魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

34 / 141
闇の女神の使いバッティ

 ラナは早々にリンゴ村の島について小百合を待っていた。待ちすぎて海沿いの原っぱで眠ってしまった。そのうちにサラサラと顔に冷たいものが降ってくるのでラナは目を覚ます。小百合がその辺の葉っぱをむしってラナの顔にふりかけていた。

 

「お目覚めかしら?」

 

 ラナが起き上って頭を振ると、頭のてっぺんに乗っていた葉っぱがどっかに飛んでいった。

 

「小百合おそいよぉ。遅すぎて寝ちゃったよ」

「魔法商店街やら知らない街やら回り回ってここに着いたからね」

 

 二人は並んでリンゴ畑の間にある農道を歩いていく。

 

「ラナの箒の乗れないとなると、二人で闇の結晶を探せないわね」

「それなら大丈夫! わたしにいい考えがあるんだ~」

「いい考えってなによ」

「それは見てのお楽しみだよ~」

「あんたがそんな自信満々に言うと逆に心配になるわ……」

 

 そんな二人の様子を上空から見ている黒い影があった。

「あの少女たちか」

 

 彼は全身をくるむ黒いマントを広げ、滑空して小百合たちの前にゆっくりと着地する。

 

「誰!?」小百合が身構えて右手のリンクルブレスレッドを胸の高さまで上げる。ラナも敵が現れたと思って両手の拳を胸に当てて固くなっていた。

 

 彼がマントをひるがえすと血色の裏地と長身が露わになる。彼の耳は三日月形に長く、鋭い瞳は深紅、顔は青白い。どう見ても人間ではなかった。着こなしには品があり、黒いスーツに似た服の下に紫の燕尾シャツ、首周りにはオレンジ色のたっぷりとした毛皮のストールを巻いている。どれをとっても普通ではないが、小百合たちを特に警戒せたのは彼が持っているドクロの付いている魔法の杖であった。

 

「そう構える必要はありません。わたしはフレイア様の使いで君たちを迎えに来たのです」

「フレイア様に使いの方がいるとは知りませんでした」

 

 小百合が冷静になって返すと彼は微笑した。まるで蝙蝠のようないでたちの彼が二人の少女と一体のぬいぐるみを見つめていった。

 

「君たちが宵の魔法つかいプリキュアですね。わたしはバッティと申します、以後お見知りおきください」

 

 会釈するバッティの紳士的な態度には好感が持てた。ラナはまだ少し怖がっているが、小百合は彼を信用した。

「フレイア様はどこにいるの?」

 

「すぐにお連れしましょう、フレイア様の闇の神殿セスルームニルへ」

 バッティが右手を差し出す。

「わたしに触れていれば一緒に移動することができますよ」

 

 小百合がバッティの手に自分の手を重ね、その上にラナが手を重ねると、バッティは呪文を唱えた。

「イードウ!」

 

 瞬間に小百合を取り囲む世界が変化した。リンゴの木に囲まれた農園の道が薄暗い石の廊下に転じる。

 

「ここは……」

「ここが闇の神殿セスルームニルです」

 

 闇の神殿とはいっても、真っ暗闇というわけではなかった。空中に球体の光源がいくつか浮んでいる。それはランプではなく光そのもので、弱い光を放つとても小さな太陽というところだ。薄暗い神殿のどこからか遠い歌声が聞こえてくる。それは寂し気だがどこか蠱惑的(こわくてき)で黙って聞いていると引き寄せられるような感覚になる。

 

「この歌なあに? もっと近くで聞いてみたいなぁ」

 

「それはやめた方がいいでしょう。これはセイレーンの歌です。この神殿は海の底にあり、近くでセイレーンたちが歌っているのですよ」

 今にも歌に向かって歩き出しそうなラナにバッティが説明する。

 

「セイレーンて、神話なんかに出てくる歌で人を惑わせて海に引きずり込む人魚ですよね」

「おおよそは合っていますよ。見た目は人魚に似ていますが、人魚とは全く別の者です。セイレーンは人間と友好的な人魚とは逆に人間から恐れられています」

 

