魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

39 / 141
いじめっ子と杖の樹

 放課後になりラナが図書館に小百合を迎えに行くと、まだ勉強が終わらないと言われたので校内をブラブラしながらお気に入りの場所に向かった。

 

「ここでねてよ~っと」

「草が気持ちいいデビ~」

 

 ラナはリリンと一緒に柔らかい草の上に寝転がった。辺りには森といって差支えないくらいに大きな樹が並んでいるが、ここは校舎に隣接して建っている円柱状の塔のような建物の屋上であった。ラナが中でも一番大きな樹の下に大の字になって真上を見つめると風で(こずえ)が揺らいで葉の間から漏れる光がラナの視界で明滅し、眩しさで半分目を閉じる。

 

 ラナは休み時間に一人で暇なときは、いつもここで寝ていた。以前はここにいることが多かったが、今はみらいとおしゃべりしたり、リリンやモフルンと遊んだりして、この場所にくるのは久しぶりだった。

 

 ラナが次第に眠くなって目を閉じると誰かが草を踏んで近づいてくるのを感じた。足音は複数あった。

「うん~?」

 

 ラナが目を開けると前にレティアと二人の取り巻きが立っていた。

「いたいた」

 

 やせてる方がラナを見おろして歯を見せて嫌な笑いを浮かべる。ラナは立ち上がると、不安そうな顔になり萎縮してしまった。そんなラナに取り巻きの小太りの方がいった。

 

「あんたもう学校くるなっていったでしょ、きたって意味ないんだから」

「アハハ~、そうだよねぇ。でも、今は小百合がいるから~」

「なにをヘラヘラ笑っているの? (しゃく)に障る」

 

 レティアが睨みを効かせていうと、ラナは息が止まったようにしゃべるのを止める。取り巻きの痩せてる方が魔法の杖を出して振った。

 

「キュアップ・ラパパ! 浮いちゃえ!」

 魔法がラナにかかって小柄な体が浮き始める。

 

「うわぁ、やめてよぅ」

「自分の魔法で何とかしたらいいじゃん」

 ラナがどうしよもできなくて空中で足をジタバタさせると取り巻きの二人が大笑いする。

 

「酷いことしちゃだめデビーっ!」

 リリンが飛び上がってやせてる方の杖を持っている腕に組み付く。

 

「な、なによこのぬいぐるみ!? 動いてる!? しゃべってる!?」

「やめるデビ!」

「離しなさいよ!」

 

 やせてる方が思いっきり腕を振ると、リリンが勢いで吹き飛ばされて草の上に転がる。

「デビッ!?」

「やめてよ! リリンに乱暴しないで!」

 

 ラナは何とかしようともがくが、宙に浮いているのではどうにもならない。リリンが起き上って怒った顔でいじめっ子たちを見てから、そこから飛んで森の外へ出ていった。

 

「アハハ、見捨てられちゃったね!」

 太ってる方が笑い、それからやせてる方が言った。

「ほら、もう魔法が解けるよ」

 

「きゃっ!?」

 急に魔法が解けてラナは一メートルくらいの高さから落ちた。

「あうぅ、いたぁい……」

 

 また取り巻きの二人が笑った。レティアは少しにやけているくらいで笑いはしないが、その眼には嗜虐的(しぎゃくてき)な光がある。取り巻き二人がラナをいじめるのを見て彼女は楽しんでいた。

 

 その頃、リリンは図書館に飛び込んで小百合が勉強している教科書の上にダイブしていた。

「ちょ、ちょっとなに!?」

「小百合、たいへんデビ! ラナがいじめられてるデビ!」

「なんですって!!」

 

 小百合は図書館から飛び出し、飛んでいくリリンの後を走った。体育の成績も優秀な小百合は長い脚でハヤテのごとく廊下を駆け抜けていく。途中で校長室に向かっていたリコたちとすれ違った。小百合の様子が必死だったので、二人とも思わずその姿を目で追いかけた。みらいが心配そうに言った。

 

「なにかあったのかな?」

「ちょっと気になるわね」

 みらいとリコは後を追いかけてみることにした。

 

 ラナに対するいじめは続いていた。

「キュアップ・ラパパ! 足よ地面にくっついちゃえ!」

 太ってる方の魔法でラナの足が地面から離れなくなってしまう。

「うわっ、うう~、足が離れない~」

 

 太ってる方がラナに近づいて胸を押した。

「ほら」

「うわぁっ!」

 

 両足が動かないラナは後ろに倒れて尻餅をつくしかなかった。またレティアの取り巻きから笑い声があがった。その時、彼女らの背後から小百合が早足で近づき、まるでレティアたちが空気でもあるかのように無視して横を通り過ぎ、かばう様にしてラナの前に立った。ラナのすぐ近くにいた小太りの少女が小百合に睨まれ我知らずに後ろに下がっていた。

 

