魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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光と闇の衝撃

「ダークネス、ウィッチ、こんな戦いはやめてデビ……」

 

 結界の外に立ってリリンが涙を零した。彼女の視線の先でマジカルとダークネスの戦いが再び燃え上がった。ダークネスは軽く飛んで後ろの壁を蹴り、マジカルの急接近する。マジカルは目の前に現れたリンクルステッキを手にした。

 

「リンクルステッキ! リンクル・ムーンストーン!」

 

 右手をそえた斜のステッキの前に白亜の円盾が現れる。そこにダークネスが大砲の射撃のような凄まじさで突っ込んできて拳を叩きつけた。その衝撃でマジカルはムーンストーンの盾ごと数メートル後退させられた。ダークネスはすかさずマジカルの頭上に飛び、ムーンサルトでマジカルの背後に着地する。マジカルは素早く反応してダークネスの回し蹴りを避けつつ後ろに跳んだ。ダークネスがその隙を狙う。

 

「リンクル・ローズクォーツ!」

 

 ダークネスが顔の前に持ってきた手の腕輪に薄ピンクの水晶がセットされる。彼女はその手を前に出すと、無数の水晶の花びらが舞って着地際のマジカルを襲った。

 

「くうぅっ……」刃のような花びらに襲われたマジカルは、片腕で目を覆って呻いた。ドレスに少しずつ切れ目が入っていく。マジカルはリンクルステッキで前方を突いた。

 

「リンクル・アメジスト!」

 

 マジカルの前に紫色の魔法陣が開き、水晶の花びらがそれに吸い込まれていく。そして、ダークネスの頭上に開いた同じ魔法陣から、吸い込まれたものがそのまま降り注ぐ。それに気づいたダークネスが後ろに跳んで回避、再びマジカルとダークネスの視線がぶつかった。その時、ウィッチの一撃で吹っ飛ばされてきたミラクルがマジカルの背後に墜落した。

 

「ミラクル!?」

「どこを見ているの、あなたの相手はわたしよ!」

 

 ダークネスがミラクルの前に走り込んでくる。次々と撃ち込まれる連続攻撃をマジカルが避けて、隙をついたパンチが見事にダークネスに決まった。悲鳴をあげてダークネスが吹っ飛ぶ。

 

「冷静さを失ったあなたなんて怖くないわ!」

 

 マジカルはミラクルの元に走って助け起こした。その時にミラクルは言った。

 

「マジカル、二人ともフレイアっていう人のために必死に戦ってるんだよ」

「ええ、わかっているわ」

 

 ミラクルとマジカルの対面で、ウィッチがダークネスを助け起こしていた。ダークネスは憎しみで夕日のように暗く燃えている瞳でミラクルとマジカルを見つめて言った。戦いによってミラクルとマジカルのピンクと紫のドレスは埃のまみれ、ダークネスとウィッチの黒いドレスも乱れていた。

 

「伝説の魔法つかいを倒す」

 

 ダークネスの思いがウィッチに伝わり、二人は自然と寄りそい、ダークネスの左手とウィッチの右手が後ろ手につながった。

 

「まずいわ……」

 

 マジカルが苦し気に言った。ミラクルにもダークネスとウィッチが最大の魔法を使おうとしていると分かった。結界に阻まれて逃げ場はない。

 

「どうしたら……」

「ミラクル、こっちも魔法で対抗しましょう」

「でも! 校長先生が強い魔法は使っちゃだめだって!」

 

「そうだけれど、今はそれしか方法がないし、やらなければわたし達はここで終わりよ。ダイヤモンドエターナルで彼女たちの魔法を封印して外に吹き飛ばすのよ。そうすれば安全だから」

 

 マジカルの提案はミラクルにもベストのように思われた。ミラクルはマジカルに頷きを返し、

 

『リンクルステッキ!』

 

 目の前に対になって現れたダイヤが輝くリンクルステッキを、ミラクルとマジカルが手にして跳び、空中で手をつないだ。

 

『永遠の輝きよ! わたしたちの手に!』

 

