魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第11話 光と闇、再び! どうしちゃったのミラクル!?
ダークネスの謀、マジカルの過去


「やったぁ、倒せたよ!」

 

 ウィッチがその場で飛び跳ねて喜んでいると、空から闇の結晶が降りてきて3人が同時に跳ぶ。ダークネス、ミラクル、マジカルがひとつずつ闇の結晶を手にした。それに伴ってヨクバールとプリキュアの戦いの爪痕が修復されて、元の平和で美しい花の平原に戻った。

 

「おお~、ナイスキャッチ~」

 

 そんなことを言っているウィッチの隣にダークネスが着地する。

 

「あんたは何でぼーっと突っ立ってるのよ!」

「いやぁ、のりおくれましたなぁ」

 

 ウィッチがそんなとぼけたことを言っても、ダークネスは怒ったりはしなかった。彼女は玄人が素人を相手にするような尊大な余裕をもってミラクルとマジカルに対峙して言った。

 

「ヨクバールを倒してくれてありがとう。おかげで闇の結晶を三つも手に入れることができたわ」

 

 ダークネスの物事を確定させた言い方にマジカルの胸がざわつく。三つの闇の結晶の内二つはミラクルとマジカルで持っているのだ。しかし、マジカルは言葉が返せなかった。そして、ダークネスの戦う意思を感じたミラクルは、態度が一変して怯える子犬のように萎縮してしまう。そんなミラクルが悲しみに歪んだ顔で言った。

 

「そんな、どうして? 一緒に協力してヨクバールを倒したのに……」

 

「だから仲間になれるとでも思ったの? どこまでおめでたい人なの。協力したのは闇の結晶を手に入れるためよ。そのためにあんた達を利用しただけ」

 

「わたしとダークネスの魔法が一つになって新しい魔法が生まれたんだよ! わたしたちは戦っちゃいけないんだよ!」

 

「あんなことが起こった以上、わたしたちは無関係ではないでしょう。光と闇の違いはあるけれど、どちらも魔法つかいプリキュアなのだから、つながりがあると考える方が自然だわ。けど、そんなことはどうだっていいの、わたしには関係ない。わたしは目的のために必要なことをやるだけよ」

 

 ダークネスのすっぱりと相手を斬るような言葉の前に、ミラクルが不安に満ちた顔のまま黙ってしまう。今にも震えそうなそのミラクルの姿が野の花の中で妙に可愛らしく見えた。

 

「腰が引けているわよ、ミラクル」

 

 ダークネスが一歩踏み出して草花を踏む音に、ミラクルの肩が震える。ダークネスは相手の反応を見ていかにも楽しそうな笑みを浮かべていた。ミラクルとは対照的にマジカルはダークネスを強く見つめていた。ダークネスがそんなマジカルに手のひらを返して見せる。

 

「今のあなた達ではわたし達に勝つことはできないわ。戦っても無駄に傷つくだけよ。だから大人しく闇の結晶を渡しなさい」

 

 肩を落とし、沈み切っているミラクルの右手が少し開いた。指の隙間から黒光りする結晶が見えていた。ミラクルの手がダークネスの方に動くとマジカルが言った。

 

「ミラクル、渡しちゃダメよ!」

 

「あなたがそんな愚かな選択をするとは思わなかったわ。ミラクルがそんな状態でまともに戦えると思うの?」

 

 ダークネスの言うことはマジカルも嫌というほどにわかる。わかるに決まっている。マジカルはある側面ではミラクルの家族以上にミラクルのことを理解している。しかし、今逃げるのはいけないと思った。確かな理由があるわけではないが、そういう気がする。マジカルは勘とか何となくとか、そういう曖昧なものに頼るのは好きではない。ミラクルのように鋭い感覚は持っていないし、その必要があればミラクルに任せればよかった。けれど、今だけはこの感覚を信じようと思う。今逃げれば、ミラクルの心は深い迷路に迷い込んで簡単には抜け出せなくなる、そんな気がしてならないのだ。

 

「わたしは、ミラクルのことを!」

 

 マジカルが言った瞬間、ダークネスの顔から薄ら笑い消えた。来ると思ってマジカルは身構え、その先のことが言えなかった。一歩踏み出すような短い跳躍でダークネスがマジカルの眼前に迫った。

 

「はーっ!」

 

 左から頭を狙ってきた蹴りを、マジカルが腕を立ててガードした。ダークネスが空中で反転してマジカルの胸に回し蹴りを打ち込む連撃、マジカルはそれをもう一方の手で巧みに防ぐが、その威力が凄まじく吹っ飛ばされた。

 

「マジカル!?」

 

 悲鳴のようなミラクルの声が上がり、その刹那にダークネスの思考が過ぎる。

 

――あなたが最後に言いたかったのは、信じてる! よ。その一言だけでもミラクルは少し心を持ち直すでしょう。それでもこちらの優位は変わらないけれど、わざわざ敵に希望を与える必要はない!

