってから、どれくらいの時間が経っているのかしらね?」

「そうね、一日くらいじゃないかしら?」

 

 とリコが予想して小百合に言った。

 

「いこう! いこう! ごちそうだ~!」

 

 ラナが拳を上げて意気揚々と歩き出す。

 

「わたしもお腹すいたよ」

「はーっ! はーちゃんも~」

 

 ラナの後を、ことはとみらいが歩き、最後尾にリコと小百合が並んで歩いていく。みんな遠足にでも行くように、うきうきとした楽しい気持ちだった。

 

 魔法学校に戻り、校長先生を始めとする教員たちと感動の内に再会した時、あれから一週間も経っていると知らされて、みんな驚くのだった。

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