魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ロキの急襲とフレイアの困惑

 ロキは腕を組んで仁王立ちの姿で不気味な笑みを浮かべながらプリキュアとなった二人を見ていた。

「ほう、懐かしいな! お前たちを見ていると昔を思い出すぜ」

 

 ロキは玉座にいるフレイアを見上げる。

「なぁ、フレイア、お前だってそうだろう? どうして今頃になって宵の魔法つかいなど復活させたんだ? 郷愁にでも駆られたか?」

 

 何もいわないフレイアの顔に笑みはなかった。

 

「黙りなさい! それ以上なにか言ったら承知しないわ!」

「威勢がいいな、ダークネス」

 

 ロキは人差し指を自分の方に向かって何度も動かして、いつでもかかってこいと無言で挑発した。今にもロキに向かっていこうとする二人を見てフレイアは玉座から立ち上がって言った。

 

「いけません! ロキに闇の力は通用しないのです、今のあなた達では……」

「お待ちください、フレイア様」

 

 傍らのダークナイトが悲痛な姿を晒すフレイアに言った。そんなダークナイトの姿を見てフレイアは胸に手を当てて少し落ち着くことができた。

 

「やらせてみましょう。あの者たちの気迫はなかなかのものです。ロキに一矢報いるやもしれませぬ。それに、わたしはあの二人のフレイア様に対する忠義を見てみとうございます」

 

 バッティもフレイアを守るために傍らへと参じる。

「プリキュアの力は計り知れません。それはわたし自らが何度も体験していることです。彼女たちは我々の想像を超える力を見せてくれるでしょう」

 

「あなた達がそのように言うのならば、わかりました。少し様子を見ましょう」

 

 バッティの右手にドクロの杖が現れる。彼はそれを握ってマントをひるがえす。

「フレイア様は我々はお守りする! 君たちは存分に戦いなさい!」

「バッティさん、ありがとうございます!」

 

 ロキとプリキュア達との間に戦いへと誘う目に見えない焔があがった。

「ウィッチ、あいつをぶっ飛ばすわよ!」

「うん!」

 

 二人は爆発的な勢いで走り出し、空気を切ってロキに迫る。そして同時に跳躍してロキに向かってパンチを繰り出した。ロキが手を広げると、そこから中央に竜の骸骨が刻まれた六芒星の闇の魔法陣が広がっていく。二人の拳が魔法陣に激突して火花が散った。

 

「はあぁっ!」

「だあぁっ!」

 

 ダークネスとウィッチの気合と拳を受け止めた衝撃でロキは足がずり下がり少し後退させられる。

「はっ!!」

 

 ロキが魔法陣を押し返し、二人は魔法陣から噴出した爆風で吹っ飛ぶ。ロキは両手に黒いエネルギー弾を召喚し、それを空中にいるプリキュア達に投げつけた。エネルギー弾がそれぞれに当たって爆発する。

 

「キャアァッ!?」

「うわぁっ!?」

 吹っ飛んだ二人は炎を纏いながら墜落して煙と粉塵が舞い上がる。

 

「ダークネス、ウィッチ、大丈夫デビ!?」

 リリンが心配して近づくと、もうもうと上がる煙の中から二つの影が飛び出す。速すぎてリリンにはその姿が見えなかった。刹那、ロキの左右に気配が迫った。

 

「くらえっ!」

「てやーっ!」

 

 左側からダークネスが飛び蹴りを、右側からウィッチがパンチを仕掛けてくる。二人は薄闇を隠れ蓑に利用してロキに接近したのだ。

 

「なにっ!?」

 

 ロキはとっさに両腕を立てて防いだ。少女たちの拳と足が彼の腕に食い込む。

「こしゃくな!!」

 

 ロキは両腕を広げてプリキュアを力で圧倒して吹き飛ばした。うまく着地したダークネスが石床に靴を滑らせながら右手のブレスレッドを胸の辺りに上げて叫ぶ。

 

「リンクル・オレンジサファイア!」

 火色の輝石がリンクルブレスレッドに輝く。

「炎よ!」

 

 ダークネスの右手から渦を巻いて吹き出す炎がロキに迫る。ロキは無造作に左手を出し目に見えないバリアでいとも簡単に防いだ。

 

「この程度の炎など」

 

「リンクル・インディコライト!」

 ロキがその声に振り向くと、ウィッチが目の前に立っていた。ダークネスは隙を誘うためにロキに攻撃をしかけたのだ。ウィッチは地面に手を付いて魔法を解き放った。

「電気ビリビリーっ!」

 

 いくらロキが凄くても地面を伝ってくる電気は防ぎようがない。足から全身へと駆け巡る電気の魔法にロキは怯んだ。

「ぐおっ!?」

 