 ミラクルとマジカルが同時に舞い降りると、そこを中心に光の波が広がっていく。

 

『生命の母なる闇よ、わたしたちの手に!』

 

 ダークネスとウィッチの周囲にも闇色の波動が広がり、光と闇の波がぶつかると、正反対の力によって起こった反発で嵐のような大風が結界の中に荒れ狂い、プリキュア達の美しい髪やドレスが翻弄される。

 

ダークネスとウィッチが黒いダイヤが怪しく輝く腕輪のある手を開いて上に向けると、ダイヤの輝きが増した。そして二人は、まるで先に見えるミラクルとマジカルの魂をつかもうとでもするかのように、その手を前に出した。すると少女たちのしなやかな手から中央に赤い三日月、周囲に赤い星マークの入った黒い六芒星の魔法陣が広がる。

 

それを外から見ていたリリンは恐ろしさのあまり震えていた。

「二人ともやめるデビ、その魔法だけは……」

 

 リリンの声は消え入りそうだった。もう二人の声を伝えることを諦めていた。そんなリリンの隣にモフルンが走ってきて、黒い壁に両手を付けて叫んだ。

 

「ミラクル、マジカル、だめモフ―ッ!!」

 この二人のぬいぐるみには、この先にある運命が見えているかのようだった。

 

「なんでこんなことになっちまうんだよ……」

 チクルンは呆然して、自分の無力さに打ちひしがれていた。

 

 ミラクルとマジカルには大魔法で対抗するしか手がないのは確かだった。二人はリンクルステッキで描いていく。

 

『フル、フル、リンクル!』

 

 二人の描いた三角形が具現化して光を放つと、二つの三角形の間にもう一つの光の三角形が現れ、それらが繋がってダイヤの形になり、そこから五芒星の周囲にハートをを散りばめた白い魔法陣が広がる。その時についにダークネスとウィッチの魔法が放たれた。

 

『プリキュア! ブラックファイア!』

 二人のつながる手に力が込められ、暗い魔法陣の中に巨大な黒いダイヤが現れる。

『ストリームッ!!』

 

 黒いダイヤからあふれ出た闇色の激流が、ミラクルとマジカルの白銀の魔法陣に叩きつけられた。今までに経験のない光と闇の凄まじいせめぎ合いが、二人に途方もない圧力を与える。リンクルステッキを持つ二人の手が震えていた。

 

「ミラクル、耐えて!」

「うん、負けない!」

 

 二人のつながる手に強い思いが込められる。その時、ダークネスとウィッチの魔法が途切れて、膨大な闇の力を白い魔法陣が受け止め切った。

 

『プリキュア! ダイヤモンドッ!』

 白い魔法陣の前に強大な闇を封印したダイヤモンドが現れる。それが回転すると同時に、ミラクルとマジカルはつないでる手を放し、この瞬間に人生をかけるくらいの気持で思い切ってその手を前に出した。

『エターナルッ!!』

 

 次の瞬間、ミラクルとマジカルの表情が苦し気に歪む。ダイヤが目の前から動いていない。

 

「お、重い!!?」

「くっ、こんなことで!」

 

 二人はあらん限りの力を込めて、もう一度目の前のダイヤを押し出した。

 

『はあ―――ッ!!』

 

 爆発するような風を残してダイヤが飛んだ。

 

「やった!」

 

 ミラクルが喜んで見上げた顔が、まるで崖から叩き落とされるように絶望の色に染まる。中で闇がうごめく巨大なダイヤが空中で止まっていた。黒い結界の天上にも届いていなかった。

 

 4人の少女たちの視線が頭上のダイヤに集まる。ダイヤが小刻みに震える。その姿は病に苦しみ抜いてこと切れる瞬間の人を連想させる。容量を超えた闇の圧力に耐えかねたダイヤ全体に細かい亀裂が入った。そして、ダイヤが粉々に砕けた瞬間に、反発する光と闇の魔力によって、想像を絶する爆発力が生まれた。巨大な力が発した爆発の瞬間に何かが光った。そして広がろうとしていた光と闇の炎が一瞬だけ収束し、また広がった。白と黒が複雑に絡み合う炎が急速に拡大して少女たちに迫る。

