魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ダークネスの奸計とミラクルの看破

 宵の魔法つかい二人は目の前で大騒ぎしているボルクスの姿など見ていなかった。彼女たちの視線の先には赤き二人のプリキュアがいる。今再び、光と闇の魔法つかいプリキュアが交わったのだ。

 

「先に決めるわよ、ウィッチ!」

「ほいさ~」

 

 右にダークネス、左にウィッチ、二人は触れ合っている手を強くつないで後ろに引き、頭上でもう片方の手を重ねる。ダークネスのブレスレットに薄ピンクのローズクウォーツ、ウィッチのブレスレットには炎のようなオレンジサファイアが光を放った。

 

「あのリンクルストーンは!?」

 マジカルが声を上げる。かつて小百合に見せてもらったリンクルストーンを二人の黒いプリキュアのブレスレットに見た。

 

『二つの魔法を一つに!』

 

 ダークネスとウイッチがそれぞれの手で半円を描き、下でピンクとオレンジの光が重なり合た時、その2色で描かれた色鮮やかな月と星の六芒星魔法陣が輝く。ミラクルとマジカルは今戦っていることを忘れて、その幻のようにきれいな魔法陣を見つめていた。

 

『赤く燃え散る二人の魔法!』

 

 二人は繋いでいるてにさらに力を込め、輝く2色の魔法陣に手をそえると魔法の呪文を唱えた。

 

『プリキュア! クリムゾンローズフレア!』

 

 ウサギ型ヨクバールが跳ねるように起きて跳躍し、ダークネスとウィッチに迫ってくる。二つの輝きを持つ魔法陣から焔を放つ花びらが大量に吹き出し、燃え上がる螺旋の衝撃にヨクバールが巻き込まれる。舞って燃える焔の花々はヨクバールを包み込むように渦を巻き、一気に天空へと昇華する。炎に包まれて宇宙へと向かっていくヨクバールはまるで隕石が逆行しているかのようだ。

 

「ヨク……バール……」

 

 ヨクバールが宇宙に至ると緋色の無数の花びらが一瞬止まってヨクバールに収束し爆発する。ヨクバールを消滅させると共に炎は燃え広がり太陽のように強い光を放った。

 

 ダークネスとウィッチの大魔法によって地上に光が降り注ぐ。ミラクルとマジカルは赤く燃え上がるような空を見上げて言った。

 

「すごい!」

「全く違う二つの魔法を合わせるなんて、そんな魔法が存在するなんて……」

 

 空からふってきた闇の結晶とウサギのぬいぐるみをダークネスが高く跳んでいち早く確保する。戻ってきた彼女は屋根に着地すると、隣のウィッチに押し付けるようにしウサギのぬいぐるみを持たせた。ダークネスには油断がなく、ヨクバールを倒しても戦闘態勢を崩さなかった。

 

 丸型ヨクバールが動き出し、アイホールに赤い目が現れてミラクル達を睨む。

 

「マジカル、わたしたちも!」

 ミラクルの呼びかけにマジカルが頷きで答える。

 

 虚空にダイヤのリンクルストーンが輝く二つのリンクルステッキが現れてクロスする。ミラクルとマジカルはそれぞれのリンクルステッキを手に、

 

『リンクルステッキ!』

 

 リリンと並んで戦いを見ていたモフルンの胸のルビーが激しい輝きを放つ。それに隣にいたリリンがちょっと驚いた。

 

『モッフ―――ッ!!』

 

 モフルンのルビーから深紅の光線が放たれて大きな流れとなり、ミラクルとマジカルに接近する。二人が交差させているリンクルステッキのダイヤに深紅の閃光が衝突し吸い込まれる。凄まじい衝撃に二人は耐え切れず、リンクルステッキを持つ手が外へと弾かれた。その瞬間にダイヤがルビーに入れ替わり、マジカルが左手に持つリンクルステッキの星のクリスタルと、ミラクルが右手に持つリンクルステッキのハートのクリスタルに赤い輝きが灯る。

 

『ルビー! 紅の情熱よ、わたしたちの手に!』

 

 二人はつないだ手を上へ、赤く輝くリンクルステッキをまっすぐにヨクバールに向ける。モフルンの胸のルビーがまた輝き、赤炎のような光が広がっていく。

 

『フル! フル! リンクルッ!!』

 

 二人がリンクルステッキで描いた真紅のハートが一つに重なり、炎が渦となってハートに集まる。二人がリンクルステッキで上を指すと、燃え上がる深紅のハートは天に向かって撃ちだされ、後を追うようにミラクルとマジカルも跳び上がった。赤いハートは空中で五つに分裂し、並んで輪になり円を描く。空中でミラクルとマジカルが輪に並んだハートを踏み台にした瞬間に、赤い五芒星魔法陣が現れ五つのハートと一体となった。垂直に立った魔法陣の上でミラクルとマジカルは身をかがめ、結んだ左手と右手を上に互いに強く握り合う。そしてリンクルステッキを前方で交差させて強き呪文を唱える。

