魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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傷心のリコ

 この日の魔法の実技では上級者用の箒を操る訓練が行われた。2年生から始まっている授業なので今が最終段階で、大抵の生徒は柄が緑色の箒で空を自由に飛んでいた。小百合はというと、ラナの指導の元に地面の上で柄がピンク色の初心者用の箒にまたがっていた。

 

「後は簡単! 魔法の呪文を唱えてお空に向かってゴーだよ!」

 

 小百合は必要以上に緊張して体が震えている。顔は苦しいのを我慢でもするようにこわ張っている。ラナはそんな変な状態の小百合を今まで見たことがなかったので首を傾げてしまった。

 

「小百合、どしたの?」

「な、何でもないわ、行くわよ!」

 小百合は柄を握る手に力を入れて言った。

 

「キュアップ・ラパパ! 箒よ飛びなさい!」

 小百合の足元から空気の波動が起こり、舞い上がった埃がドーナツ状に広がる。そして小百合の足が地面から離れた。

 

「浮いた! そのまま思い切って飛ぼう!」

 

 小百合は地上から1メートルくらいの高さまで上昇したものの、その後は1メートルの高度を維持しながらゆっくり飛んでいた。ラナにひどい目に合わされた記憶がよみがえって足がすくむ。

 

「駄目だわ……」

「行け~、上昇だ~、上昇だ~」

 ラナが小百合の周りを高速でグルグル回ってすごく目障りだった。

 

「ちょっと静かにして! 集中できないでしょ!」

「あれれ、どうしちゃったの? いつもの小百合ならなんでもバーンってやっちゃうのに~」

 

「誰にだって苦手なものの一つくらいあるのよ」

「こんなダメダメな小百合はじめて見た~」

「うるさいわね! 全部あんたのせいなんだからね!」

 

 その様子をみらいとリコとジュンが箒に乗りながら上から見ていた。

「なんだよあれ、全然ダメじゃないか」

「仕方ないよ、初めてなんだもん」

 

 みらいがジュンに言った。リコはこの二人とはまったく別の観点から小百合の飛行を分析していた。

「みんな初めて箒に乗った時はどうだった?」

 

 リコに聞かれてみらいとジュンは思い出す。

「わたしはものすごーく高く飛んじゃって、すごくびっくりしたよ。その後は少しうまく飛べたけど、最後はリコと一緒に墜落しちゃったよね」

 

「よく墜落するな、リコは」

「あれはみらいを助けようとしてそうなったのよ! 不可抗力だし!」

 

 ジュンがにやけながら少し意地悪な言い方をして、リコは思わぬところで恥をさらし慌てて全力否定する。ジュンはリコをからかった後に真面目な顔になって答えた。

 

「あたいは変な方向にすっ飛んでって先生に止めてもらったな」

「わたしもそうよ。低空を維持しながら安定して飛ぶなんて、最初からできることじゃないわ。小百合はもう箒を操るだけの技術は持っているのよ。何か理由があって高く飛ぶのを拒んでるみたいだけど」

 

「そういう見方もあるのか。じゃあ、あいつ結構すごいのか?」

「それは、そのうち分かると思うわ」

 リコはジュンに言った。リコはあまり小百合の魔法の事には触れたくなかったのだ。

 

 箒実技の授業が終わって教室に戻り休み時間になると、小百合の魔法を疑っていたジュンが立ち話のついでに少し意地悪な質問をした。

 

「なあ、あんた。どうやって魔法の杖を手に入れたんだ?」

「どうって、きのう樹の上から落ちてきたのよ」

「それマジなのか? そんなことってあるのかよ?」

 

「わたしの時もそうだったよ。樹の枝が光って、この魔法の杖が落ちてきたの」

 みらいがハートの杖を見せながら言った。少女たちは教室の片隅で輪になってお話ししていた。

 

「そっか、あんたもみらいと同じでナシマホウ界から来たんだもんな、みらいと同類ってわけか」

「校長先生は魔法界がわたしを受け入れたと言っていたわ」

「ふーん」

 

 それからジュンは小百合を見たまま微笑する。その笑みに小百合は人を侮るようなちょっと嫌な空気を感じた。

 

「あんたさ、少しくらいは魔法を使えるんだろ? いまここで見せてくれよ」

「そんなこといったら小百合が困るよ。きのう杖を手に入れたばっかりで魔法なんてうまく使えるわけないもの」

 ケイが小百合を擁護するように言っている時に小百合が自分の杖を出した。杖の三日月の部分にみんなの視線が集まる。

 

「それが小百合の杖なんだ、きれい」

 エミリーが見とれていると小百合はいった。

 

