夕日の差す薄暗い部屋の中で、長い黒髪の少女がジーンズの短パンにピンクのTシャツのラフな姿でベッドの上に座り込み、背中に蝙蝠の翼が付いた黒猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。その黒い瞳は潤み、涙が溜まっている。端正で年の割には大人びている顔には、闇のような陰鬱さが広がり、少女は涙を零した。
「お母さん……」
その時、世界中を揺るがす地震が起こった。しかし、小さな振動だったので、悲しみに沈んでいた少女は地震があったことにすら気づかなかった。少女が抱く黒猫のぬいぐるみは穏やかな笑顔を浮かべていたが、どこか悲しそうに見えた。
魔法界を揺るがす地震があってから三日後の朝に、リコは校長と一緒に魔法の絨毯に乗って、巨大な魔法陣の中心へと向かっていた。彼女の目の前には見覚えのある魔法の文字が広がっている。校長は空飛ぶ
「この数日間の調査で驚くべき事実が判明した」
魔法の箒ではたどり着けない高度の上空で、リコは強く吹き付けてくる風で帽子が飛ばされないように手で押さえながら校長の話に耳を傾ける。校長は魔法陣の中心を指さして言った。
「あの魔法陣の中心からトンネルのような空間が広がっておる。そしてそれはナシマホウ界までつながっているらしい」
「ここからナシマホウ界まで!?」
リコは驚愕した。彼女は現在の魔法界からナシマホウ界までの距離は正確には知らないが、それが尋常でない事は容易に分かる。
「それだけではないぞ、魔法界はナシマホウ界から離れていくはずだったが、先の地震から魔法界は動いておらん、まるでナシマホウ界と鎖ででも繋がれたようにな。現在、二つの強力な魔法によって、二つの世界は通じておるらしい」
「二つの魔法?」
「ナシマホウ界側からも魔法のトンネルが伸びている事が確認された。そのトンネルを利用すれば、カタツムリニアでナシマホウ界まで行くことは可能だ、論理的にはな……」
最後に校長が付け加えた言葉が、リコに不安を与える。
「……簡単じゃないんですね」
「うむ、現状ではあらゆる魔法を駆使したとしてもナシマホウ界に着くまでに数ヶ月はかかる。それ以前に、ナシマホウ界まで魔法のレールを敷くのに長い時間が必要だろう」
「それじゃ間に合いません!」
リコが思わず立ち上がって言うと、ふかふかの絨毯の上でバランスを崩し、ごく小さな悲鳴と共に尻餅をついてしまう。そんなリコに校長は微笑を浮かべた。
「まあ、話は最後までききたまえ。実をいうと、トンネル内には既に魔法のレールが存在しておる。そしてトンネルには強力な魔力に満ちておって、それを利用すればカタツムリニアを極限まで加速する事が可能であろう。今なら一週間もあればナシマホウ界まで行けるはずだ」
それを聞いたリコの胸に希望が生まれる。同時に安堵から笑顔が生まれた。
「良かった……」
「ことは君がリコ君をナシマホウ界に導いていることは確かじゃな。また苦労をかけることになるが、行ってもらえないかね?」
「もちろんです!」
ナシマホウ界で良からぬことが待ち受けていることははっきりしている。それでもリコは親友のみらいに再び会うことができると思うと胸が踊った。