魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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リコと小百合の勉強会

 リコと小百合の勉強会は旅の間みっちりと続けられた。魔法界の文字や数字など基本的なところは小百合は一日でマスターしたのだが、彼女が目指すのは魔法界ですぐに勉強が始められるレベルであったので、まだまだ勉強することがあった。

 

 文字が違うだけで言葉はナシマホウ界とほとんど変わらないが、魔法界にしかない言葉が膨大といっていい程にあった。その中で特に重点的に勉強するのが、魔法に関連した言葉である。

 

 二人はいつも隣同士寄りそって勉強していた。これは小百合の提案によるもので、向かい合って座ると文字が逆になってノートを見せる時に反転させなければならないので効率が悪いのだか。

 

 この時も二人で横に並んで勉強していた。いつも側にいながら勉強しているとお互いに親近感がわく。名前で呼び合う事にも違和感がなくなっていた。

 

「もう4時間も勉強しているわ、少し休憩しましょう」

「もうそんなに経ってるの?」

 

 小百合はラナやみらいが騒いでいても、全く気にせずに凄まじい集中力を見せる。この勉強で発揮される集中力にはリコでも密かに舌を巻いていた。

 

「厨房からお茶を頂いてくるわ」

「ありがとう、リコ」

 

 リコが休息スペースを出て寝室の前を通りかかると小百合たちの部屋からモフルンが飛び出してきた。

 

「逃げるモフ~」

「逃げろ~っ!」

「デビ~っ!」

 

 モフルンに続いて、ラナ、リリンも飛び出し、リコは驚いて廊下の端によった。最後にみらいが飛び出してきて先に出てきた3人を追いかける。

 

「まてーっ!」

 

 どうやら鬼ごっこをしているようだ。「はぁっ」とリコは少し呆れたようにため息をついた。猛勉強している小百合に比べてラナは、とそんな思いがあったがリコがどうこう言う筋合いはない。それからリコは厨房から紅茶をもらって戻った。途中でみらい達とすれ違う。今度はラナが鬼役になっていた。

 

 リコがポットからティーカップに紅茶を注ぎ小百合にふるまう。小百合は紅茶を一口飲んで感動した。

 

「この紅茶、美味しいわね!」

「そうでしょう。わたしが選んだのよ、魔法界でも最高級の茶葉なんだから」

「あなたは何でも知っているのね」

「何でもというわけではないけれど、お母さんが料理研究家だから食べ物のことには詳しいのよ」

 

 それから二人は言葉も交わさずに静かに紅茶を飲んでしばしの休息を満喫していたが、ふと小百合が思い出していった。

 

「そういえば、あなたラナに謝っていたわね」

 リコは小百合がなにを言っているのか分からなかった。

 

「あなたがラナをすごい魔法つかいだと勘違いした時に、なぜか謝っていたでしょう、まるで悪いことでもしたというようにね。どう考えても理に合わないのよね」

「あれは別に深い意味はないわ」

 

「そんなはずはないわ、あなたが無意味に謝るとは思えない。ラナに謝らなければいけない理由があったんでしょう」

 小百合に確信めいていわれると、リコは切り返しに困った。

「それは……」

 

「例えば、ラナが魔法を使えない事情を知っているとか」

 リコは黙っていた。その様子から小百合はそうに違いないと思った。

「実はラナには病気があって、そのせいで魔法が使えない、そして余命はいくばくもないとか」

 

「そんな、命にかかわるような病気じゃないわ」

「じゃあ病気なのね!」

 小百合に急に迫られてリコは言葉が詰まる。彼女は小百合にうまく乗せられてしまい少し悔しい思いをした。

 

「ラナがわたしに隠し事をするなんて、よほど深刻なんだと思うわ。お願いよリコ、どんな病気なのか教えてちょうだい」

「それはわたしの口からは言えないわ。本当に病気なのかもわからないし、もし間違っていたら本人に失礼だし」

「……そうよね、本人の口から聞くべきね」

 

