魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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中間テストとリコの涙

 その日からリコと小百合の戦いが始まった。と言っても、周りからはそう見えるという話で、本人たちの間にはそこまでの意識はない。今までは難解な問題を率先し答えていたのがリコだけだったのが、そこに小百合も加わるようになったので二人で競争しているように見えてしまうのだ。そのうちに生徒たちの間では二人はライバル同士という認識になっていく。

 

 ある時、小百合は職員室まで行ってリズ先生にお願いした。

「リズ先生、今までの魔法の実技の試験を全部やらせてください」

 

 それを聞いた周りの教師は驚いていた。リズは小百合の無理とも思えるお願いに笑顔で答える。

「いいわよ。一度に全部は無理だから、放課後に少しずつやっていきましょう。でも次の試験には間に合わないわね……」

 リズは残念そうに言った。

 

「期末試験には間に合います」

「そうね、あなたならそれで十分ね。さっそく今日からやる?」

「よろしくお願いします!」

 小百合のやる気に満ちた声が職員室に響き教師達を感心させた。

 

 魔法実技の試験は勉学の試験とは違って、一年生から今までの課題をすべてクリアしなければ受けることができない。魔法実技は危険もある為、実績が求められるのだ。

 

 誰もいなくなった放課後の教室にリズが入ってくる。そこには数人の少女が残っていた。小百合が黒板の前で待っていてリズに頭を下げる。ラナを始めにみらいとリコ、ケイ、ジュン、エミリーも様子を見守っていた。

 

「魔法実技の試験は1年生で6回、2年生で6回、合わせて12回よ。今日から放課後に一つずつ小百合さんの実技のテストを行います。合格出来たらこれにハンコを押すわね」

 

 リズは12個のマスがある用紙を小百合に見せて言った。他の少女たちは固唾をのんで見守っている。

 

「まずはこのテストからよ。キュアップ・ラパパ」

 リズがタクトのような杖を振ると教壇の上にランプが現れる。

「このランプに火をつけて炎を燃え上がらせた後に消せたら合格よ」

 

「それだけですか?」

「1年生の最初の実技試験だからこんなものよ」

 

 リズが言うのを聞いてリコは胸に苦しさを感じる。この試験はリコにとっては苦い思い出がある。リコはランプを爆発させてしまったのだ。

 

 小百合はランプの前で黙っていた。

「どうしたの? あなたなら出来ると思うけど」

「あの、自分がどこまで出来るのか最大限の力でやってみたいんです」

「それは良いことだと思うわ。どうしたいの?」

 

 小百合の願いにより、リズの魔法で教壇に5つのランプが並べられた。何をするつもりだろう? 誰もがそう思った。

 

「キュアップ・ラパパ、炎よ燃え上がれ!」

 真ん中のランプの白い芯に火がつき、炎が大きくなってランプの外まで吹き出す。

 

「炎が少し大きすぎないか?」

 ジュンが燃え上がる炎を見つめて言う。小百合が杖を振ると、炎の一部がプロミネンスのように弧を描いて隣のランプに移った。

 

「炎を移動させた!?」

「なんだそりゃ!?」

 リコとジュンが同時に驚愕する。

 

 小百合は火がともった二つ目のランプの炎を燃え上がらせてその隣に移す。それを繰り返してすべてのランプに火をつけた。最後に杖を一振りして5つのランプの炎を同時に消した。

 

 魔力と集中力を消費した小百合は大きく一息ついた。リズが控えめな拍手をしていた。

「ここまで出来るなんて正直驚いたわ、試験は合格よ」

 

 リズが用紙にハンコを押して小百合に渡す。するとラナが大騒ぎした。

「小百合やったね! ちょ~すごいよ~、最高だよ~」

「よろんでくれるのは嬉しいけど騒ぎすぎよ」

 

 小百合は言いながらリズから受け取ったものを見た。

「……先生、ハンコが二つ押してありますけど」

 

「魔法で物を移動させる物体移動の実技試験があるのだけれど、質量のない炎を移動させる方がずっと難しいのよ。ですから物体移動の試験も合格とします」

 

「一気に二つも、すごいよ小百合!」

 みらいもラナと一緒で自分のことのように喜んでいた。

 

「テストは一週間後だから、魔法の実技のテストには間に合わないね」

「もし小百合がテストを受けられたら一番になるんじゃないかな」

 ケイとエミリーが言うと、リコは浮かない顔をしていた。

 

 

 

 まもなく学校内で小百合の魔法がすごいらしいと噂になっていた。それはラナを始めに、みらい、ケイ、エミリーの口から広まっていったものだ。それから放課後の小百合のテストに少しずつ人が集まるようになった。どのテストでも小百合はみんなを驚かせたが、特に水を操る試験では水でリリンの形を作ってそれを自由に飛ばし喝采を浴びた。

 

