魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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白猫フェンリルと強襲のヨクバール

 かなの聞き込みに付き合った後は、みらいは家に戻って着替えて最近の日課になっている黒い結晶を探しに公園に出かけた。モフルンはいつものように巾着バッグから顔を出している。

 

 この日みらいはいつかリコと出会った時のように、桜が満開に咲く公園の中をモフルンと一緒に歩いていた。

 

「今日はぜんぜんないなぁ」

 いつも公園を散歩すればいくつか見つかる黒い結晶が今日は一つもなかった。

 

「他の場所にいってみようか」

 みらいはモフルンに向かっていった。

 

 夕方近くなり公園には花見に集まる客が増えていた。大人たちが桜の美しさを楽しみながら酒を酌み交わし、楽しそうに雑談する姿があちこちに見られる。公園の中で鬼ごっこなどをして遊ぶ子供や、ジョギングや散歩をする人も多かった。その中を白い猫が歩いていた。

 

 野良猫のようだが人など恐れもせず、近づいて触ろうとする子供や少女を巧みな身のこなしで避けていく。その左目は金色、右目がターコイズブルーのオッドアイで、長い尻尾は毛が多くふんわりとしている。その尻尾を優雅に揺らして歩く姿には気品があった。そして白猫は首から黒いタリスマンを下げていた。それは怪しげな黒い魔法陣の形をしていた。

 

「タリスマンが強く反応している、すぐ近くに闇の結晶があるね」

 人の言葉を発した白猫は反応するタリスマンに従ってみらいの背後に近づいていく。

 

「ちょいと待ちな、そこの人間」

「はい?」

 みらいが振り向くと、そこには誰もいなかった。

 

「あれ、今誰かに呼ばれたような……」

「目の前で呼んでるよ!」

「ええ!? 声が聞こえるのに姿が見えないなんて!?」

「どこ見てんだい、下だよ下っ!」

 

 みらいが視線を落とすと、足元に白い猫が座ってこちらを見ていた。驚いたみらいはしゃがんで白猫をよく見た。至宝の宝石のように美しいオッドアイを見つめると驚きは即座に感嘆に代わる。

 

「きれいな白猫さんだね! あなたしゃべれるの?」

「わたしの名はフェンリル、ロキ様のために闇の結晶を探しているのさ。あんたは闇の結晶をたくさん持っているだろ、それを渡してもらおうか」

 

「本当にしゃべってる! そうか、誰かに魔法をかけてもらったんだね」

「ちがうよ、わたしはしゃべれる猫なんだよ!」

 

「すごい! 猫をずっとしゃべれるようにできる魔法なんてあるんだね!」

「ちがーう! 魔法は関係ない、魔法から離れろ! ええい、面倒だね!」

 

 白猫はみらいの想像できない素早い動きで跳んで、みらいの巾着バッグにしがみ付いてポケットの中に頭を突っ込んだ。それはほんの一瞬のできごとで、みらいが気づいた時には目の前で白猫が黒い結晶を口にくわえていた。

 

「その黒い結晶は、わたしのバッグの中からとったの!?」

 

 白猫フェンリルは首を振って近くの桜の木に黒い結晶を投げつけた。桜の木の太い幹に結晶がくっつくと、フェンリルは猫の手でタリスマンを触っていった。

「ロキ様から頂いた闇の魔法とやらを使ってみるかねぇ」

 

「闇の魔法!?」

 みらいにとって信じられない言葉がフェンリルの口から出てきた。

 

 座っていたフェンリルは四肢で立ち、頭を低く地面に前足の爪を突き立てて、相手を威嚇するような態勢になって叫んだ。

「いでよ、ヨクバール!」

 

 フェンリルの声に反応しフェンリルのタリスマンから闇の波動が広がる。その瞬間、フェンリルは苦しそうに顔を歪めた。フェンリルのタリスマンから魔法陣が浮き出て、それがゆっくり回転しながら空へと上昇してゆく。同時に魔法陣は見る間にその面積を増し、ついに上空に巨大な闇の魔法陣が刻まれた。

 

 そして、闇の結晶を宿した桜の木が恐ろしい吸引力で闇の魔法陣に引かれ、地にはった根っこごと引きはがされた。桜の大木と闇の結晶が魔法陣の中心に吸い込まれると、竜の骸骨が現れて巨大な口を開く。竜の骸骨が魔法陣から離れると、同時に闇の魔法陣から恐ろしい影が引き出されていく。その黒い影があれよという間に形を成す。影が長く伸びて両手両足となり、人のような姿になっていく。唐突に影が晴れると頭が竜の骸骨の木人が現れた。