 小百合が問い詰めればラナは白状するだろう。けれど、小百合はラナにそれを聞くつもりはなかった。言うべき時がくれば、ラナは自分から真実を教えてくれるだろうと思ったからだ。

 

 それから魔法界に到着するまでは平穏な時間が過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小百合たちが魔法界へ旅立って間もない頃、一匹の白猫が魔法商店街を優雅に歩いていた。彼女が水路橋にさしかかり、欄干(らんかん)の上を歩いている大人しそうな雄の三毛猫を見つけると、彼女は跳び上がって欄干に乗り三毛猫の行く先を塞いだ。彼は驚いて時が止まったように動きを止め、金色の瞳で見たこともない白猫を見つめていた。その白猫のオッドアイに睨まれて彼は「何かやばい奴にゃ」と思った。

 

「おい、お前、この町のボスのところに案内しな」

「……それは構わないけど、お姉さんは何者にゃ?」

 

「わたしはフェンリル、すぐにこの町の女王になる。よく覚えておきな」

「ぼくはロナといいますにゃ。ボスのところに案内しますにゃ」

 

 ロナは頭を低くしてもうフェンリルの子分という体で言った。ロナが先を歩き、フェンリルが後を歩く。フェンリルの見た目の美しさとその身に纏うただならぬ空気に町中の猫が注目していた。

 

「ボス、きれいなお姉さんが会いたいというので連れてきましたにゃ」

 

 街の中央広場、ランタンを持つ猫の石像の足元に右目が十字の傷でつぶれている大きな猫が座って見おろしていた。体は虎のような縞模様で迫力がある。石像の周りにもたくさんの猫があつまっていて彼はその中に飛び降りた。その図体は周りの猫たちの培近い。ロナが脇によるとフェンリルとボス猫の間に障害物がなくなり2匹の猫の視線がぶつかる。ボス猫は目を見開いて感激した。

 

「ほう、これは美しい! この俺に相応しい女だ!」

「何勘違いしてんだい。今からあんたをぶっ潰して、わたしがこの町の女王になるのさ」

「何だとぉっ!!」

 

 牙をむき出して叫ぶボスの声に周りの猫たちが震えあがる。ボスはニヤリとしてフェンリルにゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「この俺を倒すだと? 言っておくが、俺は生まれた時から体を強化する魔法がかかっている特別な猫だ。俺の物になるというのなら、今言ったことは聞き流してやる」

「ほほう、猫にも魔法かい。さすがは魔法界だね」

 

 フェンリルの目の光が強くなり、頭を低く地面に爪を立てる。ボスの方は立ったまま余裕で構えていた。フェンリルが前に出た瞬間、石畳は穿たれて爪の数と同じだけの傷が残った。フェンリルは猛然と自分よりもはるかに大きなボスに突撃していった。

 

 一分後、ボコボコにされたボスがフェンリルの足元にひれ伏した。

「すいませんでした! 俺が調子にのっていました!」

 

「わたしがこの町のボスだ、文句はないね」

「ありません! もう、どこまでだってついて行きます!」

 

 巨体のボスが細身のフェンリルの前に伏せる姿は面白く、周りで見ている猫たちから失笑がもれる。今までのボスは高圧的で評判が悪かったので、ざまあみろという気持ちもあった。

 

「ロナ、お前がナンバー2だ」

「にゃ、にゃんですと!?」

「そ、そんな、どうしてロナなんぞを……」

 

 ロナが驚き、今までボスだった猫が不平をもらす。しかし、フェンリルが睨むと元ボスは口を閉ざして震えあがった。

 

「必要なのは力よりも知恵だ。ロナはものを見る目がある。このわたしの実力を会ったその時に見抜いたからね」

「わかりましたにゃ。謹んでお受けいたしますにゃ」

 

「よし。そして、お前は3番目だ」

 フェンリルは元ボスに向かっていった。

「3番目、名はなんという」

 

