魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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フレイアの無茶振り

 芝生公園の外れにある菜の花の園、季節が少しずつ移り変わり、小さな黄色の花々は少し散り始めていた。風渡り草花がざわめき、モンシロチョウが無数に飛ぶこの場所にいると、メルヘンの世界に迷い込んだのではないかと思えてくる。二人の少女と一匹のぬいぐるみがこの花畑の中心に立っていた。

 

「フレイア様、闇の結晶を持ってきたデビ」

 

 小百合に抱かれているリリンがいうと、彼女らの目の前の地面に月と星の黒い六芒星魔法陣が出現し、その上にフレイアが現れる。

 

「みなさん、ご苦労様です」

 フレイアは相変わらずの柔和(にゅうわ)な笑顔で3人にいった。

 

「フレイア様、闇の結晶です」

 小百合がバスケット一杯に入っている闇の結晶を差し出すとフレイアはいった。

 

「まあ、たくさん集めてくれたのですね」

 

「半分は小百合がすんごい卑怯なやり方でミラクルから取ったんだよ」

「ちょっとラナ! 人聞きの悪いこといわないでよ!」

「だって、本当のことじゃん」

 

 ラナは平気な顔でそんなことをいう。彼女に小百合を(おとし)めるような気持ちはまったくなく、ただ正直すぎるだけなのだ。フレイアのためとはいえ、ダークネスであった小百合がミラクルに卑劣なことをして闇の結晶を奪ったのは事実なので、小百合は反論できなくて苦い顔をした。

 

「あなた達が伝説の魔法つかいと接触したことは知っています。小百合の判断は最善であったと思います。例え伝説の魔法つかいプリキュアであっても、この闇の結晶を渡してはなりません」

 

 フレイアにそういわれて小百合は少し安心する。小百合だってあんなことをしたくはなかった。ミラクルが最後に見せた絶望した顔を思い出すと、胸がキュッと締め付けられるように感じる。

 

「もうナシマホウ界には闇の結晶は存在しないようです」

 

「では、ナシマホウ界はもう安全なんですね」

 小百合がいうとフレイアは頷く。

 

「残念なことに、かなりの数の闇の結晶をロキに奪われてしまったようです。それに、魔法学校の校長も闇の結晶を所持しています。いずれはすべての闇の結晶を一つに集めなければなりません」

 

 それを聞くと、小百合とラナは緊張した面持ちで黙っていた。フレイアのいったことは、いつかは魔法学校の校長とつながっている伝説の魔法つかいと戦うことを意味していたからだ。小百合には迷いはなかった。彼女は自分の目的のために成すべきことをするのみだ。

 

「フレイア様、わたしたちに他にできることはありますか?」

 

「じつは魔法界に大量の闇の結晶が出現しています。恐らくロキの仕業でしょう。あなた達はすぐに魔法界に(おもむ)いて引き続き闇の結晶を集めて下さい」

 

「でも~、今は魔法界に帰れないんだよね~」

 ラナはそう言いつつフレイアを期待で輝く目で見つめる。するとフレイアは変わらない笑顔でいった。

「今のわたしの魔法力では、とてもとてもあなた達を魔法界へ送ることはできません。ですから自分たちで何とかしてください」

 

『えっ!?』

 

 驚愕のあまり目を丸くしている二人にフレイアはさわやかな笑顔を向ける。

 

「大丈夫です。あなた達が力を合わせれば何だってできます。わたくしは一足先に魔法界へ行っていますからね、がんばってくださいね」

 

 そういってフレイアは闇の結晶の入ったバスケットを持つと消えていった。後に残された小百合とラナはしばらく黙って突っ立っていたが、やがてラナが放心から戻っていった。

 

「うわ~、すっごい無茶ぶりだぁ……」

「なんてこと……」

 

 また少し沈黙があって今度は小百合がいった。

「まあ、あれよ、フレイア様はわたし達にそれだけ期待しているということよね」

「本当にそうかなぁ……」

「そうでも思わないと前に進まないでしょ! とにかく行動よ! まずはあんたがどうやって魔法界からこっちの世界にきたのか整理しましょう」

 

「二人とも頑張るデビ!」

 とリリンは他人事のようにいうのであった。

 

 

 

 その日の放課後、小百合とラナは津成木駅の自動改札機の前にいた。リリンも小百合のポシェットから顔を出している。

 

