魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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共闘! リコと小百合の戦い!

「戻ってきただと?」

 

 小百合が三日月の杖をヨクバールに向けると、フェンリルは信じられないものを見て顔を歪め、次の瞬間には笑いだしていた。

 

「面白いねぇっ! いい悪あがきだ! それでこそ人間だ!」

 

 小百合は上方向にいるリコと一瞬だけ目を合わせた。

 

 ――この難局を乗り越えられるかどうかは、全てあんたの魔法の一撃にかかっているわ。頼んだわよ、リコ!

 

 小百合の気持を受け取ったかのように、リコが動き出した。リコは下に広がる湖を見て、自分たちに運があることを悟る。追い詰められて、たまたまこの場所に来たことに運命すら感じた。

 

「わたしにヨクバールを倒せる魔法があるとしたら、氷の魔法しかないわ」

 

 リコは氷の魔法を少し使うことができる。それでヨクバールを退けるとなると、まったく次元の違う話になるが、覚悟を決めたリコはそんな余計な事は考えなかった。

 

「キュアップ・ラパパ! 水よ集まりなさい!」

 

 リコが湖に星を向けて呪文を唱え、今度は杖を頭上に上げると、湖の水面が波立ち、シャボン玉のような丸い水の塊が次々に宙に浮き出て、それが飛んで星の杖の上に集まって大きくなっていく。

 

 フェンリルは小百合に気を取られてリコの事は見ていなかった。

 

「ヨクバール、あの小娘を叩き落とせ!」

「ギョイィーッ!」

 

 ヨクバールが咢の虚空から吐き出したブリザードが小百合に迫る。

 

「ラナ、力を貸してね!」

 

 小百合がキュッと箒にまたがるひざに力を込めると彼女が一瞬でヨクバールの側面に移動した。

 

「なに!? 速い!?」

 

 フェンリルが驚いてる間に、小百合は左手に持っているジッポのライターの炎に杖の三日月を近づける。小百合はナシマホウ界から色々な道具を持ち込んでいて、今手にしているライターは祖父からこっそり借りてきたものだった。

 

「受けてみなさい!」

 ライターの炎が三日月に移って大きくなる。

 

「キュアップ・ラパパ! 炎よ逆巻け!」

 小百合の杖の上で炎が渦になって大きくなっていく。

 

 「もっと大きく!」小百合の声に応えて炎がさらに大きくなり、一抱えもあるほどの大きな火の玉になった。「炎よ! ヨクバールを焼き尽くせ!」

 

 小百合が撃ちだした火の玉がヨクバールの首に命中し爆発した。無数に降りかかる火の粉でフェンリルが目を細くし、体が震えるような衝撃を受けた。ヨクバールには大したダメージはないのにフェンリルの驚きは大きかった。

 

「あり得ない!? 人間の、しかもあんな小娘が、こんな強力な魔法をつかうなんて!? 何が起こっているんだい!?」

 

「キュアップ・ラパパ! 炎よ!」小百合の強気な呪文の後に飛んできた炎が今度はヨクバールの翼に命中し、爆炎があがった。

 

「くそ! ヨクバール、さっさと撃ち落とせ!」

 

 その時、リコの頭上には巨大な水の球が出来上がっていた。

 

「キュアップ・ラパパ! 水よ凍りなさい!」

 

 リコはぎゅっと両目を閉じて、全ての魔力と気力をこの魔法に注いだ。巨大な水玉がどんどん凍り付いていく。

 小百合はヨクバールの氷の吐息を箒の速さに任せて避けていた。

 

「ヨクバール! 翼を使え!」

「ヨクバァールッ!」

 

 フェンリルの命令でヨクバールの翼の羽ばたきから広範囲に暴風が吹き荒れる。それで小百合は吹き飛ばされて錐もみに落ちていった。フェンリルは勝利を確信して言った。

 

「よし、よくやった!」

 

 小百合は悲鳴をあげながら何とか立て直そうをするが、激しい回転で均衡がおかしくなり、目の前が暗くなっていく。小百合がもうだめだと思ったその時に、箒の穂から無数の星の光が吹き出て箒が安定した。小百合は世界が回るような感覚の中で箒から出る星の光を見た。

 

「ラナ!」

 

 小百合はラナがすぐ近くにいるような気がして闘志が燃え上がった。急上昇して再びヨクバールに向かっていく。

 魔法に集中しているリコの方は、今にも倒れそうなマラソンランナーのように苦し気だった。

 

「凍れ! 凍れ! 凍れ――っ!!」

 

 リコは最後の魔力を振り絞ったが、まだ水玉が半分程度しか凍っていない。

 

「ダメだわ、もう魔力が……」

 

 その時、リコの背中に誰かが触れて体が急に楽になった。

 

「みらい!」

 

 リコが名前を呼んだその時に、水球が一気に芯まで凍り付いた。

 

 小百合はヨクバールの近くに貼りついて周囲を高速で周って翻弄していた。

 

「くそ、こざかしい!」

 

 フェンリルはたかだか人間の少女一人を始末できずに苛ついていた。小百合がタイミングを計り急にヨクバールから離れていく。

 

「逃がすな! 追え、ヨクバール!」

 

「ギョイィッ!」その時、小百合にばかり気を取られていたフェンリルは、信じがたいものを見た。小百合が逃げていく先に、丸くて巨大な物体が陽光を吸ってダイヤのように複雑に輝いていた。

 

「今よリコ! 撃ちなさい!」

 

 小百合はそう叫ぶのと同時に、箒を上に向けて90度近い角度で曲がり急上昇、フェンリルの目にリコの姿が飛び込んでくる。リコが星の杖の先に浮かせている巨大な氷の塊を見て、さすがのフェンリルも戦慄した。

 

「やばい!!」

 

