魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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スタイルチェンジの弱点

「分からないなら教えてあげるわ。プリキュアとしての総合的な能力はどのスタイルも一緒なのよ。スタイルが変化すると能力の割り振りが変わる。ルビースタイルはパワーが上がる代わりにスピードが下がっているわ。だから動きを簡単に見切ることができた」

 

「そんな、ルビーにそんな弱点があったなんて……」

 

「サファイアとトパーズがどんな能力を持っているかは知らないけれど、秀でた能力と引き換えに弱点が存在することをよく覚えておきなさい!」

 

 ダークネスの確信に満ちた言葉がミラクルの胸に突き刺さり愕然とさせる。今までの敵では知りえなかったスタイルチェンジの弱点がダークネスたちと戦ったことで露見したのだ。ダークネスはマジカルの方を強く指さして言った。

 

「どんなにすごいパワーでも当たらなければ意味はないわ。そのスタイルになった時点で、あんたたちの敗北は確定している!」

 

「まだ勝負が決まったわけじゃないわ!」

 マジカルが地を蹴り、そのパワーで靴跡が地面に深く刻まれる。

「はぁーっ!」

 

 ダークネスに向かって右、左、右とパンチを繰り出していくが全てギリギリでかわされ、最後のパンチの右手首をダークネスが左手で捉えて引っ張ると、マジカルが前につんのめるようにして態勢を崩す。再び懐に入ったダークネスが右腕の肘鉄をマジカルの胸に打ち込んだ。

 

「ああっ!」

 

 途轍もない勢いで吹っ飛んだマジカルは後方の大木に激突して華奢な体で太い幹をへし折った。木が倒れると土煙が舞い上がり、マジカルの姿がその中に消えてしまう。

 

「マジカル!?」

 

 ミラクルの悲痛な叫びがあがる。土煙が次第に消えていくと、直立するマジカルの姿が現れる。マジカルが左手に持ってるものを見てダークネスが目をひそめた。

 

「それはリンクルステッキ!?」

 

「リンクル・ガーネット!」

 

 リンクルステッキにセットされたオレンジ色の宝石が輝きダークネスとウィッチの足元の大地が歪む。

 

「油断させるためにわざと攻撃を受けたわね!」

 地面のうねりに足を取られながらダークネスが叫ぶ。

 

「うわああぁっ!? なにこれ足元ぐにゃぐにゃだよ~っ!?」

 

 ウィッチは手をブンブン振り回して何とかバランスを取ろうと頑張っていた。そこへミラクルとマジカルが同時に向かってくる。

 

「ウィッチ、インディコライトを使いなさい!」

「リ、リンクルっ! インディコライト~っ!」

 

 ウィッチの左の腕輪の黒いダイヤが青い宝石と入れ替わる。ウィッチは足元が揺れて狙いが取れない状態で魔法を放った。彼女らの目前まで迫っていたミラクルとマジカルに青い閃光が襲い掛かる。二人は小さな悲鳴を上げ、全身が痺れて立ち止まってしまう。

 

「インディコライトは拡散する電気の魔法、至近距離なら狙いがずれても問題ないわ」

 

 もうダークネスたちの足元は普通の地面に戻っていた。ミラクルとマジカルは危険を感じて後ろに跳んで下がる。接近戦で勝ち目のない事はもう明確になっている。

 

「リンクルステッキ!」

 ミラクルがリンクルステッキを出現させて、それを右手に握ってジャンプした。

「リンクル・ペリドット!」

 

「そうよね、あなた達が出来ることはそれしかないわ」

 そう言うダークネスに向かってミラクルが空中から深緑の葉の竜巻を放った。それに対してダークネスが右手を上げて呼びかける。

「リンクル・オレンジサファイア!」

 

 ダークネスの手の平から放たれた炎と木の葉がぶつかり、無数の葉に炎が次々と燃え移っていく。

炎は葉を伝って一気にミラクルに迫る。

 

「ええっ!?」

 

 燃え上がる無数の葉がマジカルの視界を遮った。驚いているマジカルの目の前に炎を追い払ってダークネスが現われる。

 

「木の葉と炎がぶつかり合ったらそうなるわよね」

 

 ミラクルは初めて敵が怖いと思った。今まで出会ったどんな敵にもそんな感情を抱いたことはなかった。声も出ないミラクルの腹部にダークネスの蹴りが食い込む。ミラクルは悲鳴を上げながら超スピードで墜落して地面に叩きつけられた。

 

「ミラクルっ!」

 

 マジカルが駆け寄ると、ミラクルは大きく陥没した地面の中心で苦しそうにうめいていた。マジカルは着地したダークネスを睨む。

 

「なら、これならどう! リンクル・アメジスト!」

 

