魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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リコ最大の危機

「ヨクバール、攻撃しろ、かるーくな」

「ヨクバール!」

 

 フェンリルの命令で竜の骸骨の仮面があぎとを開き冷気を吐き出す。それがリコの背後から吹き付けてきた。寒さに震え、苦しそうにな顔のリコを見てモフルンは目に涙を浮かべていた。

 

「リンクルストーン! リコを助けてモフ!」

 

 モフルンが祈るような気持でリンクルストーンダイヤを見つめる。何も起こらなかった。それでもモフルンは目を閉じて念じているようだった。リコは寒さに耐えながらそんなモフルンを見て思った。

 

 ――無理だわ、リンクルストーンはみらいがいないと反応しない。このままじゃモフルンまで一緒に……。

 

 リコは自分のことよりも、モフルンの事を考えてたまらない気持ちになった。自分の軽はずみな行動が、みらいから大切な家族を奪ってしまうかもしれない。もし、みらいが気づいた時にモフルンがいなくなっていたらどんな気持ちになるだろう。容赦ない冷気が、そう考えているリコの体から感覚を奪っていく。

 

 リコは追われながらある島の上空に入り、島の中心にある大きな湖の上を飛んでいく。リコは逃げるのに必死で自分がどこを飛んでいるかなどわからなかった。そして、リコが湖を越えて森の上に差しかかった時にフェンリルは言った。

 

「遊びは終わりだ。やれ、ヨクバール」

 

 ヨクバールが吠えて巨大な翼を羽ばたかせる。そこから起こった旋風が振り向いたリコに襲い掛かった。吹き飛ばされた少女の体は箒と分離して宙に投げ出された。フェンリルはその姿に満足した残酷な笑みを浮かべた。

 

「プリキュア、終了のお知らせ」

 

 リコは自分の体が落ちていく速度がひどくゆっくりに感じた。さらにゆっくり落ちている自分のとんがり帽子が視界の中で泳いでいる。同時に瞬間に様々な記憶が巡り、誰かに助けを求めるように空に手を泳がせた。

 

「リコ、諦めちゃだめモフ―ッ!!」

 

 必死に叫ぶモフルンの声もリコには届いていなかった。

 

 ――わたし、ここでおしまいなの? お父様、お母様、お姉ちゃん、

 

 リコの目からあふれた涙が散ってダイヤのように輝く。彼女はその人が目の前にいるかのように精いっぱい手を伸ばした。

 

「みらい―――っ!!」

 

 その瞬間、リコは確かに伸ばした手に温もりを感じた。それは紛れもなく現実的な感触だった。リコは自分の手をしっかりと握っている感触の先に、あるはずのない親友の姿を描いた。見上げたリコに瞳には、別の意味で信じられない少女の姿が映っていた。

 

「小百合……」

 

 箒の上からリコの手をつかんでいた小百合は、自分がやらかした愚かな行為に苦しめられて険しい顔をしていた。彼女が箒を森に向かって急降下させると、リコは浮力を得てうまく小百合の後ろに乗ることができた。その救出劇を見ていたフェンリルはあまりの出来事に唖然としてしまった。

 

「……おい、何だこれは? 夢じゃないのか?」

 フェンリルが突然口を歪めて狂気的に笑いだす。

 

「もう一方のプリキュアも現れやがった! いいぞ、最高だ! こりゃ飛んで火にいる夏の虫、いやそんなもんじゃあない。狼の口に自から飛び込んできた獲物だ! アッハハハハハ!!」

 

 フェンリルの痛快な笑い声が湖の上に響き渡る。

「ロキ様お喜びください! プリキュアは今日ここで終わります!」

 

 フェンリルが上空から少女二人の姿を求めて森に近づいていく。リコと小百合は大木の陰に隠れていた。

 

「小百合、リコを助けてくれてありがとうモフ!」

 

 驚きのあまり言葉がでないリコに代わってモフルンが言った。

 

小百合が何も言わないで上ばかり見ていると、リリンが代わりにしゃべった。

 

「小百合は、どういたしまして、気にしないでって思ってるデビ」

「そんなこと思ってないわよ!」

 

 いい加減なことを言いうリリンに小百合が怒り出す。その時になってリコは少し落ち着きを取り戻して言った。

 

「どうしてわたしを助けてくれたの?」

 

「自分でも愚かなことをしたと思うわ。けれど、もしあんたを見捨てたら、ラナはわたしを決して許さない。わたしたちの友情はおしまいになるわ。それは絶対に嫌よ」

 

 それから小百合はリコのことをしっかり見つめて言った。

 

「あんたはわたしを殴りたいでしょうね。殴ってもいいわよ、正し無事に帰ることができたらね」

 

 小百合は上空を警戒しながらこの難局をどうすれば乗り切れるのか考えていた。

 

「魔法の箒が一つしかないのが痛いわね。二人乗りじゃあのヨクバールから逃げ切ることはできない。脱出する為には2本の魔法の箒があることが絶対条件だわ」

 

 リコに頭に先ほど自分が乗っていた箒の事が過ぎるが、それを探す暇をくれる程敵は甘くない。二人がどうすべきか考えていると、リリンがポシェットの中から何か出してきた。

 

「これを使うといいデビ」

 

 それを見た小百合の顔に驚きが満ちる。

 

「それ、ラナの箒じゃない!」

「ラナから借りてきたデビ。ラナは小百合の力になりたいんデビ」

 

