料理研究家リリア
翌朝もみらいは元気がなかった。寝間着から着替えもせず、自分を慰めるようにモフルンを抱きしめて下を向いていた。光を移すラベンダーの瞳は潤んでいるのかキラキラと光の具合が変わっていた。制服姿のリコが自分の机の椅子に座って少し離れた場所からみらいを見守っていた。
「モフ、みらい……」
モフルンが呼びかけても、みらいは無反応だった。こんなに悲しみに暮れているみらいの姿を見ると、リコは絶望的な気持ちになってくる。リコはこうなって、みらいが自分に対して持っている影響力の大きさを思い知る。いつも明るく元気で事あるごとに励ましてくれるみらい。そのみらいが元気をなくしただけで、リコの周りの世界は闇が降りたように暗くなってしまった。
――いつもみらいには元気をもらっているんだから。だから今度はわたしがみらいを励ますのよ。
リコはそう思うが、小百合がみらいに与えた衝撃はあまりにも大きく、今のみらいから悲しみを取り除くことは不可能であった。リコは決心して立ち上がった。
リコがみらいの前に立って、彼女の肩に静かに手をそえる。それでようやくリコの存在に気づいたというように、みらいがはっとなって顔を上げた。リコとみらいの目がしっかりあった。
「みらい、あなたの悲しむ気持ちは、わたしにはどうにもできないわ。戦えないならそれでもいいから、この話だけ聞いて」
「リコ……」
「これはわたしが勝手にそう考えてるんだけど、闇の結晶はわたしたちが思っている以上に危険なものだと思うの。今はまだ分からないけれど、あのデウスマストのように二つの世界を脅かすような、そんな恐ろしいものにつながっている気がする。ナシマホウ界にはみらいの家族だっているし、ともだちだってたくさんいるわ。それを守るためには、わたし一人じゃ無理なのよ。みらいがいてくれないと何を守ることもできない。どうしてもあなたの力が必要なの。これからも辛い戦いがあると思うけれど、みらいにはずっと隣にいてほしいと思っているわ」
「リコ、ごめんね」
みらいは瞳に溜まった涙を払って立ち上がり、濡れた瞳でリコと見つめ合った。
「わたしはいつでもリコと一緒だよ。どんなことがあっても離れないから」
みらいの表情が変わってモフルンは喜びでいっぱいになった。
「みらいが笑ったモフ」
一応は元気を取り戻したみらいだったが、内面では悲しみに耐えていることをリコは痛いほどわかっていた。
――なんだあの女の子は、さっきから様子がおかしいぞ……。
店主がその女の子をじっと見ていた。魔法商店街のとある食料品店で銀色の髪をポニーテールにした金色とターコイズブルーのオッドアイの少女が何かを探し回っている。しかし探しているものが見つからないようで、店の中を何周も回っている。見た目がきれいなだけに余計に挙動が目立っていた。
「ない、ない、ここにもないのかっ!!? だーっ!!」
人の姿のフェンリルが頭をかかえて悶絶すると、近くで買い物をしているお客が変な目で見て離れていく。営業に差し障りありと判断した店主が彼女に近づいた。
「お客さん、なにをお探しで?」
「おい、お前! ネコ缶はないのか!?」
フェンリルが店主の胸倉をつかんでガクンガクンと振りまくる。店主が目を回しながら言った。
「お、お客さん、落ち着いてください!」
ようやく解放された店長は死ぬかと思った。
「ネ、ネコ缶なんてものは聞いたこともありませんよ」
「な、ないのか……。じゃあ、百歩譲ってちょっと高級なキャットフードでもいい!」
「なんですかそれは? 猫に関係している物ということは何となくわかりますが……」
「猫の餌だよ! なんかないのか、そういうの!?」
