魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ひゃっこい島の氷火山

「何て力なの。スタールビーでパワーアップしても歯が立たないなんて……」

「うう~、あたまくらくらだよ」

 

 ダークネスの隣でウィッチはぺたんと座り込んでいた。

 

「プリキュア――ッ!!」

 

 ボルクスの叫び声と足音がどんどん近づいてくる。ダークネスはウィッチに言った。

 

「あの図体の大きささだから、パワーはあっても動きは鈍いと思うわ。隙を見て攻撃しましょう」

 

「了解だよ!」

 

 二人のプリキュアも走り出し、寒気と雪を巻いて黒い巨人に向かっていく。

 

「ぬおぉ―――っ!!」

 

 黒い巨人と黒いプリキュアたちがぶつかり、巨人が次々と拳を繰り出す。それを避けているダークネスとウィッチが、岩のように大きな拳の風圧を受ける。巨人の動きを目の当たりにしたダークネスは自分の予想と違っていたことに苛つきを覚える。

 

「思ったよりも動きが速い!? けれど、隙はある!」

 

 身をかがめたダークネスの上を巨人の拳が通り過ぎる。瞬間にダークネスが突出し、巨人の懐に潜り込み、渾身のパンチを盛り上がった腹筋の中央に打ち込んだ。同時にウィッチの空中回し蹴りが巨人の肩にヒットする。ダークネスは手応えのなさに嫌な予感を抱く。そしてまったくダメージのないボルクスは、空中にいるウィッチを平手で叩き落とした。

 

「うあっ!!?」

「ウィッチ!?」

 

 ダークネスが叫び、白い地面に埋まって苦しそうなウィッチに向かって巨人が足を上げる。

 

「リンクル・ローズクウォーツ!」

 

 ダークネスの腕輪の黒いダイヤが薄ピンクの宝石と入れ替わり、彼女の手の平から出た水晶の花びらが舞う。

 

「ぐおっ!」

 

 顔面に鋭い花びらを浴びたボルクスが声を出してて上げた足を後退させる。その隙にダークネスはウィッチを抱き起こし、ジャンプして敵との距離を取る。

 

「ウィッチ、大丈夫!?」

「うう~、何とかぁ」

 

 ダークネスはウィッチの小柄な体を支えながら言った。

 

「あの巨人は強力な闇エレメントになっているわね」

「それって、わたしたちの攻撃がきかないってこと?」

 

 ダークネスが頷くとウィッチが首を傾げる。その時、目つぶしを食らっていた巨人が振り向いてプリキュア達を睨んだ目が赤く光った。

 

「でもぉ、あっちのビンタはすごく痛かったんだけど……」

 

 ダークネスにはウィッチの言いたいことがわかった。

 

「闇エレメント同士ならダメージは軽減されるけれど、あの巨人はあり得ないパワーでその不利を克服している。プリキュアも圧倒するあの力なら、同一エレメントの壁を越えて十分に衝撃を与えられるわ」

 

「じゃ、じゃあ、どうすればいいの……?」

「大丈夫よ、合成魔法なら闇以外のエレメントになるから倒せるわ」

 

 それを聞いたウィッチの顔が明るくなる。

「そっかあ、黒いのはダイヤだけだもんね!」

 

 それからダークネスがウィッチに耳うちすると、再びボルクスが叫びながら走ってくる。二人が左右に分かれて円を描くように走ると、ボルクスはどっちを追うべきか迷って動きが止まる。

 

「こっちだよっ!」

 ウィッチが呼ぶと、巨人がその方に振り向く。その時にウィッチは左手を高く上げて呼びかける。

「リンクル・インディコライト!」

 

 腕輪に青いトルマリンが現れ、ウィッチの手から走る閃光が黒い巨体に接して全身にまとわりつく。

 

「ぬうぅ!」

 

 一瞬怯んだ巨人の後ろに回ったダークネスが唱える。

「リンクル・スタールビー!」

 

 力を増したダークネスが走り、身を低くして足から雪の中に突っこんでいく。雪をかき分けて高速のスライディングで巨人の足をすくう。

 

「うおお……」

 

 巨体がかしいで後ろに倒れていく。ダークネスは巨人の足の下から跳び出し、ウィッチの隣に着地した。

 

「今よウィッチ!」

「うん!」

 

 ダークネスとウィッチは後方で左手と右手で握り合い、頭上で二つのブレスレッドを交差させる。ダークネスの腕輪には薄ピンクのローズクウォーツが、ウィッチの腕輪には夕暮れの太陽のようなオレンジの宝石が光を放っていた。

 

『二つの魔法を一つに!』

 

 二人が宝石の輝く腕輪で半円を描き、下で重なり合うと、薄ピンクと赤色に近いオレンジの輝きが一つになって半分ずつ色の違う真円が描かれる。円の中に光の線が走り、中央に薄ピンクの月、円に沿って六つのオレンジ色の星々が並んだ。

 

 二人の前に薄ピンクと深いオレンジに彩られた月と星の六芒星が光り輝いていた。ダークネスとウィッチが腕輪を重ねた手を前に出すと魔法陣の輝きがさらに強くなる。

 

 二人は目の前の魔法陣に触れるほど近くに手のひらをかざし魔法の呪文を唱えた。

 