 

 ダークネスにも心から信じている仲間がいるので、マジカルがミラクルに何をしようとするのか読めてしまうのだった。

 

「ウィッチ、あんたはミラクルの闇の結晶を奪いなさい!」

 

 いきなりマジカルに襲いかかったダークネスに目を丸くしていたウィッチが、今度は悲痛な顔になる。そんな姿のウィッチを見ても、ダークネスは少しも心配にならなかった。彼女は心置きなくマジカルが飛んでいった方に向かってジャンプした。

 

 その場に残った二人の視線がぶつかる。ミラクルもウィッチも絶大な力をもつプリキュアなのに、小動物のように小さく見えた。

 

「もうやめて……」

 

 まったく戦う意思の感じられないミラクルに対して、ウィッチは表情をきりっと引き締めて構えた。

 

「どうして戦おうとするの!? ウィッチだって戦うのは嫌なんでしょ!?」

「いやだよ。でも、ダークネスにいわれたからさ」

 

「なんでもダークネスの言いなりなの?」

「いいなりじゃないよ。わたしはダークネスが正しいって信じてるよ。だから、ダークネスのいく道が、わたしのいく道なんだよ」

 

 仲間を信じ切っているウィッチの言葉を聞いて、ミラクルはもう何も言い返せなかった。ウィッチの信じる心がミラクルにはよくわかる。だからこそ余計に悲しかった。ミラクルの手から力が抜けて、握っていた右手が解けて闇の結晶の姿が見える。これを渡してしまえば戦わずに済む。ミラクルはそう思って、自分の弱い心に負けそうになった。その時にマジカルの姿が脳裏を過ぎる。マジカルが闇の結晶を渡さなかった理由がミラクルにはわかっていた。

 

「この闇の結晶は渡せない……」

 

 ミラクルは再び右手にぎゅっと力を入れて闇の結晶を握り込んで、ウィッチに相対した。ウィッチはミラクルが少し元気になったように見えて、うれしくなって微笑を浮かべる。

 

「いくよ、ミラクル!」

 

 ウィッチが脱兎のごとく走り、彼女の後を追うように走力で巻き上げられた花びらが舞う。それを迎え撃ったミラクルの動きがさえない。十分に力を込めて打ち込んだウィッチのパンチに対して、ミラクルはその動きに反応して無造作にパンチを打った。まるでウィッチの動きに仕方なく合わせたという具合だった。二人の拳がぶつかり合った途端に、ミラクルの方が圧倒的に力負けして吹っ飛ばされた。

 

「あれぇっ!?」

 

 ミラクルが弧を描いて花園に落ちていくのを見て、ウィッチはびっくりしてしまった。ミラクルとの熱闘を想像して気合を入れていただけに、簡単にやられてしまうミラクルに対する違和感が半端ではなかった。

 

 

 

「おい、どうなてるんだよ!? あいつら仲間じゃないのか!?」

 

 いきなりプリキュア同士の戦いが始まってチクルンが騒いでいた。言葉を投げかけられたモフルンとリリンは困ってしまう。

 

「ミラクルとマジカルは、魔法界を守るために闇の結晶を集めてるモフ」

「ダークネスとウィッチは、ダークネスのお母さんのために闇の結晶を集めてるデビ」

 

「それぞれ何とかの結晶を集める目的が違うのかよ。だからって、仲間同士で戦わなくてもいいじゃねえか……」

 

 どちらもプリキュアなので、チクルンには仲間同士に見えていた。

 

 

 

 ダークネスの攻撃で宙に投げ出されたマジカルが宙返りして体を立て直し花の絨毯に着地すると、間もなく跳んできたダークネスが少し距離を置いた場所に降りてくる。互いに直立し、構えもせずに相手を見やる。にやりと弧月を浮かべるダークネスに、マジカルは我慢できなくなって言った。

 

「あなたはっ!」

 

