魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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モフルンとリリン

 出発直後、ナシマホウ界を見ようと最後尾の車両の窓に4人が集まってくる。みらいのはモフルンを、小百合はリリンを抱いていた。唐突に予想もしないものが目に飛び込んできて、みらいが驚愕する。

 

「えっ!? あれ魔法陣!?」

「ええ、そうみたいね」

 

 来る時にその魔法陣を目撃しているリコは平静だった。4人の目に直径がナシマホウ界と同じくらいの巨大な月と星の六芒星魔法陣が映っていた。黒い円と六芒星の中にある深紅の三日月と六つの星の印象が鮮烈で、カタツムリニアのレールはその中心から伸びている。暗い色の魔法陣は透けていて向こう側にナシマホウ界の姿がおぼろに見えていた。

 

「あれってフレイア様の」

 ラナが小声で言うと小百合がきっと睨んで唇に人差し指を当てた。

 

 

 ひと段落してからリコが先頭に立って車内を案内した。一両目の車両がレストラン、二両目が宿泊施設、三両目は休息スペースになっている。宿泊施設には部屋が二つあったので、それぞれ分かれて部屋を確認する。ラナは部屋に入るなり、はしゃいで走り回った。

 

「うわぁ、すごいなぁ。わたし寝台列車って初めてだよぉ」

「わたしも初めてよ」

 

 小百合のポシェットの中で大人しくしていたリリンが出てきて飛びあがる。

「素敵な部屋デビ、ベッドは二段になってるデビ」

「わたし上でねる~」

「はいはい、好きなようになさい」

 

 小百合は荷物を部屋の隅に置くと、さっきから気になっていたことをいった。

「あんた、荷物はどうしたのよ? 前に三日分の着替えがあるとかいっていたわよね」

「全部ここにあるよ」

 ラナは小さなポシェットを両手でもって小百合に見せた。

 

「ふざけないで、そんなポシェットに入るわけないでしょ」

「入るんだよ。これは小さいから十日分の荷物しか入らないけど、リコとみらいが持っていた魔法の鞄なら一年分の荷物が入るんだよ」

「そんな便利アイテムだったの!?」

「魔法のポシェットだからねぇ」

「すごいわね、魔法界の技術」

 

 それから小百合は部屋を一つ一つ見ていく。

「お風呂に化粧台、中央のテーブルにはお茶の用意までしてあるわ」

「このソファーもふっかふかだよ~」

 ラナはリリンと一緒にソファーに身を沈めてご満悦だった。

 

「至れり尽くせりね」

「ご飯は食べ放題だしね! おなかすいたなぁ」

「ご飯の前にみんなで集まって話し合いよ。さあ、行くわよ」

 リリンが後について来ようと飛んでくると、小百合はリリンを止めていった。

 

「あなたはここで待っていてね。絶対に外に出ちゃだめよ」

 小百合とラナが出ていくと、リリンは不機嫌そうに口をへの字にした。

「むぅ、つまらないデビ」

 

 小百合とラナは部屋を出ると三両目の休息スペースに向かった。そこは話し合いなどに使えるように大きな丸テーブルとそれを囲むようにある四脚の椅子、この組み合わせが二つあり、いずれの色も白で統一されていた。そのうちの一つのテーブルの前に二人が座ると、すぐにみらいとリコも入ってきて小百合たちの前に座った。全員がそろうと小百合が言った。

 

「まず、魔法界に行くきっかけをくれたお二人に感謝の意をのべるわ」

 それにはリコが答える。

「そんなにかしこまらないで、わたしたちが魔法界に行くついでにあなた達を連れて行くだけなんだし」

 その隣でみらいがうんうんと頷いている。

 

「自己紹介をさせてもらうわ。わたしは聖沢小百合よ。聖ユーディア学園中等部の3年生」

「わたしは夕凪ラナだよ! 夕凪っていうのは小百合がつけてくれたんだ!」

 

「あなたは昨日聞いたし」

 ラナにリコの突っ込みが入る。それからみらいとリコもそれぞれ自己紹介をしていく。一通りそれが済むと、みらいが気になっていたことを聞いた。

 

