魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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また会う日まで

 それから残り少ない夏休みを、少女たちは精いっぱい楽しんだ。ご馳走を食べ、たくさんの友達と会い、魔法商店街や魔法工場街に出かけたり、エリーの家に集まってリンゴのお菓子作りなんかもした。もうすぐ別れの時が来る。みんな分かっていた。だからこそ、それを忘れて思いっきり楽しんだ。

 

 

 

 ことはとフレイアが魔法界とナシマホウ界の間につないだ道はなくなってしまった。それを知った校長先生が、リズを始めとする優秀な魔法つかいを集めて、みらいと小百合をナシマホウ界に帰還させる方法を探ってくれた。ことはもそれに協力して、一つの方法が導き出された。

 

 夏休み最後の日、リコとラナを筆頭に、みらいと小百合に縁を結んだ人たちが魔法学校を抱く大樹の頂上に集まった。普段は立ち入り禁止の場所だが、今日この日だけは特別に入ることが許された。こんなにも多くの人間がここに足を踏み入れるのは前代未聞のことであった。

 

 青草の敷き詰められた頂上の広場に魔法の扉が立っていた。その前に、ことはがいて、その後ろにみらい、リコ、小百合、ラナが並んで見ている。モフルンとリリンはみらいと小百合に抱かれていた。更に彼女らの周囲を数人が囲んでいた。校長先生にリズ、教頭先生、生徒ではケイ、ジュン、エミリー、妖精のチクルン、そして小百合とラナがお世話になったエリーもいた。

 

 ことはが手のひらに乗せるアメジストのリンクルストーンが宙に浮いて、魔法の扉の一番上にある魔法陣の中に納まった。

 

 ことはが振り向いて、みらいと小百合に言った。

 

「アメジストとエメラルドの魔法を合わせて、ずっと遠くの世界まで行けるようになるって」

 

「この扉で宇宙空間を隔てたナシマホウ界まで行けるなんて……」

 

 小百合はみんなを信用はしているが、話が遠大すぎて心配になってくる。その方法を発案した校長先生が、みらいと小百合の隣にきて言った。

 

「アメジストとエメラルドと皆の魔法を使う。二つのリンクルストーンに、ここにいる者たちの魔法が合わされば可能となる。正し、これは一回限りの魔法じゃ。ナシマホウ界と強くつながる君たちの思念があって初めて成せる魔法なのじゃ」

 

 校長先生の理路整然とした説明に小百合が安心する。

 

「びえーん!!」

 

 ことはのところから、いきなりすごい泣き声が聞こえた。スマホンが浮かび上がって、それから飛び出した小さな光が、ことはの手の上で妖精の赤子の姿になる。フレイアが大声をあげて泣いていた。それを見てリコが寂し気に言った。

 

「お別れするってわかるのね」

 

 ことはは何も言葉にせずに小さなフレイアを見つめる。その目は娘の成長を見守る母親の目だった。

 

『ええぇーん!!』

 

 今度はケイとエミリーがもらい泣きして声を上げる。それをジュンがうざったそうに見て言った。

 

「二人とも、泣くなって!」

「だって、みらいと小百合にもう会えないかもしれないんだよ!」

「ジュンは寂しくないの!?」

 

 ケイとエミリーに責め立てるように言われて、ジュンは自分の気持ちをごまかすように二人から目をそらして言った。

 

「そういう辛気臭いのはなしだ! 明るく見送らないと、みらいと小百合が帰り辛いだろう!」

 

「みんな、今までありがとう」

 

 小百合の感謝に3人の少女が頷いた。ジュンも瞳に涙を浮かべていた。

 

 そして、別れの時が近づく。

 

「では始めよう。皆のもの、準備はよいか?」

 

 校長先生の号令で、みんなが魔法の杖を持った。そして、ことはの手からエメラルドがセットされたリンクルスマホンが浮かんだ。エメラルドとアメジストが同時に輝いて共鳴し合うと、そこにいる全員が魔法の杖を扉に向けて呪文を唱えた。

