魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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教頭先生の詰問

 チャイムが鳴り響き授業の始まりを告げる。魔法図書館に足を踏み入れた小百合は、その圧倒的な書量の前に呆然自失となっていた。

 

 図書館の外見は非常に巨大な樹の幹なのだが、内部は本棚によって塔が築かれていた。本がぎっしりと詰まった本棚が円筒状に並び、それが視界がかすむ程の高さまで積みあがっている。

 

 図書館には数十という机が並んでいて、そのスペースと本棚の高さを考えると、その規模はナシマホウ界にある一般的な図書館の数百倍はありそうだ。

 

「……これほどの規模の図書館なら、本を検索するシステムがあるはずだわ」

 

 小百合は冷静になって辺りを見ていく。すぐに入り口の近くに直立している丸太のようなものを見つける。近づくと少し斜めになっている丸太の切断面にタッチパネルのようなものがあって、そこに魔法界の文字が浮んでいる。

 

「あったわ」

 

 それはタッチパネルと同じで指で触るだけで操作できた。

 

「これで必要な本は探す事ができる。でも……」

 

 小百合が見上げると、館内は本棚2段ごとに階層が分かれていて、各階層の本棚の周囲に円を描くように回廊があり、回廊の円の中央を渡り廊下が走る。そして無数に浮かぶヘチマのような細長いランプが館内を照らしていた。

 

 小百合がいくら探しても上階に行くための階段が見当たらない。それどころか、本棚一つにしても小百合の背丈の倍の高さがある。普通の図書館には高い場所の本が取れるように脚立など置いてあるが、そんなものはないし、あっても本棚が長大すぎて役に立たない。

 

「……これって、魔法を使って本を探すことが前提の構造ね」

 

 必要な本を探し当てても、空でも飛べなければその本を手にすることは叶わないのだ。小百合はため息をつくと、近くの机の前に落ち着いて机上にピンクの鞄ととんがり帽子を置いた。小百合の肩でじっとしていたリリンは机の上に飛び降りて端の方で足を伸ばして座る。

 

「知りたいことは色々あるけど、まずはこれからね」

 小百合はラナから借りてきた一年生の分の教科書を鞄から全部出した。

 

 小百合は速読で魔法力学の教科書を読み、ノートにペンを走らせ、時々手の中でペンを回しては教科書を読み、ノートを書く。そうして30分ほどしてのってきた頃に邪魔が入った。

 

「あなた、こんなところで何をしているのですか!? もう授業はとっくに始まっているのですよ!」

 

 そのキンキン声に当てられて、小百合は悪寒がして肩をすくめた。すぐに立ち上がって振り向くと、図書館の入り口に威厳をまとった女性が立っていた。紫のとんがり帽子に同色のケープ、薄紫色のドレスはくびれた腰から膨み足首に向かってすぼんでいく瓜実型(うりざねがた)のスカートになっている。体格がぽっちゃりしているせいで威圧感もある。

 

 彼女は両手を腰に当てて大股で小百合に近づいてくる。小百合は会釈して彼女を見上げた。女教師は目を怒らせていた。

 

 ――きっと、この人が教頭先生だわ。

 

 小百合の目の前にいる人はラナの話から小百合が想像していた通りの人だった。

 

「どういうつもりですか? それに、その帽子のアップリケとケープのブローチは何なのです? 校則違反ですよ!」

「申し訳ありません、校則違反のことは謝ります。実はわたしは、この学校の生徒じゃないんです。校長先生から特別に許可を頂いて、ここで勉強させてもらっています」

 

「生徒じゃないですって? でも魔法学校の制服を着ているじゃありませんか」

「この制服はお借りしたものです」

 

「借りた? ……そういえば、そのリンゴのアップリケとブローチは見覚えがありますね」

 教頭先生は嫌そうな顔をしていた。リンゴのアップリケとブローチに何やら因縁があるようだ。

 

