手抜きはしたくないので、可能な限りやれることは全部やろうと思っているのですが、
プリキュアの変身シーンを文章で再現するのは無理がありますかね……
カフェ魔法瓶の開店にはまだ時間があった。表通りには人が並び始めている。ラナはお店の裏口に箒を降ろして二人で着地する。裏口の前でお店のオーナーが待っていた。
「おや、今日はラナちゃんが持ってきてくれたんだね。それにしても久しぶりだね」
「おじさん、久しぶり~」
小百合がホールで3段のアップルパンを籠から取り出してオーナーの男性に近づく。リンゴたっぷりのパンなので、ホール三つは結構な重量がある。小百合は落とさないように慎重に運んできた。
「お待たせしました、アップルパンです」
「おお、ありがとう。キュアップ・ラパパ、移動」
オーナーが杖を振ると、小百合の持っていたアップルパンがひとりでに浮いてお店の奥へと移動する。それが終わるとオーナーは言った。
「いやあ、きれいなお嬢さんだね。ラナちゃんのお友達かい?」
「そうだよ! 小百合っていうの、親友なの!」
「ラナちゃんの親友か、そりゃあいい。仕事が終わったら二人で店によりなよ、お茶とケーキをごちそうするからさ」
「やった~っ、おじさん、ありがと~」
ラナとオーナーが話している時に小百合が裏口から店の外の方に目をやると、店の前の行列の中にみらいとリコの姿を見つけた。
――あの子たち、きっと闇の結晶を探しに来ているのね。
自分たちは闇の結晶を探しに来ているわけではないので、小百合は特に警戒はしなかった。喫茶店への配達が終わると次は高級宿屋に向かった。
その頃、商店街の一角が騒然としていた。巨体のボルクスが街を歩き、その一歩ごとに地面が振動する。人々はその姿を見ては逃げ出し、慌てて店を閉め出す人もあった。
「強い闇の匂いだ。どこにいるプリキュア」
「なんだい、騒がしいと思ったらボルクスだったのかい」
「うん? 誰だ?」
ボルクスが足元を見ると白猫がちょこんと座っていた。
「フェンリル? おめぇ、こんなところでなにやってるんだ?」
「そりゃこっちの台詞だ。あんたみたいのがこんな街中に出てきたら大騒ぎになるだろう、迷惑なんだよ」
「なにぃっ! 俺様はプリキュアを倒すためにここに来たんだ! つえぇ闇の匂いを感じるから、近くにいるはずだ!」
「あんたにしちゃあ、頭を使ったね。恐らくビンゴだろう。近くに闇の結晶を集めてる奴らがいるよ。闇の結晶の反応が複数ある」
「どこだ、プリキュア! 姿を見せろ!」
「落ち着きなって! 叫んだって出てきやしないよ。それよりもいい方法がある。二人でヨクバールを召喚するんだ」
「何だと? それの何がいいんだ?」
「いいから言われた通りにやりな!」
「チビのくせに、この俺に命令するな!」
フェンリルがむっとして牙を見せる。飛びついてボルクスの顔をひっかいてやりたくなったが、自分の利益のために思い止まった。
「まったくわかんない奴だね! プリキュアを倒すのに協力してやるって言ってるんだよ。それがあんたの望みのはずだ。安心しな、プリキュアを倒した手柄は全部あんたに譲ってやるからさ」
「本当だろうな?」
「嫌ならいいよ、わたし一人でプリキュアを倒すから」
「ま、待て、それは困る! プリキュアを倒してロキ様に認めてもらわなくちゃならねぇんだ」
フェンリルが隠し持っていた闇の結晶を地面に置いて手で弾くと、それがうまい具合にボルクスの手の中に入る。
「そいつを使いな」
ボルクスは辺りを見て人が逃げ出して無人になっている店先に冷凍ミカンが置いてあるのを見つけた。ボルクスがそれに向かって腕を一振りすると凍ったミカンの表面に黒い結晶が突き刺さった。
「さて、わたしはどれにしようかね」
フェンリルが見上げると、道の真ん中に幼い女の子がウサギのぬいぐるみを抱いて立ち尽くしていた。女の子はボルクスを見て震えていた。
「何だ? タリスマンがあのぬいぐるみに反応しているぞ」
