魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第13話 フレイア様のために! プリキュアに仕掛けられた罠!
フェンリルの人間考察


 暗い石畳を白猫の姿のフェンリルが、口に闇の結晶の入った袋をくわえて尻尾を揺らしながら早足で歩いていく。すると、道の端の方でぐずぐずしているボルクスが見えた。フェンリルは袋を廊下に置いて言った。

 

「お前、こんな所でなにやってんだ? ロキ様がお呼びなんだよ」

「フェンリルよう、俺はもうだめだ……」

 

 ボルクスは失敗続きで落ち込んでいるのだった。巨体がしゃがんで地面をいじっている。その状態で通路のほとんどを占領していて目障りだった。猫のフェンリルが通るのに不自由はなかったが、それでも何だかいらついた。

 

「でかい図体して情けないね! 失敗しちまったものは取り返しようもないだろう。ロキ様の前で平謝りするんだね」

 

 フェンリルは再び袋をくわえると鼻をならしてボルクスの横を通り過ぎる。彼女は少し歩いて振り返り、薄闇の向こうでまだしゃがんでいるボルクスを見ていると哀れに思えてきた。ボルクスはフェンリルの協力でプリキュアを倒すチャンスを得ながら失敗した。

 

 ――奴の気持はわからなくもない。今回の失敗は許されないだろう。ロキ様に始末されるかもしれないね。

 

 そこまで考えるとフェンリルは袋を下に置いて口紐を解いた。

 

「仕方ない。ま、あんな奴でも一応仲間だからね」

 

 フェンリルはそこに数個の闇の結晶をばらまいて立ち去った。後からとぼとぼ歩いてきたボルクスは下を向いていたのでそれを見つけて大喜びした。

 

「なんだ、こんなところに闇の結晶が落ちてるぞ!? すげぇ! これでロキ様に怒られずに済むぞ!」

 

 ボルクスは闇の結晶を拾うと一転して意気揚々と歩き始めた。その頃にフェンリルはロキと対面し、うやうやしく小さな頭を下げているところだった。

 

「ロキ様、申し訳ありません。今回は闇の結晶を持ってくることができませんでした」

「そうか。お前が闇の結晶を見つけられないとなると、いよいよ煮詰まってきたな」

 

 ロキは玉座の上で腕を組み考え込んでいた。フェンリルが手ぶらで来たことなど気にしていない。そこへボルクスが軽く地面を揺らしながら歩いてきた。

 

「ロキ様、聞いてくだせえ! 闇の結晶を見つけてきましたぜ!」

「ほう! お前の方が闇の結晶を持ってくるとはな」

「そこの廊下に落ちてたんですぜ、おらあ運がいい!」

 

 ボルクスがそう言うのを聞いて、フェンリルの全身に冷や汗が流れる。

 

 ――どあほーっ!! そのまま廊下に落ちてたなんて言いうやつがあるか! というか、こいつ気づいていないのか、わたしが闇の結晶を譲ってやったということに!?

 

 フェンリルはボルクスが頭が悪いといっても、そのくらいのことは気づくだろうと思っていた。しかし、その考えは甘かった。

 

「……珍しいこともあるもんだな」

 

 ロキの声が急に変わった。異様な瞳の底の方に強大な圧力が潜み、それは確実にフェンリルに向けられていた。

 

「い、いやあ、本当ですね」

 

 フェンリルは思わずロキから目を背けてしまった。

 

「ボルクス、闇の結晶を」

「へい!」

 

 ロキはボルクスから数個の結晶を受け取ると、それを強い力で握り込んで言った。

 

「お前はもういっていいぞ。フェンリルはここに残れ」

 

 ボルクスが上機嫌に妙な鼻歌を鳴らして去っていく。ロキは残ったフェンリルを高圧的に睨みながら言った。

 

「お前、どういうつもりだ? なぜ奴に情けなどかける?」

 

 フェンリルは隠し立てするのは余計にまずいと考え、全部正直に打ち明ける覚悟を決めた。彼女はさらなる誠意を見せるために少女の姿になり、ロキの前に片ひざを付いてからはっきりとよどみなく言った。

 

「人間の言葉で言えば、情にほだされたということです」

「おいおいおい! お前がそんなことでどうする!?」

 

「わたしはプリキュアの本質を知るために人間の書物を読みあさっています。恐らくその影響でしょう。しかし、ご安心下さい。ロキ様に対する忠誠はいささかも変わりありません。なんなら、今すぐにプリキュアを仕留めてごらんにいれましょうか?」

 

 ロキはフェンリルの真意を知り側においてある竜の像をなで始めた。その動作に彼の安心感が現れていた。

 

「いや、お前が出る必要はない。疑って悪かったな」

 

「もう魔法界には闇の結晶はほとんどありません。そろそろプリキュア共と決着をつけた方がよろしいのでは?」

 