 

『キュアップ・ラパパ! 魔法の扉よ! ナシマホウ界へ!』

 

 みんなの魔法で大きな扉の下に、伝説の魔法つかいの五芒星と宵の魔法つかい六芒星が合一した魔法陣が現れる。それは周りで見ている者たちの足元にまで届くほど大きかった。

 

「校長先生、これを」

 

 みらいと小百合が校長先生に魔法の杖を差し出す。

 

「うむ、預かろう、君たちが再び魔法界に来るその時までな」

 

『よろしくお願いします!』

 

 みらいと小百合は二人で頭を下げた。それから、みんながみらいと小百合の周りに集まってくる。

 

 小百合はまず、エリーに向かって言った。

 

「今までお世話になりました。エリーさんと一緒に生活していた時は、お姉さんがいたらこんな感じなのかなって、いつも考えていたんです」

 

「わたしもよ。かわいい妹たちができて、とても楽しい毎日だったわ。あなたたちが居なくなると寂しくなるわ」

 

「エリーさんから受けたご恩は一生涯忘れません」

「小百合ちゃん……」

 

 エリーが小百合を抱きしめる。少しの間そうしていた。

 

 それから小百合は、教員たちに向かって改まって言った。

 

「校長先生、教頭先生、リズ先生、本当にお世話になりました。短い間でしたが、色々なことを学ばせて頂きました」

 

「あなたのような優秀な生徒がいなくなるのは残念なことです。魔法学校にいてもらいたいくらいですよ」

 

 いつも難しい顔の教頭が、この時ばかりは柔和な笑顔を浮かべていた。

 

「おやおや、教頭がナシマホウ界の子にいてほしいとは、これは明日は虹色の雪でも降るのではないか?」

 

「校長!」教頭先生がいつもの怖い顔に戻った。

 

「いやいや、冗談じゃ。小百合君は本当に優秀な生徒じゃからな」

 

 校長の冗談が悲しい雰囲気を緩和してくれた。

 

「教頭先生の言う通りだわ。あなたには、魔法学校でもっと沢山のことを学んでほしかった」

 

「リズ先生が勉強を教えてくれたから、あそこまでやれたんです」

 

「あなたが努力したからよ。リコもずいぶん焦っていたものね」

 

「お姉ちゃん! わたし別に焦ってなんていないし!」

 

 リズがくすりと笑うと、リコが頬を不服そうに膨らませた。

 

「そんなにやっきになって否定することないじゃない。このわたしが相手なんだから、焦って当然よ」

 

 リコの不服顔が小百合に向けられる。

 

「焦ってなんてなかったし。別にあなたのことなんて、何とも思ってなかったから」

 

「よく言うわね。ああ、残念だわ! もう少しここにいて、テストであなたをけちょんけちょんにして、吠え面かかせてやりたかったわね」

 

 心の底から残念そうに言う小百合にリコの顔が引きつった。

 

「今帰って正解よ。テストでけちょんけちょんにされて吠え面かくのは、あなたの方だから」

 

「あーら、言ってくれるわね」

 

「わたしは客観的な判断の上で、冷静に現実を見据えているだけよ」

 

「主観的な判断の間違いでしょう。対抗意識を燃やしすぎて、思考がカオスになっているわね」

 

「そ、そんなことないし、わたしは冷静だし」

 

 二人の言い合いを周りがポカンとしてみていた。対抗心を燃やしまくっていた二人が不意に笑顔になった。

 

「本当に残念だわ、リコのいない世界にいくのはね」

 

「わたしが一番になれたのは、小百合がいてくれてからよ。あなたに足元をすくわれそうになって気合が入ったもの」

 

「リコがいないと張り合いがないけれど、わたしも向こうの世界で一番を目指すわ。あなたも他の誰かに足元をすくわれないようにね」

 

「まかせなさい。次はもっと実技を磨いて、完璧な一番を目指すわ」

 

「あなたならなれるわ、完璧な一番に」

 