「この学校の生徒でもないのに校長先生が図書館の利用を許可するなんて、あなたは何者なのですか?」

「わたしはナシマホウ界から魔法界のことを勉強するためにやってきました。名前は聖沢小百合と申します」

「まあ、ナシマホウ界ですって!!?」

 

 教頭の絶叫に近い声が図書館の隅々まで響く。あまりに声が大きかったので小百合はびっくりしてしまった。それからも教頭先生はぶつくさ言った。

 

「何ということでしょう! あの校長先生は、またとんでもないことを!」

 教頭先生は怒りながら早足で図書館から出ていった。後に残った小百合は唖然とした。

 

「……何だったのかしら」

 とにかく気を取り直し、小百合は再び勉強に打ち込むのであった。

 

 

 

「あったわ、こんなところにも闇の結晶が」

 お昼休み、小百合とラナは学校の庭で小石のように転がっている闇の結晶を見つけた。

 

「へぇ、結構あるもんなんだねぇ」

「あの二人もきっと探しているはず、出会ったら面倒だわ」

 

「え、あの二人って?」

「何でもないわよ。それよりも、昼休みが終わるまで気合入れて闇の結晶を探すのよ」

「うん、まかせておいて~」

 

 学校にいる間は外には出られないので、せいぜい学校の中で闇の結晶を探すしかない。リリンは少し高く飛んで上から探していた。そして闇の結晶とは関係のないものを見つける。

 

「あ、モフルンデビ! おーいデビ!」

 

 リリンが急降下していく。モフルンには当然付随している者がある。

「何でこうなるのよ……」

 

 小百合はあまりの間の悪さに嫌気がさした。リリンはみらいに抱かれているモフルンの前で手をあげていた。

「お~い、みらい! リコ!」

 

 ラナまで二人に向かって走っていく。非常に危険な状況が生まれつつあることを感じた小百合もラナの後を追った。

 

「あら、あなたたち、散歩でもしているの?」

「ま、まあ、そんなところ」

「わたしたち探しものしてるんだ!」

 歯切れの悪い小百合の声をかき消してラナがリコに答えた。

 

「そうなんだ、何を探してるの?」

 みらいが言うとラナが口を開きかける。そんなラナの行動を熟知している小百合はビシッと指を差して叫ぶ。

 

「リリン、行きなさい!」

「デビーっ!」

「うわっぷ!?」

 

 降下したリリンがラナの顔に貼りつく。突然のことに、みらいとリコは開いた口がふさがらない。

 

「リリンが着地に失敗してしまったようね」

「今行きなさいって命令してなかった?」

 リコの突っ込みを小百合は聞こえないふりをしてラナの手をつかんで引っ張る。

 

「わたしたち急いでるのよ、またね」

「うわわ、小百合どうしちゃったの!?」

 小百合はラナを無理矢理引っ張って去っていくのだった。

 

「モフルン、ばいばいデビ!」

「リリン、ばいばいモフ~」

 

 ぬいぐるみ二人はのんきに別れの挨拶、みらいは去っていく小百合の背中を見ながら言った。

「なんであんなに急いでるのかな?」

「さあ」と言いつつリコは、真剣な目で校舎の中に消えていく二人を見つめていた。

 

 

 

 放課後になると、通学の生徒たちが一斉に魔法学校から箒で飛び立っていく。小百合は校門の前でラナと待ち合わせていた。

 

「お~い、さゆり~」

 

 小百合が待っていると、箒を片手に持ったラナが解放されている扉を通って走ってくる。

「お待たせ、早くかえろ!」

 

 ラナが箒に跨ると、小百合は子供を叱る母親のような厳しい目で見つめる。

「今まであんたに流されて一緒にその箒に乗ってたけど……」

 

「あなたたち!」

 小百合が苦言をいう前に背後から激しい声を浴びせられて二人とも思わず背筋を伸ばしてしまう。ついさっき、それと同じ調子の声を小百合は聞いていた。

 