 バッティは前に出ると首だけ回して赤い目で少女たちを見据えていった。

「参りましょう、フレイア様がお待ちかねです」

 

 石廊を歩く3人の足音が薄闇の中に高く響く。暗さの中にも神殿を支える巨大な支柱や壁に彫り込まれた壁画のようなものが見える。高い天井は闇に埋もれて見ることはできない。そこにセイレーンの歌がそえられ、闇の神殿の名に相応しく昏い中にも優雅さがある。

 

 ラナがセイレーンの歌にやられて酔ったような足取りになっていた。小百合はラナの後ろから歩いて、ふらつくラナの背中を時々押したり支えたりしていた。そうしているうちに急に開けた場所へと出た。そこは非常に広い部屋で巨大な数本の石柱が等間隔に並び、ずっと奥には玉座のようなものが見える。この場所の光源は大きく、廊下よりもいくらか明るかった。薄闇の中で高い天井も何とか見ることができる。

 

小百合たちはどんどん奥へと歩いていく。そして一番奥の玉座にフレイアはいつもの笑顔で座っていた。今までと違うのは漆黒の鎧をまとった騎士が右隣にいることであった。騎士はもはや黒い鉄の塊にしか見えないような分厚い鎧で身を固め、大剣と一体になっている巨大な盾を持っている。兜の隙間から金髪の前髪が少しだけ見えていた。

 

「お連れしました」

 バッティはフレイアの前で膝をついて低頭した。

 

「バッティ、ご苦労様でした」

 

 フレイアの言葉を受けてバッティは立ち上がり、横によけて二人に道を開ける。二人は前に進んでフレイアに近づいた。

 

「二人ともわたしの期待通りに魔法界にきてくれましたね」

「何ていいますか、ものすごく幸運でした」

「運も実力のうちといいますからね」

 

 フレイアがにこやかに言うと小百合はなんかちょっと違うなと思ってしまった。小百合に抱かれていたリリンが飛んでフレイアに近づく。

 

「フレイア様なんだか元気なさそうデビ」

「まあ、そんなことはありませんよ。わたしはとても元気です」

 

 リリンは何だか心配そうにしているが、小百合とラナには変わらぬ笑顔のフレイアが元気そうに見える。

 

「ねぇ、フレイア様ぁ。こっちの蝙蝠みたいな人と、そっちの黒い塊みたいな人は?」

「ちょっとあんた、何よその失礼な言い方は!」

 

 ラナの適当極まりない言い回しに小百合は突っ込まずにはいられない。フレイアは特に気にもせずに笑顔のままいった。

 

「紹介しましょう。わたくしの側に立っているのがダークナイト、そちらが闇の魔法つかいのバッティです。二人はわたくしに仕える者たちなのです。二人ともとても頼りになりますよ。あなた達の力にもなってくれるでしょう」

 

 誰の言葉もなくなり、薄闇に静寂が沈滞する。微かなセイレーンの歌声の中で淡い光に浮かぶフレイアの姿はいつもより増して美しく幻想的であった。

 

「引き続き闇の結晶を集めて下さい。ロキ一味はすでに闇の結晶をかなり集めているようです。これ以上、彼らに闇の結晶を渡してはなりません。もちろん、伝説の魔法つかいも同様です」

 

 この時にバッティが少し顔を歪めた。

「伝説の魔法つかいプリキュア……」

 

「ねぇ、ダークナイトさんとバッティさんはどれくらいフレイア様の召使なの?」

 ラナがその場の空気を無視して質問する。まずダークナイトが答えた。

 

「わたしはもう年月など忘れたな……」

 ダークナイトは小百合の想像とは違って若々しい青年の声で言った。

 

「わたしがフレイア様に仕えたのはつい最近のことです。わたしとフレイア様は魔法の森で出会い、そこでフレイア様が」

「バッティ!」

 

 フレイアの強い声にその場の全員が緊張した。

「申し訳ありません、少ししゃべり過ぎました」

 