「その事なんだがな、考えていることがある」

ロキは自分の中にある記憶と情景を思い起こして言った、

「フェンリルよ、人間の書を読んでいると言ったな。人間というのは一人の女のためにどこまでやるんだ?」

 

 ロキの言い方は抽象的だったが、フェンリルは今まで本を読んで得た知識から推察をして言った。

 

「その女の立ち位置にもよりますが、例えば一人の女をめぐって二人の男が命を懸けて決闘したという記録があります」

 

「女同士ならどうだ?」

 

「そうですね、人間の書の中に献身という言葉があります。他人のためにその身をささげるのです。時には命すらかけることもあります。献身に性別は関係ありません」

 

 それを聞いたロキの顔に異様な笑みが浮かぶ。彼のかたわらにある黒い竜の像が怪しく光っていた。

 

「あっ、やばい!?」

 唐突にフェンリルが変な声をあげた。

 

 ロキが不審げに片方の眉を下げてフェンリルを見た。

「何がやばいんだ?」

 

「いや、料理をならう時間、じゃなくて! ちょいと用事がありましてね!」

 

 フェンリルが慌てている姿などロキは初めて見たので、彼の不審が余計に深まる。

 

「何を慌ててるか知らねぇが、俺様は仕事さえしてもらえればそれでいい。お前が俺の知らないところで何をしていようと興味はねぇ」

 

「そ、そうですか。それじゃあ、わたしはこの辺で」

 フェンリルはほっとしてロキの前から去っていくのだった。

 

 

 

 二人の心情を現すような寂し気なセイレーンの歌が聞こえてくる。フレイアは小百合とラナの話を穏やかな表情で聞いていた。

 

「申し訳ありません。伝説の魔法つかいに負けて闇の結晶を奪われました」

 

 淡々と話す小百合に対して、小百合に抱かれているリリンと隣に立っているラナはうつむき加減で元気がない。小百合だけは平気そうな顔をしているが、フレイアには小百合の悔しい気持ちが手に取るようにわかった。

 

「まあ、わざわざそのようなことを伝えに来たのですか。いいのですよ」

 

 フレイアは負けて落ち込んでいる小百合たちが可愛くなり、玉座から立ち上がってゆっくり彼女らに近づいた。小百合とラナは顔を上げ、フレイアの顔を瞳を潤ませて見つめる。今までこれほど間近にフレイアを見たことはなかった。ただこうして近くにいるだけで、青空のように心が広がり辛い気持がもれそうになる。フレイアはそんな二人の頭に手を置いた。

 

「闇の結晶を奪われてしまったことは残念でした。けれど、あなた達の無事な姿を見ることが、わたくしは何よりも嬉しいのです」

 

 ラナが笑顔になって、フレイアの体にひしと抱きついた。その瞬間の動作から、「ずっとこうしたかった!」という気持ちが口で言うように伝わった。その時に小百合は、何も考えずに行動するラナが羨ましいと思った。そう思っていると、フレイアの手がゆっくり動いて小百合を抱き寄せていた。小百合がフレイアの体に頬が触れると、温もりと一緒にとても懐かしい匂いがした。それは小さい頃に母に抱かれた時に感じたのと同じ匂いだった。さっきまで寂し気だったセイレーンの歌が、今は小百合の耳に心地よく聞こえている。小百合とラナの間にいるリリンも満面の笑顔だった。

 

 

 

 天気が良く雲の少ない日には、天空に巨大な魔法陣の一部が青空の中にかすんで見えることがある。みらいたちは今、魔法学校の上階をつなぐ渡り廊下でそれを見上げていた。

 

 みらいはしょっちゅう小百合たちのことを考えては胸を痛めていた。

 

「はーちゃんがいてくれたらなぁ」

 

 みらいがほとんど無意識に言った。彼女らの親友の花見ことはなら、今のいかんともし難い状況を何とかしてくれると思えた。リコが今にもため息の出そうな顔のみらいを見つめる。

 

「きっとはーちゃんは、わたしたちには出来ない大切なことをしているのよ。わたしがナシマホウ界に行けたのも、はーちゃんのおかげだと思うし」

 

「うん、そうだね。近くにいてくれてるって、何となく感じるよ」

 

 春風が少女たちに触れていく。リコが再び空を見上げると、一欠けらの雲が巨大な魔法陣の下を流れていた。

 

「はーちゃんの魔法陣とナシマホウ界の黒い魔法陣がつながっているのはどういうことなのかしら?」

 それはリコの独り言だった。みらいもずっとそれが気になっていた。

 

「あの時見た黒い魔法陣って、小百合たちが魔法を使う時に出るのと一緒だよね?」

「ええ。はーちゃんは何か知っているかもしれないわね」

 

