魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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魔法工場街

 誰も見知らぬ地の底の世界にある闇の城、その玉座に座るロキの前にフェンリルが横に白い袋を置いて白猫の姿で座っていた。その横には巨漢のボルクスがいる。フェンリルがボルクスの横にいると豆粒のようにちっぽけに見えるが、その姿はボルクスよりも遥かに威厳に満ちている。そんな彼女が言った。

 

「ロキ様、闇の結晶でございます」

 

 フェンリルが白袋を前に押し出すとロキが口の端を吊り上げる。

「相変わらずよく働くな、お前は」

 

 フェンリルがくいと小さな頭を下げる。次にロキはとなりのデカブツに向かって言った。

「お前はどうなんた、ボルクス」

 

「へい、もう少しでプリキュアを倒せそうだったんですぜ、本当にあとちょっぴりで!」

 

 ボルクスは胸を張って堂々とした態度で言った。ロキは眉をひそめてあからさまに不機嫌な顔になる。

 

「闇の結晶はどうした!?」

「俺はプリキュアを倒してロキ様に認めてもらおうと思いやして!」

「バカかてめぇはーっ!!」

 

 ロキの一喝でボルクスが瞬間冷凍されたように硬直する。ボルクスの足元でフェンリルは顔を背けて声を殺して笑っていた。

 

 ロキが玉座から立ち上がると、ボルクスの恐怖から巨体にどっと汗が吹き出す。

 

「プリキュアを倒すというのは悪くはねぇが、お前は失敗した。ごたごたとつまらねぇ言い訳は必要ない、結果が全てだ」

 

 ロキが目の玉だけを動かしてボルクスを見下げる。見られた方は圧倒的な眼力で臓腑が縮むような感覚と胃のむかつきを覚えた。

 

「俺は気が短い、次はないものと思え」

「へへぇっ!?」

 

 ボルクスは巨体を丸めて頭を下げていた。ロキに対する恐怖がそのように体を突き動かした。そんな情けない姿のボルクスの横でフェンリルが顔を上げて言った。

 

「ロキ様、報告があります」

「何だフェンリル、言ってみろ」

「伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいは敵対関係のようです。これを利用しない手はないかと」

「そうか。奴らは光と闇、対極の存在だ。相容れぬのは当然だろう」

 

 ロキは玉座に落ち着き傍らの台の上の黒龍の像をお気に入りのペットのように愛おし気になでて言った。

 

「フェンリル、お前に任せよう。ボルクスはフェンリルの命令に従え」

「うぐぐ、へい……」

 

 ボルクスは体を丸めたまま悔しそうにうめいた。

 

 

 

 翌朝から闇の結晶の捜索が始まる。小百合とラナは今までに何度かいっている商店街から探してみたが、あまり見つからない。代わりに闇の結晶らしきものをくわえている猫を何度か見かけた。

 

「また猫が闇の結晶みたいのくわえてるよ~」

 ラナが指す方向に堀の縁を歩く猫がいた。確かに黒い物をくわえている。小百合が近づいていくと、今まで見た猫と同様に一目散に逃げてしまう。

 

「どうして猫が闇の結晶なんかを?」

「たまたまなのかなぁ」

 

 小百合が考えていると、空から闇の結晶を探していたリリンが降りてくる。

 

「小百合、くやしいデビ!」

 リリンが小百合に胸に飛び込んでくる。

 

「何がくやしいの?」

「木の上に闇の結晶を見つけたのに、猫に取られたデビ」

「また!?」

 

「商店街の猫はきっと黒い物が好きなんだね」

 

 ラナが安易なことをいうと、小百合の頭に閃きが降りてくる。

 

「猫が好きなのは魚でしょう。あんな石ころをくわえている猫が何匹もいるなんておかしいわ。何者かが猫を統率して闇の結晶を集めさせているのかもね。そうだとすると敵の仕業ね」

 

 その時に小百合はさらに閃きがあって微笑した。

 

「次の場所に移りましょう。他に街はないの?」

「あるよ! 魔法工場街!」

「魔法工場?」

 

 ラナが笑顔でうんうん頷いてから言った。

 

「いろんな魔法の職人さんがお仕事している街なんだ」

「魔法の職人さんのお仕事みてみたいデビ」

「さっそく行ってみましょう」

 

 それから小百合たちは二人用の箒に乗ってラナの言う魔法工場の街に向かった。

 

 

 

 ラナは全速力ではないが、相当な速さで飛ばしていく。小百合は少し怖かったが、さすがに慣れてきた。リリンはラナの膝の上で抱かれて一番前の特等席で風を切る感覚と流れていく魔法界の景色を楽しんでいた。

