魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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リンクルストーンアウィン

 朝からラナの家でため息と同じような言葉が繰り返されていた。

「はぁ~、いいなぁ」

 

 ためいきをつくラナはリリンを両手で持ち上げて、下からそれを見つめていた。

「青くてきれいで空飛ぶプリキュア」

「サファイアのプリキュアデビ!」

 

「赤くてかっこよくて強いプリキュア」

「ルビーのプリキュアデビ!」

 

「きいろくてかわいくて、ポヨンの付いてるプリキュア」

「トパーズのプリキュアデビ!」

 

 さっきからそういう会話が何度も繰り返されている。お茶しながら本を読んでいた小百合が、ティーカップを壊れそうな勢いでおいて、中に残っていたアップルティーが飛び散った。

 

「うるっさいわね! さっきから、何度も何度も何度も同じことばっかり言って!」

「だってさ……」

 

「だってもカフェラテもないわ!」

 

「なによぅ! 小百合はうらやましくないの!? 小百合だって、かわいくて、きいろポヨンの付いてるプリキュアとかになりたいでしょ!?」

 

「何よ、黄色ポヨンって!?」

「トパーズのプリキュアに付いてるのあるでしょ、きいろくてポヨンとしてるから」

 

 小百合がトパーズのプリキュアとの戦いを思い出すと、苛つきがMAXになった。

「また変なことばかり言って! もう黙ってなさい! うるさくて本が読めないのよ!」

 

 ラナは頬をぷくっとふくらませると、リリンを横に置いて暴れ出す。

「やだやだっ! わたしも違うプリキュアに変身したいよ~っ!」

 

 手足をじたばささせるラナを見て小百合は疲れ果てた呆れ顔になっていく。

 

「まるで他人の玩具を欲しがる子供ね。ない物ねだりはやめなさい。わたしたちには、わたしたちのやり方があるんだからね」

 

 暴れていたラナがピタッと動きを止めると、口をとがらせて小百合に言った。

「じゃあトパーズのプリキュアにどうやって勝つの~?」

 

「それは……今考え中よ……」

「ほら~、むりだ~、勝てないんだ~」

「あんたね!!」

 

 小百合がテーブルと叩いて立ち上がると、それに抵抗するというように、ラナはベッドの横に立つ。小百合がラナに怒った顔を近づけて言った。

 

「いい加減にしないと本気で怒るわよ!」

「もう怒ってるもん! いーっだ!」

「ああっ!?」

 

 二人はにらみ合って一触即発リリンだけが冷静だった。赤い星のある青い瞳が喧嘩している二人から離れて別の方向を見つめる。

 

「君たち」

 

 小百合がいきなり後ろから声をかけられて振り向くと、ベッドのわきでラナと二人で並ぶかっこうになった。二人を異常に巨大な赤い目が見つめていた。

 

『うわああぁ!!?』

 

 二人で同時に仰天して、同時にベッドに座り込む。楕円の鏡のような空間に映っている目が離れるとバッティの顔になった。状況を理解した小百合が言った。

 

「バ、バッティさん!? びっくりさせないでください!」

 

「失敬、フレイア様より君たちに話があるそうだ」

 

 楕円の中にフレイアの姿が現れる。彼女はぐっと迫って楕円が闇の女神の微笑でいっぱいになった。

 

「あなたたちが喧嘩をするなんて、珍しいこともあるものですね」

 

「小百合が悪いんだよ」

 

 ラナがぼそっと言うと、また小百合の怒りに火がいた。

 

「あんたが出来もしない事をいつまでもぐだぐだ言ってるからでしょ!」

「うえ~ん! フレイアさまぁ~、わたしも違うプリキュアに変身したいよ~」

 

 フレイアに泣きつくラナに小百合は呆れてものも言わなくなった。

「違うプリキュアになりたいのですか?」

 

 それを聞いた瞬間のラナの笑顔といったら、希望があふれ出て仕方がないという感じだった。

 

「なりたい! なりたい! なりたいですっ!!」

 

 小百合はとなりでラナがぶんぶん頷いている姿を見て思わず苦笑いが出てくる。

 