 そうは言っても、ことははいない。遠くの空に彼女の痕跡があるだけだ。けれど、みらいとリコには確信があった。

 

「また会えるよね」

「会えるわよ、絶対に」

 

 根拠などなにもない。けれど、二人とも心の底からそう信じられた。

 

 

 

 ラナがリリンと並んでベッドの端に座り、楽しい夢でも見るように両手で頬を包んでうっとりしていた。それとは全く逆に小百合は開いた教科書とノートを前にして口を一文字に引き結びペンの先でノートを何度もつついている。眉を寄せたまま表情を変えない小百合は、まるで怖い構えの置物のようで、ラナと彼女の間の空気に奇妙な隔たりがあった。

 

「はぁ、トパーズのプリキュアいいなぁ」

 

 さっきからぼーっとしているラナの前で、チクルンが飛びながら腕を組んでみていた。

 

「おめぇ、負けたんじゃねえのか?」

「負けたよ~、トパーズのプリキュアちょーつよい!」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」

 

「だってさあ、ちょうかわいくて、ファンタジックなんだよ! きいろポヨンまで付いてるし! いいなぁ、わたしもあんな可愛いプリキュアになりたいなぁ」

 

「何だよきいろポヨンて……。のんきというか、なんというか、ここまでいくと何もいえないぜ」

 

「あんた、いい加減にしなさい。さっきからうるさいわよ」

 

 ずっと考えてるふうだった小百合が目だけをラナに向けて言った。

 

「小百合だってかわいいと思うでしょ、トパーズのプリキュア」

「冗談いわないで、かわいいわけないでしょう。トパーズは優れた対人戦能力を持っているわ。対抗する方法を見つけなければ」

 

「そんなの簡単だよ。わたしたちもトパーズみたいなプリキュアになればいいんだよ!」

「なれないわよ、おバカ!」

 

 それから小百合が考えて出した結論は、もうみらい達には手出しをしないことだった。いくら考えても現状ではトパーズのプリキュアにはかないそうにない。今できることといえば、方々飛んで闇の結晶を探すことくらいだった。

 

 

 

 小百合たちは当所もなく魔法界をさまよう。闇の結晶はなかなか見つからなかった。それはみらいたちも同様で、どちらの組も闇の結晶を頑張って探していた。そして数日が経った。

 

 そこはいくつかの村が点在する大きな島で、草原の中に森が点在している。上空から眺めると、森が緑色になった海に無数に浮かぶ島のように見える。そして、その島の中央にはひときわ大きな樹、杖の樹があった。杖の樹は魔法界の各所に点在しているのだ。

 

 この島で小百合たちとみらいたちが箒に乗って別々の場所で闇の結晶を探していた。この二組が同じ島に来ているのは偶然だった。いま彼女らが出会ったとしても、どちらも闇の結晶がないので戦う理由はないはずだ。そんな状況をあざ笑うように、邪悪な意志によって島の中央の空から暗雲が急速に広がった。小百合とみらいは別々の場所で同じものを見つめる。黒い雲はまるで生きているかのように(うごめ)き、島全体を覆っていった。

 

「え、なになに? どうなってるの?」

「見て!」

 

 きょとんとして辺りを見ているラナに小百合が言った。

 

「なんだよあれ」

「魔法陣デビ」

 

 チクルンとリリンは遠くに見える島の中央、杖の樹がある場所を見つめていた。その上空が黒い雲の中心になっている。そこから魔法陣が広がっているのが見えた。

 

 みらいとリコとモフルンの目にも魔法陣が映っている。遠くからなので形まではわからなかったが、そこから何が出てくるのかは予感していた。

 

 黒い魔法陣の中央に描かれている竜の骸骨が形を成し、魔法陣の中から体がひきずりだされていく。黒い塊から腕と足が伸びて、背中に漆黒の翼が開く。その姿は人型の漆黒の影で、頭の竜の骸骨の上に黒いリングが浮んでいた。

 

 遠くからその姿を目撃したみらいが声をあげる。

 

「ヨクバール!?」

「どうしてあんな遠い場所にヨクバールが現れるの?」

「さゆりとラナが狙われてるんじゃ?」

 

 そう言うみらいにリコが何か答えようとしたその時に、

 

「ヨクバアァーーーールッ!!」

 

 召喚された怪物の叫び声が空気を震わせた。その瞬間に、別々の場所にいたみらい達と小百合達が同時にふっと消えた。気づいた時には四人の少女の目の前にヨクバールがいて、アイホールの真紅が彼女らを睨みつけていた。リコはそれにも驚いたが、それ以上に小百合たちがすぐ横にいたことにさらに驚愕した。

 

「ええっ!? あなたたち!?」

「どうなっているの!?」

 

 小百合もリコを見て同様に驚く。みらいとモフルン、ラナとリリンとチクルンは訳が分からず口をあけて呆然としていた。

 

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