 最後はお互いに素直な気持ちにを分け合った。

 

 それからチクルンが小百合の目の前に飛んできて言った。

 

「わざわざ妖精の里から見送りに来てやったんだぜ、感謝してくれよな」

 

 チクルンのそんな小生意気な態度にも、小百合は笑顔で答えた。

 

「わたしはあんたという友達を誇りに思っているわ」

「な、なんだよ急に!?」

 

「体が小さくても、力が弱くても、勇気をもって立ち向かえば状況は変わる。あんたがわたしたちを何度も助けてくれたことは決して忘れない。さようなら小さな勇者」

 

 チクルンは恥ずかしがったりせずに、その言葉をしっかりと受け止めて言った。

 

「達者でな」

「小さき者よ。これからもせいぜい足掻くがよいデビ」

 

 小百合に抱かれているリリンが言うと、いい感じで終わった空気をぶち壊しにされたチクルンが苦笑いする。

 

「お前、最後までそんな嫌味なこと言うのかよ。まあ、リリンも元気でやれよ」

「チクルン、さらばデビ」

 

 小百合の会話が終わると、みらいが近づいて、ことはとリコと三人で抱き合った。

 

「さよならは言わないよ、また会えるって信じてるから」

「また会えるその日まで」

「元気でね、みらい! モフルン!」

「みんな、体には気を付けるモフ」

 

 みらいは目の奥が熱くなって涙が出そうになるが、ぐっとこらえていた。

 

 3人の別れが済むと小百合は、ことはと彼女の手の上にいる小さなフレイアを順に見つめる。

 

「ことは、フレイア様のことをお願いね」

 

「まかせて! みらいとリコがわたしにしてくれたみたいに、愛情いーっぱいに育てるから!」

 

「あ~っ、う~っ!」

 

 小さなフレイアが小百合に向かって小さな両手をのばしてくる。小百合は指でフレイアの頭を綿毛にでも触れるようにやさしくなでた。

 

「お母さんの言うことをよく聞くのよ」

 

 その横でラナが小百合を見上げていた。小百合はラナに向かって、ごく普通の日常の会話をするように言った。

 

「あんたも一緒にくるでしょ」

「えっとぉ。……わたしは魔法界に残るよ。おばあちゃんのリンゴもあるし~」

 

 それを聞いたみらいたちは驚愕してしまった。ラナが小百合についてゆくのが当然のように思っていたからだった。

 

 小百合は悲しいとか辛いとか言う気持ちを飛び越えて唖然としてしまっていた。

 

「……そう。あんたが自分でそう決めたのなら、何も言わないわ」

 

 小百合はいつもと同じ口調で淡々と言った。小百合らしいと言えばそうだが、ラナと小百合の関係を考えるとその態度はあまりにもドライで、みらいたちの驚きが心の痛みにかわっていく。

 

「行きましょう、みらい」

「え? う、うん……」

 

 みらいは小百合とラナの顔を何度も往復して見た。これでいいはずがないと、みらいは確信的に思う。リコとことはも同じ気持ちだった。モフルンとリリンも悲しげだった。でも、小百合の真顔には強い決意が現れていた。それが、みらいたちに声を上げさせなかった。

 

 みらいと小百合はぬいぐるみを抱きながら、一緒に歩いて魔法の扉の前へ。二人が扉に手を触れて故郷の風景を浮かべると、扉がゆっくりと開いていった。

 

 その時、ラナの瞳からあふれた涙が流れ落ちた。堰を切ったように流れる涙で顔を濡らしながら、小百合と共に歩み続けた小柄な少女が言った。

 

「小百合……行かないで……」

 

 ラナは誰にも聞こえないように声を抑えていた。けれど、すぐ近くにいたエリーがそれを聞いていた。

 

「ラナちゃん……」

 

 扉が完全に開いて少女たちの足元に広がる二つの魔法陣が輝きを放った。そして、扉の向こうに、みらいと小百合がよく知る風景が見えてくる。もう一度みんなの顔を見ようと振り向いた時、みらいの目に泣きじゃくるラナの姿が映って胸が強く締め付けられた。