「いじめっ子というのはどこにでもいるものなのね」

 

 レティアたちが突然現れた闖入者(ちんにゅうしゃ)を見つめる。ラナは輝くような笑顔を浮かべていた。

「小百合!」

 

 小百合が睨むと取り巻き二人が少し怯んだ。小百合が怖い顔をしているわけではないが、その美しい容姿に秘めたる凄味がオーラとなって外に出ていた。この時にリコとみらいの姿が屋上の入り口に現れる。この森はみらいにとって思い出深い場所だった。

 

「あれ、ここって確か……」

「見て、杖の樹の下」

 リコとみらいの視線の先に向かい合う少女たちの姿があった。

「なにしてるんだろう?」

 

 二人が様子を見守っていると小百合が言った。

「あんたたち、これ以上わたしの友達を傷つけたら許さないわよ」

 

 取り巻き二人は完全に小百合をバカにして笑っていた。いくら凄味があっても相手は魔法が使えないのだから怖くない。そんな余裕を見せている者たちに小百合が衝撃を与える。

 

「校則第3条、魔法で他人を傷つけてはならない。この校則を破った場合、最も重い処罰が下されるわ。退学になってもおかしくない」

 

「な、なにを偉そうに! この学校の生徒でもないくせに!」

 レティアが敵意をあらわにして言った。やせてる方がまた杖を振る。

 

「あんたも同じ目に合わせてやる。キュアップ・ラパパ! 浮いちゃえ!」

 その魔法が小百合の前で弾けて消える。実際の魔法は目には見えないが、何も起こらないのでやせた少女が唖然とする。

「な、なんで? なんで浮かないのよ!?」

 

「魔法実技の教科書に魔法は強い精神力で跳ね返せると書いてあったわ。あんたの精神力がわたしの精神力よりも劣ってるってことでしょ」

 

 小百合が言うと、やせた少女は悔しさのあまり今にも泣きそうな顔になって叫ぶ。

「なんですって!? こいつ、生意気!」

 

 レティアは朝にリコから聞いた言葉を思い出していた。先端に小さなダイヤの形の赤い飾りの付いた杖を出して小百合に向ける。

 

 ――こんな子が、そんなはずないわ!

 

 レティアは小百合の後ろにいるラナが腰にある小さなポシェットを大事そうに隠しているのに気付いた。彼女は笑みを浮かべて杖を振った。

「キュアップ・ラパパ! ポシェットよこちらにきなさい!」

 

 ラナのポシェットが腰からほどけて浮き上がる。ラナは慌てて飛んでいこうとするポシェットにつかみかかった。

「これはだめーっ!」

 

「よほど大切なものが入っているのね、見せなさい!」

 小百合もラナと一緒にポシェットをつかんだ。レティアの魔法は強力で、ポシェットと一緒に二人の体が引っ張られて浮き上がりそうになる。

 

「アハハッ! 無様ね! ろくに魔法が使えない人と魔法も使えないのに意味のない勉強をする人、いい取り合わせだわ!」

 レティアに罵倒されて、ラナの瞳に涙が浮かんだ。

 

「小百合、ごめんね、わたしのせいで、わたしがダメだから、魔法が使えないから」

「あんたはダメなんかじゃないわ! 卑屈にならないで!」

 小百合の声はみらい達にも届いていた。

 

「大変だよ!」

「助けに行きましょう!」

 二人で駆けだそうとするとモフルンがみらいの懐から飛び降りて、でんぐり返しの勢いで草の上に立ち上がる。

 

「モフルン?」

「くんくん、甘いにおいがするモフ」

『ええ!?』

 みらいとリコは同時に驚き、そして小百合たちのすぐ近くにある大樹の上の方で何かが光るのを見た。

 

 小百合はポシェットを引き寄せる引力に抵抗しながらラナを叱咤するように叫ぶ。

「魔法が使えないのが何だっていうの! もうラナは誰よりもすごい魔法をもっているじゃない! その魔法でわたしを救ってくれた! ラナの笑顔と明るさは、どんな魔法よりも素敵よ!!」

 

 その時、ラナの大きく見開かれた碧眼から涙が零れた。母と祖母と暮らした記憶が駆け巡る。おばあちゃんは、ラナには素敵な魔法があると言った。母は決して笑顔を忘れないでと言った。この瞬間にラナはその意味が分かった。小百合が教えてくれた、そして小百合だけがラナの全部を分かっていてくれたのだ。

 

 二人の気持ちが通じ合った時、樹の上から何かが落ちてきて、小百合の目の前で止まった。これは小百合の物だとでもいうように、細い純白の棒の先に三日月形のクリスタルの付いている魔法の杖が浮いていた。その存在に小百合が驚いたのはほんの一瞬で、すぐに凛々しい表情で杖をつかみ取り、勢いよく振った。

 

「キュアップ・ラパパ! 魔法よ跳ね返りなさい!」

 