 

「あそこにお空に浮かぶ島があるデビ!」

 リリンが黒い手で指した方角に空中に浮いている大きな島があった。

「あれが魔法工場街だよ~」

「大きいわね」

 

 ラナが箒を傾け横滑りしながら島に近づいていく。その箒操作に小百合の足がすくんだ。

「ひっ!? なんでそんな変な飛び方するのよ!」

「ちょっと方向まちがっちゃったからさ」

 

 小百合はそれっきり何も言わない。自分が箒に乗れるようになるためにも、すこし足がすくむ程度のことは我慢しようと思いなおしたのであった。

 

 街に近づくと、魔法商店街とは一味違った街並みが見えてくる。魔法商店街の全容が八角形なのに対して、魔法工場街は正方形であった。大型の建物が多く、道も広く商店街の3倍はありそうだ。網の目状に走ったその道が長方形のエリアをいくつも作っている。小百合はまるで工業団地だなと思った。工場の屋根は三角だったり平らだったり斜めだったり様々な形のものがあり、それらは赤や黄色や緑など色付きのおもちゃの積み木のような色彩で見た目にも楽しい。

 

 背後から動物の鳴き声らしきものが聞こえてくる。それは鳥の鳴き声をもっと太く勇ましくしたような声だった。

「危ないよ、お嬢さんたち!」

 

 後ろから来た巨大な生物が小百合たちを抜かしてゆく。

「おっきいデビ!」

「あれは、ドラゴン!?」

「ウィンドドラゴンだよ。重い荷物を運ぶドラゴンの運送屋さんだね~」

 

 ラナが言った。それは緑色の体に大きな翼と長い尻尾の付いた翼竜であった。首の根元の鞍に乗って男性が操っていた。その背中には山積みの丸太がくくりつけてある。

 

「ドラゴンが降りられるように道が広くなっているのね」

「それだけじゃないよ、ほら、あれ」

 

 ラナの示した方を見ると、荷物満載の大きな空飛ぶ絨毯が広い道に降りるところだった。遠くの方にはカタツムリニアのレールも見える。魔法界の工業の中心地だけあって、材料の搬入にあらゆる運送手段が用いられているのだ。

 

 小百合たちは広い道の隅の方に降りた。

「さ、闇の結晶を探すわよ」

「うわ~」

「デビー」

 ラナとリリンは小百合の言うことなど聞いておらず、近くの工場を覗き始めた。小百合は目的を忘れている二人をジト目で見るが、自分も職人の魔法には興味があった。

 

 そこは木工所で丸太を職人が木材に変えていた。数人の職人が魔法の杖を振り、複数のノコギリやカンナが勝手に動いて丸太から木材を切り出し、角材や平材に仕上げていく。熟練した職人の魔法による製材は素早く、まるでオートメーションの工場を見ているようだった。

 

 職人の姿は長袖に長ズボン、鍔のない丸い帽子というような成りが多く、商店街ではよく見かけたとんがり帽子やケープはほとんど見当たらない。

 

 次の訪れたのは家具工場で、二人の職人が木材で何かを作ろうとしていた。

 

「キュアップ・ラパパ、組み上げろい!」

 中年の職人が杖を振ると材料が一気に組みあがって椅子の形になる。

 

「キュアップ・ラパパ、トンカチよ釘を打て!」

 もう一人の若い青年職人が杖を振ると、トンカチと釘がひとりでに浮いて必要な場所に次々と釘が撃ち込まれていく。始めて見る魔法の制作を小百合は食い入るように見つめていた。

 

「共同作業なのね」

「うちの親方なら一人で全部仕上げちまうけどな」

 青年の方が小百合に向かって言うと、

「こら、きれいなお嬢さんだからって仕事中に話しかけるんじゃない!」

 中年の職人に注意されて青年は謝っていた。

 

 今度こそ闇の結晶を探そうと小百合たちが歩き出すと、街の低空に垂れこめている雲に人が集まっているのが見えた。小百合は興味が抑えきれずにラナに聞いた。

 

「あれは何をしているの?」

「人が雲にあつまってるね~」

 小百合が聞きたいのはそんな事ではない。ラナに聞いても無駄だと思った小百合は、ラナを促してそこまで行くことにした。二人箒に乗って雲に集まる職人たちに近づいていく。

 

「キュアップ・ラパパ、綿になりなさい」

 小百合たちは呪文を唱えている若い女性の近くまできた。

「雲を魔法で綿にしているの!?」

「すごいデビ! 雲をちぎっているデビ!」

 