 

「プリキュア! ルビーパッショナーレ!!」

 

 二人が前へ飛び出すと同時に魔法陣から爆炎が吹き出し二人の姿は炎の中に消える。爆炎から矢のような一条の炎が突出し、その炎をかき消して真紅の光をまといし赤き乙女たちが飛翔する。そしてヨクバールは闇の波動をまとって突撃していく。真紅と闇が激突し、赤き乙女たちが闇を打ち払い、深紅の光を引きながらヨクバールとすれ違う。刹那に真紅が螺旋の帯となってヨクバールを包み込み、光のリボンを織りあげると、ヨクバールは赤いリボンの結び目に封印されていた。

 

「ヨクバール……」

 

 深紅に輝くリボンの長い帯が引かれると結び目が急速に収縮し、ヨクバールは凄まじいパワーで圧縮されて光のリボンが解けると同時に消滅した。2体のヨクバールが消滅したことで、破壊された街並みは元に戻っていった。

 空から冷凍ミカンと闇の結晶が降りてくる。ミラクルとマジカルがそれを見上げると、ダークネスが跳んで闇の結晶だけをつかみ取った。

 

「ああっ!?」

 マジカルが声を上げる。ミラクルの方は黙って悲しい顔をしていた。

 

「うわぁ!? ダークネスったら、またあんなことして!」

 

 ウィッチが慌てて屋根から跳び下りてミラクルとマジカルの方に走っていく。その時にヨクバールが消えて安心した街の人々が中央の広場に集まってきた。

 

 ダークネスはミラクル達の近くに着地すると言った。

「強力な魔法だったわね」

 

 ダークネスそう言って相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべる。それが挑発だと分っていても、マジカルは言わずにはいられなかった。

 

「ふざけないで! 横取りするなんて卑怯よ! あなたそれでもプリキュアなの!」

「なんとでも言いなさい。わたしは目的のために手段なんて選ばない」

 

 ダークネスの後ろに来たウィッチが、ミラクルとマジカルを見て自分が悪いことをしているとでもいように申し訳なさそうな顔をしている。ダークネスは奪った闇の結晶をマジカルに見せつけて言った。

 

「これは頂いていくわ。悔しかったら力づくで取り返したらどう?」

 

 マジカルの握る手に力が入る。ミラクルがその姿を不安そうに見つめた。ミラクルにはマジカルが苦しんでいるのが分かった。まるで追い詰められている、そんな空気を感じる。

 

 集まってきた街の人々はプリキュア達の間から漂ってくる不穏な気配に戸惑っていた。その中のブラウンの帽子をかぶった小柄な老人が杖をつきながら言った。

 

「前に見たプリキュアは2人だったが、今度は4人、仲間なのか?」

「俺にはもめているように見えるぞ」

 老人の隣にいた大柄な箒店の店主が言った。

 

 ダークネスはどこか苦しそうなマジカルに余裕の笑みを交えて言う。

 

「あんた達はチェスでいえばチェックメイトされているようなものよ」

「どういうこと?」

 

 ミラクルにはダークネスが何を言っているのか分からない。

 

「マジカル、あなたは分かるわよね。だってあなたは、破壊されたビルの壁を見ていたのだから」

「あなたもあそこにいたのね!」

 

 ミラクルとウィッチにはまったく話が見えない。しかし、次のダークネスの話に衝撃を受けた。

 

「プリキュア同士で戦った場合、破壊されたものは元には戻らない。わたしたちが本気で勝負したらこの街は消滅するかもね」

 

『ええーーーっ!?』

 ミラクルとウィッチが同時に叫んだ。

 

「だからあなた達は、この闇の結晶を取り返すことはできない」

 

 ダークネスは見せつけていた闇の結晶を手の内に隠し、マジカルにさらに近づく。二人の間にほとんど距離がなくなった。ダークネスはマジカルの目を射るように見ながら言った。

 

「闇の結晶を持っているでしょう、全部渡しなさい」

「そんなこと言って渡すとでも思っているの?」

「わたしは手段を選ばないと言ったわ。渡さないというのならば攻撃も辞さない」

 

 そんな事は出来ないとマジカルは思う。ダークネスの正体が小百合だということはもう分かっている。あの小百合が街を巻き込んでまで攻撃してくるとは思えない。だが一方で、この人なら本当にやるかもしれないという気持ちもあった。ダークネスの徹底した合理性をマジカルは理解しているし、つまらない脅しなどかけてくる(たち)ではないとも思う。100%攻撃をしてこないという保証はない。

 

 ダークネスとにらみ合っていたマジカルの視線が下がる。手ごたえを感じてダークネスは薄く笑った。

 ――マジカルはわたしと同じ合理的な考えの持ち主、この街に危険が及ぶ可能性はすべて回避してくる。

 