「うわぁ、教頭先生だぁ……」

「ラナさん、教師に対して何ですかその物言いは」

「ごめんなさぁい……」

「まさかあなたたち、その箒に二人で乗って帰ろうというのでは?」

「うん、そうだよぉ」

 

 ラナがほわんとして言うと教頭先生の眉が吊り上がる。小百合は全身に冷や汗がにじみでた。

「教頭先生、冗談です! この子がたまにおかしなことを言うのはご存知でしょう?」

 

 ラナは掛け値なしの変わり者だ。教頭先生は名前を知っているし、恐らくラナは学校では有名な存在に違いない。小百合はそういう予想をたてて言った、もはや賭けだ。教頭先生は吊り上がっていた眉を少し下げた。

 

「まあ確かに、ラナさんは教師の間では有名ですからね。魔法学校が始まって以来あなたほど変わった生徒はいないでしょう」

 

 何とかごまかせたと思って少しほっとする小百合だったが教頭の詰問はまだ続いた。

 

「ではラナさん、魔法界飛翔法規(まほうかいひしょうほうき)第6条を言ってごらんなさい」

「うええぇ!?」

「あなたは学校で唯一レース専用箒の免許を持っています。この程度の事が分からないようなら、免許の返上も考えなければなりません」

 

 ラナの顔が青ざめる、これこそ最大の危機だ。

 

「魔法界飛翔法規第6条には、一人用の箒に二人で搭乗、あるいは限度を超える積載を行った場合にあたえられる罰則について書かれています。未成年者の場合は7日から60日の飛翔停止、成年者の場合はさらに罰金が課せられます。そしてレーシング用の箒など特殊な箒の場合は罰が重くなります」

 

 すかさず答えたのは小百合だった。教頭は思わず感心して言った。

 

「その通りです。あなたはナシマホウ界から来たのによく勉強していますね。しかし、今のはラナさんに質問したのです」

「もちろん、ラナもそれくらいのことは知っています。でもこの子はあわてんぼうですから、急に質問されたりすると焦ってど忘れしてしまうんです。第6条のことをわたしが知っているのは前にラナに教えてもらったからなんです」

 

 よくこんな出まかせが言えるものだと、小百合は自分自身に呆れながら言っていた。

 

「……まあいいでしょう。あなたに免じて今回は許しましょう」

 そうして教頭はようやく去っていった。今度こそ重い緊張が去り、息を大きく吐き出す3人。

 

「怖い先生だったデビ」

 今まで小百合に抱かれて黙っていたリリンまで教頭先生を前に緊張していたのだった。

 

「わたし小百合に飛翔なんちゃらなんて教えたっけ?」

「飛翔法規よ! それすら分からないあんたが教えられるわけないでしょう。飛翔法規第6条はさっき図書館で勉強したのよ」

 

「そんな難しい勉強してるの?」

「第6条は箒実技の教科書の最初の方に書いてある基本中の基本よ。交通ルールが分からなかったら車にだって乗れないでしょ」

「ぜ~んぜん覚えてない!」

「偉そうにいうことじゃないわ……」

 

 呆れ返っている小百合の前でラナは再び箒にまたがる。

「早く一緒に帰ろう」

「あんた今の話聞いてなかったの!? それは一人乗り用の箒でしかもレース仕様よ! 二人乗りして捕まったら、一番重い2ヶ月の飛翔停止! 2ヶ月も箒に乗れなくなるのよ!」

 

「ええ、そんなの怖すぎるよぉ……」とラナは体を震わせる。

「やっと理解してくれたようね。それにしても、よくそんなんでレーシング箒の免許が取れたわね。学科試験だってあったでしょうに」

 

「免許もらった時は、君すごすぎるからテスト受けなくていいっていわれたよ」

「……なんでラナは箒ばっかりそんなにすごいのかしらね、奇妙だわ」

 

 小百合は次々と生徒が飛び乗っている空飛ぶ絨毯バスを見て言った。

「もうラナの箒には乗らないからね。わたしはあれで帰るわ」

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