「ラナちゃん」

「ラナでいいよ~」

「じゃあ、ラナ。きのうものすごくはやい箒にのってたよね?」

「それはわたしも気になっていたわ。良かったらあなたの箒を見せてくれないかしら?」

「いいよ!」

 

 ラナは手のひらサイズの箒を振って普通の大きさに戻すと、それをみらいとリコの前に置いた。それを見たリコは信じられないという目をしていた。

 

「これは間違いない、レーシング用の箒だわ」

「だからあんなに早かったんだね。レーシング用って初めて見るけど、わたしでも乗れるのかな?」

 

「とんでもない! これは誰でも乗れるような代物じゃないわ。レーシング用の箒に乗るためには、魔法学校の過程を終了した後に、さらに箒乗り専門の特別な学校にいって、さらにさらに試験を受けて合格しなければならないの。箒乗りの専門職は色々あって、レーシング用の箒の試験はその中で群を抜いて難しいのよ。わたしと同じ学年でレーシング用の箒に乗れるなんて考えられないことだわ」

 

「ラナってすごいんだね!」

「えへへ~」

 

 ラナは褒められて素直に喜んでいた。その隣の小百合はにやけているラナを半ば呆れるような横目で見ている。

 

 その時に、リコははたと思いついた。

「もしかして、前に街にドラゴンを召喚したのってあなたじゃないの?」

「そうだよ、よくわかったね~」

 

「やっぱりそうだったのね! あなたは魔法の天才よ! どうやったらあんな魔法が使えるのかぜひ教えてほしいわ!」

「わたしって天才だったんだ!? 知らなかったよ!」

 

 会話があらぬ方向へ飛躍していくので小百合がついに横やりを入れた。

「大いなる勘違いをしているわ、二人ともね。ラナの箒のことはよく知らないけど、ドラゴンを召喚したのはたまたまよ。この子は箒乗り以外の魔法はまともに使えないの」

 

 それを聞いたリコが何か思い当たったというように少し目を見開き、それから急に神妙になった。

「……そうだったの。変な勘違いをして悪かったわね」

「いいんだよ、気にしないで」

 リコの態度に小百合は違和感を覚えた。普通ならがっかりする場面だろうが、リコはなぜかものすごく悪いことをしたような顔で謝っていた。

 

「話はこれくらいにして食事にしましょう。みんなお腹が空いているでしょう」

 リコは立ち上がって言った。確かに食事時ではあるが、小百合はリコの話の切り替えに早急な印象を受けていた。

「うわ~い、やったぁ!」

 リコの提案にラナは万歳して喜んだ。

 

 

 

 小百合たちが会話しているその頃、一人で暇を持て余していたリリンは部屋を探検していたが、すぐに飽きて窓の縁に飛んでいくと窓を上に押し上げて外を見た。

 

「星がきれいデビ~」

「お星さまい~っぱいモフ!」

 

 すぐ近くで声が聞こえて振り向くと、リリンは自分と同じように窓から身を乗り出しているクマのぬいぐるみと目が合った。二人のぬいぐるみはしばらく見つめ合っていた。

 

 

 

 小百合とラナが部屋に戻るとリリンの姿がどこにもないので騒ぎになった。

「リリンがいないよ!」

「きっと外に出たのよ! あの二人に見られたらまずいわ! ラナ、すぐに探すのよ!」

 

 二人が慌てて部屋から飛び出してリリンを探し始める。一方、みらいとリコが部屋に戻ると留守番していたモフルンが待ち構えていた。

 

「みらい、リコ」

「どうしたの、モフルン?」

「新しいお友達ができたから紹介したいモフ」

 

 とモフルンはみらいに言ってから、ソファーの後ろに隠れていた黒い猫のぬいぐるみと手をつないで戻ってくる。

「さっきお友達になったモフ」

「ネコ悪魔のぬいぐるみのリリンデビ、よろしくデビ!」

 リリンは二人に向かって片手を上げて星型の肉球を見せた。

 