「猫の餌だったら、肉か魚でも食べさせればいいでしょう」
「今さらただの肉や魚なんて食わせられるか!」
フェンリルはいきなりその場に崩れて四つん這いで絶望した姿をさらす。
「なんてことだ、魔法界にネコ缶がないなんて、わたしはどうすればいいんだ。このままじゃあ、あいつらに愛想をつかされて、わたしの女王としての地位が……」
わけの分からないことを言っているフェンリルに店長もお客さんもドン引きした。
「あの、お客さん。ただの肉や魚がダメなら、自分で美味しい餌を作ってやるというのはどうですか? この本がおすすめですよ」
店長が懐から杖を出して振ると、レジの隣にある山積みの本から一冊の本が飛んでくる。なんで食料品店に本が置いてあるのかというと、特別よく売れる料理本だからである。
フェンリルは少し希望がわいて立ち上がり、店主から本を受け取ってパラパラとめくっていく。
「よし、この本をくれ!」
「まいどあり!」
店に迷惑をかけていたフェンリルにうまく本を売った店主は満面の笑みを浮かべていた。
フェンリルは商店街を歩きながら料理本に目を通した。
「材料とか色々あってめんどくさいな。こんなのいちいち覚えてられないよ……」
フェンリルはパタンと本を閉じて少し考えて本の裏側を見始める。
「そうだ、この本を書いた奴に教えてもらえばいいんだ。その方が手っ取り早い」
フェンリルは走り出すと、途中で白猫の姿になりその背中に本を乗せた状態で光の翼を開いて空に向かって飛んでいった。
フェンリルはしばらく飛んで商店街からかなり離れた場所まできていた。ここは春の領域の北端辺りで魔法学校のある辺りより少し気温が低い。
「あの島か」
フェンリルの真下に高く切り立った樹木の上にある大きな街が見えていた。全体としては山のように巨大な樹を途中で伐採して、切り口の平坦な部分に街を置いてあり、街に至るまでの幹の部分にはいくつも枝が伸びている。枝と言っても普通の樹木に例えれば樹齢百年はあろうかという太さで、それが無数に枝分かれして先端の方で葉が茂る。一本の枝から茂る葉だけでも緑色の雲とでもいうような壮大さで、そういうのがいくつもあって島の端から下を見おろしても海が見えないほど緑が深かった。
街にはなかなか立派な建物が集まっていて、街全体がきれいな六角形の中に納まっていた。街の中央には杖の樹があってその周囲には建物がなく、六角形の緑の草原の広場になっている。フェンリルはその草原に面した屋敷の前に降りて光の翼を消すと、全身が白い光に包まれて人の姿に戻った。
「この家だな」
フェンリルが片手に本を持って開け放たれている門の前に立つ。相当広い真四角の敷地を白い石壁が囲っていて、その中に見えるグレーの屋根の屋敷は立派で歴史を感じさせる格式の高さがあった。門からその家の玄関まで砂が敷いてある白い道が続く。玄関までの道沿いに立派な樹木に混じって赤や白の花を咲かせる樹花、桃色の果実のなっている樹なども見える。
フェンリルが中に入って玄関に向かって歩いていくと、厚く茂っている植物の向こうに広場があり、白いテーブルと椅子のが何組か置いてあるのが見えた。フェンリルがなかなかしゃれた庭だと思ってみていると、なにかの鉱物の結晶のようなものが集まっている巨大な石が置いてあったりして、石として見れば美しいがこの庭には場違いな感じのものがあったりもする。
フェンリルは玄関の前に立った。見上げる程に大きい立派な木製の扉だ。そして、玄関の小さな屋根をゴシック調の白い柱が支えていた。
「たのもーっ!」
玄関で声をだせば魔法で中の人に聞こえるようになっている。フェンリルが待っていると扉が開いて白いエプロン姿の女性が姿を見せる。