「本当にここから魔法界に行けるの?」

「そのはずなんだけど、何度やってもダメなんだよね~」

「とにかく、前にラナがここに来た時の方法を試しましょう」

「よ~し!」

 

 ラナが勢いよく手を上げる。その手には小百合が今までに見たことのないカードを持っていた。ラナが人が行き来する改札口のところでそんなことをするので、二人はすごく目立っていた。少し慌てた小百合はラナの手をつかんで下げさせて、そのまま不思議なカードを見た。それは電車の定期券くらいの大きさで、真ん中の辺りに魔法陣の上に黒猫がちょこんと座った姿が描かれ、その上には見た事もない文字が書いてあった。

 

「なによこれ?」

「マホカだよ! これでカタツムリニアに乗れるんだ」

「か、カタツムリ!?」

 小百合の顔が少し青ざめる、明らかに様子がおかしいのでラナが気にしていった。

 

「どしたの?」

「何でもないわよ……」

 

 小百合の腰のあたりがもぞもぞして、リリンがラナを見上げる。

「小百合はカタツムリが」

 

 リリンがいいかけてるときに、小百合はリリンをポシェットの中に突っ込んで蓋を閉じた。ポシェットの中でリリンは何かいっていたが、ラナには聞き取れない。ラナは不思議そうに首をかしげていた。

 

「とにかく、そのマホカを使ってみなさいね」

「は~い」

 

 ラナは小走りで改札機の前までいってカードリーダーのパネルにマホカを置く。何も起こらなかった。その一回で帰ってくればいいものを、ラナは必要以上に何回もマホカをパネルにかざし、近くの駅員がラナのことを気にし始める。小百合がまずいと思ってラナを連れ戻そうとしたときに、ラナは何かを決意して強い表情になった。

 

「とーっ!」

 ラナは改札口に突っ込んだ。するとラナはゲートに阻まれて同時に音が鳴った。

「うわぁ、ダメだぁ」

 

 ようやく諦めがついたラナ、慌てて走ってくる小百合、そして駅員も速足で二人に近づいてくる。

「ちょ、ちょっと、なにやってるのよ!?」

 

 慌てふためく小百合がラナの手を掴んで改札口から引き離す。後ろに気配があって振り向くと、駅員さんがニッコリしながら二人を見ていた。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえ、すみません! なんでもないんです!」

 

 小百合が上ずった声で駅員にいったとき、ラナが駅員の目の前にマホカを出した。

 

「マホカが使えなくてこまっています!」

「はぁ? 何ですかこれは?」

 

 ラナの衝撃的な行動で小百合は悲鳴を上げそうになった。小百合は慌ててラナからマホカを取り上げ、さらにラナの腕をつかんだ。

「気にしないでください! この子ちょっと変わった子で!」

 

 小百合はラナの腕をつかんだまま小柄な体を引きずるようにして駅員の前から逃げ出した。駅員はポカンとした表情で離れていく少女たちを見送っていた。

 

 小百合は駅の支柱の陰に隠れて息を整えようと努めてた。それに向かってラナはあっけらかんとしていう。

「小百合、完全に怪しい人になってたよ」

「誰のせいでそうなったと思ってんのよ!! お願いだから変なものを平気で他人に見せないでちょうだい!」

「変な物じゃないよ、ただのマホカだよ」

「向こうの世界では普通でも、こっちの世界では怪しさ爆発してんの!」

 

 とにもかくにも、ラナの持っているマホカとやらは使えないようであった。

 

 

 

 芝生公園の噴水広場の近くにある木製の公園テーブルの前に並んで、みらいとリコが同時にイチゴメロンパンにかぶりつく。二人とも幸せそうな顔でイチゴメロンパンを食べていた。みらいが一口目を飲み込んで満面の笑みで言った。

 

「またリコと一緒にイチゴメロンパンが食べられるなんて、ワクワクもんだよ!」

「みらいと一緒に公園でイチゴメロンパン、昔を思い出すわね」

「昔っていっても、まだ一年くらいしかたってないよ」

「ま、まあ、そうなんだけど、色々あったから」

 モフルンもみらいのひざの上で嬉しそうな顔でさっき買ってもらったクッキーを食べていた。

 