「マホドラといいやす」

「じゃあマホドラ、子分をここに集めな、緊急に頼みたいことがある」

 

 フェンリルの命令により、魔法商店街中の猫が中央の広場に集まってきた。猫の像の周りに様々な猫があつまってひしめき合う。これには人々も驚き、何事かと遠巻きの見物人が増えていく。

 

「フェンリル様、全員集まりましたぜ」

 

 マホドラが言うとフェンリルは猫の像の足元に跳びのり、今や子分となった猫たちにいった。

 

「お前たち良く見な!」

 

 フェンリルはどこからか黒い結晶を出してそれを器用に猫の手で握ると、結晶を下に叩きつけるように置いた。その時に発生した衝撃で強風が起こり、周りの猫たちを吹き晒す。フェンリルの力と女神のごとき神々しさに猫たちは視線を釘付けにした。

 

「いいかい、この黒い結晶と同じようなのを見つけて持ってくるんだ。ただとは言わない、褒美は出す」

 

 それを聞いて猫の間からざわめきがおこる。褒美とは何か、肉か、新鮮な魚か。そんなようなことを口々に言っていた。

 

「肉? 魚? いやいや、そんなちんけな物じゃない、もっとうまい物を食わせてやるよ」

 

 得意になって言うフェンリルに猫たちは喜び興奮した。そんな猫たちの声は周りの人間にはうるさい猫の鳴き声にしか聞こえなかった。

 フェンリルは猫がいる街に行っては、そこを支配して子分となった猫たちに闇の結晶を集めさせていたのだった。

 

 

 

 カタツムリニアの旅が始まってから七日目の昼ごろ、小百合がノートを閉じるとリコは言った。

「すごいわ小百合、この短期間に魔法界の主な言葉を覚えてしまうなんて」

「リコの教え方がよかったからよ。今まで付き合ってくれて本当に感謝してる」

 

 その時、連結部の扉を勢いよく引いてラナがみらいと一緒に休息スペースに入ってきた。その手には箒が握られていた。

「小百合、ついにきたよ! 魔法界だよ!」

 

 手近の窓を開けて4人で顔を出すと、今度は小百合とラナが驚く番だった。

「うわ!? なにあの緑色のでっかい魔法陣!?」

 

 小百合は目を見開いて黙して魔法界を覆う不思議な緑色の魔法陣を見つめていた。カタツムリニアのレールはその中心に向かっていた。

 

「はーちゃん!」

 

 みらいが聞きなれない名を言うと、小百合が何気なく窓から離れてみらいの様子を見た。みらいはまるで目の前にその人がいるように懐かしむような目で魔法陣を見つめていた。

 

「行こう!」

 巨大な魔法陣を越えて魔法界に入った途端に、ラナは小百合と手をつないで走り出す。その勢いがすごかったので小百合はこけそうになった。

 

「ちょ、ちょっと! 行くってどこへ!?」

「魔法界に決まってるよ!」

 

 ラナはそのまま小百合を引っ張っていって、最後尾の扉を勢いよくスライドさせる。新鮮な風が車内に入ると同時に空気が出口の方に流れて小百合の長い黒髪が水平近く宙を泳いだ。ラナは青空を仰いで箒に跨る。

 

「まさか、ここから飛ぶ気!?」

「そうだよ~、小百合だってカタツムリニアから早く出たいでしょ」

「それは、まあ」

 

 そんな曖昧な返事をしたのが間違いだった。

「いざ、ファンタジックな魔法界へ~」

「待ちなさい! わたしまだ乗ってないから!」

 

 身の危険を感じた小百合はラナの後ろに乗らざるを得なかった。小百合は一足先に強制的に魔法の世界へと躍り出た。

「ゴーゴー」

「速いわよ! 少し速度落として!」

 

 小百合とラナの声が遠のいていく。それまでの一部始終をみらいとリコは半分呆けて見ていた。

「……いっちゃったね」

「ものすごい子だわ……」

 リコがぽつりとラナに対する感想を述べた。

 

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