 小百合とリリンが驚いて声を上げると、綿にした雲を丸めながら若い女は笑顔で教えてくれた。

「クモーメンカを作っているのよ。これで職人がベッドや布団を作るの」

「魔法界の綿は雲が原料なのね!?」

 小百合は理解を越えた魔法界の物づくりに目を見張った。

 

 職人の街は刺激が多すぎて闇の結晶探しが遅れてしまった。気を取り直して懸命に結晶を探し始める二人の少女と一体のぬいぐるみだったが、ここでもあまり見つからなかった。

 

「あ、あそこに落ちてる!」

 ラナが闇の結晶を見つけて拾おうとすると、その前に猫が来て闇の結晶をくわえて走り去ってしまう。

「あっ! まて~っ!」

 

 小百合は猫を追いかけるラナの姿を見ながら言った。

「また猫?」

 

 猫に逃げられてしまったラナが無念そうに肩を落としながら戻ってくる。

 

「せっかく見つけたのに取られちゃったよぅ……」

「さっきも闇の結晶らしい物をくわえている猫を見かけたわ。どうやら猫を操っている者がいることは間違いなさそうね」

 

 小百合が不敵な笑みを浮かべてからラナに言った。

 

「もう帰りましょう」

「え、もう帰るの? まだ時間あるんじゃなあい?」

「もう闇の結晶を手に入れる算段が付いたから、早めに帰って休みましょう」

「どういうこと?」

「あとで教えてあげる」

 

 それから二人は箒に乗って魔法工場街を後にした。

 

 

 

 時間は昼を少し過ぎたところで、工場街で見つけたパン屋の菓子パンをみんなで食べなが飛んでいった。ラナが食べかけのパンを持ちながら言った。

 

「今日はあんまり闇の結晶みつからなかったね」

「こういう日もあるわよ。他に集めている敵も多いしね」

 

「敵って?」

「決まってるでしょ、ロキの一味と伝説の魔法つかいよ」

 

「やっぱりそっちも敵なんだね……」

 ラナの言うそっちもというのは伝説の魔法つかいの方である。

 

「あんたはまだ分からないのね。あの二人を敵と認めなければフレイア様の願いを叶えることはできないのよ」

「わ、わかってるよぅ」

 

 小百合の言うことを頑張って分かろうとするラナだったが、なかなか心がついていかなかった。それから会話がなくなり、リンゴ村に向かってしばらく飛んでいると、小百合がずっと後ろの方に小さな二つ人の姿を見つけて言った。

 

「ラナ、上昇して」

「うん、上?」

「高度を上げて雲の中に隠れるのよ」

 

 ラナが言う通りにすると、彼女たちのずっと下の方を箒に乗った二人組の少女が通り過ぎていく。

 

「みらいとリコだわ。あの二人を見つからないように追いかけて」

「う、うん……」

 

 小百合がまた二人に何か仕掛けるつもらしいと分かってラナは心配になってくる。でも小百合を信用しているので言う通りにリコたちを上から追いかける。ラナの箒の技術なら二人に見つからないように追跡するのは簡単なことであった。みらいとリコは近くの無人島へと降りていった。

 

「追うのよ」

 

 背後から声をかけられたラナは嫌な予感しかしない。

 

「どうするつもりなの?」

「あの子たちの闇の結晶を頂くわ」

 

「それってもう完全に悪役だよ、アニメだったら負けパターン入ってるよ~」

「あんたのアニメ的考察なんでどうでもいいわ。わたしは目的のために出来ることをやるだけよ」

 

 ラナにもう言葉はなかった。小百合がそうしたいと言うなら協力する。自分の中に戦いたくない思いや友達に申し訳ない気持ちなど色々なものがあるが、ラナを一番に突き動かすものは小百合に対する信頼であった。二人は家族と同じか、それ以上の絆で結ばれているのだから。

 

 ラナが箒を急降下させて無人島へ。二人が地上に降りると目の前には高い木の生い茂る森があった。リリンを抱いている小百合とラナが森に入っていく。中は思ったよりも広々としていた。大きな木ばかりだし下草が短いので歩きやすい。異様な静けさの中で緑が強く香り、たまに鳥の鳴き声が聞こえてきたり、風が枝葉を鳴かせたりした。二人が注意しながら歩いていると、女の子が話し合っている声が聞こえてくる。小百合は一度止まってから声の聞こえる方に歩きだした。後ろからついていくラナは緊張していた。

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