小百合とラナを、みらいとリコとしっかり交流させて魔法つかいプリキュアの世界に馴染ませたかったので、本格的な戦いが始まる前に長い尺を取っています。
暴走! ラナマジック!
魔法界では幼少の子供に親が簡単な魔法を教えるのが習わしになっている。10年ほど前のこと、ラナにも幼い頃に母親から魔法を教わっていた記憶があった。
「キュアップ・ラパパ、コップよ少しだけ右に動きなさい」
彼女が魔法のステッキを振ると、水の入ったコップが少しだけ右に動いて止まる。それを見ていた幼いころのラナは小さな手で拍手した。
「お母さんすご~い!」
「さあ、ラナもやってごらんなさい」
「よ~し、見ててねお母さん!」
ラナは生まれた時にもらったひまわりのクリスタルが付いたステッキを出し、それを一振り。
「キュアップ・ラパパ! コップよ動いて!」
水の入ったコップには何の変化もなかった。母と娘がじっとコップを見ていると、やがてそれが小刻みに震えだす。二人ともコップがちょこっとでも動くと思って見ていた。しかし、そんな想像を超えるとんでもないことが起こる。水の入ったコップが爆ぜたのだ。
「キャッ!?」
「うわあっ!?」
コップが粉々に砕けて中の水が飛び散り、母子は驚きのあまり呆然となった。母親の方はすぐに娘を気遣っていった。
「大丈夫ラナ、怪我はない!?」
「う、うん、平気だよ。びっくりした~」
その時、母がひどく心配そうな顔をしていたのをラナは今でもよく覚えていた。
その翌日に、ラナはなぜか病院に連れていかれた。
病院の先生はラナの頭に白い花を挿し、それが赤い色に変わると母親を呼んだ。ラナは母から外で待つようにいわれていた。
病院を出て家に帰るときに、ラナは箒の前側に母に抱かれるようにして乗っていた。ときどき母の顔を見上げると、なんだか浮かない顔をしていたのを覚えている。箒が空を走りラナが空中で気持ちの良い風を感じる中で母はいった。
「ラナ、わたしはあなたの笑顔がとても好きよ。ラナの笑顔を見ると、とても元気になるの」
ラナが笑顔になって母を見上げると彼女はどうしてか悲しそうだった。
「これから、あなたには辛いことがたくさんあるかもしれない。けれど、その笑顔があなたを幸せにしてくれるわ。それを決して忘れないでね」
そのとき母のいった言葉の意味の半分は、ラナは魔法学校に入ってから知った。
ラナは庭で夜空の星を見上げて今は亡き母の思い出をたどっていた。ラナは星空に笑顔を浮かべる母を見ていった。
「お母さん、わたし今すっごく幸せだよ! とっても素敵なお友達がいて、こんなお城みたいなお家でくらせて、プリキュアにもなれちゃった!」
ラナは魔法の杖を出すと今の幸せな気持ちを込めて、ひまわりの水晶を夜空に向けて魔法をかけた。
「キュアップ・ラパパ! あした天気になぁれ!」
翌朝、津成木町を局地的な豪雨が襲った。制服姿の小百合は玄関にくると革靴をはきながらうんざりしていった。
「朝から大雨なんて、まったく嫌になるわね」
「ごめん小百合、わたしのせいだ!」
後からきたラナが鞄を持って小百合の前に立っていた。
「はぁ?」
「昨日の夜にわたしが魔法をかけたんだよ、あした天気になぁれって」
「天気どころかどしゃ降りじゃない……」
小百合が白い傘を持ち玄関の扉の前で止まると、建物や地面に叩きつける大粒の雨の音が凄まじく、足元から小刻みな振動まで伝わってくるように感じる。小百合は朝っぱらから降りしきる雨が憎たらしくなった。
「もし雲の上で雨を降らせている神様とかいたら、びんたしてやりたい気分だわ」
「え、びんた!?」
ラナは小百合の言葉に怯んだが、勇気を出して靴をはき、小走りで小百合の前にきて頬を向ける。