「ありますよ、あなた達のスタイルチェンジを可能にする守護のリンクルストーンが」

「本当に!!? それはドキドキで、ワクワクで、ファンタジックだよ!!」

 

 テンションMAXで大騒ぎのラナに反比例して小百合のテンションは下がっていく。

 

 ――支えのリンクルストーンのスターサファイアを手に入れるのにもあれだけ苦労したのよ。それよりも上位の守護のリンクルストーンなんて言ったら……。

 

 嫌な予感しかしない小百合にフレイアは笑顔のままに言った。

 

「そのリンクルストーンの名はアウィン。理性をつかさどり、ルビーと対極の関係にあります。そして、宵の魔法つかいプリキュアに比類なき力を与える守護のリンクルストーンなのです。これからの戦いに必要不可欠なものですから、必ず手に入れて下さい」

 

 そしてフレイアはリンクルストーンアウィンのある正確な場所を小百合たちに告げた。

 

 

 

 みらいとリコは箒に乗ってリズから聞いた場所に向かっていた。

 

「藍より青しリンクルストーンって、どんな宝石なのかな」

「サファイアみたいに青い宝石だとは思うけれど」

 

 リコが言った。二人にぶつかってくる空気が冷たくなってきている。目的のひゃっこい島に近づいている証拠だった。

 

「急ごう!」

 

 みらいが箒のスピードを上げる。抱かれているモフルンが見上げると、はつらつとした少女の顔が彼女の目に映った。

 みらいは小百合に会いたいという気持ちが強くなっていた。リコに励まされて元気になったこともあるが、みらいは小百合の心に近づいている事を何となく感じていた。

 

 

 

 小百合とラナは魔法学校の制服の上に、猫の耳つきフードのある赤紫色のコートをはおって銀世界の中で立ち尽くしていた。寒風が吹きすさび、少女たちの体をすっぽりとおおっている可愛らしいコートを揺らす。このコートはまるで布一枚かのように薄いが、魔法の布で織ってあり常に熱を発しているので、コートに覆われている部分はストーブにでもあたっているように温かい。

 ひゃっこい島に上陸してから黙って立っていた小百合がついに言った。

 

「どうなってんのよ、これ……」

「広いね~、白いね~、雪だね~」

 

 何だか楽しそうなラナの声を聴くほどに、小百合の気持がブルーになった。

 

「何のんきなこといってるのよ! あんた、アウィンのリンクルストーンがどこにあるのか分かってるの!?」

「知ってるよ~。フレイア様いってたじゃん、氷の火山の底にあるってさ。早く取りに行こうよ!」

 

「行けるわけないでしょ!」

 

 プンプン怒っている小百合を、ラナは口を開いたまま見つめた。意味の分からないことに遭遇している子供みたいだった。

 

「どしたの小百合? いつもなら気合いれなさいって、突っ込んでいくのに~」

「気合でどうにかなることならそう言うわよ。相手が火山の底じゃ、どうにもならないわ!」

 

「よくわかんないけど、気合で行ってみようよ!」

「行ったら命がなくなるわよ!」

 

 小百合の様子から、ラナはどうやら本当に無理らしいと分かって急に悲しそうな顔になった。小百合は優しい微笑みで無茶ばかり言うフレイアの顔を思い出すと背筋が寒くなる。

 

「わたしは最近フレイア様の笑顔が怖いわ……」

「あれこそ闇の女神のほほえみだね!」

 

 ラナが珍しくうまいこと言って得意になると、小百合の真っ白いため息が空中をただよって流れていく。

「笑えない冗談だわ……」

 

 リリンが小百合のコートの隙間から顔だけ出して二人に言った。

「ここに立ってても仕方ないデビ。きびきび歩くデビ」

 

 小百合はリリンのいう通りだなと思い、とにかく二人で白雪を踏みしめて歩き出した。

 

 小百合は寒気に透けてさえわたる青空を見上げると、またため息をついた。彼女は最近、心の一部が自分の物でないような違和感に悩まされている。今の小百合にはフレイアの意思に素直に従えない気持があった。フレイアのあの一言が小百合を深く悩ませていた。