 テスト直前のこの日も小百合の試験を見に校庭に生徒が集まっていた。今度は何をやってくれるんだろう? とみんな少し楽しみにしている。リコだけはいつも難しい顔で小百合の試験を見学していた。彼女は小百合と自分の魔法を比較していた。昔の自分とは比べ物にならないが、今の自分と比べてどうか? と。

 

 小百合は自信満々の姿で校庭の中央で待っているリズに向かって歩いていく。その右手には魔法の杖がある。

 

「先生、今日はどんな試験ですか?」

「今日の試験には魔法の杖は必要ないのよ」

 

 リズが右手を上げるとボンと白い煙に巻かれて箒が現れる。リズはその箒を持って小百合に見せた。

 

「今日は魔法の箒のテストよ」

「ほ、箒!? そ、そうですよね、当然それもありますよね……」

 

 小百合の全身に冷たい汗がにじむ。他人のせいにしてはいけないと思う反面、ラナが恨めしくなってしまう。そんな小百合の気も知らずにリズは箒を小百合に渡していった。

 

「あなたなら上級者用で行くわよね」

 

 生徒が周りに集まっている状況で最悪の展開になる。

 

「小百合~、がんばれ~っ! 小百合なら上級者用でも楽々だよ~っ!」

 小百合の箒の実力を一番知っているはずのラナが大声て叫ぶと生徒たちの期待が高まる。

 

 ――ラナのバカーーーっ!!

 

 小百合はよっぽど大声で叫びたかった。小百合は恥ずかしいやら情けないやらでもう死にたいと思いながらリズに言った。

 

「初心者用でお願いします……」

「あら、そう」

 

 リズは意外そうに言って、小百合から箒を返してもらうと上級者用の箒はまた白い煙をあげてリズの手の中に消え、今度は初心者用の箒を出して小百合に渡した。

 

「あなたが思うように自由に飛んでみて」

「自由にですか……はい」

 

 小百合が初心者用の箒にまたがり必要以上に力んで言った。

「キュアップ・ラパパ、箒よ飛びなさい!」

 

 これ以上恥をさらしたくはない。小百合は心の中で呪文のように唱えた。

 ――気合入れなさいわたし、気合いれなさいわたしっ!

 

 小百合が思い切って箒を上昇させると箒が今にも制御不能になって暴れだしそうに思える。

 

「ひいぃ、やっぱりだめ!」

 

 小百合は情けない声を出して高度を下げると、あとは自分が安心できる低空で飛んでいるしかなかった。みんなの視線が集まって小百合は死ぬほど恥ずかしい。そんな小百合を見てエミリーは瞳をうるませる。

 

「小百合の気持ち、すごくよくわかる」

「あいつはエミリーと違って度胸ありそうに見えるんだけどなぁ」

 ジュンが不思議そうな顔をしていた。

 

 小百合は校庭に降りるとすごすごとリズに近づいていく。恥ずかしくて目を合せることができなかった。

 

「箒の制御は完璧にできてるけど高度が足りないわね。箒の試験は最後にもう一度やりましょう、それまでにしっかり練習して下さい。大丈夫よ、あなたなら必ずできるから」

 

「はい、がんばります……」

 

 リズの優しさが小百合の胸に痛かった。小百合からいつもの自信満々な姿が消え失せて、肩を落としてすっかり元気をなくしてしまう。集まっていた生徒たちは期待していたアトラクションが思いのほかつまらなかったとでも言うように不満を残して去っていく。小百合のところには、みらいとラナが駆け寄ってきた。

 

「小百合、残念だったね。わたし箒の練習に付き合うよ」

「みらい、ありがとう。あなたはいい人ね」

 

「小百合も失敗する時あるんだねぇ。わたし見直しちゃったよ~」

「そんな風に見直されたくないわ……」

 

 ラナの一言で余計に小百合の元気がなくなる。もうラナに言葉を返す気力もなかった。

 

 

 

 恥をさらして散々な小百合だったが、翌日のテストにはしっかりと気持ちを切り替えてのぞんだ。魔法界では魔法力学、魔法界数学、魔法界地理、魔法界歴史、魔法界生物、占星、魔術、飛翔術の8教科のテストが行われる。そして上位の10人までは校内の掲示板に名前が載るのだ。小百合は今の自分がどれだけできるのか試すつもりでテストに臨んだ。

 

 テストの翌日の朝、掲示板の前に生徒たちが集まる。掲示板といっても張り紙などはなく、白いスペースの上に魔法で文字が浮かび上がっているのだ。

 

「みらい、すごいじゃないか! 9番だってさ!」

 

 ジュンの声に反応して何人かの生徒が振り向いてみらいに注目する。思いもしなかった好成績に、みらいは最初は信じられないという顔をしていた。

 

「そんな上の方だとは思わなかった、びっくりだよ」

 嬉しいやら驚くやらのみらいと一緒にケイもその喜びを分かち合った。

「リコと一緒に毎日遅くまで勉強していたもんね」

 

「ケイはどうだったんだい?」

「わたしはいつも通りだよ」

 