 別の場所ではベンチに座る少女二人、行き交う人や噴水などを見ながらイチゴメロンパンを片手に話しあっていた。

「魔法界へ行く方法を探すっていっても、途方に暮れるわね……」

 そういって小百合はイチゴメロンパンを半分ずつにして、片方をポシェットから前半身を出しているリリンに渡す。

「ありがとうデビ」

 

 ラナは夢中になってイチゴメロンパンを食べていた。小百合はそんなラナをチラッと見ていった。

「わたしたちは魔法界に行かなきゃならないのよ、他になにか心当たりはないの?」

「イチゴメロンパンは最高においしい!」

 

「人の話を聞いてなさいよ! わたしはこっちの人間だから魔法界に行く方法なんて見当もつかないわ。あんたしか頼れる人がいないんだからね」

「う~ん、他の人に聞いてみるとか?」

 

「他の人って?」

「魔法界からナシマホウ界にきてる人が他にもたくさんいるんだよ」

 

「なんですって? じゃあ他の魔法界の人に聞いてみましょう。あんた、知り合いの一人や二人はいるんでしょ?」

「ぜ~んぜん!」

 

 ラナが元気よくいうと、小百合はガクッと肩を落とした。

「……じゃあまずは、魔法界の人を見つけましょう」

「無理だと思うよ。ナシマホウ界の人に魔法界の人ってバレたらいけないから、みんな魔法界からきたことは秘密にしてるんだよ」

 

「それじゃ、お手上げじゃない……」

「そうだ、いいこと考えた!」

 

 ラナは最後のイチゴメロンパンを口に入れて飲み込んだ後、立ち上がって大きく息を吸い込んだ。小百合の中で嫌な予感のつまった赤い風船が急激に膨らんでいく。小百合は本能的にラナを止めなければいけないと思った。しかし小百合が動く前にラナは大声を出してしまった。

 

「あのーっ!! 魔法界の人いたら手あげて~っ!!」

 

 小百合は本日二度目の悲鳴をあげたい強烈な衝撃を受けた。周囲の視線が二人に集中し、その場から逃げ出したい一心の小百合は人を超越した力を発揮した。

 

「気にしないで下さい! この子ちょっと変なんです!」

 

 小百合はそう言いつつラナの小柄な体をわきに抱えて逃げ出した。公園に集まっていた人々は先ほどの駅員と同じようにポカンとした顔で、走っていく小百合と抱えられて手足をぶらんとさせている垂れ猫状態のラナを見ていた。その中には公園のテーブルの前に座って食べかけのイチゴメロンパンを持っている私服姿のみらいとリコもいた。

 

「びっくりしたー、いまの魔法界の人かな? あの子、どっかで見たような気がするな」

「みんなの前であんなこと叫ぶなんて、おかしいから……」

「お友達になれたら楽しそうだね!」

「どうかしら……」

 みらいに微妙な感じでいうリコであった。

 

「それにしても、闇の結晶ぜんぜん見つからないね」

「ええ。もうナシマホウ界には闇の結晶がないのかもしれないわ」

 それから二人は公園の道を速足で歩いてみらいの家に向かった。

 

 一方、小百合は大木の陰で息を整えていた。ラナを抱えて走ったもので、息が落ち着くまでに時間がかかった。

「小百合、大丈夫デビ?」

「大丈夫じゃないわ……」

 心配そうなリリンに小百合はいった。

 

「すごかったね~。わたしを抱っこして走るなんて、小百合って力持ちだったんだね~」

「あんた、いい加減にしなさいよ! 公衆の面前であんなこと叫ぶなんて、なに考えてんのよ!」

 

 小百合が本気で怒っているので、ラナは慌てた。

「い、いい考えだと思ったんだけどな~」

 

「あんなことしたら怪しまれるだけでしょ! だいたい、魔法界の人は魔法界からきたことを秘密にしてるって、あんたが自分で言っていたんじゃない。あんなことして手をあげる人なんているわけないでしょ、秘密にしてるんだからっ!!」

「それもそうだね、アハハッ!」

 

 ラナが快活に笑うと小百合は急に全身の力が抜けて怒る気が失せた。

「疲れたわ、もう帰りましょう……」

「うん、そうしよう! おなかも減ってきたしね!」

 

 ラナはたった今、小百合が怒っていたことも忘れたかのような笑顔でいうのであった。

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