 勢いよく切り出したその言葉とマジカルの姿に、彼女の底に沸騰する怒りが現れていた。しかし、その先に声が続かなかった。マジカルの中で何かが邪魔をして言葉が殺されていた。その理由をはっきりと悟っていたダークネスがいった。

 

「あなたの言いたいことはわかるわ。ええ、そうよ。わたしはミラクルを惑わせるために嘘をついたのよ。あなたがミラクルから聞いた話は、なにもかもまるっきり嘘よ。どう、これで安心したかしら?」

 

「っ…………」

 

 マジカルは渋面のまま黙っていた。ダークネスは小さく笑っていった。

 

「あなたはもう何もかもわかっているんだわ。ただ、わたしの話が嘘だったら良いという希望を抱いていただけよ」

 

 それを聞いたマジカルが拳に力を込めて震わせた。

 

「あなたの身に起こった不幸は気の毒だと思うわ。でも、それを利用してミラクルを苦しめたことは許せないわ! あなたは自分の行為で亡くなったお母さんを恥ずかしめているわ!」

 

「きれいごとだけれど、正しい意見だと思うわ。マジカルは冷静ね。ミラクルはあんなに傷ついているのに、どうしてあなたは平気なのかしらね? 同じ話を聞いているのに不思議だと思わない?」

 

「なにが言いたいの!?」

 

「わたしたちにはあって、ミラクルにはないものがある。ミラクルの弱さはそこから来ているのよ。あの子は本当に苦しいっていうことを知らないのよね」

 

「そんなことはないわ! ミラクルだって今まで苦しいことを散々乗り越えてきているんだから!」

 

「その苦しい時には常にあなたが一緒だったでしょ。わたしが言っているのは、もっと暗くて深い場所にある苦しみよ。孤独と向き合い、一人で戦う苦しみよ。ミラクルは、みらいは、いつも元気で明るくて、あの子を見ていると幸せが透けて見えるのよ。素敵なお母さんに、優しいお父さん、おばあちゃんや、おじいちゃんもいるかもしれない。そんな幸せな家庭に、ともだちにも恵まれていて、なにもかもが楽しい。あの子のそういう姿を見ていると憎らしくなるくらいよ。本当の苦しみを知らず、そのうえ他人のためにがんばちゃう良い子だから、ミラクルはわたしの不幸を自分の事のように受け止めて壊れてしまったの」

 

「ミラクルのことをそこまでわかっていて!」

 

「あなたが冷静でいられる理由も教えてあげましょうか? あなたのことも色々知っているのよ。エミリーやケイやリズ先生からも情報をもらったからね」

 

 ダークネスのその言葉が、今にも向かってこようとしていたマジカルの体を止めた。マジカル自身がその理由を知らないはずがないのだが、ダークネスはあえて声に出して言った。

 

「あなた、一年生の頃から付き合っているお友達が一人もいないでしょう。仲がいいのはかつての補習組が主だけれど、2年生から知りあった何人かのクラスメイトとも交流がある。これって普通じゃないわ。魔法学校に入って最初の一年間に友達が一人もいないなんて異常よ」

 

「黙りなさい!」

 

 マジカルは自分の心に暗雲が立ち込めるような嫌な気分になって叫んだ。ダークネスはかまわず話し続けた。

 

「あなたは勉強は一番だったけれど、魔法は最低だった。これって最悪よ、確実にいじめられるわ。ラナのように魔法も勉強もなにもかもダメな方がはるかにいいわ。それだったら周りの人たちも仕方ないって思ってくれる」

 

 マジカルは過去の嫌な記憶が無理矢理掘り起こされ、無意識のうちに視線が下がり視界に野花が入ってきたが、花の姿など見えてはいなかった。

 

「あなたは頭がいいから、みんな一応は尊敬するような態度をとるでしょう。でも陰ではあなたの悪口を言うのよ。友達を装って近づいてくるクラスメイトの瞳の奥には、常にあなたを憐れむ光がある。中には本当に意地の悪い人がいて、あなたにわざわざ聞こえるようにこう言うのよ。いくら勉強ができても、魔法ができないんじゃ意味ないじゃない!」

 

 ダークネスの態度も言葉も、かつてマジカルを傷つけ苦しめた人間達にそっくりだった。忘れたい過去の記憶、クラスメイトの間に漂う空気に圧し潰されそうになっていた自分を思い出し、マジカルは本当に痛むとでもいうように片手で胸を押さえた。

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