 

「小百合、本当にこれでいいの?」

 

 みらいが祈るような気持ちで聞くと、小百合は俯き加減で黙っていた。目は前髪に隠れていて見えなかった。

 

「いいわけないでしょ」

 

 小百合は突然、走り出した。彼女は俊足であっという間にラナの目の前にきて、その手をつかんだ。驚いて顔を上げたラナから涙が飛び散る。

 

「小百合っ!?」

「あんたは連れていく。たとえ嫌だと言ってもね」

 

 驚いて見上げるラナの目じりから涙が止めどなく零れていた。小百合はその顔をじっと見つめて言った。

 

「なんで今さら遠慮なんてしてるのよ、あんたらしくもない!」

「小百合……わたし……」

 

「何も言わなくていい。あんたの考えていることなんて全部わかるんだからね」

「ほんとにいいの……?」

 

 小百合を見上げるラナの背中に温もりが伝わる。リコがラナの背中を押してくれていた。

 

「あなたは行くべきよ」

「はーっ! よかったね、ラナ!」

 

「リコ、はーちゃん……」

 

「ラナちゃん、お婆ちゃんのリンゴ畑はわたしが守っていくから安心して行って」

 

「エリーお姉ちゃん……」

 

 もう一度、ラナの碧眼から涙があふれて流れる。その涙の意味は先ほどとはまったく違っていた。

 

「わたしはずっと前からラナを友達だなんて思っていなかったわ」

 

 小百合の唐突すぎる発言を、ラナはあどけない顔で見上げている。

 

「わたしはラナをずっと家族だと思って接してきた。迷惑だなんて誰も思わない。巴も、喜一さんも、お爺様も、みんなあんたの帰りを待ってる」

 

 ラナは歓喜と共に押し寄せる涙を思いっきり流して声を上げた。

 

「うわあぁ~~~ん! さゆりぃ~っ! ほんとは一緒にいきたかった~!」

 

 小百合はラナを抱きしめる。

 

「まったく、あんたは……」

 

 二人の姿は誰の目から見ても家族だった。

 

「行くわよ、ラナ!」

 

 小百合がラナを引っ張って魔法の扉に向かっていく。小百合がラナの手を握る強さは痛いくらいで、いつも強い意志と言葉で引っ張ってくれる小百合は、ラナにとって姉か母親のように頼りになる存在だった。

 

 ラナは扉の前で小百合とみらいの間に立つと、両手をいっぱいにあげて喜びをみんなに届けた。

 

「小百合とずっと一緒にいられるなんて、さいっこうにファンタジックだよ! みんな、本当に! 本当に! ありがと~!!」

 

 小百合とラナは思い残すことなく扉の向こうのナシマホウ界に向かって歩き出す。みらいは名残惜しそうにリコとことはの顔をもう一度見て微笑を浮かべた。そして背を向けると、リコが扉に向かって走り出す。魔法の扉が閉じる寸前の時、リコは手を伸ばしたい衝動を抑えて立ち止まった。目の前にあったのは、いつもと変わらない姿の魔法の扉であった。

 

「……前みたいに急な別れじゃないから、今回は大丈夫」

 

 誰かが肩に触れてリコが振り向くと、リズが立っていた。リコの抑えきれぬ涙が頬を伝い、耐えがたい悲しみをぶつけるように姉の胸に飛び込んだ。

 

「お姉ちゃん……」

 

 リズは妹を抱いて言い聞かせた。

 

「リコ、よく頑張ったわね。姉として誇りに思うわ。あなたはもう立派な魔法つかいよ」

 

 リコとは対照的に、ことはは涙の一粒も見せなかった。彼女は手の上にいる小さな妖精のフレイアに顔を近づけて言った。

 

「はーちゃんは泣かないからね。お母さんは強くなくちゃいけないの」

「ふうぅ?」

 

 小さなフレイアが首を傾げると、ことはは満面の笑みを浮かべた。

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