魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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これが最後のお話しになります。

ずいぶん長い話になりました。至らぬ点も多くあると思いますが、精いっぱい力を尽くして書きました。

ここまで読んでくださった方々に心からの感謝を申し上げます。

本当に、ありがとうございました。


二つの世界、少女たちの歩み

「ええっと、ここは……」

「さっき教えたでしょ。一度戻って公式をちゃんと覚えて」

 

 みらいの部屋で小百合が厳しめに言っていた。二人で数学の勉強をしている。ラナはそこから少し離れたテーブルの上で、やっぱり勉強を強いられていた。みんなそれぞれの学校の制服姿だった。

 

 ナシマホウ界に帰ったみらいと小百合に気の休まる暇などなかった。魔法界の楽しかった日々の反動のように、受験戦争という容赦のない戦いに放り込まれた。

 

「この貝の公式って難しいよぉ。それに食べられそうな感じ」

 

「そっちの貝じゃないからね。冗談言ってる場合じゃないでしょう。平方完成の計算が苦手だって言うから、解の公式を教えたのよ」

 

「これも難しいよぅ……」

 

「まあ、式によっては普通に計算した方が楽なんだけどね。でも、これさえ覚えれば、どんな問題でも解くことができるわ。とにかく、つべこべ言わずに覚えてね」

 

「はい……」

 

「うわあぁーっ!」

 

 いきなりラナが頭を抱えて叫び出す。

 

「なによ! うるさいわねぇ!」

 

「小百合~、むりぃ~、これ覚えられない~」

 

「覚えなきゃナシマホウ界で生活できないの! 何としてでも絶対に覚えなさい!」

 

「はうぅ……」

 

 ラナがやっているのは、ナシマホウ界の言葉を覚える勉強だった。学校の勉強の前に、これができなければどうしようもないのだった。

 

 ドアをノックする音が聞こえてから、お茶とお菓子の乗ったお盆を手に置いた今日子が顔を見せた。

 

「紅茶とケーキを用意したから、少し休んだら?」

 

 今日子がお茶の用意が整っているお盆をテーブルに置いた。

 

「うわ~い! ケーキ~!」

 

 ラナがもろ手を挙げて子供みたいに喜ぶと、小百合の顔が赤くなる。

 

「やめてよ。子供じゃないんだから、そんな大声出さないで」

 

「元気があるのはいいことよ」

 

 今日子から温かい目で見られると、小百合はさらに恥ずかしくなった。

 

「気を使って頂いて、ありがとうございます」

 

 小百合が頭を下げると、今日子がその姿をまじまじと見ていた。

 

「あの、なにか?」

 

「礼儀正しい子だと思ってね。小百合ちゃんは、リコちゃんに似ているわね」

 

「リコに……確かに似ているところはあると思います」

 

「小百合はリコに負けないくらい頭もいいんだよ! ちょっと、怖いけど」

 

 みらいが最後に余計な言葉を付け加えるので、小百合は素直には喜べない微妙な気持ちになった。

 

「それはそれは、ありがたいことこの上なしね。リコちゃんがいなくなってから、みらいの成績少し落ちていたものね」

 

「ええっと、それはその……」

 

 みらいが目をそらしていると、今日子が満面の笑みをたたえながら小百合に頭を下げた。

 

「娘をよろしくお願いします」

「はぁ、はい」

 

 まるで家庭教師にでもお願いするような今日子の態度に、小百合は少し面食らっていた。

 

 今日子が一階に降りると、テレビを見ていた大吉が眼鏡の奥から優し気な眼差しを妻に向けて言った。

 

「みらいの新しいお友達かい?」

「ええ、今みんなで勉強中よ」

 

「あの子たちの着てる制服って、お金持ちばっかりの私立の学校のだよね。みらいはどこであんな子たちと知り合ったんだろう?」

 

「そんなこと、どうだっていいじゃない」

 

 キッチンの方から声が起こる。みらいのおばあちゃんが急須(きゅうす)を持って出てきた。彼女はテーブルの上に出してある三つの湯飲みに順番にお茶を淹れていく。

 

「大切なのは、みらいに素敵なお友達が増えたっていうことでしょう」

 

「うん、うん!」と今日子が嬉しそうな顔でおばあちゃんの言葉に頷いていた。

 

 その頃、二階ではお茶会が始まっていた。

 

「この紅茶、だいぶ冷めちゃってるね」

「まあ、飲みやすくていいんじゃないの」

 

 みらいに言ってから、小百合が一口紅茶をすする。そして、まずいものでも食わされたような表情になった。紅茶は小百合の想像以上に冷めていた。

 

「温かい紅茶をご所望でありますか~っ!」

 

 ラナが二人に顔を迫らせて言った。なぜだか妙な迫力があって、二人ともびっくりして身を引いた。

 

「ま、まあ、できれば温かい方がいいわね」

「おまかせあれ!」

 

 ラナが先にひまわりのクリスタルが付いている杖を出した。

 

『え?』みらいと小百合は、一瞬状況が理解できなかった。

 

「キュアップ・ラパパ~、紅茶よ温かくなぁれ~」

 

 ラナが魔法の呪文を唱えて杖の先をティーポットに向けた。その瞬間、みらいと小百合は蒼白になった。

 

「うわぁーっ!?」

「ちょぉーっ!?」

 

 慌てた二人の少女から悲鳴とも絶叫ともつかない声があがった。そしてティーポットの蓋が上にぶっ飛んで、途方もない量の湯気が噴き出した。瞬く間に湯気が充満して、みらいの部屋が真っ白になった。

 

「うわぁ、大変だーっ!?」

「はやく窓を開けるのよ!」

 

 みらいと小百合が部屋中の窓を開けると、白いものがもくもくと外に出ていく。たまたまそこに通りかかった通行人が目を丸くして立ち止まる。

 