 一瞬だけフレイアの顔から笑顔が消えていた。小百合はバッティが何を言おうとしていたのか気になった。フレイアはもういつもの笑顔に戻っていた。

「二人とも、これからもお願いしますね」

 

「それで終わりかよ。もっとお前には話すべきことがあるだろう」

 唐突に異質な声が飛び込んできた。それは小百合たちの背後から聞こえた。小百合とラナが振り向くと、薄闇の中に邪悪で強烈な魔力を放つ男が腕を組んで立っていた。

 

「あなたは、ロキ……」

 

 フレイアの顔からいつも変わらなかった笑顔が消えていた。代わりに今にも押しつぶされそうな程の不安と悲しみにより、涙でも零しそうな顔になっていた。

 

「こいつがロキ!」

 

 小百合の中で敵意が燃え上がる。ラナも小百合に合わせて身構え、二人の間にリリンが降りてくる。ロキは自ら敵地に乗り込んできただけあって余裕の笑みを浮かべていた。

 

「暗黒騎士に闇の魔法つかい、それに宵の魔法つかいプリキュアか。フレイア、いい部下をもっているじゃねぇか、少し分けてもらいたいくらいだぜ」

 

「彼らは部下ではありません、同士です」

「何が同士だ、お前がきれい事なんて言うなよ。俺の言っている意味はわかるよなぁ?」

 

 フレイアは声を殺して身を震わせていた。ロキの言葉の中には、フレイアにとって非常に痛烈な何かが含まれているようであった。ロキはそんなフレイアの様子を見て心の底から愉快そうに笑い声をあげた。

 

「ギャハハハハハ!! いいねぇ、その顔! 俺はよぉ、闇に堕ちたお前の姿をみているとマジで心の底から楽しくなってくるんだぜ!」

 

「あんた、いい加減にしなさい!」

「もう許さないんだからね!」

 小百合とラナが胸に大きな怒りを秘めてロキを睨む。

 

「ほほう、この俺とやろうってのか? いいだろう、お前たちの力を見せてみろ!」

 

 二人はロキに対する怒りを言葉にかえて同時に放った。

『フレイア様を悲しませるなんて、絶対に許さない!!』

 

 小百合とラナが左手と右手を強く握ると、黒いとんがり帽子の背後に赤い三日月が光る紋章が現れる。握った手を後ろへ、同時に全身がオーロラのような輝きを織り込んだ黒い衣に包まれて、二人はリンクルブレスレッドを頭上に上げる。

 

『キュアップ・ラパパ! ブラックダイヤ!』

 

 二人のブレスレッドの黒いダイヤから溢れた光が一条の光線となって弧を描き、リリンの胸のブローチに吸い込まれると中央に光り輝くブラックダイヤ現れる。そして二人の少女の間にリリンが飛び込んだ。3人で手を繋いで輪となると、リリンの胸に黒いハートが現れて明滅する。つぎの瞬間に少女たちは無数の星がまたたく宇宙空間へ放たれた。

 

『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』

 

 体を大きく開いた3人は互いを見つめあい、希望の輪を描いたままゆっくり回転しながら星空と暗闇の海の中へと消えていく。そして闇の中に月と星の六芒星が浮んで輝く。

 

 神殿の中に月と星の六芒星の魔法陣が広がって輝き、薄暗い内部を瞬時に煌々と照らした。魔法陣の上リリンとにダークネスとウィッチが召喚される。リリンが前に進んで離れると二人は魔法陣の上から跳んで、ダークネスは右、ウィッチは左側に着地する。

 

「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」

「可憐な黒の魔法、キュアウィッチ!」

 

 二人はポーズを決めて、強く握り合った左右の手を後ろ手に体を触れ合せ、もう片方の手は互いを愛でるように優しく握りあって悩まし気な少女の色香を醸し出す。二人が離れると後ろの手を前へ、軽く開いた優美な手で敵を指す。

 

『魔法つかいプリキュア!』

 

 それを見たバッティは深紅の瞳を開いた。

「その姿はまさしくプリキュア!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。