「どなたですか?」
声も言葉づかいも柔らかで、見た目は優し気な感じの人だった。瞳の色はマゼンダで長い青髪の一部をロールにして薄紫のリボンで結び、残りの髪は結わえて背中に流してある。
「この本を書いたのはあんた、じゃない、あなたですか?」
本を見た女性は、「まあ」と言って嬉しそうに微笑む。
「これはわたしが書いた本よ。手に取ってくれてありがとう」
「実はあんたに料理を、じゃない、あなたに料理を教えてもらいたいんです!」
フェンリルはそう言って頭を下げた。普段はボルクスを口ぎたなく罵ったり、部下の猫たちを怒鳴ったりしている彼女だが、必要に応じて礼儀正しい振る舞いもできるのだ。
「あら、お料理教室の申し込みかしら?」
「いや、そういうんじゃなくて! もっとこう、あれだ、弟子! そう、弟子にして下さい! 料理を真剣に勉強したいんです!」
フェンリルは少し心にもない事を言っているが、自分の地位を守るのに真剣なのは確かだ。青い髪の女性は考えていた。
「特定の人を弟子にして料理を教えたりはしていないんだけれど、あなたは本気で料理を勉強したいみたいだから教えてあげましょう」
「フェンリルです、よろしくお願いします、師匠!」
「その呼び方はなんだか硬いわね。リリアでいいわよ」
「いやいや、教えてもらうのに呼び捨てになんてできません。じゃあ、先生と呼ばせて頂きます!」
フェンリルはひょんなことから、魔法界とナシマホウ界で名を馳せている料理研究家リリアの弟子になってしまった。
リリアの案内でフェンリルは広い玄関ホールから右側の部屋に入る。そこは居間になっていて広い部屋に長いテーブルと椅子が並んでいた。そして居間の先にある部屋に入った時にフェンリルが声を上げた。
「な、なんだこのキッチンは!?」
キッチンの広さが居間と同じだった。料理台が部屋を囲むようにコの字型になっていて、壁には大小のフライパンやフライ返しなど様々な料理道具がきれいに並んでいる。中央には六角形の回転式の食器棚が置いてあり、どこにいても好きな食器が取り出せるようになっていた。料理台の下のシンクや食器棚の引き出しにも鍋や包丁や小物などが詰まっているに違いない。この大掛かりな料理設備を見てフェンリルは弟子にしてくれなどと言ったことを後悔し始めた。
「さあて、どんな料理を作りましょう。最初だから簡単なのがいいわね」
「あ、あの、できれば肉か魚を使った料理をお願いします!」
「じゃあ、7色サーディンのフリッターにしましょうか」
「7色サーディン??」
リリアは部屋の片隅にある高さが天井くらいまである大きなフレーザーに向かって箸のように先細りになっている白い杖を振った。
「キュアップ・ラパパ、7色サーディンよ出てきなさい」
フレーザーの扉が開いて白い皿の上に円に並んだ虹色の魚が料理台まで浮遊してくる。目の前に降りてきたそれを見てフェンリルの顔が引きつった。
――魔法界には変わった魚がいるな……。
「じゃあ、お手本を見せるからね。キュアップ・ラパパ」
リリアの魔法で底の深いフライパンやボウルなど必要な道具が一か所に集まる。それから包丁が勝手に動いて魚をさばき、同時にボウルには小麦粉や卵、調味料などが入ってホイッパーがひとりでにかき混ぜていく。天辺に穴のあるヤシの実に似たオイールの実がフライパンの横で傾いて穴から良質の油が注がれた。フライパンに火などは必要ない。魔法をかければあっというまに適温になるのだ。
リリアの魔法の料理さばきは素早く正確で、横で見ているフェンリルは目が回りそうだった。もう熱した油に衣の付いた魚が入る。リリアが中央の食器棚に向かって杖を振りキュアップラパパの呪文を唱えると、棚がひとりでに回転して一枚の大皿が料理台の上に移動してくる。その皿に火の通ったサーディンの方が移動してきれいに盛り付けられていった。