 小百合はリリンから箒を受け取ると、感銘と一緒に申し訳ない気持ちが胸を突き上げた。小百合は正直にいって、リリンをプリキュアに変身するためのマスコットくらいに思っているところがあった。今この時に、リリンが小百合やラナに対して心を砕いていたことがわかった。

 

「ありがとう、リリン」

 

 小百合は今までの感謝も込めてリリンに言った。それからラナの箒を一振りして元の大きさにすと、自分の乗っていた初心者用の箒をリコに押し付けるようにして渡す。

 

「あんたはわたしの箒を使いなさい」

「その箒に乗るつもり!?」

 

 リコは小百合と彼女が持つレーシング用の箒を交互に見つめた。

 

「これに乗れなきゃ、わたしたちはおしまいよ」

「どうするつもりなの……?」

 

「あのヨクバールから逃げ切るのは不可能よ。倒して隙を作るしか方法はないわ」

「倒すって、そんなの無理よ。人間の魔法でヨクバールが倒せるわけない……」

 

 上を見ていた小百合は振り向くと、その眼に怒りと嫌なものを見るような光を乗せてリコの両肩を強くつかんだ。

 

「あんた、どうしちゃったのよ!? いつもの自信はどこにいったの!? みらいがいないとそんなに弱くなるの!?」

 

 小百合は不安に押しつぶされそうな顔のリコの肩から手を離すと今度は水の流れるような調子で言った。

 

「あんたの自信は努力に裏打ちされた本物よ。どんなに辛くても苦しくても努力し続けて、自信をもって今までで前進してきたんでしょう。あんたのそういうところを、わたしは尊敬しているわ」

 

 今の危機的状況が、小百合の言葉が本物であることを証明していた。リコは胸の内で美しい音律が響いているような気持になった。

 

「いつものリコに戻りなさい。それが出来なければ、わたしたちは二人ともここで終わりよ! そんなのは絶対にごめんよ! わたしはラナに謝りたいのよ!」

 

「わたしだってそうよ! みらいに謝りたいわ! いいたい事だってたくさんあるんだからっ!!」

 

 その時、烈風がリコたちから少し離れた樹の何本かをなぎ倒した。周りに散った風が小百合とリコの長い髪と制服を激しく揺さぶる。

 

「隠れても無駄だよ! さっさと出てきな! でてこないなら、その辺の樹を全部ぶっ倒してやる!」

 

 上から威嚇するフェンリルの声が聞こえてくる。そんな状況でもリコと小百合は真剣な目をぶつけ合っていた。小百合はマゼンダの瞳に負けん気の強さを認めると微笑した。

 

「いつもの調子が出てきたわね。作戦を話すわ。わたしが囮になってヨクバールを引き付ける。リコがその間にできるだけ強力な魔法を使ってヨクバールに一撃を与えて、その隙に乗じて二人で逃げるの」

 

「強力な魔法って言われても、ヨクバールを倒せるような魔法なんて……」

 

 リコはそんな強力な魔法を使ったこともないし、その知識すら持ち合わせていなかった。リコが迷いを見せるのは当然だった。小百合はそんな彼女に言った。

 

「わたしはリズ先生を尊敬しているわ、校長先生よりもよ。あのリズ先生が、リコはすごい魔法つかいになるって自慢気に言っていたのよ。あんたなら必ずできるわ! できないはずがない! リズ先生がそこまで言っているんだからね!」

 

 リコはそれを聞くと姉の顔を思い出し、むくむくと自信がわいてきて誇らしい気持ちにもなった。刹那的に弱気が消えて、リズに必ず答えてみせるという強い強い気持ちになった。そしてリコは言った。

 

「あの白猫に見せてあげましょう、人間の底力を!」

「一人で無理でも、二人なら大丈夫モフ!」

 

「一人と二人の間には天と地くらいの差があるデビ!」

「わたしたちはそれを誰よりも良く知っているわ!」

 

 最後に小百合が言った。二人は顔を合わせて頷き、ぬいぐるみ達の顔にも絶対に負けないという強い気持ちが出ていた。リコと小百合は同時に箒にまたがり、同時に飛翔した。二人とも手に魔法の杖を握りしめていた。その姿を認めたフェンリルは狩人としての余裕を見せていた。

 

「あきらめて二人で仲よく天国に行く相談でもしたのかい?」

 

 その時、小百合が悲鳴をあげて燕のようにフェンリルの目の前を過ぎていく。

 

「なにっ!? 一人を囮にして逃げるつもりか!?」

 

 フェンリルは驚かされながらも、自然と残ったリコの方に視線がいく。リコはフェンリルとヨクバールを見おろす位置で胸の辺りで星の杖を構えていた。その表情に恐れなどない。リコは小百合が敵を目の前にして逃げるような人でないことを知っていた。フェンリルは二人の少女が生きることを諦めて出てきたと思っていたので、怪訝な顔になった。

 

 高く上昇してた小百合は雲の中に突っ込んで凄まじい速力に耐えていた。できるだけ体を低く、箒の柄を持つ手の指が握力で白くなっていた。

 

「でたらめな速さだわ!? あの子、こんなのに平気で乗ってたの!?」

 

 小百合はこの滅茶苦茶な箒はまるでラナそのものだと思った。そう思うと、ラナにバカにされているような気がして腹が立ってきた。

 

「気合いれなさい、わたしっ!!」

 

 小百合は状態を起こし、馬の手綱を力いっぱい引くように箒の柄を引き上げた。小百合は箒で雲の中で半円を描き、雲を突き抜け一気に湖に向かって急下降、そしてヨクバールとフェンリルを前にして止まった。

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