 マジカルの前に紫色の魔法陣が開き、そこにマジカルが飛び込んで姿を消す。ダークネスは右手を前に叫んだ。

 

「リンクル・ブラックオパール!」

 ダークネスの前に黒い円形のバリアが現われる。

 

ダークネスの上方に魔法陣が現れて、そこからマジカルが蹴りの態勢で飛び出してきた。

 

「てやぁーっ!」

 

 ダークネスが手のひらを上に向けて黒いバリアでマジカルの攻撃を止めた。

 

「ムーンストーンと同じ防御の魔法!?」

 

 マジカルの攻撃を跳ね返したダークネスは矢のように走りだし、

 

「はぁっ!」

 

 着地する寸前の無防備な状態のマジカルに拳を打ち込む。その身に衝撃を受けて礫のように飛んだマジカルは木に背中から叩きつけられ、少女の身で表皮を大きくへこませ、大木をしならせた。

 

マジカルがゆっくり木からはがれ落ちるようにして地面に倒れ込む。すぐに上半身だけ起こしたが、苦し気に片目を閉じていた。

 

「どうして攻撃が読まれるの……?」

 

「もしわたしが同じ魔法を使って攻撃するとしたら、プリキュアとしての誇りがあるから後ろからは攻められない。あんな魔法を使って正面切って攻めるなんていうのは問題外。だとすれば残りは上か左右しかない。その程度の選択肢なら見てからでも防御できるわ」

 

 ダークネスの話を聞きながら、マジカルは勝てないと思った。悔しいが今は勝ち目がない。これ以上戦いを続けるのは危険だとも思う。諦めが肝心という言葉もある。マジカルがそう考えていると、ミラクルが立ち上がってリンクルステッキを構えているのが見えた。ミラクルは今の今まで何かを諦めたりしたことがない。だが、ダークネスとウィッチは今までの敵とは違う、プリキュアなのだ。

 

「リンクル・アクアマリン!」

 

 ミラクルがステッキを上へ、するとステッキに透き通った湖水のような色の宝石が宿る。ミラクルは距離の近いウィッチにステッキを向けた。身構えるウィッチにダークネスが叫ぶ。

 

「ウィッチ、ジェダイトよ!」

 ダークネスの声を聞いてウィッチは愚直に行動に移す。

「リンクル・ジェダイト!」

 

 ウィッチの左手のブレスレッドに草色の丸い宝石が現れ、油でも塗って磨いたように照かった。ミラクルのステッキから撃たれた氷の粒を無数に含む冷気とウィッチの左手から撃たれた旋風が二人の中間でぶつかり、空気の渦が冷気を巻き込んで近くの樹に吹き付ける。葉や梢から根っこまで瞬く間に樹全体が凍り付いた。それを目の当たりにしたミラクルは半ば呆然としてしまった。

 

「そんな、わたしたちの魔法が全部きかない……」

 

 ダークネスが一度の跳躍でウィッチの隣に戻る。マジカルも同じように跳んでミラクルの隣へ降りてくる。二人がそろうとダークネスが言った。

 

「あなた達はこのリンクルストーンで、さらなる絶望を味わうことになる。リンクル・スタールビー!」

 

 ダークネスが高く上げた右手のブレスレッドに3条の光の線が中心で交わる真紅の丸い宝石が現れる。

 

「ルビー!?」

 

 マジカルのマゼンダの瞳に映る宝石は見たことがない姿だが、その色合いはルビーそのものだった。

 

スタールビーから生まれたピンポン玉大の赤い光がダークネスとウィッチの胸に吸い込まれる。すると二人の全身に燃え上がるような赤い光が現われた。

 

「スタールビーの魔法はほんの短い時間だけプリキュアのパワーを上昇させる。これで互いの力の差はなくなり、あんた達の弱点だけが残る」

 

「まずいわ! ミラクル、防御に集中して!」

「防御!?」

 

 マジカルのとっさの判断がミラクルには分からなかったが、判断が理解できるかどうかなど問題ではない。ミラクルはマジカルを信じる。互いに信じあって今までの敵と戦ってきた。どんな苦境になろうと、敵が誰であろうとそれが変わることはない。

 

 ダークネスとウィッチが息を合わせて突っ込んでくる。ミラクルとマジカルは胸で両腕を固く組んで集中し、ダークネスとウィッチの同時の飛び蹴りを防いだ。それでもすさまじい衝撃を受けて二人一緒に鉄砲玉のようにぶっ飛んで、背中から激突した大木を次々とへし折ってから地面に叩きつけられる。その後も体で地面を穿って進み、彼女らが通った後に吹き上げた粉塵が蛇のように長く連なった。

 