「いつも通り、リコが一番ね。やっぱり、リコはすごいわ!」

 エミリーがリコにメガネの奥から尊敬のまなざしを送ると、

 

「ありがとう。でも、わたしよりもみらいの方がすごいと思うわ。短い時間でよく頑張ったと思う」

「リコがいてくれたからだよ!」

 

 なぜか一番を取ったリコはあまり嬉しそうではない。みらいにはそれが気になる。

 

「うわ! 見て小百合、2番だって~」

「あんた、よくそこから見えるわね、どんな目してるのよ」

 

 人だかりの後ろの方から声が聞こえると、そこに注目が集まった。ラナが額に手をかざして掲示板の上の方を見つめている。

 

「リコと3点差だよ~、惜しかったね!」

「そう、まあまあね」

 

 小百合は無感動に言った。一方、リコは死地から生還できたような安堵感に包まれていた。

 

 ――よ、よかった。勉強で負けたら立つ瀬がないもの。

 

 それにしてもとリコは思う。小百合はたった2ヶ月ほどで2年分の勉強をこなしてきたのだ。リコにもナシマホウ界で似たような経験はあるが、リコの場合は一年遅れでのスタートだった。小百合はその時のリコより2倍勉強したことになる。違いと言えば、リコが一番の成績を取ったのに対して、小百合は2番だということくらいだ。この差は微々たるものと言える。

 

 ――小百合はすごいわ、それは素直に認めなければ……

 そうして前に進まなければ、次は小百合に負けるとリコは思った。

 

「なんだいあの態度、いやな感じだな。あいつは好きになれないタイプだね」

 

 小百合の「まあまあね」という言葉にジュンがむかついて言うと、リコが小百合に向かって歩き出してジュンはその姿に視線を引っ張られた。リコは一番になった者の貫禄をもって小百合の前に進む。

 

「あなたはすごいわ、短い期間でここまで成績を上げてくるなんて」

「リコ、前にあなたから勉強を教わっていなければ、ここまで来ることはできなかったわ」

 

「わたしは大したことは教えていないわ」

「小さな事のようだけれどスタートが肝心よ。あなたに最初に勉強を教わることができたのは幸運だったと思っているわ」

 

 小百合の言ったことは変に対抗心を燃やされるよりもずっと重くリコの胸にのしかかってくる。リコは身の引き締まるような思いがして、心を新たに、そして小百合に負けないように勉強を頑張ろうと思うのであった。

 

 

 

 数日後に実技のテストも終わり、総合の成績が発表された。リコは自分の席で手渡された成績表を見つめている。そこには全てのテストの点数と総合得点が記載されている。リコは全体で4番の成績だった。前回は実技が足を引っ張っての10番だったので、この成績からはリコの魔法が上達していることがうかがえる。ついに主席の座が見えてきて本当なら喜ぶところだが、リコはどうしても喜ぶ気持ちにはなれない。それどころか、自分の中で見えている現実に悩まされていた。

 

 ――もし小百合が実技のテストを受けていたら間違いなく首席だったわ。わたしは負けていた……。

 

 今まで小百合の実技の試験を見てきて、リコはそれを認めざるを得ない。小百合はテストを受けていないから関係ないと言えばそれまでだが、真面目なリコはそんなふうに割り切ることはできなかった。魔法の成長に個人差があるのは分かっているが、それでも自分と小百合との間にある格差に打ちのめされてしまうのであった。

 

 その日の授業が終わり、リコはみらいと一緒に寮に向かう。

 

「ねえ、リコ、次は一番になれそうだね!」

 何となくリコの元気がないので、みらいは元気づけようとあれこれ言っていた。

 

「ええ……」

 

 やはりリコの反応が薄い。どうしたらリコが元気になれるのか、みらいは一生懸命考えていた。その時に廊下でリズとすれ違った。リコは姉に大して嫌な気持があって下を向いて目をそらす。小百合に直接教えを与えていた姉が自分のことなど忘れてしまっているような気がしてしまう。

 

「リコ」

 後ろから呼ばれ、リコは思わず顔を上げて振り向いた。

 

「ついに一番が見えてきたわね。あなたなら必ずできると信じているわ」

「お姉ちゃん……」

 

 リコの胸にこみあげてくる思いがあり、同時に涙が溢れてしまう。

 

「リコ?」

 リズが近づいてきて心配そうに妹のことを見つめる。

 

 ――わたしはバカだわ。お姉ちゃんはこんなにも、わたしのことを見ていてくれたのに……

 

「その涙は少し早いんじゃないかしら」

「お姉ちゃんの言ってくれたことがうれしくて、もう大丈夫だから」

 

 リコは涙を拭いてから姉の目をしっかり見つめていった。

「お姉ちゃん見てて、わたし絶対一番になるから」

 

 リズは嬉しそうに微笑を浮かべて頷いていた。そんな姉妹の姿を見ていたみらいは、リコが元気になって本当に良かったと思った。

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