 

「ヨクバアァーーーールッ!!」

 その凄まじい声でみらいの体が震えた。

 

 突然現れた化物の姿を見て辺りにいる人々が声を上げて逃げ出していく。みらいだけがその場から動かずにヨクバールを見ていた。体そのものが凹凸のある樹木そのもので、頭と背中から無数に突き出る枝から桜の花を咲かせ、竜の骸骨はときどき青い炎を吐き出す。そして何もないドクロの目の中に異様に輝く赤い光が現れてみらいを(にら)んだ。

 

「こ、これがヨクバール!? こんなの見たことない……」

 

 目の前にいるのは、みらいがかつて戦ったヨクバールとは次元の違う怪物であった。みらいは心底怖くなって後ずさった。プリキュアであった頃なら強く立ち向かえたが、今はその力は失われているのだ。

 

 フェンリルが歩いてきてヨクバールの足元に座った。

「命が惜しければ、あんたが持っている闇の結晶をおいて立ち去りな」

「闇の結晶って……」

「あんたのバッグにしこたま入ってるだろ」

「これ、闇の結晶っていうんだね」

 

 みらいはバッグを抱き込んでフェンリルと対峙する。彼女の強い気持ちがラベンダーの瞳の輝きに現れていた。

 

「どうしたんだい、さっさとそいつを渡しな」

「これは絶対に渡さない!」

「なんだって? あんた命が惜しくないのかい?」

「あなたが何者かも知らないし、これが何なのかもわからない。でも、あなたが悪者でこれを悪いことに利用しようとしていることはわかるよ。だから、これは渡さない!」

 

 フェンリルは目を細くして侮る笑みを浮かべる。

「まったく人間てのはよくわからない生き物だね。まあいいさ、渡さないというなら奪い取るまでだ」

 

 みらいが走り出してモフルンをバッグごと抱えて逃げる。

 

「逃げられるものか、行けヨクバール! あの娘から闇の結晶を奪い取れ!」

「ギョイ―ッ!」

 

 竜骨の仮面をかぶった異様な木人が一歩ごとに地鳴りを起こしながら動き出す。みらいはときどき後ろを振り返りながら走り続けていた。そして急に曲がって、一本の桜の木の陰に隠れる。ヨクバールはみらいの姿を見失って竜の骸骨を左右に振った。フェンリルがヨクバールの巨体を素早く駆け上がって肩に乗り辺りを見渡しつついった。

 

「隠れたって無駄さ、人間ごときがヨクバールから逃げ切れるはずがない」

 フェンリルは桜の木の陰にみらいの姿を見つけると、口の端を歪めて牙を晒し怖い笑みを浮かべる。

「そこだ!」

 

 敵に見つかったことを悟ったみらいは公園の道を全力で走り出した。フェンリルは遥かに高い場所から逃げてゆくみらいの背中を見つめていった。

 

「ちょこまかと面倒くさい、ヨクバール、一気にやっちまいな!」

「ヨク――ッ!」

 

 ヨクバールが竜の顎を開き、その奥にある黒い渦を巻く空間に急激な勢いで空気が吸い込まれていく。同時に間近にある桜の木から花まで根こそぎ引きちぎって飲み込んでいく。まるで後ろ髪を引かれるような異様な空気の動きを感じたみらいは一瞬後ろを振り返ると、大口を開けてこちらを睨むヨクバールの姿が目に飛び込んできた。みらいは全力を振り絞って走り続けた。

 

「ヨクバァ―――」

 ヨクバールが奇妙な雄叫びと共に、渦を巻く花吹雪をみらいに向かって吐き出す。美しい見た目とは相反する常識では考えられない威力の竜巻がか弱い少女に襲いかかる。唐突に背中から暴風を受けたみらいは、成す術もなく桜吹雪の竜巻に巻き込まれて上空に吹き上げられる。

 

「ひゃあぁ―――っ!?」

 そんな状態でもみらいは巾着バッグを放さずにしっかり持っていた。

 

 フェンリルは強烈な竜巻に巻き込まれて螺旋状に昇っていくみらいを見上げて言った。

「いいかげんに闇の結晶を渡しな! このままじゃ、あんた本当に死んじまうよ!」

「絶対にいや!」

「なんて強情な娘なんだい!」

 フェンリルは舌打ちをして考えた。

 

 ――人間の小娘ごときを殺してまで闇の結晶を奪うんじゃあさすがに後味が悪い。そこまでしなくても、闇の結晶を奪うのはわけもない。いったん攻撃を止めさせるかね。

 