 その隙にダークネスとウィッチは並んでバク転を繰り返しロキとの距離を開ける。

「受けてみなさい、わたしたちの魔法を!」

 

 ダークネスが左手を返すと、ウィッチが右手でそれをぎゅっと握る。二人は強く握った手を後ろに、頭上で手をクロスさせてリンクルブレスレッドを重ねる。

 

『二つの魔法を一つに!』

 

 ダークネスは上から右に、ウィッチは上から左に向かって半円を描いていく。二人のブレスレッドの軌跡に光が残され半分が薄ピンクで半分が赤の真円が完成する。それから一瞬にして円の中にピンクと赤の三角で六芒星が描かれ、中央に薄ピンクの三日月、周りに赤い星をちりばめた魔法陣が完成する。

 

「合成魔法か!」

 ロキが身構えて言うと2色の魔法陣が眩い光を放つ。

 

『赤く燃え散る二人の魔法!』

 二人は後ろで握る手に力を込めて魔法を放った。

 

『プリキュア! クリムゾンローズフレア!!』

 魔法陣から燃え上がる花びらが無数に吹き出し、深紅に輝く花吹雪がロキに降り注ぐ。

 

「ふん!」

 

 ロキは右手から竜骸の魔法陣のバリアを展開した。大きく広がったロキの魔法陣に凄まじい勢いで燃える花びらが叩きつけられる。魔法陣を押さえるロキの右腕が少し震えていた。しかも魔法陣にぶつかってきた炎花は消えずに留まって魔法陣の上で密度を増していく。そして時が止まったかのように一瞬だけ全ての花びらが停滞し、次に一気に真紅に燃える花びらが魔法陣の中央に集まり大爆発を起こした。その瞬間にダークナイトは巨大な盾で、バッティは杖の先から展開した奇妙な魔法陣を盾にしてフレイアを守る。

 

バッティは地響きまで起こす強烈な魔法に驚愕した。

「何という威力ですか!? 二つの異なる魔法を合わせるとは、伝説の魔法つかいプリキュアとは明らかに異質な力!」

 

 ロキは石床を溶解させる程の業火に包まれ、その炎は渦を巻いていた。その中に見えるロキの黒い影が次第に姿を変えていく。その体は膨らんで二回りほど大化し、背中に巨大な翼が現れる。そして荒れ狂う炎が急に掻き消えてしまう。炎が消えた後には何者もいなかった。

 

 ダークネスとウィッチがロキの姿がないことに驚いたその瞬間、目の前に巨躯ともいえる体になったロキが現れる。ウィッチは巨大な翼を叩きつけられ、ダークネスは強烈な蹴りを腹部に受けて左右に同時に吹っ飛んだ。二人とも悲鳴を上げ、ダークネスは石の支柱に叩きつけられて柱は粉々になって崩れ、ウィッチは壁に叩きつけられて小柄な体で石の壁を大きく陥没させる。

 

フレイアの前には背中に巨大な蝙蝠のような翼のある鋼のような肉体のロキが腕を組んで立っていた。頭の角も相まってその姿は悪魔そのものだ。上半身の中心、胸筋から腹筋にかけて人の目を縦にしたような異様な文様が刻まれ、両腕の上腕にも同じようなものがあった。下半身は膝から下の衣服は燃え尽き、その足は丸太のようで筋肉で張っている。そして四肢の爪は鋭く尖っていた。

 

「今の魔法は中々だった。この俺が少し本気を出しちまったぜ」

 

「ダークネス! ウィッチ! しっかりするデビ!」

 リリンがどうしたらいいのか分からずに右往左往していた。

 

 リリンが瓦礫の中に埋もれているダークネスに近づくと、彼女は目を開けて地面に手を付いた。苦し気な表情を浮かべながらもダークネスは片膝をついて起き上る。反対側ではウィッチも力を振り絞って立ち上がろうとしていた。ロキはそんな二人をあざ笑う。

 

「まだやろうってのか? 今ので力の差はわかったはずだ」

「ざけんじゃないわよ、誰があんたなんかに負けるものですか」

 

 ダークネスがそういって立ち上がる。二人とも立つのがやっとなのに、覇気はまったく失われていない。にやけていたロキが真顔になった。

 

 ――何だこいつらは? ボロボロのくせに負けてるって気配じゃねぇ。

 

「ウィッチ!」

 ダークネスの呼びかけにウイッチが頷く。そして二人は別々の場所で同時に走る。

 

「リンクル・スタールビー!」

 ダークネスの腕輪にスタールビーが宿る。その瞬間にダークネスとウィッチは同時に跳び、そして二人は空中で出会った。

 