 

 

 

 二人とも小一時間もサクサクと雪をふむ音しか聞いていなかった。雪と寒さが清らかな景色と静けさをもたらしていたが、ラナはそれがどうにも退屈で耐えられなかった。

 

「つかれたよぉ、おなかすいたよぉ」

「あんたね、まだ大して歩いてないわよ」

 

 小百合は子供のわがままを適当にあしらう母親のようにそっけない。

 

「え~、もう半日くらい歩いてる気がするよぅ」

「どんだけ大げさなのよ……」

 

 そして無言、またサクサクと雪をふむ音だけになる。それから数分もしないうちにラナが変な緊張感に耐えられなくなった。

 

「ねぇ~、わたしたちなんのために歩いてるの?」

「リンクルストーンを探すために決まってるでしょ」

 

「じゃあもう箒で飛んでこうよぉ。その方が早いよ!」

「箒で氷の火山の底までいくなんて不可能よ」

 

 小百合は先の方にそびえたつ白い山を見つめた。

 

「それだったら、歩いてたっておなじじゃん!」

「止まっているよりはリンクルストーンに出会える確率が高いわ」

「むぅ……」

 

 感情なくマシンのように言う小百合の言葉でラナは息がつまってしまった。その時に小百合のコートの中から顔を出しているリリンが遠くの方で動いているものを見つける。

 

「あそこに人がいるデビ」

「こんなところに人が?」

 

 小百合が視線を巡らせていくと、確かに遠くの方で人が長い列を作って歩いているのがみえる。そして、全員が背中に何かをしょっているのがはっきりとわかった。

 

「いってみようよ!」

 

ラナが白い大地に足跡を残しながら走っていく。小百合もその後を速足で追いかけた。人の行列に近づくと、みんながオレンジ色の果実がいっぱいの(かご)を背負っているのが分かる。

 

「何でこんなところにミカンを?」

「ピーカンミカンだよ! 冷凍ミカンを作ってるんだね~」

 

 小百合の疑問にラナが答えてくれる。それからラナは手を振って行列に向かって走っていく。

 

「お~い!」

 

 勝手にどんどん行ってしまうラナの後を小百合は迷惑そうな顔で追いかける。

 

「こんにちわ~」

「あら、こんにちわ」

 

 もうラナはフレンドリーに狐耳フードの青いコートのお姉さんとお話ししていた。

 

「まだ冷凍ミカンになってないんだね」

 

 ラナがお姉さんがしょっている籠の中をのぞいた。後からきた小百合は背が高いので、のぞかなくても凍ってないピーカンミカンが見えた。

 

「確か、アイスドラゴンの吐息で凍らせるとか」

 

「そうなんだけれど、アイスドラゴンが寄ってこないから、こうして探して歩いているのよ。いつもならアイスドラゴンの方がピーカンミカンの匂いをかぎつけて来てくれるんだけれど、今日はどうしちゃったのかしら? 本当に困ったわ……」

 

「何か普通ではない。何か異常なことがおこっておる」

 

 お姉さんの隣にいた白いひげの老人が言って雪山の方を見上げる。氷の火山の頂の辺りに無数に飛んでいる大きな生き物が現れていた。

 

「アイスドラゴじゃ。あんな山の上の方に集まっていたとは」

「まさか、ブリザードがくるんじゃ……」

 

 アイスドラゴンが高く飛ぶのは、ブリザードの来る予兆と言われている。

 

 老人はお姉さんに「いや」と答える。「今日はブリザードは起こらんよ。ひゃっこい島には何度も来ているから、天気のことはだいたいわかるんじゃ。ブリザードでないとすれば、アイスドラゴンは何から逃げている?」

 

 体の大きなドラゴンが群れを成して逃げるなど普通ではない。お姉さんは急に怖くなってしまった。

 

「あんなたくさんのアイスドラゴンを怖がらせるなんて……」

 

 突然、銀色の世界に異常な音が響いた。低く唸るような叫びが人々の足を凍り付かせる。その恐ろしい叫び声が何度も続いて、純白の山々の間にとどろく。小百合とラナの二人は恐れずに叫び声の元を探していた。