 荒れ狂う花吹雪の中、みらいは凄まじい風圧でろくに息もできないような状態だった。首から下げているピンクのペンダントは強風で空を舞い、次第に腕の力が失われ、ついにモフルンがみらいの腕から離れて巾着バッグから花吹雪と一緒に巻き上げられてしまう。

 

「モフルン!!」

 みらいは離れていくモフルンに向かって必死になっていっぱいに手を伸ばすが、モフルンは無数のはなびらと一緒にそれよりもはるか高い上空へと飛ばされていく。

 

「モフルン……」

 みらいはもう一度その名を呼んだ。ただの少女でしかない今のみらいでは、どうにもしようがなかった。みらいにはこんな時に助けてくれる親友がいる。しかし、彼女がここに現れる可能性は万に一つもない。みらいにはそれが嫌というほどに分かる。このままではモフルンと離れ離れになってしまう、そしてそれはもう避けられない事実となりつつあった。

 

 絶望的な状況にみらいのラベンダーの瞳が潤み、涙が滲んだ。もうみらいは何も考えられなくなり、周囲の音まで感じなくなった。あるのはただ、大切な大切な家族のモフルンが失われるという絶望感だけだった。

 

 その時、別の少女がモフルンに向かって手を伸ばした。そして彼女が空へ舞い上がろうとするモフルンの右手をしっかりつかんだ。その瞬間、花びらと風の中で魔法つかいの姿をした少女の菫色(すみれいろ)の髪がたなびく。

 

 みらいの視界に突然飛び込んできた箒に乗っている魔法つかいの少女、みらいはその少女を誰よりもよく知っている。しかし、驚きのあまり声が出なかった。これは夢か幻ではないかと疑ったほどであった。魔法使いの少女は方向転換して高速でみらいに接近してくる。

「みらいーっ!!」

 

 少女が呼ぶ声でみらいの意識が呼び覚まされ、これがまぎれもない現実であることを悟る。その瞬間に思考を越えた声がみらいの胸の奥からあふれ出した。

「リコ!!」

 

 リコはモフルンを右腕で抱え、左手をみらいに向かってのばす。みらいは右手をのばし、空中で二人の少女の手が重なり合い、しっかりと結ばれた。リコがみらいを引き寄せ、みらいはリコに抱きついた。

 

「間に合ってよかったわ。まあ、計算通りだし」

「リコ! リコっ!」

 

 二人が抱き合うと、みらいとリコが身に着けている同じ形のペンダントにダイヤのリンクルストーンが現れて輝き、モフルンがその光に照らされる。

 

「苦しいモフ」

 抱き合う二人の間から声がもれた。

 

 みらいとリコが少し体を離すと、二人の間に挟まっていたモフルンが姿を現した。その見た目が先ほどまでとは少し変わっている。青くなった目に黄色の星が入り、首元のピンクのリボンの中央に丸いブローチが現れ、手の肉球はピンクのハートに、耳にもピンクの星が現れていた。

 

「モフルン!」

 みらいは考えもしなかった奇跡の連続に心が震え、涙がこぼれた。モフルンは微笑を浮かべ、リコの方を見上げて言った。

 

「リコ、ありがとうモフ。もう少しでみらいとお別れするところだったモフ」

 リコは無言の頷きでモフルンに答えてから言った。

 

「再会を喜ぶのは後にしましょう」

 みらいとリコは箒の上で地上からこちらを見上げる異様な怪物を見つめていた。二人の少女の気持ちが熱く高ぶり、戦いの兆しが強くなっていく。

 

 フェンリルは空を見上げて目を細める。

「いきなり魔法つかいが現れるとはね。だが、人間の使う魔法などヨクバールに通じやしない。わたしが闇の結晶を奪うという事実に変わりはない」

 

 リコとみらいは地上に降り立ち、後に箒から飛び降りたモフルンが二人の間に立った。強大な力を持つヨクバールに二人の少女と一体のぬいぐるみが対峙する。

 

 みらいとリコは見つめあい頷くと、左手と右手を重ねた。そして繋いだ手に金色のとんがり帽子に小さなハートと星をそえたエンブレムが現れ、つないだ手を後ろ手に、みらいは輝きを放つ桃色の衣に、リコは紫色の衣にその身を包み、みらいが右手をリコが左手を上に高く上げて同時の魔法の呪文を唱えた。

 

『キュアップ・ラパパ! ダイヤ!』

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