「スタールビーよ、プリキュアに力を!」

 ダークネスの腕輪から出た赤い光の玉が二つに分かれてそれぞれダークネスとウィッチの胸の辺りに吸い込まれる。力を得た二人は黒い炎を纏いながら急降下してロキに迫る。

 

「ちぃっ、こりない奴らだ!」

 ロキは右手一つで同時に急接近してきた二人の蹴りを受け止める。

 

『はあぁーーーっ!!』

「ぬおっ!?」

 

 二人の蹴りの衝撃で周囲の床が陥没し、ロキは後方へ弾き飛ばされた。ずり下がる勢いが止まらず、ロキは床に爪を立ててようやくその身を静止した。

 

「今のは痺れたぜ」

 ロキは攻撃を止めた右手を振りながら言った。

 

「闇の力で俺様に衝撃を与えるとはな。お前たちが光の力を持つプリキュアだったら確実にダメージを受けていただろう。褒美にちょっとした昔話をしてやろう、お前たち宵の魔法つかいのな」

 

 それを聞いたフレイアは身を震わせた。ウィッチとダークネスがその様子を心配そうに見つめる。

 

「それ以上のフレイア様に対する無礼は許しませんよ!」

「次は我々が相手になろう」

 

 バッティは右手にドクロの杖、左手に黒い牙と白い羽根を出した。ダークナイトは盾から巨大な剣を抜いて構える。そしてダークナイトがいった。

 

「わたしが命と引き換えにすれば、お前を半殺しくらいにはできよう」

「なぁにぃっ? そいつは笑えない冗談だな!」

「わたしは生まれてから冗談など一度もいったことはない」

 ダークナイトがクールに答えるとロキは黙った。

 

 ――はったりじゃねぇ。それに、闇の魔法つかいも妙なもの持ってやがる……。

 

 ロキは笑いを浮かべてもう終わりだと言うように両手を返した。

「こいつは本当に火傷しそうだ。まあ、今日はあいさつに来ただけだ。これで帰るとするぜ、あばよ!」

 

 ロキが指を鳴らした瞬間にその姿が消え、同時にプリキュアとロキが戦い破壊された跡も元通りになった。ロキがいなくなっても、フレイアに笑顔が戻らなかった。

 

「あなたたち……」

 

 ダークネスとウィッチに見つめられ、フレイアはそれ以上言葉が出なかった。フレイアは二人が自分に疑いを持つのはもう避けられないと思った。しばらくの間、遠く儚げなセイレーンたちの歌だけがそこにあった。ダークネスは苦し気なフレイアにいった。

 

「フレイア様、過去に何があったとしても、わたしは気にしません。フレイア様はわたしたちを助けてくれました。それだけで十分です。わたしはフレイア様を信じます」

「わたしもフレイア様が好きだよ。ちょっと無茶ぶりすごいけどねぇ」

「リリンもフレイア様がだーいすきデビ! フレイア様はきれいで優しくて素敵デビ!」

 

 みんながいうと、フレイアの顔にもいつもの笑顔が戻った。

「皆さん、ありがとうございます」

 女神の眼尻には涙が浮んでいた。

 

 

 

 バッティの魔法で元の農道に帰った時はもう日が暮れかけていた。バッティは別れの前に小百合たちにいった。

 

「君たちの力は伝説の魔法つかいプリキュアに匹敵する。君たちが側にいればフレイア様も安心できるでしょう」

 バッティが手のひらをだすと、その上に奇妙なものが現れる。

「これを持っていきなさい」

 

 それをもらった小百合の顔が引きつった。それは異様な魔法陣で、角の生えた三つのドクロが円の形に組み合って、外円は骨組み、内円は蛇が自らの尻尾を噛んでいる形になっている。

 

「これ、何ですか?」

「闇の魔法陣のタリスマンですよ」

 

「闇の魔法陣!?」

「安心しなさい、君たちに害を与えるようなものではありません。そのタリスマンを上にかかげるとセスルームニルに瞬間移動することができます」

 

「バッティさん、ありがとうございます」

「君たちを導くのもわたしの使命ですからね。闇の結晶はお任せしますよ」

 

「はい、必ずフレイア様のご期待に応えて見せます」

「では、次はセスルームニルでお会いしましょう。イードウ!」

 

 バッティの姿が消えると小百合とラナは重い足取りで歩き出す。

 

「疲れたわね……」

「今日はもう闇の結晶さがせないねぇ」

「早く帰って寝ましょ」

「明日も学校だぁ」

「明日からどうやって学校にいこうかしら……」

 

 暗い紅に染まりゆく農道にリンゴの樹の影が落ちる。少女たちは黄昏の中を歩いていった。

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