魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ラナの故郷

「校長先生、お呼びでしょうか」

 校長室に凛とした女性の声が響く。

 

「入りたまえ」

 

 校長がいうと目の前に若い女性がぱっと現れる。校長室には扉が存在しない。その代わりテレポートして室内に入る事ができるのだ。

 

 校長の前に現れたのは二十歳そこそこの女性で、顔がリコによく似ていた。瞳の色は同じマゼンダだが、長い髪には少し癖があって髪先がまとまっている。髪色はリコの菫色より少し青味が強い。白いブラウスに新緑色のロングスカート、腰回りに草色の帯、そして同じ草色のケープを纏い、胸元には赤いリボンタイ、その柔和な表情の中に強い意思と深い知性を醸し、彼女の姿を初めて見る人のほどんとはこの人は出来ると思うのだ。おまけに容姿端麗なので余計に人目を引く。

 

 彼女は校長に会釈して言葉を待った。

「忙しいところすまないな、リズ先生」

 

 リズはリコの姉で正式な教員になってまだ間もないが、魔法学校を首席で卒業しており、知識においても魔法においても魔法界で指折りに優秀な魔法つかいだった。

 

「校長先生から大切なお願いがあると聞きました」

「うむ、これから忙しくなりそうなので、君にわしの仕事を手伝ってもらいたいのだ。教員の仕事もあるので無理を承知でお願いするのだが」

 

「よろこんでお受けいたします」

 リズは笑顔で答えた。

「わたしは何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「今、魔法界を騒がせている闇の結晶のことは知っておろう。それに関連する仕事を手伝ってもらいたいのだ。まずは君に明かさねばならぬ秘密がある」

 今までやさし気な顔をしていた校長は急に真剣な面持ちになり語り始めた。

 

 

 

 小百合たちは魔法学校からラナの故郷へと向かう。箒にのる二人の少女の頭上に流れる雲が迫り、まるでうごめく白亜の天井のようだ。小百合は上を見て雲があまりに近いので少し怖くなった。

 

「もうちょっと高度下げた方がいいんじゃないの?」

「へいきだよぅ」

 

「いいから下げて、あと速度も速すぎるから少し落として」

「あう~、小百合は怖がりさんだね~」

 

「全部あんたのせいよ。初めて箒に乗った時にひどい飛び方するからトラウマになってるの」

「あんなの普通だよ~」

 

「あんな戦闘機並みのローリングが普通なんていってるのはあんただけよ!」

「この箒でゆっくり飛ぶの難しいんだよ~」

 

「つべこべいわずに言う通りにして」

「わかったよぅ」

 

 ラナは箒を急降下させる。急な重力の変化に小百合の身に怖気が走る。気が付けば今度は海面すれすれに飛んでいて足が水面につかりそうだった。

 

「今度は低すぎよ!」

「え~、いう通りにしたのに~」

 

「なんでそんなに極端なのよ! あんたの中には中間っていうのがないの!?」

「むぅ、小百合はわがままさんだね~」

 

 といってラナは高度を少し上げる。小百合はもっと文句をいいたかったが抑えた。ラナはわざとやっているわけではないので、あまり強くいうのもかわいそうだと思った。

 

 やがて前方にハート型の島が見えてくる。

「あの島にあるリンゴ村がわたしの故郷だよ!」

 

 ラナは嬉しそうにいうと島に向かって降下を始めた。海に浮かぶハート型の島の海岸線付近には小百合が見たことのない植物達の雑木林があり、その内側に赤い果実がたわわに実るリンゴの木が林立している。島の中心に村があり、そこから広大なリンゴ畑に向かって放射状に農道が走っていた。上から見るとマリンブルーの中に燃え立つ深紅のハートで、雑木林の緑の縁取りがリンゴの赤で染まるハートをさらに美しく際立たせていた。

 

「きれいだわ」

 

 小百合は感動を素直に言葉に出した。その一方でラナは急に心配そうな顔になっていった。

「おばあちゃんのリンゴ畑どうなってるのかなぁ……」

 

 たったそれだけの言葉を聞いて、小百合は胸に疼きを覚えた。その言葉や声にはラナの悲しい気持ちが深く浸透していた。そして二人は島の中心の村に向かって降下していった。

 

 

 

 ラナと小百合はレンガ造りの小さな家の前に舞い降りた。ラナが箒を片手に近くのリンゴの木に数歩近づくと大きな碧眼に涙を浮かべた。

 

「おばあちゃんのリンゴなってる!」

「ラナちゃん!?」

 