「いいよ、思いっきりやって!」
「あんたは何をやってるのよ……」
「だからぁ、この雨はわたしの魔法で~」
「もういいから、学校に行くわよ。はい、傘持って!」
「あう~」
小百合とラナは白い傘と黄色い傘を開き二人寄りそって、大雨の中登校するのであった。
リコは水晶玉と向かい合い、それに映る者を見つめていた。その隣にモフルンを抱きながらみらいも座っていて全く元気がなかった。
「そうか、そのようなことになってしまったか……」
水晶に映る校長は神妙な顔をしている。事態は彼がそうならなければ良いがと考えていた、悪い方向に進みつつあった。
「あの二人がプリキュアであることは間違いないと思います。ブレスレッドにリンクルストーンも付けていましたし……」
「リンクルストーンじゃと? もっと詳しくはなしてもらえんかね」
「黒いリンクルストーンでした。あの形は、わたしたちのダイヤと同じ……」
「黒いダイヤのリンクルストーンとは……」
「校長先生はなにかご存知なんですか?」
「わからぬな。伝説のリンクルストーンは頂点のエメラルド、四つの護りのリンクルストーン、七つの支えのリンクルストーン、合わせて十二のはずだ。それ以外のリンクルストーンが存在するなど、聞いたこともないが……」
「あの二人は宵の魔法つかいと言っていました。そんな名を聞いたことはありますか?」
水晶を見つめるリコに校長は無言で首を横に振った。
「校長先生でも何も知らないなんて……」
「伝説にも語られぬ新たなリンクルストーンの出現に、それに関わる黒いプリキュア、謎は深まるばかりじゃのう」
それから校長は、リコの隣で目を伏せてずっとふさぎ込んでいるみらいを気遣った。
「みらい君の元気がないようだが、大丈夫かね?」
顔を上げたみらいの大きな瞳には涙が溜まっていた。
「校長先生……」
「同じプリキュアに攻撃を加えられたのだ、気を落とすのは無理からぬことだ。今はゆっくり休み、心を落ち着けなさい」
「……あの人は悪い人じゃないよ。きっと、きっと、なにか理由があるんだよ」
そういうみらいの目から涙が零れていた。同じプリキュアならば、心を通わせて、共に笑い、共に苦しみ、共に戦っていく。それがみらいにとって当たり前のことであり、みらいの信じていた世界だった。それが浜辺に築かれた砂の城が波に洗われるように崩壊してしまった。それを感じたみらいは涙を止められなくなっていた。
「モフ、みらい……」
モフルンが心配そうにみらいの顔を見上げる。そんなみらいをリコがそっと抱き寄せると、みらいはリコの胸の中で声を上げて泣き始めた。それを見ていた校長はいたたまれなくなり、とにかくこれ以上みらいを苦しめないように配慮した。
「わしは魔法図書館の書を徹底的に調べて新たなリンクルストーンに関する手がかりを探してみよう。後の事は君にまかせるよ」
「校長先生、よろしくお願いします」
校長が水晶の向こうで頷くと、その姿は消えていった。リコはそのまま泣いているみらいを抱いていた。みらいが落ち着くまでそうしているつもりだった。リコだって同じプリキュアにだまし討ちをされて悲しかったが、それ以上にダークネスのことを考えると胸の中心あたりに一塊の熱のようなものを感じた。それはリコが生まれて初めて感じる未知の感情だった。
「わたしはショックだよ~、あ~う~」
ラナは朝からベッドの上で転げまわっていた。リリンは翼を動かしながら空中でそんなラナを見下ろしている。
「朝からゴロゴロするなんて、ラナは自堕落デビ」
「自堕落じゃないよぅ、苦しいからゴロゴロしてるんだよぅ」