「キュアップ・ラパパ! 氷よ! ヨクバールに飛んでいきなさいっ!!」

 

 リコが杖を振ってヨクバールに向けた。空中で止まって翼と腕を開いたヨクバールに氷塊がまっすぐに飛んでいく。フェンリルが白い翼を開いてヨクバールから離れた瞬間に、生物を鈍器で叩き潰すような重々しい音がなった。

 

「ヨクッ、バールッ!?」

 

 叫び声をあげるヨクバールは、氷塊を抱きながら湖に墜落した。高い水柱があがり、飛び散った無数の水滴が辺りに豪雨のように降り注ぐ。すぐに戻ってきた小百合が水を浴びながらリコの手を引いた。

 

「逃げるわよ!」リコが小百合の後ろに飛び乗ると、ラナの箒が豪速で飛び出して、少女たちの姿はフェンリルの瞳の中で瞬間的に豆粒程度の大きさになり、すぐに消えていった。

 

 フェンリルは地面にいるように空中に立ってリコと小百合が消えた水平を見ていた。白猫の表情には悔しさというものがなく、避けようのない不幸にでも見舞われたように、ただただ神妙だった。

 

「………」

 

 オッドアイの中で動く巨大な生き物のような雲の動きが水平線を途切れさせた。フェンリルの小さな頭の中で様々な思考が巡り、いくつかの答えが導き出された。

 

「そうだったのか。奴らの間に憎しみはない。それどころか、尊敬とか友情とか、そういうものがある。それは間違いない。憎しみもないのに敵対しているところが謎だが、そう考えるしかないな、小娘がたった二人でヨクバールを退けたんだからな」

 

 フェンリルはリコと小百合がたまたま運が良かったなどと安易には考えなかった。それどころか、人間の持つ力の偉大さを認識した。その時に彼女の中で人間の理解を越えた力ががまっすぐにプリキュアに結びついた。

 

「わかったぞ! 人間の力の本質とプリキュアの力の本質は同じだったのだ! さっきの小娘どもは恐らく愛とか友情とか、そういうわけの分からんもので大きな力を発揮した。プリキュアもそれと同じだ。正し、力の大きさは人間の比ではない」

 

 フェンリルは急に表情に陰を落として言った。

 

「この状況はまずい。光と闇のプリキュアが敵対しているのならいいが、憎しみがないのなら、手を結んで協力する可能性がある。そうなればロキ様の脅威になる。早いところどちらか片方のプリキュアを始末しなければ」

 

 下の湖面が大きく盛り上がり、水幕を破ってヨクバールが飛び上がった。巨体から滝のように水を流し、怪物がフェンリルの強い敵意に呼応するかのように翼を開いて吠えた。

 

 

 

 フレイアの命令を受けていたバッティは、遠くから勇敢な少女たちの戦いをずっと見ていた。

 

「わたしの出る幕はありませんでしたか。それにしても驚きましたね。人間の身でありながらヨクバールから逃げおおせるとは……」

 

 彼もまた人間の強さを知り、人間のよき理解者となりつつあった。

 

 

 

 命からがら逃げてきた小百合とリコが、弱った羽虫のように曲がりくねった軌道で飛んできて魔法学校の門の前に降りてきた。レーシング用の箒で長距離を二人乗りしてきた小百合の魔力はほとんど残っていなかった。リコに至ってはそれ以前に魔力が尽きている。もう二人ともへとへとで、地上に立った途端に仲良く倒れてしまった。二人とも息を整えるのに時間がかかった。しばらくしてから、倒れたまま顔だけリコに向けて言った。

 

「ナイスな魔法だったわ」

「け、計算通りだし」

「この状況で強がりとか、ある意味尊敬するわ……」

 

「くるしいモフ……」

 モフルンがリコのお腹の下敷きになっていた。

 

「ごめんなさい」

 リコは転がって仰向けになった。

 

小百合は少し苦心して上体だけ起こして座り込んだままリコを見おろす。二人ともまだ息が荒かった。小百合はリコの胸の辺りに光る物を見つけていた。

 

「リコ、胸のペンダントが光ってるわ」

 

「え?」リコも起き上って座ったまま、制服の下に隠していたペンダントを引き出した。すると見慣れた宝石が目に入る、「アクアマリンのリンクルストーン!?」

 

 リコがもしやと思って見ると、小百合の右腕にも光る物があった。

 

「あなたの腕輪にも」

 

 小百合は腕輪を見ても、それを予期していたかのように落ち着いていた。

 

「オレンジサファイアのリンクルストーン……」

 

「リンクルストーンが力を貸してくれていたなんて……」

 

 二人で泣きたいような顔を見合わせる。それから小百合が言った。

 

「リンクルストーンは一人の力では使えないわ」

 

「わたし、みらいの存在をすぐ近くに感じたのよ」

「わたしもよ。ラナがすぐ近くにいてくれた。それを実感する瞬間があったわ」

 

 二人のリンクルストーンがそれぞれのアクセサリーから離れて、飛んできた宝石がモフルンとリリンの両手の上に乗った。

 

「みらいの思いがリコを助けたモフ」

 モフルンがアクアマリンを持ちながら言った。

 

「ラナの思いにリンクルストーンが答えたデビ」

 オレンジサファイアを両手にリリンが言った。すると小百合は感謝すると同時に自分を深く反省する。

 

「リリンがリンクルストーンを持ってきてくれなかったら、わたしたちは助からなかったわ」

 

「わたしもよ。モフルンがリンクルストーンを持っていくように言ってくれたから……」

 

「わたしたち助けられてばかりね」

「本当にね」

 

 そして、リコと小百合の感謝の言葉が重なった。

 

『ありがとう』

 

 今度はモフルンとリリンの笑顔が重なった。

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