魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ミラクルの悲しみ、ウィッチの応援

「あなたは周りの人間の心が見えていたから、自分の殻に閉じこもって誰も寄せ付けなかったんだわ。そして孤独と戦いながら努力して、勉強だけは一番をとり続けた。その経験があなたの心を強くしたのよ。わたしにも似た経験があるわ。ウィッチもいじめられたり家族を亡くした辛い記憶がある。ミラクルだけが心に闇を持っていない真っ白な状態なのよ」

 

 マジカルが苦しみに耐えて、ぎゅっと目を閉じて胸のドレスをわしづかみにする。それから目を開けて胸から手を下ろした時には、いつも通りのマジカルに戻っていた。

 

「言いたいことはそれだけ? わたしの心を乱そうとしても無駄よ」

「あら、残念ね。少しは効くと思ったんだけどね」

 

 ダークネスはマジカルの反応が自分の予想と違っていたので少しだけ驚いていた。二人とも同時に構えて、マジカルの方が爆発的な勢いで飛び出した。そしてダークネスは迫ってきたマジカルの右ストレートをあっさりと受け止め、その拳をしかりと握り込んでしまう。声もなく驚くマジカルにダークネスが言った。

 

「力がだいぶ落ちているわよ」

 

 ダークネスがその手を捻じって引き上げると、マジカルが片目を閉じて苦悶を浮かべる。

 

「計算通りに戦えないのは辛いでしょう、特にあなたの場合はね」

「わたしはあなたに感謝しているわ」

「なんですって?」

 

 マジカルの意外すぎる台詞にダークネスが虚然となる。刹那、マジカルが足を出してダークネスは危うく食らうところだった。マジカルから手を放して後ろに跳んだダークネスは、マジカルの真意が計れずに黙っていた。さっきまでの勝者のような笑みが顔から消えていた。

 

「わたしは今まで過去の記憶から逃げていたわ。過去なんて気にしなくていいと思ってた。今を頑張って未来に向かっていけばいいって思うようにしていた。でも、それは間違いだったわ。あなたが過去を思い出させてくれたから、とても大切なことがわかった。ミラクルが、みらいが、わたしを辛い過去から救ってくれたのよ。そうでなければ、わたしは今でも自分の殻に閉じこもっていたと思うし、魔法だってきっと……。あなたのおかげで、ミラクルがどんなにかけがえのない存在なのか再認識させてもらえたわ」

 

 自分の奸計によりマジカルの中に想定外の論理が構築され、ダークネスは自分の浅はかさに腹立ち舌打ちした。こんな事なら余計なことは言わずに、ミラクルの弱さに対する分析を披露した時点で攻撃を仕掛けた方が効果的だった。過去に触れたマジカルがミラクルに対する思いを強め、心の上ではダークネスを上回ってしまった。

 

 ――プライドを刺激すればマジカルを崩せると思ったけど、まったくの逆効果になってしまったわ。わたしとしたことが、信じる者同士の絆を軽く見てしまった。でも、こちらが優位であることには変わりはない。

 

 戦いの気運が一気に高まり、二人が同時に跳躍した。マジカルとダークネスが空中でぶつかり、マジカルがパンチ、キックと連続で繰り出すが、どちらも軽く弾かれて隙を作ってしまう。そこにダークネスが強烈なキックを叩き込んだ。腹にまともに蹴りを受けたマジカルが空に斜線をぬって花園に墜落する。同時に大量の花びらが上空へと爆散した。

 

「ぐうぅ……」

 

 打ち倒れた花々の中に倒れているマジカルに近づいてきたダークネスが見下して言った。

 

「なるほどね。片方がダメだともう片方にも影響があるのね。プリキュアは二人の心が一つにならなければ力が発揮できないんだわ。あなたを見ていると、それが良くわかるわね」

 

 ダークネスの態度は実験動物を見つめる科学者のように淡々としていた。そんな風に見つめられて、マジカルの中に言いようのないむかつきが突き上げてくるのであった。

 

 

 

 ウィッチの攻撃で花畑の中に倒れたミラクルはその場に座り込んで動こうとしなかった。ウィッチが心配になって近づくと、ミラクルのラベンダーの瞳から輝く露がこぼれ落ちた。

 

「どうしたらいいか分からないよ……」

「どうしちゃったのミラクル!?」

 

 まさか泣いているとは思わなかったので、ウィッチはひどく慌てた。ミラクルの涙が小さなピンクの花に落ちて花弁が揺れた。

 

「マジカルの期待に答えたい。でも、ダークネスの邪魔はしたくない。お母さんに会わせてあげたいよ……」

 

 それを聞いたウィッチがミラクルをひどく苦しめる理由を何となく理解してきた。

 

「ダークネスのお母さんのことで泣いてるの? それ、話した方がいいっていったの、わたしなんだよね! ミラクルを苦しめるつもりなんて全然ないんだよ!」

 

 ウィッチは必死に言い訳するが、ミラクルはそんな単純な言葉が通じる状態ではなかった。ウィッチはすっかり戸惑ってしまった。下を向いて泣いているミラクルを見ていると、ウィッチはどんどん訳が分からなくなって、ついに叫んだ。

 

「そんなんじゃダメだよぅ、ミラクルっ!」

「……え?」

「ダークネスはお母さんのために一生懸命やってるんだよ! だからミラクルも一生懸命やってよ!」

「え? ええっ??」

 

 まったく意味のつながらないウィッチの言葉に、ミラクルは涙が失せてぽかんとしてしまった。ウィッチは胸に当てた小さな拳に力を込めて、前屈みでミラクルに迫ってきて言った。

 