小百合はそんなラナを無視して机に向かい、宿題をこなしている。その後もラナは何だかんだ騒ぎ続けたが、小百合は宿題が終わるまでは我慢し続け、終わった瞬間に隣の教科書を吹き飛ばすくらいの勢いでノートを閉じてばっと立ち上がる。
「うるさいわね! いい加減にしなさいよ!」
「だってぇ……」
「あんたの気持ちは分からなくもないけれど、あのプリキュア達との衝突は避けられないわ。その理由は何度も説明したでしょ」
「わ、わかってるよ……」
「もう
「サイ? サイを投げて後戻りできないってどういうこと? それに、あんな大きい動物どうやって投げるの?」
「そっちのサイじゃないわよ! サイコロのサイよ!」
「ああ、なんだぁ、サイコロなら何となくわかるね、アハ!」
「普通、動物のサイは想像しないでしょ……」
すっかり話がおかしくなってしまったが、ラナは何の気もなしにいった。
「はぁ、なにか気晴らしでもしたいな~」
「気晴らしねぇ」
小百合も伝説の魔法つかいとの戦いを望んでいるわけではないので、ラナと一緒に気晴らしをしたい気持ちになっていた。そこで彼女は思いついていった。
「そうだ、あんたの魔法を見せてよ。箒で空を飛ぶだけじゃないんでしょ?」
「リリンもラナの魔法を見てみたいデビ」
「いいよ! じゃあお庭にいこ」
小百合はリリンを抱き、3人で外に出て屋敷の裏庭にいく。そこでラナは名もない野の花のつぼみに目を付けた。
「これにしよ~」
「その花のつぼみをどうするの?」
「魔法で花を咲かせるんだよ!」
「へぇ、そんなことできるのね」
「楽しみデビ」
リリンと小百合が興味深く見つめているところで、ラナが先端にひまわりのクリスタルが付いた魔法の杖を出す。つぼみのすぐ近くに花びらの白い可愛い花が咲いていて、小百合はそれと同じ花が魔法によって咲くのだろうと思っていた。
「いくよ~、キュアップ・ラパパ! 花よ咲け~」
ラナが杖をつぼみに向けて魔法の呪文を唱えると、つぼみが徐々に開いていく。
「まあ」
「すごいデビ」
感動して見ている小百合とリリン。しかし、その表情は花が開いた時にこわばった。
「ギャシャーッ!」
花の中央に奇妙な口が付いていて、それが奇妙な鳴き声を上げた。
「い、いやぁーっ!」
「デビーっ!?」
悲鳴を上げる二人、花の口には異様に鋭い歯が並んでいて、それを何度もかみ合わせて、ガチンガチンと音を響かせている。それを見たラナは目を輝かせた。
「おお、なんかすごいのになった!」
「なんなのよ、この異様な生物は!?」
「魔法の力で花は新種の生き物になったんだよ」
「こんな変なものにしないで、普通に咲かせなさいよ!」
憤る小百合にラナは頭をかいた。
「いやぁ、そんなこといわれてもね~」
「あ、蝶々が飛んできたデビ」
飛んできた黄色い蝶を、ラナの生み出した花のような生物が食べようとして襲いかかる。歯をむき出す怪花、フラフラと逃げ惑う蝶々、それを見た小百合が叫ぶ。
「このままじゃ蝶が食べられてしまうわ!? 魔法でなんとかしなさい!」
「まかせて! キュアップ・ラパパ! 蝶よずっと上まで飛んでいけ~」
ラナの魔法で黄色い蝶は上昇し始め、悪夢のような花から離れていくが、同時に途方もない変化が起こり始める。上昇と同時に蝶は大きさを増していき、ついに小百合たちは上空の蝶の影におおわれた。
「え? え? ええぇーーっ!?」
「めっちゃ高く飛んでる~、わたしの魔法成功した~」
驚愕の叫びをあげる小百合の横でラナは喜んでいる。
「ちょっと、なんなのよあれは!?」
「ちゃんと高く飛んだでしょ。まあ、ちょっと大きくなっちゃったけどね~」
「大きくなりすぎよ!! あれじゃどっかの映画に出てくる怪獣と変わらないわ!」