 

「マジカル、危ない!」

 ミラクルがマジカルに抱きついた。

「ミラクル!!?」

 

 同時にウィッチがダークネスの前に立って両腕を広げた。

「ウィッチ!!?」

 

 マジカルとダークネスの叫ぶ声が光と闇の爆発の中に消えた。爆発は闇の結界を内側から砕き、その衝撃でモフルンとリリンとチクルンが吹き飛ばされる。爆発はさらに広がっていった。

 

 モフルンとリリンは緑の草の上に転がっていた。二人が顔を上げた時、星の宿る瞳に現実とは思えない光景が映った。彼女らがいる場所から先には何もなくなっていた。地面は大きくえぐられ、黒々とした大地を見せつけていた。土の焼ける音が大地の悲鳴のように聞こえて、一帯から無数の細い煙が上がっている。

 

 小百合とリコは別々の場所でほとんど同時に目を覚ました。二人とも大きな衝撃のせいで変身が解けて元の魔法学校の制服姿に戻っていた。二人の隣には、傷ついて倒れている親友の姿があった。二人とも幻でも見るように呆然としたが、すぐにその表情が絶望で埋め尽くされた。

 

 小百合は半分土に埋もれているラナを抱き寄せて叫んだ。

 

「ラナ!!?」返事はない。ラナはまるで人形のように全身の力がなくなっていた。

「ちょっとあんた!! 返事しなさいよ!! 返事を……」

 

 遠くの方から小百合の耳に悲劇的な悲鳴が聞こえてくる。

 

「みらい!!? みらい!!? 目を開けて!!」

「モフ―ッ!!? みらい、しっかりするモフ!!」

 

 リリンも小百合の近くに飛んできてラナの体をゆすった。

「ラナ! しんじゃダメデビーっ!!」

 

 そのリリンの叫びが小百合におぞましい衝撃を与えた。悲愴な悲鳴が飛び交う中で、小百合は深く傷ついたラナとみらいの姿を順に見て慄然とした。

 

「わたしは……何をしているの……」

 

 唐突に、地に響く重い衝撃があった。小百合とリコの目の前に終焉的な絶望が降ってきた。彼女たちの視界の中で目の赤い目の巨人が立ち上がる。

 

「ぐはは! これでプリキュアも終わりだ! この俺がとどめを刺すぜぇ!」

 

 最悪のタイミングで現れたボルクスに、小百合は絶望に打ちひしがれ、リコは悲しみの涙にくれながら、二人とも魔法の杖を構えた。どちらの手も震えていた。

 

「どうしてこんな時に……」

 

 小百合から声が零れた。彼女の気の強さは完全にくじかれて、もう戦う気力はなくなっていた。

 

「まずはこっちからだ!」

「やめろーっ!!」

 

 小百合の方を睨んだボルクスにチクルンが向かっていく。その小さな体にある全ての力を込めて巨人の耳を引っ張った。

 

「ええい、うるさいぞ!」

「うあっ!!?」

 

 チクルンはボルクスの手で払われて黒い土の上に転がり落ちた。

 

 ボルクスが足音を響かせながら小百合に向かってくる。小百合は夢うつつのように呆然としていて、魔法の呪文すら唱えることができずにいた。ボルクスの手が伸びてくる。それを見ている小百合には現実感というものがなかった。そして、小百合の目の前が暗黒に染まった。

 

「やらせませんよ!」

 

 小百合の聞き覚えのある紳士の声、小百合の視界を黒くしたのは彼のマントだった。マントをひるがえしたバッティが右手に現れた杖を持ち、迫ってくる巨人の手に対抗するように突き上げる。彼の杖の前に現れたドクロの魔法陣が盾となってボルクスの手を強烈な衝撃と共にはね返した。

 

「うおおっ!? ちくしょう! なら、あっちだ!」

 