「ダークネスはお母さんのためにすごく頑張ってる! ミラクルもなんかのためにすごく頑張らなきゃだめだよ! ダークネスと戦いたくない気持ちがあるんでしょ。そんなめそめそしてたら、なんにも伝わらないよ! いつもの元気なミラクルになって、ミラクルが本当にやりたいことを頑張って、ダークネスにそういう気持ちをちゃんと伝えてよっ!」

 

 ウィッチの言っていることはめちゃくちゃだが、その気持ちはミラクルの胸に透くように伝わってきた。

 

 ――わたしが本当にやりたいことって……

 

 そんなのはもう決まっていた。マジカルと一緒に魔法界とナシマホウ界を守る。それがきっと、ダークネスと理解し合うきっかけにもなる。ミラクルは素直にそう思うことができた。

 

 ミラクルが立ち上がってウィッチに微笑した。その表情がさっきまでとは嘘のように変わっていた。さしずめ大嵐が急に去って晴れ間が広がったという様相だ。

 

「あ~、なんかミラクル元気になったみたい!」

 

「ウィッチ、ありがとう。プリキュアの大切なことを忘れていたよ。プリキュアは二つの世界をつなぐ存在だったんだ。ウィッチとダークネスだってそうに違いないんだよ。だからいつかきっと、理解し合える時がくるって信じてる」

 

「うん、そうなるといいね! でも、今は戦わなきゃね! 闇の結晶をもっていかないとダークネスに怒られちゃうもん!」

「これは渡さないよ」

 

 ウィッチがミラクルに突っ込んでいく。至近距離からの肘打ちにミラクルも同じ技で答えた。二人の肘がぶつかり合い交差した瞬間に、衝撃波があって虹色の草原に波紋が広がった。二人はその場で拳や蹴りを撃ち合い、神がかった反応で互いの攻撃を避けては打つ。そして、迷いを振り切ったミラクルの攻撃が冴えわたる。ウィッチのパンチを避けた刹那に鋭いカウンターパンチを繰り出す。それが見事にウィッチにクリーンヒットした。

 

「ウキャーッ!?」

 今度はウィッチの方が弧を描いて吹っ飛んでいった。

 

 

 

 ダークネスの攻撃で花々に埋もれていたマジカルは、痺れる体に鞭を打って立ち上がると言った。

「ミラクルはあなたが思うほど弱くないし! わたしはミラクルを信じるから!」

 

「あなたがどんなに信じても、ミラクルがあの状態では伝わらないわ」

「そんなことない! はあーっ!」

 

 マジカルが突き出してきたパンチをダークネスが手のひらで止める。途端にすさまじい衝撃がありダークネスは押し切られた。

 

「パワーが上がっている!?」

 

 ダークネスは防御の態勢のまま数メートル後方に滑った。すると、ウィッチがダークネスのすぐ横に落っこちて色とりどりの花弁が舞い上がった。

 

「ウィッチ!?」

「うう、いたぁい……」

 

「ウィッチ、大丈夫!?」

 

 ミラクルの声を聞いてダークネスが振り向き、その顔に驚きが広がった。

 

「いたたた……」

 

 尻をさすりながら起き上るウィッチに走ってきたミラクルが言った。

 

「ごめんね……」

「いや、あやまんなくていいよ! わたし敵だしっ!」

 

 敵であるはずのミラクルに謝られているウィッチを、ダークネスが鋭い横目で睨む。その視線を敏感に察知したウィッチが変に姿勢を正して震えあがった。

 

「ミラクルが元気になっているわ。あんた、なんか余計なことしたでしょ」

「よ、余計なことなんてしてないよ、ミラクルを全力ではげましただけだよ~」

「そういうのを余計なことっていうのよ!!」

 

 ダークネスにものすごく怒られたウィッチは、瞳に涙を浮かべて今にも泣きそうになっていた。今までダークネスの作戦で苦戦させられていたマジカルは、ウィッチがミラクルを元気にしてくれたようでありがたい反面、敵の行動に救われた現実には打ちのめされた。

 

 ダークネスはミラクルとマジカルを交互に見てから言った。

 

「今日のところは大人しく引き下がりましょう。でもね、わたしがミラクルに打ち込んだ楔は簡単には消えないわ。いつまでもあなたを苦しめ続けるでしょう」

 

 ダークネスは隣でめそめそし始めているウィッチに言った。

 

「ほら、行くわよ。もう怒らないから」

 

 それを聞いたウィッチは泣いた顔に笑みをのせてダークネスについていく。リリンが飛んできてダークネスの肩につかまると、二人はそろって大きく跳躍してミラクルとマジカルの視界から消えていった。

 

 フェンリルは花園に立って遠目にプリキュアたちの戦いを見ていた。

 

「やはり協力してヨクバールを倒したところが釈然としないね。闇の結晶を手に入れるためと言えば一応理由は立つが、わたしならヨクバールを伝説の魔法つかいにぶつけて倒させるね。プリキュアは本質的に共通の敵がいれば協力するものなのか?」

 

 協力したり敵対して戦ったり、伝説のまほうつかいと宵のまほうつかいの関係がフェンリルには奇妙で仕方がなかった。

 

 

 

 その夜、リコはどうしても眠れなくて一人で起きて魔法のランプに火をともし勉強をし始めた。それがどうにも手につかなかった。先刻あった戦いのことばかり考えてしまう。ダークネスに見下され、プリキュアの性質を見極める実験道具にされたことが何よりもリコのプライドを傷つけた。リコの胸に今までに感じたことのない嫌な気持ちが重くため込まれていく。それは闇のように暗く、地底に溜まっているマグマのように熱かった。初めて経験するその嫌な気持ちをリコは短い言葉で吐露した。

 

「くやしいっ……」

 

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