「はい、できあがり!」
あっという間に料理ができた。正直、フェンリルには何が起こったのか分からないくらいだった。しかし、驚くのはまだ早い。リリアは両手の親指と人差し指でハート型を作ってそれを料理に近づけて、
「仕上げに、愛情は・い・れ❤」
「……先生、それは料理に必要なことなんですか?」
「もちろんよ。愛情は料理にとって一番大切な要素なの、よく覚えておいてね」
フェンリルは自分もそれをやらなければいけないと思うと震えてしまった。
――料理って思っていたよりもずっと難しいな……。
「さあ、お味を見てちょうだい」
「あ、はい」
フェンリルが作りたて熱々の魚のフリッターを一つ口に運ぶ。ものすごい旨さで黙って二つ三つと食べてしまった。
「先生、美味しいです!!」
「よかったわ。じゃあ、次はあなたの番ね」
急に言われてフェンリルの動きが止まる。
「先生と同じの作るんですか?」
「大丈夫、わからないところはちゃんと教えるから」
「わかりました。魔法でやればいいんですよね」
フェンリルが右手を上げると、その手首に銀の腕輪が付いていた。中央には宝石がはまりそうな円形の台座があって、台座には真ん中に白いシルエットの猫が座る六芒星の魔法陣が描かれていた。
「フェンリルちゃん、魔法の杖は持っていないの?」
「杖はありませんけど、この腕輪で魔法が使えます」
「まあ、腕輪で魔法を使うなんて変わっているわね」
フェンリルは人差し指を包丁に向けて唱えた。
「キュアップ・ラパパ! 包丁よ魚を切れ!」
空中に浮いた7色の魚にすごい鋭さで包丁が入り、魚が見事に真っ二つの開きになった。しかし、リリアのフリッターに開きになった魚など入っていない。
「それじゃダメよ。取るのは頭と内臓だけでいいの。まずは包丁の使い方から始めましょうか」
フェンリルは魔法が使えても料理を全く知らないので、油の温度や調味料の分量など、一つ一つリリアに教えてもらわなければならなかった。リリアが10分足らずで作ったものに、フェンリルは2時間近くかかった。そして、ようやくおいしく食べられるものが出来上がった後に最大の難関が待っていた。
「素敵なフリッターができあがったわね」
「あ、ありがとうございます……」
両手を柔らかく組んで笑顔を浮かべるリリアに、フェンリルはぜえぜえと肩で息をしながら言った。初めての料理に魔力も神経も使ってもうへとへとである。
「じゃあ、仕上げよ」
「や、やっぱりやるのか……」
「あなたがこんなに一生懸命に料理を作ったのは食べてもらいたい人がいるからでしょう。その人のことを思い浮かべるよの。あなたきれいだから恋人かしら?」
「いえ、そんなのはいません」
「じゃあ家族かしら?」
「まあ、なんというか、猫……です」
「ペットの猫ちゃんね! ペットも家族の一員だもの、あなたの愛は伝わるわ。その猫ちゃんのことを思い浮かべてやってみましょう」
フェンリルはなんか違うなと思いながら言った。
「わかりました、やってみます!」
フェンリルはぎこちない手つきでハートを作り、それをフリッターに向けて手下の猫たちのことを思い浮かべた。
「愛情! はいれーっ!」
「それじゃ、怒ってるみたい。もっと猫ちゃんを可愛がるように優しい気持ちで」
「あ、愛情は・い・れ!」
「う~ん、まだ愛情が足りないわね」
フェンリルは頭を振って明らかに邪魔になっている手下猫たちのイメージを追い出す。
――この試練を乗り越えなければ、本当においしい料理はできないんだ! 覚悟を決めろ、フェンリル!