フェンリルは状況を理解するとニヤリと笑った。
「そういうことかい、丁度いい!」
フェンリルが獲物を狙う獅子のように前屈みになり地面に爪を立てる。同時にボルクスは拳同士を合わせ、右腕を天に向かって突き上げた。そして二人が同時に唱える。
『いでよ、ヨクバール!』
一瞬で空が黒い雲で覆われ、天井に巨大な闇の魔法陣が現れる。闇の結晶が突き刺さった冷凍ミカンと、結晶を内包するウサギのぬいぐるみが魔法陣に吸い込まれていく。間もなく、魔法陣から2体の黒い影が引き出されてくる。一体は氷におおわれた丸いミカンの体に竜の骸骨の仮面、背中に骨だけになったような氷の翼、それに氷の鳥の足がはえている。もう一体は竜骸の顔に長い耳の付いた巨大なウサギのような姿で、手の爪が異常に長く鋭い。足は動物のウサギそのもののような形をしていて、見た目で脚力に優れていることが分かる。
『ヨクバアァーーーールッ!!』
2体のヨクバールの声が街中に響き人々を震撼させた。
幼い少女は優しいぬいぐるみの感触を失い呆然と目の前の化け物を見ていた。
「わたしのうさちゃんが……」
「危ない、逃げるんだ!」
父親がきて少女を抱いてそこから逃げ出した。
フェンリルはウサギ型のヨクバールの体を駆け上がり、その肩に座ると言った。
「プリキュアどもを呼び寄せるのは簡単だ。ヨクバール、街を破壊しろ!」
「ヨクバール!」
ヨクバールが近くの建物に長い爪を叩きつけて破壊する。一方、冷凍ミカンから生まれた丸形のヨクバールは空を飛んでプリキュアの姿を探した。街中の人がヨクバールを目撃してたちまちパニックになった。お店でくつろいでいたみらい達がその騒ぎに気付いて外に出てくる。
「リコ、あれ見て!」
「ヨクバール!?」
「あそこにもいるよ!」
「2体も!? このままじゃ街がなくなるわ!」
みんな慌てて逃げ出して、みらいとリコだけその場に取り残される。その時に小百合たちもヨクバールの姿を見てすぐに箒で駆けつけていた。小百合は二人乗りの箒の上から道の真ん中に立っているみらいとリコを見つけていた。
「あそこにみらいとリコがいるわ」
「あ、本当だ! あんなところにいたら危ないよ! 早く変身して助けようよ!」
ラナが後ろの小百合に振り向いて言うと、小百合は首を横に振る。
「しばらく様子を見ましょう」
「小百合、なにいってるの!? あのままほっとくつもりなの!?」
「いいから黙って見ていなさい、そうすれば全部わかるわ」
リコとみらいが互いを見て頷き、右手と左手をしっかりつないで互いにその手に力を込める。二人が強くつながった場所に小さな星とハートをそえたとんがり帽子の光る紋章が現れる。少女たちは即座に光の衣をまといつないだ手を後ろに、もう片方の手を天へと向けて高らかに呪文を唱えた。
『キュアップ・ラパパ!!』
二人の背後からあふれ出た深紅の光が螺旋を描く。
「モフ―ッ!」
深紅の光が宙返りするモフルンの胸のリボンに接触すると、光が焔のように燃え上がり、
『ルビー!!』
少女たちの声に合わせてモフルンの胸に力を司る真紅の輝石ルビーが輝いた。着地したモフルンは全力疾走、そしてジャンプ、みらいとリコの間に勢いよく飛び込んで3人が繋がった。
『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!』
輪となった3人が高速回転し、深紅の波動がかまいたちのように鋭い衝撃となって周りに広がる。小さな体のモフルンは高速の回転で体が高く浮き上がり、その身に赤いハートが刻まれると、モフルンの手からルビーの力が流れ込み、二人の身を包む衣の光が深紅に変わった。みらいとリコが手を放すと二人の手と手の谷間に光の帯で巻き上げられたリボンが現れる。リボンは解けて二人の体を伝わり頭上で大きなハート型になって弾けると、真紅の薔薇そのもののような不思議な花びらを散らした。舞い踊る深紅の花吹雪の中で二人の姿が変わっていく。