「モフ―ッ!? ミラクル、マジカル!?」

 

 モフルンが粉塵の中を走っていくと、目の前に防御の態勢のまま土に埋もれているミラクルとマジカルの姿が現れた。モフルンが口の辺りに両手を持ってきて震えていると、マジカルが思いの外元気に立ち上がった。モフルンは安心して星の宿る瞳に涙を浮かべた。

 

「あんな攻撃をまともに受けたら立ち上がれなくなるところだったわ」

 

 後から立ち上がったミラクルには、もうどうすればいいのか分からなかった。二人に向かってダークネスがゆっくり歩いてくる。

 

「スピードに決定的な差があるのだから、対抗して戦えば確実に攻撃を受けてしまう。最初から防御に集中してダメージを最小限に抑えるのは最良の選択だったわ。マジカルは冷静ね」

 

 歩いていたダークネスが途中で立ち止まって桃色の小さな袋を拾い上げる。

 

「あ!? わたしたちの闇の結晶!」

 

 ミラクルが叫ぶと、ダークネスが弦月的な笑みを浮かべた後に言った。

 

「これはもらっておくわ」

 

 ミラクルがどうしようと言うようにマジカルのことを見つめた。

 

「後わたしたちに出来ることといったら……」

 

 マジカルは校長の言葉を思い出すと、ミラクルの手を握って言った。

 

「撤退しましょう」

「マジカル……」

 

 撤退というマジカルの言葉がミラクルには衝撃だった。相手に手も足も出せず、その挙句に逃げるなど、プリキュアとしての誇り傷ついて悲しくなる。うつむき加減で目を伏せているミラクルとは逆に、マジカルは笑みを浮かべて言った。

 

「これは戦術的撤退よ、負けじゃないんだから」

 

 普通なら完全な負け惜しみにしか聞こえないが、微笑するマジカルを見ているとミラクルは安心して胸がずっと軽くなった。ミラクルがモフルンを抱き上げ、二人同時に森の大木を跳び越える大ジャンプをしてダークネスの前から去っていった。

 

 後から歩いてきたウィッチがダークネスと並ぶと言った。

 

「いっちゃったね」

「マジカルは……」

 

 ダークネスが手のひらに乗せた桃色の袋見つめる。

 

「マジカルはわたしたちの攻撃を受けた時に、わざとこの袋を落としたのよ」

「え、そうなの!? なんで!?」

 

「ミラクルはどんなに追い詰められても諦める気配がなかったわ。今までそういう気持ちで戦ってきたんでしょうね。マジカルがこうしなかったら、ミラクルは力尽きるまで戦い続けたかもしれない。マジカルがこの袋を落として、それをわたしが手にしたことで戦う理由がなくなった」

 

「そんなことしないで普通に渡せばよかったのに」

 

「そんなことしたら完全に負けを認めることになってミラクルの心が傷つくでしょう。マジカルはミラクルの身と心の両方を守ったのよ。あんなに追い詰められた状況でそこまで配慮できるなんてね」

 

 ダークネスが硬い表情で袋を握りしめる。彼女には勝者の余裕といったものは一切なかった。

 

 

 

 みらいとリコは無人島の先端から緩やかに波立つ海を見つめていた。プリキュアになって初めての敗北を味わい、さすがに二人とも元気がなかった。みらいに抱かれているモフルンが心配そうに上を見て、みらいの顔をのぞいた。みらいが海を見つめたままに言った。

 

「わたしたちの魔法がぜんぜん通用しなかったね。むこうの魔法の方が強いってことなのかな……」

「そうじゃないのよ」

 

 みらいが右を向いて、はっきり断言するリコを見つめる。

 

「小百合はわたしたちに勝つためにずっと研究していたのよ。今思えば、あの二人とは二度一緒に戦ったけれど、リンクルストーンの魔法を一度も使わなかった。それに対してわたしたちは、ほとんどの魔法を小百合に見せてしまった。小百合は自分たちの手持ちの魔法で、わたしたちの魔法にどう対抗するか考えて、完璧に対策を練って挑んできたのよ。向こうに手の内を晒してしまったのがわたしたちの敗因よ。迂闊(うかつ)だったわ」

 

 二人の視界に飛び去って行く2人乗りの箒が入ってくる。リコは小さくなってゆく小百合たちの姿を強い光を灯すマゼンダの瞳で見つめていった。

 

「次は負けないわ」

「リコ……」

「負けっぱなしじゃ悔しいでしょ、次は絶対に勝ちましょう」

「うん!」

 

 リコが自信満々に言うと、みらいの顔に明るさが戻った。

 

「さあ、帰って校長先生に報告しましょう」

 

 リコが言った。それから二人は箒に乗って大空へ向かって飛翔した。

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