「いいお友達ができてよかったね……」

「へぇ……」

 

 みらいとリコは唐突すぎる出来事に理解が追いついていなかった。やがて二人は顔を見合わせ。

『ええええぇーーーーーっ!?』

 

 みらいが思わずリリンを抱き上げ、リリンの体をちょっと斜めにしたりひっくり返して背中を向けたりしながらいった。

 

「ぬいぐるみなのにおしゃべりできるの!?」

「なんでそんなに驚くデビ? モフルンと同じデビ」

「これっとどういう……」

 

 そういうリコが考える間もなく、二人の叫び声を聴いた小百合とラナが飛んでくる。中の状況を確認した小百合はとても苦い笑いを浮かべて絶望的という顔になったが、それは一瞬のことだった。黙する小百合に相対してラナは大声をあげる。

 

「うわっ、見つかっちゃってる! っていうか、それなに!? クマのぬいぐるみ!?」

「こんにちわ~モフ」

「しゃべった!? リリンと同じだ!」

 

 ラナが大騒ぎすると、みらいとリコはさらに慌てふためく。もはやひっちゃかめっちゃかの状況になってきた。

「こ、これは、その、えっと」

 

 さすがのリコもこの状況では冷静ではいられない。お互いにごまかそうにもどうにもできない状況だ。その時に小百合がツカツカと部屋に入り、みらいからリリンを抱き取った。

 

「驚いたわね、あなた達のぬいぐるみもおしゃべりするのね。この子はラナの魔法で動けるようになったのよ。ラナの魔法は何が起こるかわからないから、たまたまぬいぐるみがお話しできる魔法がかかったんだと思うの。まあ、あなた達も魔法つかいなんだから、ぬいぐるみを動かしたりしゃべらせたりできてもおかしくはないわね」

 

 その時ラナが余計なことを言いだしそうな気配があったので、小百合は睨みを効かせる。それでラナは開きかけた口を慌てて閉じた。

 

「そうなのよ。モフルンも魔法で、ね」

 リコが同意を求めるようにみらいを見ると、みらいは何度も頷いた。

 

「もうリリンを隠す必要はないわね。あんたも一緒にご飯食べましょう」

「うわーい、みんなで一緒にご飯デビ、うれしいデビ!」

 

「モフルンも一緒もモフ」

「じゃあ、レストランの方に案内するわ」

 

 みらいとラナはまだ衝撃から覚めていないが、リコと小百合は何でもない態度で、リコは部屋を出て先に立ってみんなにいう。

 

「さあ、魔法界の高級食材があつまったスペシャルなディナーにご招待するわ」

 リコのその一言で少し呆然としていたみらいとラナは一気に目が覚めて元気になった。

「魔法界の高級食材があつまったスペシャルなディナー!! ワクワクもんだぁ!!」

「すごくファンタジックだよ~」

 みらいはモフルンを抱き、ラナはリリンを頭の上に乗せてリコの後を歩き出す。二人とも待ちきれないという様子だった。一番後ろを歩いている小百合は誰にもわからないようにほっと息をついた。

 

 

 

 

「うわぁ、すてき!」

 みらいがレストランに入るなり目を輝かせていった。この車両には白いクロスのかかったテーブルが合計で四組あった。それらの中央には小百合がみたこともない花が飾ってある。一つ一つのテーブルは四人で食事するには手狭だ。

 

「テーブルくっ付けてみんなで食べよ~」

「賛成!」

 

 みらいがラナに同意して二人で動き出す。リコと小百合もそれを手伝う。ラナはもうさっきあった事など気にもしていない。小百合は明るくほんわかとした空気を作ってくれるラナが今の状況ではありがたいと思った。

 

 すぐに二つのテーブルが並び、そこに四人の少女と二人のぬいぐるみが向かい合って座った。

「メニューです~」

 コックの格好をしたお化けがそれぞれの前にメニューを置いていった。

 

「モフルンはクッキーがいいモフ!」

「リリンもクッキーたべたいデビ!」

 