みらいの右の手首に金の腕輪が現れ、真紅の花びらが螺旋となってみらいの体にまとわり流れていく。背中に長い帯の付いた赤いリボンが現れ、首には中央にピンクのハートのある白いフリルの付いた赤いネックリボン、体に燃え上がった炎が一瞬で消えて純白のロンググローブとパフスリーブの真紅と白が彩るドレスに変化する。丈が膝上程のスカートの縁には細い赤の帯がありその上下に幅の広い白のフリルがついていて、その片隅には真ん中にピンクのハートが光る赤と白のストライプリボンが現れる。
リコの左の手首にも金の腕輪が現れる。真紅の花びらがリコの体に集まって輪になって巡り、花びらの消失と共に全身が燃え上がる。右腕の方から炎が消えて真紅のドレスが現れていく。長袖のオフショルダーで袖口が花を思わせる形のベルスリーブ、胸部、左腕のベルスリーブの長袖の順にドレスの姿が現れていく。ドレスの二の腕の袖口から背中にかけて白いファーの縁取りになっていた。同時に首には上部に黒のフリルの付いた紅のネックリボンが現れる。続いて胴部と下半身の一部の炎がはがれ、ドレスの黒い部分が現れ、続いてブラッドオレンジのフリルスカートと腰回りに赤と白のストライプのツインリボンが飾られ、それにそえられた二つの星が輝きを放つ。
二人の足元に深紅の花びらが舞い、ミラクルのピンクのハートを飾った赤い靴と裾に赤いフリルのある純白のハイソックスが、マジカルの星が光る赤い靴と足首に白いフリルとカーターベルトの付いた紅のレッグドレス、そしてミラクルとマジカルが左手を右手を合わせると、二人の頭部にピンクのとんがり帽子のカチューシャと黒いとんがり帽子の髪飾りが。二人の髪が燃え上がって後ろに長く流れ、炎が払われた時にはロングツインテールの髪となった。最後に二人の胸に一枚の真紅の花びらが落ちてくる。それぞれの胸で花びらが激しく燃え上がり、爆炎の中から現れた中心にルビーが輝く赤と白のストライプリボン、それがミラクルの左胸とマジカルの胸の中央に彩をそえた。
ミラクルとマジカルとモフルンが手を繋いで再び輪となり、体を水平に高速回転しながら下から広がる光の中へ。
地上に現れたハートのペンタグラムが超高速回転で飛び去り、魔法陣から真紅の輝きと共にプリキュアとなった少女たちがモフルンと一緒に躍り出る。三人は高く跳んで、着地と同時に焔を上げ、モフルンは二人から離れていく。右側のミラクルが右の人差し指で力強く天を突き、前を指し、空を裂く勢いで右上へ振り抜き、
「二人の奇跡! キュアミラクル!」
ミラクルの周囲で猛き焔が爆裂する。
左側のマジカルが左の人差し指で空を射抜き、前を突き、敵を切り裂くように左へ振る。
「二人の魔法! キュアマジカル!」
マジカルの背後で熱き炎が燃え上がる。
ミラクルとマジカルは体を合わせ、目の前の敵を押しのけるような力強さで同時に左手と右手を前へ。
『魔法つかい! プリキュアッ!!』
赤きプリキュアとなって現れた二人を小百合は冷静に見ていた。
「守護のリンクルストーンによってスタイルが変化するのね。変わっているのは見た目だけじゃないはずよ」
ラナは驚きすぎて大きな目をさらに大きくしたままで、まだ声が出ない。しかし、次の瞬間にラナの中でくすぶっていたものが爆発した。
「うええぇーーーっ!? みらいとリコがプリキュアだったの!? しかも超かっこいいあのプリキュア!! 赤くてかっこよくて、さいっこうにファンタジックだよっ!!」
「うるさいわね……」
「小百合はこのこと知ってたの!?」
「だいぶ前に気づいていたわよ」
「なんで教えてくれないの、ひどいよ~っ!」
「あんたに教えたら大惨事にしかならないからね」
小百合が感情なしに冷たく言い放つ。その間もミラクルとマジカルの姿を見つめていた。
「動き出したわ、追いかけて」
「ねぇ、助けないの?」
「動くのはあのプリキュアの能力を確かめてからよ」
ラナは言われた通りにマジカルたちを上空から追いかけた。二人は屋根伝いに丸形のヨクバールに接近していた。