「怪獣じゃなくて蝶だよ」
「そんなことはどうでもいいから、早く元の大きさに戻しなさい! あんなのが街にいったら大騒ぎになるわよ!」
「わかったよ。キュアップ・ラパパ! 蝶よ元の大きさに戻れ~」
ラナの魔法の光が飛んでいって巨大化した蝶に当たると、真っ白い煙が広がって蝶をおおい隠してしまう。そして、煙の中から巨大な両翼が飛び出し、間抜け面のドラゴンが現れる。
「ギャオーッ!」
そしてドラゴンはなんとなく間抜けな雄たけびをあげ、雄々しく飛翔して街の方へ向かっていった。もはや小百合は口を開けっ放しにしたままなにも言えなくなっていた。
「おお、すごい! ドラゴンになっちゃったよ! すごいねわたしの魔法!」
「あんた、ふざけんじゃないわよ! どうなってんのよ、あんたの魔法は!?」
「いやぁ、わたし箒で飛ぶ以外の魔法って、生まれてから一度も成功したことないんだよね~」
「そういう事は先にいいなさいよね!! どうすんのよあれ!」
小百合が怒りながら街の方に飛んでいくドラゴンを指さすとラナはいった。すでに街の方では騒ぎになりつつあった。
「そのうち消えるから心配ないよ」
「消えるって、どれくらいで?」
「えっと、十秒から一日くらいの間だよ」
「なんでそんなに差があるのよ!? 今すぐなんとかしなさい!」
「え~、無理だよ~」
そんなこんなしている間に、間抜け面のドラゴンは街の上空に至って火を吐いている。それを見た街の人々は大騒ぎして逃げ惑う。そこへみらいとリコが魔法学校の制服姿で箒に乗ってやってきた。二人は街の人に見られないようにできるだけ高度を上げ、ドラゴンの真上にくるとその巨体に隠れながら下降していく。ある程度近づくとみらいがいった。
「ヨクバールかと思ってきてみたけど」
「どうやら違うみたいね」
「魔法界のアイスドラゴンにそっくりモフ」
「それよりも随分間の抜けた姿をしているけれど」
そういうリコは上からドラゴンをしばらく眺めていた。
「これってもしかして」
リコは魔法の杖を出して呪文を唱える。
「キュアップ・ラパパ、ドラゴンよ元の姿に戻りなさい」
リコの魔法を受けたドラゴンがもうもうと白い煙に包まれる。そこから出てくるのは一匹の小さな蝶である。
「元は蝶々だよ!?」
「あり得ないし!?」
みらいとリコは二人そろって仰天する。それからリコが急に真顔になっていった。
「小さな蝶をあんな大きなドラゴンに変えてしまうなんて、よほど功名な魔法使いがやったに違いないわ」
「どんな魔法つかいなのか気になるね」
「ドラゴンを街に放ったのが少し気にかかるけれど、会ってぜひとも魔法の使い方を教わりたいわ!」
その頃、屋敷の方では小百合が安堵の息をついていた。
「消えてくれたわ……」
「すぐに消えてよかったね~」
「よかったね、じゃないでしょ! あんたもう空飛ぶ以外の魔法使うの禁止ね!」
「いや~、ものの弾みってあるじゃないですか~、思わず使っちゃうみたいな」
減らず口をたたくラナを小百合は怒りを抑えて目で威圧する。その圧倒的な無音の迫力の前にラナは硬直して口を閉じた。
「……魔法学校で勉強すれば、わたしでも魔法が使えるようになるのかしら?」
「へ、どしたの急に?」
「ラナはどう思う?」
「それは無理だと思うよ~。魔法を使うのには魔法の杖が必要なんだ。魔法の杖は生まれた時に魔法の杖の樹からもらうものだからね」
「そう、残念ね」
「小百合の気持ちわかるよ! 魔法って使えたら便利でファンタジックだもんね!」
「わたしが魔法を覚えたいのは、あんたのルナティックな魔法を制御したいからよ!」
と小百合の声が屋敷の裏庭に響くのであった。