「了解しました~」お化けのコックがぬいぐるみたちに答える。

 

 小百合はメニューを開いて顔をしかめた。

「読めないわ……」

「魔法界の言葉で書かれているから、聖沢さんには分からないわよね」

 

「十六夜さんにお願いするわ。何かおすすめのものを頼んでもらえる?」

「わかったわ。お肉とお魚、どちらがお好みかしら?」

 

「お肉にするわ」

「そうね、じゃあ、デリシャス牛のフィレステーキを二人分お願いね」

 

「デリシャス牛? 変わった名前の牛ね」

 小百合は自分が知らないことや分からないことは追及せずにはいられない。聞かれたリコは得意になって説明した。

 

「魔法界にはあらゆる食材を生産しているグルメ島があるんだけど、そのグルメ島のなかで最もおいしくて高級な牛がデリシャス牛なのよ。その生産量は少なくて滅多に食べられるものではないの」

「神戸牛みたいなものかしら、楽しみだわ」

 

「わたしは、これとこれとこれとこれ~」

 小百合の目の前で、ラナがメニューに指をさしていく。続いてみらいも。

「わたしは、これとこれとこれとこれね!」

 

「あんたたち、そんなに頼むの!?」仰天する小百合にみらいがいう。

「とりあえずね」

「とりあえずですって!?」さらに仰天する小百合の前でラナが頷いて同意している。

 

「朝日奈さんはともかく、ラナはもう少し遠慮しなさい。わたしたちは便乗させてもらってるんだから」

 小百合がいうと、ラナは不服そうに「え~」といった。

 

「遠慮なんてしなくていいのよ。なんでも食べ放題なんだから」

 リコの助け舟があって、ラナは強気になる。

「そうだよ、食べなきゃ損だよ」

 

 そしてラナは隣のみらいと顔を見合わせて『ね~』と二人で嬉しそうにいった。小百合はちょっとだけ仲間外れにされたような感じになって、ラナにもう一言いってやりたい気分になったが大人になってここは我慢した。

 

 

 

 楽しい夕食が終わり、それぞれ部屋に戻る。ラナとリリンは部屋に入るなりソファーに寝転がった。

「おなかいっぱいだよ~」

「デビ~」

 

 小百合はリリンの隣に腰を下ろし、はらいっぱいで寝転がっている二人を呆れてみている。

「美味しいもの食べて寝転がって、いい身分ね」

「ここにフカフカのソファーがあるのが悪いんだよ」

 

 仰向けになりながらいうラナに、小百合はさらに呆れた。

 

「……お風呂に入ったら寝ようとおもうんだけど、ベッドには毛布も布団もないわ。あるのは大きな巻貝の殻みたいな謎の物体だけなんだけど」

「それはヤドネムリンだよ~、それで寝るんだよ~」

 

「やっぱりそうなのね、そんな気はしてたけど……」

「その中だとすんごい良く眠れるんだよ」

 

「とてもそうは見えないけれど、これも魔法のアイテムなんでしょうね」

「そうだよ!」

 

 小百合はそれ以上は何も聞かなかった。魔法界のアイテムの性能を少しは知っているし、魔法なんだからどんな常識外れなことがあっても不思議はないと割り切っているところもある。

 

 それからラナと一緒に風呂に入り寝る段になると、ラナは上のベッドのヤドネムリンに頭から飛び込んだ。巻貝のような寝袋から足首から下だけがでている姿は何とも言えず剽軽(ひょうきん)である。小百合は明らかにおかしい寝方をしているラナに言わずにはおれなかった。

 

「あんた、寝方逆じゃない?」

「こっちの方が落ち着くんだよぅ」

 

 巻貝の中からくぐもった声が聞こえてくる。小百合はどうしてもいたずらしたくなって、ラナの足の裏をくすぐった。すると、「やめて~」とラナの足が貝殻の中にひっこんだ。体をまるめたようだ。小百合は貝殻の中に身を隠すヤドカリみたいだなと思った。

 

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