「もちろんうまく使える自信なんてないけど、みんなにわたしの魔法を見てもらって、改善すべき点を教えてもらいたいわ」

 小百合は隣にいるラナのとんがり帽子に三日月を向ける。

 

「キュアップ・ラパパ、帽子よ浮きなさい」

 ラナの頭から帽子が浮き上がって離れていく。

 

「わあ、わたしの帽子ぃ」

「ちょっと借りるだけよ」

 

 小百合は一同を見て言った。

「ナシマホウ界にはユーフォーというものがあるんだけど、ラナの帽子でその動きを再現してみるわ」

 

「ユーフォー? なんだいそれ?」

「ユーフォーっていういのは宇宙人が乗ってる円盤型の宇宙船で、ものすごい速さでビューンて飛んで、ピューって上がっていくんだよ!」

 みらいの説明にジュンが苦笑いする。

「すまん、みらいの言っていることが全然わからん」

 

「わたしわかる~。円盤がビューンて飛んでピューって上がっていくんでしょ~、目に見えるよ~」

「なんなんだこの二人は……」

 変にシンクロするみらいとラナを見て、ジュンは珍獣でも見つけたような気持になった。

 

「見てもらえばわかると思うわ。できるだけ上手くやれるように努力するからね」

 

 小百合が杖を真上に上げると、ラナの帽子が急上昇する。勢いが凄かったので少女たちに風圧がかかってきた。小百合が杖を動かすのに合わせてラナの帽子が回転しながら相当な速さで教室中を縦横無尽に移動する。立ち話をしているクラスメイトの間を見えないくらいのスピード通り過ぎてみんなを驚かせたりもした。

 

「な、な、なんだこの魔法の切れは!?」

 

 ジュンが驚きのあまり叫んでいた。それが余計にクラスメイトの注目を集めることになった。小百合は真剣な表情で杖を振っている。帽子は急に空中で止まって床近くまで急降下したかと思えば、今度は天井近くに急上昇し、最後は高速で戻ってきてラナの頭の上へ。勢いが余って帽子が目深になり、ラナの顔が半分くらい隠れてしまった。

 

「うわぁ~、見えない~」

「ごめんなさいね。まだうまく調節できないわ。どうだったかしら、わたしの魔法は?」

「いやぁ、どうだったって言われても……」

 

 ジュンはそれ以上の言葉が出ない。2年以上も魔法の勉強をしている自分よりも上だとは、さすがに言いずらい。ケイとエミリーに至っては幻でも見ているような目をしていた。小百合が自分の魔法はあまり良くなかったのかと思ったその時に、ケイとエミリーの声が上がった。

 

「うそ、なんでそんなに上手なの!?」

「ええっ!? 杖を手に入れたのが昨日だなんて信じられない!?」

「やっぱり小百合の魔法すごいね」

 

 小百合の魔法を既に見ているみらいだけは落ち着いていた。そんな誉め言葉を聞いた小百合は何故か不機嫌そうに言った。

 

「そんな社交辞令はいらないわ。ちゃんと正直な感想をいってちょうだい」

「いやいや、おねいさん。普通の人は最初からこんなうまくできませんから」

 

 ラナにそう言われると、小百合は自分の魔法は本当にすごいのかもしれないと思い始めた。ジュンが狐につままれたような気持で言った。

 

「驚いたな。いきなりこんなに魔法が使えるなんて、リコとは正反対だね」

 

 ジュンが言った瞬間にリコの周りの空気が凍った。小百合がえっと思ってリコを見ると、リコは目をそらしてしまう。リコはいたたまれなくなって無言で輪から離れて自分の席に戻った。その後も誰とも目を合わせようとしなかった。そんなリコを見てみらいも心が痛くなる。それからみらいはジュンを向かって片方の頬を膨らませてプンプン怒りだす。

 

「ジュン、デリカシーなさすぎだよ!」

「す、すまん。でもさ、リコだって今は魔法の実技上の方だろ。なんであんなに落ち込む必要があるんだよ?」

「きっと、わたしたちには分からないことが色々あるんだよ」

 

 リコはプライドを傷つけられたのだ。同じくプライドの高い小百合にはその気持ちがよくわかる。

 

「リコは魔法が苦手だったのね?」

 ジュンは小百合に頷いて言った。

「ああ、一年の終わりごろまではビリケツだったんだ」

 

 みんなの意識がリコに集まっている時に小百合は少し目を細くして悪心のあらわな笑みを浮かべた。

 

 ――これは利用できそうね。

 

「ええ~、そんなはずないよ! ビリはわたし、リコはビリから2番目だよ!」

 ラナが出てきてフォローにもならない事を言うと、小百合が冷たく言い放った。

「あんたの場合は数にも入ってなかったんでしょ」

 

 ラナは特異中の特異だったので小百合の言ったことは的を射ていた。

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