ただ猫の餌になるものを作りたいだけだったフェンリルの中に料理に対する情熱が燃え上がった。フェンリルは少女らしい可憐な動きで白くてしなやかな指で描いたハートを愛を注ぐように魚のフリッターに急接近させて、
「愛情は・い・れ❤」
可愛らしいウィンクまでしてリリアを感動させた。
「素晴らしいわ、フェンリルちゃん! あなたの料理に込められた愛情は必ず届くわ」
「あ、ありがとうございます、先生……」
フェンリルは恥ずかしくてリリアの顔が見られなかった。それからフェンリルは、もう一つ料理を習ってリリアの家を出た。彼女は広々とした草原の広場に立ち青い空と白い雲を見ながら感慨深い気持ちになって言った。
「人間って毎日あんな風に料理作ってるのか、こりゃバカにできないね」
それから何日後かに、魔法商店街の野良ネコに美味しそうな料理を食べさせる美少女のことが噂になり広まっていくのであった。
夜の魔法商店街に二つの人影が躍る。影が商店の屋根に飛び移り、一方の影が背中のマントを泳がせて疾走し、その後をとんがり帽子をかぶった影がついていく。二人は屋根から屋根へと飛び乗り、ひときわ高い商店の屋根の上に舞い降りた。大きな三日月を背景に二人の少女の黒い影が青白い月光の中に浮んでいた。
「この時間なら闇夜に紛れて行動できるわ」
「わたしたち黒っぽいもんね~」
「猫を片っ端から捕まえてみましょう」
「プリキュアだったら猫なんて簡単に捕まえられるね!」
「さあ、狩りの時間よ」
ダークネスの声が宵の闇に吸い込まれる。二人は散開して夜の魔法商店街を駆け巡った。ある猫は人の気配を感じて逃げようとした瞬間に首根っこを捕まえられた。
「フにゃーッ!?」
びっくりして鳴き声をあげると口にくわえていたものが落ちた。ダークネスがそれを拾って月明りに照らす。闇の結晶だった。
「いきなり当たりだわ」
ダークネスが猫を放してやると一目散に逃げていった。
「まて~」
ウィッチも何かをくわえている猫を追いかけていた。その猫が人が通れない細い路地に逃げ込むと、ウィッチは商店の屋根に飛び乗り上から追いかけて、猫よりも早く走って猫が別の路地から出てくるところを待ち伏せして捕まえた。すると猫は爪を出して暴れまくる。
「引っかいたってむだだよ。猫の爪なんてぜ~んぜん痛くないんだから」
ウィッチが手を出すと猫が諦めて口にくわえていた闇の結晶を放した。
「ごめんね」
と言いながらウィッチは猫を放した。二人は次々と猫を捕まえていった。闇の結晶を持っていない猫の方が多かったが、それでも十数個は集まった。魔法工場街でも同じことをしてかなりの収穫を得ることに成功した。
翌朝、フェンリルがいつもの路地裏の集会場に行くと、集まってきた手下の猫たちに元気がないので気になった。
「どうしたお前たち? 今にも死にそうな顔をしているよ」
群れの中からロナが出てきて言った。
「フェンリル様、それが……」
「はっきりいいな」
「闇の結晶を奪われましたにゃ」
「なんだと!? 誰に奪われたっていうんだい!?」
「みんなの話だと、黒っぽい服を着た二人組の女の子らしいにゃ。猫よりもずっと早くて、あっという間に捕まったそうにゃ」
「なああぁっ!?」
フェンリルが歯を食いしばり牙をむく。
「こっちの作戦の裏をかいてきたか、プリキュアめ!!」
フェンリルは腹が立ってどうしようもなく、近くの壁をバリバリ引っかきまくった。
「くっそーっ! プリキュアめ! 頭にくるっ!」
「フェ、フェンリル様……」
フェンリルの怒りに触れてロナの心が凍り付く。手下の猫たちは自分たちは終わったと思う。しかし、フェンリルはこの怒りを手下の猫たちにぶつけるわけにはいかなかった。それは自分の首を絞めることにしかならないと彼女は心得ている。フェンリルは壁に一通り怒りをぶちまけると、手下たちの前に座って言った。
「お前たちは気にしなくていい。奪われちまったものは仕方がない。これからも今まで通りやっておくれ」
「りょ、了解にゃ!」
ロナが答えると他の猫たちは安心しすぎて魂が抜けそうな息を吐いた。手下の猫たちがいなくなるとフェンリルは光の翼で飛び上がり、商店街を見おろしながら思った。
――プリキュアが邪魔してくるんじゃあ、わたしも動かなきゃいけないね。