 ついにマジカルが目を閉じる。その表情に辛い気持ちがよく表れていた。ダークネスは勝ったと思った。

 

「そんなこと、できるわけないよ」

 ダークネスが思ってもみないところから声が起こった。声を聞いたマジカルは不思議な安心感が広がって目を開けた。

「ミラクル……」

 

 今度はミラクルがダークネスの近くまで進み出て言った。

「ダークネスは優しい人だよ。友達を家族みたいに思いやれる人に、この街を壊すことなんてできるわけない」

 

「あなたにわたしの何が分かるというの?」

「それは、分からないことだらけだけど……」

 

 責められるように言われたミラクルは一瞬目を伏せるが、すぐにダークネスを見つめて友達に見せるような笑顔で言った。

 

「わたし、カタツムリニアの中でダークネスが小百合だって分かって嬉しかった。あんな酷いことしたのは、とっても大切な理由があるからなんだって思えるようになったから」

 

 それを聞いたダークネスはさすがに驚いた。

「……どうしてわたしの正体が分かったの?」

「それは、ダークネスがウィッチを呼ぶ姿と、小百合がラナを呼ぶ姿が同じだったから」

 

 ダークネスはミラクルの研ぎ澄まされた感覚に一種の恐ろしさを感じる。つまりみらいは、校長よりも先に小百合がダークネスだということを見抜いていたのだ。それにもかかわらず小百合とは友達として普通に接していた。それにまったく気付けなかった事がダークネスに敗北感を与えた。

 

「なるほどね、注意すべきはあなたの方だったのね」

 ダークネスは踵を返してミラクル達に背を向け、少し離れたところに立って見ていたウィッチの方に歩き出す。

「作戦は失敗ね、うまくいくと思ったんだけどね」

 

 ダークネスはウィッチの隣にくると手のひらを返して言った。

「ウィッチ、ぬいぐるみ」

「はいっ!」

 

 ぬいぐるみを受け取ったダークネスが階段の上に集まっている人々を見上げる。街の人たちの不安と困惑が重い空気となってよどんでいた。ダークネスが跳躍して人々の前に降りると、ダークネスの姿が闇をイメージさせる事も手伝って人々は恐れを抱いた。ダークネスが群衆の中にいた幼い少女に近づく。周りの人々は思わず後ろへ下がってしまった。ダークネスは少女の背丈に合わせて膝をつくと、ぬいぐるみを手渡した。

 

「約束通り、ぬいぐるみは取り返したわ」

「ありがとう、プリキュア!」

 

 少女のその一言とダークネスの優しい対応で、人々の間に安心感が急速に広がった。この乙女もプリキュアなんだと、みんな確認する事ができた。

 

「行くわよ、ウィッチ!」

 ダークネスに呼ばれたウィッチは妙に慌ててミラクル達に向かってしどろもどろに言った。

「な、なんていうか、ミラクル、マジカル、ごめんね!」

 

 ミラクルが気にしないでというように首をふり、

「ウィッチ、助けてくれてありがとう」

「わたしたち、こんな関係じゃなかったら、もっと良かったのにね」

 

 その言葉には、ミラクルは悲しい顔で返すしかなかった。ウィッチはダークネスの方に向かって跳び、二人の前からいなくなった。

 

「帰りましょう、ミラクル」

「うん……」マジカルに答えるミラクルは元気がなかった。

 

 

 

 プリキュア達の一部始終をフェンリルはよく見ていた。彼女は自分のヨクバールが負けたにも関わらず勝者のような笑みを浮かべて言った。

「あいつら敵対してんのかい。こりゃあ利用できそうだねぇ」

 

 一方、ダークネスとウィッチの大魔法に巻き込まれそうになって街外れまで逃げてきたボルクスは地団駄を踏んでいた。

「くっそーっ、プリキュア! 次は絶対倒すからな!」

 

 

 

 夕方ごろにリズは校長室の掃除をしたり書籍を整理したりと雑用をこなしていた。校長は机を前に考え事をしている。最近はこういう姿の校長を見ることが多くなった。

 

 リズが窓の辺りを掃除しようとした時に、窓辺になにか置いてある事に気づいた。

「あら、これは?」

 

 それは白い紙に包まれた円形のもので、リズが持ち上げてみると柔らかい感触で割と重さがあった。

 

「校長先生、窓のところにこんなものが置いてありました」

 リズがそれを校長の机の上に置いて紙を開くと、ホールのアップルパンが姿を見せる。

 

「まあ、これはエリーのアップルパンです。とても人気があってなかなか手に入らないんですよ」

「ほう、なぜそんなものが窓辺に?」

「きっとあの子たちだわ。どうして直接届けなかったのかしら?」

 

 それからリズがお茶の用意をすると、校長はお茶請けのアップルパンを一口食べて言った。

「うまし!」


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