 ラナが自分を呼ぶ声の主を見ると、リンゴの木の隣にうら若き乙女が立っていた。青い瞳、赤いリボンで長い栗色の髪を束ね、白いカートルに足首まである長い空色のスカート、腰に赤い布ベルトを締め、肩回りを覆う草色のケープをリンゴのブローチで止めている。彼女はラナに向かって走り、そしてラナをきつく抱きしめた。

 

「よかった、みんな心配していたのよ」

「エリーお姉ちゃん……」

 

「急にいなくなって本当に心配したんだから」

「アハハ、こめんね~。わたしリンクルストーン探しにナシマホウ界にいってたんだ~」

「ナシマホウ界に?」

 

 エリーは最初は驚いていたが、すぐに表情が変わって微笑するような、それでどこか悲しみを感じさせるような顔になる。それから彼女は小百合の姿に気づき、小百合がエリーに向かって無言で頭を下げた。エリーが小百合に近づいて手を差し出す。

 

「エリーです。よろしくお願いします」

「聖沢小百合と申します」

 

 小百合がかしこまった口調でエリーと握手をする。エリーはまるで旧知の友人と久しぶりに会ったとでもいうように嬉しそうだった。

 

「あなたはナシマホウ界の人ね」

「わかるんですか?」

 

「変わった服を着てるからそうだと思ったの」

「リリンデビ、よろしくデビ」

 いきなり小百合が抱いているリリンがしゃべったのでエリーは目を丸くした。

 

「ぬいぐるみがしゃべるの!? 一体どんな魔法をかけたの?」

「ラナの魔法でたまたまこうなったんです」

「あの子の魔法は何が起こるか分からないからね。それにしても、すごい魔法がかかったものね」

 

 小百合の言ったことをエリーはすっかり信用していた。ラナのめちゃくちゃな魔法はリリンのことをごまかすのに丁度良い口実になる。

 

 小百合は周りにあるリンゴの木を見てリンゴの赤さが眩しいとでもいうように少し目を細くしていう。

「このリンゴ畑はあなたのものなんですか?」

 

「この辺りはマナリさんのリンゴ畑よ」

「マナリっていうのは、わたしのおばあちゃんなの!」

「おばあちゃんは最近亡くなったっていっていたわね」

 

「亡くなったのは3ヶ月ほど前よ。あの時のラナちゃんは泣いてばかりで心配だったけれど、今は元気そうで安心したわ」

 

 エリーの言ったことが小百合には信じられない。小百合には泣いてばかりのラナを想像することができなかった。たった一人の肉親が死んだのだ、悲しいに決まっている。それでもラナは悲しみに負けずに明るく笑っているような気がしてならない。

 

「エリーお姉ちゃんがおばあちゃんのリンゴ畑を見てくれたんだね!」

「ええ、そうよ。ラナちゃんが帰ってきたら驚かせようと思ってね」

「ありがと~」

 ラナはエリーに飛びつく。抱き合っている姿はまるで姉妹のようだ。

 

 ラナの家は二人住まいだっただけあり手狭であった。あるのは暖炉と木目のある古びたテーブル、2脚の椅子に大きめのベッドが一つ。狭い家の中にキッチンや風呂まであるので居住スペースはわずかだ。小百合がラナの家に足を踏み入れると埃が舞い上がった。あまりの埃っぽさに小百合はむせてしまった。

 

「たった3ヶ月でも人が住まないとこうなるのね」

「あう~、ほこりだらけだよ~」

「みんなでお掃除しましょう」

 笑顔でいうエリーに誰も異論はなかった。

 

 

 

 その夜、小百合はパジャマに着替えてあくびをしながらベッドに近づくとリリンの姿しかない。この家にはベッドが一つしかないのでラナも一緒に寝ることになっていた。小百合は何となく予感があって外に出ると、ラナは夜のとばりが下りたリンゴ畑の中に座って満点の星を見上げていた。小百合が無言で近づいてラナの隣に座ると、みずみずしい果実が弾ける小気味よい音がした。同じような音が不規則に聞こえてくる。

 

「おばあちゃんのリンゴ美味しい……」

 

 ラナがリンゴを食べるのをやめると、果実を持つ手に涙がこぼれ落ちる。小百合にはラナが泣いているのが分かったのでラナの肩を抱いて寄せると、ラナの手から食べかけのリンゴが落ちて転がる。ラナは小百合に体を預けると涙が止まらなくなった。

 

「うえ~ん……」

 

 ラナの中にある悲しみがどんなに大きなものなのか、今なら小百合にも理解できる。こんな悲しみを背負いながら明るく元気でいることがどれ程のことなのか。少なくとも小百合はとても真似できないと思った。

 

「この場所には悲しみが多すぎるわ」

 小百合の声は星降る夜に吸い込まれた。

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