 

「何なの……?」

 

 小百合の目がずっと遠くで動いている人の形をした巨大なものを見つけた。

「プリキュアああぁっ!! 倒すぅーっ!! どこだぁーっ!!」

 

 今度ははっきりとそういう叫び声が聞こえてきた。

「なにあれぇ、真っ黒い巨人だ~」

 

 ラナが珍しい動物でも見たようにのほほんとしている横で小百合は慌てて叫んだ。

「みんな、早く逃げて!」

 

 たくさんの人の姿を見つけた巨人ボルクスが走り出した。

「そこかあっ!? プリキュアぁぁっ!!?」

 

 巨人は小百合とラナの姿を見つけたわけではない。体が強い闇の魔力に侵食されて思考の能力は崩壊しつつあった。ただ見境なく人間を襲おうとしていた。

 

 巨木のような黒い体が全身の筋肉を唸らせ、氷の大地を砕き、大量の雪を蹴り上げて走る。小さな町くらいなら一歩でまたいでしまいそうな歩調である。その恐ろしい巨人の姿に気づいた人々は悲鳴をあげて逃げ出す。何人かはピーカンミカンのつまった籠を投げ出し、白い雪の上にオレンジ色の果実が鮮やかに広がった。

 

 小百合とラナは目と目を合わせて頷き、左手と右手を重ねる。そこに赤い三日月に黒いとんがり帽子が重なる紋章が現れる。二人が自由になっている手を上に。

 

『キュアップ・ラパパ! ブラックダイヤ!』

 

 二人が星が輝く宇宙空間のような黒いローブに包まれて、リリンと手をつないで三人で輪になると、足元から噴き出した闇に三人が包み込まれ、消え去った。

 

 積もった白雪に触れるか触れないかの位置に、中心に赤い三日月と周囲の隙間の六つの赤い星が刻まれた、黒い六芒星の魔法陣が現れる。そして、その上にリリンと二人の黒いプリキュアが召喚された。二人は魔法陣の上から同時に跳び、宙で交差を描いて雪の上に同時に着地した。

 

「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」

「可憐な黒の魔法! キュアウィッチ!」

 

 二人は迫りつつある黒い脅威を見つめる。

 

「あれは、いつもわたしたちの邪魔をしてきたオーガだわ」

「ええぇっ!? 前とぜんぜんちがうよ!? 前よりもずっと怖そうだし、大きいし、色も黒いよ……」

 

 そう言うウィッチは夜にトイレに行くのが怖い子供みたいな顔をしている。ダークネスにそんなウィッチのを気遣っている余裕はなかった。今はミカン農家の人々を逃がすのが第一だ。

 

「こっちよ! わたしたちを倒したいんでしょう!」

 

 ダークネスの声を聞いて、ボルクスの赤い目が黒いプリキュア達を捉える。

 

「見つけたぞ!! プリキュアあぁ―――ッ!!」

 

 ボルクスは筋肉の塊の上腕を前に、大地を揺るがしながらタックルの態勢で突っ込んでくる。

 

「リンクル・スタールビー!」

 

 ダークネスが右手を斜め上に振り、スタールビーがその手の腕輪に宿る。真紅の輝石から出た輝きがダークネスとウィッチの胸に吸い込まれた。二人は両手を前に出し、突撃してきた巨人の剛腕を受け止める。しかし、想像を絶する巨人のパワーで二人は弾き出された。

 

『きゃあぁぁ…………』

 

 巨人の前から吹き飛んだ二人の悲鳴が遠くなっていく。

 

 黒いプリキュア達が純白の地面に墜落した瞬間に、衝撃で雪が白い高波を上げた。厚い氷に体を埋め込まれた黒いプリキュアたちに舞い上がった雪が降り積もっていく。

 

「ダークネス! ウィッチ! 大丈夫デビ!?」

 

 飛んできたリリンが黒い羽を動かしながら心配そうに上から二人を見ていた。ダークネスが無数の亀裂が入った氷の上に立ち上がる。その顔にはいつもの余裕がなかった。

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