 引っ張られたポシェットが急に軽くなる。ラナは自分の手に戻ったポシェットと小百合が持っている魔法の杖を交互に見て目を白黒させていた。

 

「そんなバカな!? なんで魔法の杖が!?」

 レティアが驚いていると、すぐ近くで呆然とつっ立っていた取り巻きの小太りの方の体がふいに浮き上がり焦る。

「え!? な、なにこれ!?」

 

 小百合がレティアを魔法の杖で指して言った。

「あんたのポシェットを引き寄せる魔法をお友達に跳ね返したわ。よって、お友達の方があんたに引き寄せられる」

 

 小太りの方がレティアに飛んでってぶつかった。二人とも悲鳴をあげて一塊になって倒れる。

 

「どきなさい!」

 

 レティアが怒りをぶつけると、小太りの少女は怯えていた。レティアは強気を保つのが精いっぱいで言葉が出なかった。代わりに様子を見ていたリコがレティアが心の中で思ったのと同じことをいった。

 

「目に見えない魔法を跳ね返して別の物にぶつけるなんて、相当な経験を積んだ魔法つかいじゃないとできないことなのに……」

 

 レティアは憎悪で燃える瞳で小百合を睨み、小百合は相手になるとでも言うように一歩前に出る。今まで人に危害を加える魔法を取り巻きにやらせてきたレティアだったが、小百合のことはどうしても許せずついに自ら杖を振るった。

 

「キュアップ・ラパパ!」

 レティアが地面に杖を向けると、小石が一つ浮き上がる。

「そのきれいな顔にぶつけてやる!」

 小百合は黙って見ていた。その冷静さがレティアの憎悪を増長する。

「石よ飛んでいきなさい!」

 

 石が高速で飛び出した瞬間に、小百合が杖をまっすぐ前に出して呪文を唱える。

「キュアップ・ラパパ! 石よ止まりなさい!」

 透明な三日月の前で石がピタリと止まる。小百合は力強い言葉と共に杖を振った。

「キュアップ・ラパパ! 石よ飛べ!」

 

 レティアには小石が消えたように見えた。瞬間、なにかが顔の近くをかすめて横髪を突き抜けていく。レティアがまるで壊れた人形のようなぎこちなさで後ろを見ると、背後の樹木に小百合がお返しした小石がめり込んでいた。レティアは腰が砕けてその場に座り込んでしまった。そして彼女は震える声で言った。

 

「リコのいったことは本当だわ……」

 

 レティアを置いて取り巻きの二人が逃げ出す。小百合は右手で持っている魔法の杖の三日月を左手の上に置いていった。

 

「イメージ通りね」

 

 ずっと様子を見ていたリコとみらいは『すごい……』とつぶやいていた。

 

 レティアはゆっくり立ち上がって顔を見せないように下を向き敗残者の体を晒し、おぼつかない足取りで去っていく。レティアは必然的に入り口に立っていたリコとみらいのすぐ近くを通ることになった。悪いのはレティアの方だが、それでも気の毒になってしまうような姿だった。

 

 杖の樹の下には小百合とラナだけが残った。小百合は杖の樹を見上げて言った。

「この樹の上から魔法の杖が落ちてきたのね」

「びっくりだね、普通は生まれた時にもらうものなんだけどね。でも、小百合が魔法の杖をもらえて本当によかった! うれしい!」

「きっとラナのおかげよ」

 

 それからラナはうつむいて小百合の顔を見ずに言った。

「助けてくれてありがとう。それでね、わたし小百合にかくしてたことがあるんだ。ずっといえなかったけど、いまいうね」

「ええ」

 

 ようやくこの時が来た。ラナは本当の意味で小百合に心を開こうとしている。

「わたしが魔法をちゃんとつかえないのって、病気のせいなんだぁ……」

「もっと早く言ってくれればよかったのに」

「さゆりぃ……」

 小百合の温かい言葉にラナは涙が出そうになる。小百合は可愛い妹でも見るような目をしていた。

 

「ラナのことが全部わかったわ。あんたがナシマホウ界に来たのは、リンクルストーンを探すためじゃないでしょ。おばあちゃんが亡くなったり、いじめられたり、辛いことがたくさんあって、あんたは逃げ出したんだわ。わたしにはあんたの気持ちよくわかる。その辛い気持ちが消えるこはないけれど、二人一緒なら乗り越えていけるわ」

 

 ラナが顔を上げて小百合をまっすぐに見た。大きな瞳に溜まっていた涙が輝く雫になって次々と頬を伝って流れ落ちる。ラナは小百合の胸に飛び込んで大声で泣いた。みらいとリコがその姿を黙って見つめていると、二人の後ろに気配があって同時に振り向く。

 

『校長先生!?』

「魔法の水晶が杖の兆しがあると言うのできたのだ。やはり彼女は魔法の杖を手に入れたか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。