「火事か!? 火事なのか!?」

 

 通行人に向かって小百合が慌てて大声で言った。

 

「ちっ、違います! 気にしないで下さい! 本当に大丈夫ですから!」

 

 部屋に発生した大量の湯気が失せると、みらいは精神的な打撃を受けてその場にへたり込み、小百合は怖い顔になってラナに迫った。

 

「あんた! なんで魔法の杖持ってるのよ!」

 

「なんでって、持ってるから持ってるんだよ~。それよりもほら、紅茶温かくなったよ。ちょっと熱すぎたかもだけど~」

 

「蒸発してほとんど残ってないじゃない!? 一歩間違ったら本当に火事になるところだったわよ!」

 

 怒っている小百合の近くで疲れ果てた顔のみらいが言った。

 

「別れの感動に紛れて、ラナの魔法の杖を校長先生に渡すの、すっかり忘れちゃってたね……」

 

「なんてこと……」

 

 小百合は心底絶望してしまった。そしてラナから有無を言わさず魔法の杖を取り上げた。

 

「あ、なにするの~?」

「これは危険すぎるから、わたしが封印するわ」

 

「そんな、ミサイルか爆弾みたいに言わなくても~」

「あんたの魔法はミサイルや爆弾よりも危険よ!」

 

 小百合のヒステリックな大声は一階にまで響いた。そんな少女たちのやり取りを、みらいのベッドの上でモフルンとリリンが仲良く寄りそって見ていた。可愛らしいクマのぬいぐるみと、穏やかに目を閉じる猫悪魔のぬいぐるみ、二人共もう喋ることもなければ動くこともない。でもみらいと小百合は、ぬいぐるみたちが自分たちと同じ景色を見て感じていることを知っている。たとえ普通のぬいぐるみに戻ったとしても、心がつながっている家族だった。

 

 

 

 校長先生が机の上に白の書を広げて文章の一つ一つを読み解いては、時々難しい顔になって唸っていた。

 

「虚無の時代にありし閃光の魔法。その正体は今の時代よりも遥かに進んだ魔法の技術。魔法で動く鉄の巨人、魔法の力で空を飛ぶ巨大要塞、そしてコピーリンクルストーンによって生み出される閃光の魔法戦士か……」

 

 フレイアの魔法が解けたことにより、魔法界の過去に隠された歴史が今に現れた。とは言え、それは大昔の出来事であり、今の時代にそれを知り得るのは魔法界最古の歴史書を目にしたわずかな人間だけだった。この事実をどう扱うべきなのか。隠すことは簡単なことである。

 

「……近いうちにこの事実は公表せねばなるまい。特に、魔法界を守るためその命を落とした二人のプリキュアの存在は、皆に知らしめねばならぬ」

 

 すべてを有りのままに受け入れる。それが正しいと校長先生は考える。その過去がどんなに辛く悲しいものであっても、今の魔法界の人々ならしっかりと受け止めることができるだろう。校長先生はそう確信していた。

 

 

 

 魔法学校には清水に満ちた池がある。そこには清冽な水が噴水となって沸き上がり、池の中心には真円の浮島があった。生徒たちが休めるように、円形の浮島を縁取るようにつながった椅子があって、そこに魔法学校の制服姿の二人の少女が、傍らにとんがり帽子を置き、寄り合って座っていた。その姿をまたまた通りかかった校長先生が見つける。

 

 ことはがリンクルスマホンを開き、小さな花の蕾のあるペン型の魔法の杖を指の間でくるりと回してから、スマホンの長方形のディスプレイに、ペンのように尖った杖の先で光りの線を描いた。ディスプレイの上に小さなマグカップが描かれて、それが浮き出てことはの手の上で現実の物となる。

 

「ふぅ~っ!」

 

 リコの手の上に乗っている小さなフレイアが、空色のマグカップに向かって手を伸ばすような仕草をする。フレイアは少し大きくなっていて、背中に小さな四枚の翅が付いていた。二人の少女がその姿を見て、生まれたての赤子を見つめる母親のように目を輝かせた。

 

「はーちゃんも空色のスープ大好きだったんだよ」

 

 ことはがスプーンでスープをすくって近づけると、フレイアはそれを夢中になって飲んでいた。

 

「はーっ、か~わい~! はーちゃんも昔はこんなに可愛かった?」

 

「ええ、今のフレイアに負けないくらい可愛かったわ」

 

 微笑みを浮かべる二人の少女に、銀髪の美丈夫がいつの間にか近づいてきた。

 

「ほう、少し大きくなったのだな」

 

「校長先生、そろそろ飛ぶ練習も始めようかと思っているんです」

 

 リコの話を聞きながらその手の上にいる幼い妖精を見て、校長も愛おし気に微笑んだ。

 

「この子も、ことは君のように特別な魔法つかいになるのかのう」

 

「絶対になりますよ! はーちゃんがしっかり教育しますから!」

 

 ことはがトンと自分の胸を叩いた。

 

「はりきっちゃって。はーちゃんったら、すっかりお母さんね。ここ最近は、言葉使いまで変わってきているわ。もう昔のはーちゃんとは違うみたいね」

 

「みらいとリコみたいに、優しくてしっかりしたお母さんになって、フレイアをちゃんと育てるの」

 

 ことはがスプーンから空色のスープを飲みほしたフレイアを見つめると、幼い妖精の口の周りに、白い泡が付いて髭のようになっていた。

 

「大きくなったら、はーちゃんのお仕事手伝ってね~」

 

 青くて小さな花模様のあるグリーンの瞳で、ことはを見つめる小さなフレイアは、愛らしい顔に笑顔の花を咲かせて声を上げた。

 

「うんまっ!」

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