 ボルクスが向きを変え、今度はリコの方に向かう。するとリコの前にも美しい天使が舞い降りた。

 

「お姉ちゃん!!?」

 

「どきやがれ、おんなぁーっ!」

 

 リズは襲ってくる巨人を恐れもせず、タクトの杖を振った。

 

「キュアップ・ラパパ! 吹雪よ巻き起こりなさい!」

 

 リズの魔法で白雪と共に極寒の冷気が竜巻になって巨人を包み込んだ。

 

「ぐおぉ!?」ボルクスが足を止めた。しかし巨人は憎々しげにリズを睨んで再び足を踏み出し、「人間の魔法なんぞに!」

 

 そこへ飛んできたバッティが空中でマントを広げ、ボルクスにドクロの杖を向けた。

 

「少し大人しくしてもらいましょう」

 

 バッティの杖から出た黒い煙のようなものが巨大な手の形になり、ボルクスの巨体を一握りにして倒した。巨人が子供に捕えられたバッタのように足をジタバタさせた。

 

「くそーっ!! 闇の魔法つかいめ!!」

「今のうちに逃げなさい」

 

 リズは意外な救出者に深く感謝して言った。

 

「ありがとう」

 

 リズが杖を振ると魔法の絨毯が降りてくる。

 

「さあ、早く乗りなさい!」

 

 リズが激しい口調で言うと、それに気圧されたリコとモフルンが先に絨毯に飛び乗り、次にチクルンが、最後にみらいを抱いたリズが乗った。

 

「絨毯よ、素早く魔法学校に飛んでいきなさい!」

 

 バッティは絨毯が飛んでいくのを見届けてから、再び小百合の前に降りた。彼がラナをわきに抱え上げると、リリンが黒いマントにしがみ付く。

 

「わたしの手を取りなさい」

 バッティが手を出しても、小百合は呆然としたままうずくまっていた。

「何をしているのですか!」

 

 怯えた目で見上げる小百合を見てバッティは手を引くと、マントで小百合を包んで呪文を唱えた。

 

「オボエテーロ!」

 

 バッティ達の姿は瞬間に消えてなくなった。後に残されたボルクスはバッティの魔法から解放されると、悔しさのあまり大地を拳で何度も打って叫び声をあげた。

 

 

 

 虚空に広がる映像の一部始終を見ていたロキは渋面のまま黙っていた。

 

「ボルクスめ、なんてざまだ! わたしだったら確実に仕留められていたものを」

 

 口惜しそうにフェンリルが言うと、ロキが重い口を開く。

 

「確かにボルクスのヘマは許しがたい。だがよ、本当だったら奴が出る必要もなかったんだぜ」

「どういうことですか?」

 

 フェンリルは、驚いて振り向いた猫のように、ロキをじっと見つめていた。

 

「あの爆発にはプリキュアどころか島のすべてを消し去る威力があった」

「そんなバカな!? しかし、実際には島のごく一部を破壊した程度ですよ」

 

「爆発の瞬間に干渉してきた奴がいる」

「それが本当なら、その者は神」

 

「そんなようなもんだ。あの爆発の瞬間、ほんの一瞬だが見えたぜ」

「見えたとは?」

 

「リンクルストーンエメラルド」

 

 それを聞いたフェンリルは言葉が見つからなかった。ロキの顔が怒りと憎悪の為に仁王のように強張った。その中で激しく燃える瞳は見ただけで人が殺せそうだった。

 

「忘れていたぜ、一番厄介な奴の存在を。奴を消さない限り、この世界を支配することはできねぇ」

 

 ロキが傍らの黒龍の像を触ると、嘘のように今までの狂暴な表情が消えて微笑すら浮んだ。

 

「こいつを完全体として復活させればどんな奴も怖くねぇが、闇の結晶が足りねぇ。そろそろ俺様が動く時か」

 

 ロキは表情こそ穏やかになっているが、その目は異様にぎらついていて、人を射殺すような炎は消えていなかった。

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