『プリキュア! クリムゾンローズフレア!』

 

 焔を放つ無数の花びらが横なぎに渦巻き巨人にぶつかる。黒い巨体が瞬く間に熱い真紅の花びらに覆われ、そしてそれが一気に巨人に集まった。瞬間、黒い巨体の中心から太陽がそこに降りてきたかのようにすさまじい光を発する。そして、爆発し真紅の炎が広がり、高熱で蒸発した雪が白くわきたつ。巨人の姿は炎と蒸気の中に埋もれて消えた。

 

 

 

 ロキは闇の城で玉座に座り、頬杖をついて宵の魔法つかいとボルクスの戦いを見ていた。遠視の魔法で目の前で展開されている映像に歯を見せて勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「奴らは分かってねぇ。宵の魔法使いの合成魔法は2エレメントではなく闇を交えた3エレメントの魔法だ。闇の力をもったプリキュアである以上、その魔法に闇が強く影響するのは当然だぜ。今のボルクスなら闇エレメントの攻撃は完全に無効化できる。そして、パワーアップした奴の肉体ならば、他の二つのエレメントにも耐えうる。貴様らの魔法はボルクスには通用しねぇぜ!」

 

 

 

 消滅した大量の雪が発した湯気が寒気で一気に冷えて、その場で雲となってただよう。ダークネスとウィッチは地上に沸いた雲の中に見える黒い影を見つめていた。

 

「ふおぉぉっ」

 

 ボルクスが口から闇の魔力が生み出す黒い瘴気をはきながら、雪と氷が蒸発してむき出しになった土の上を歩き出す。その全身からは煙を吹いていた。それを見たウィッチが天敵に狙われる小動物のように震えてしまう。

 

「うそぉ……」

「合成魔法まできかないですって……」

 

 さすがのダークネスもボルクスのあまりの強固さに絶望的な気持ちになる。もはや打つ手がない。

 

 巨人が身を沈めて大腿の筋肉を膨らませ、強大な筋力が爆発する。その巨体からはあり得ない跳躍力でボルクスが一気にダークネスとウィッチに迫る。

 

「むおお!!」

 

 巨大な岩のような拳が雪に覆われた地面を打ち、氷の粒が間欠泉のように吹き上がる。既にボルクスの攻撃から逃げて上に跳んでいた二人のプリキュアの視界を舞い上がった雪がさえぎる。そして宙に吹き上げられた大量の雪が渦巻き、その中に黒い巨体が見えた。再び跳躍したボルクスが体をひねって縦回転し、その勢いに雪を巻き込んで、豪脚の回転蹴りがプリキュアたちに迫る。二人はその攻撃を防御するのが精いっぱいだった。大木のように太い巨人の(すね)が、黒いプリキュア達に炸裂し、二人同時に同じ軌道でぶっ飛んだ。

 

 少女たちは黒いつぶてとなり悲鳴を引きながら飛んでいく。途中で二人で氷山に激突して、それを粉々に砕き、銀色の大地に突き刺さると、その体で氷と地面を削り、周囲に白い高波を上げながら長い距離を滑っていった。

 

 ボルクスの攻撃で痛烈な衝撃を受けた二人は元いた場所のあたりまで押し返されていた。近くには倒れたり置き去りになっているピーカンミカンの入った籠がいくつかあった。そして、闇色の衣をまとっている小百合とラナが雪に半分埋もれた状態で倒れていた。

 

「うっ、くうぅ……」

 目を開けた小百合は自分の姿に気づいて真に絶望した。

「そ、そんな、変身が……」

 

 ボルクスの攻撃の衝撃で変身が解けてしまっていた。

 

「あうう……」

 

 次に気づいたラナは変身が解けたことよりも、絶望している小百合の姿を見て心配になった。その時に飛んできたリリンが、二人の間に入ってきたはいいが、どうしたら良いのかわからず、口元を両手でさわってオロオロしていた。 

 

 二人の少女を下から突き上げるような衝撃が大地に走る。ボルクスがひざを折り、着地した状態で口から黒い煙を吐いた。彼の赤い瞳の照準が小百合とラナをしっかりと捕えていた。黒い巨人た立ち上がると、体躯に合わせた影が少女達にかぶさり圧倒した。

 

「か、勝った! 終わりだ、プリキュアああぁぁっ!!」

 

 辺りを震わせるようなボルクスの暴力的な叫びがとどろいた。プリキュアの魔法も通用せず、変身まで解け、さすがの小百合も心が折れそうになる。

 

「本当にここで終わりなの? お母さん……」

 

 その時、ラナが小百合の前に出て両手を大きく広げた。その瞬間、小百合の脳裏に身をていして自分を爆発から守ってくれたラナのイメージが重なる。

 

「あきらめるもんか! 闇の結晶を全部集めて、小百合のお母さんにぜったいにあうんだっ!」

 

 ラナの声を聞いた小百合は、弱気になっている自分に腹がたった。ラナに守られてばかりいる自分が情けなくなった。そして、小百合は勇気を取り戻して立ち上がる。

 

「そうよ、ラナのいう通りよ! あきらめたらいけない! 絶対にあきらめない!」

 

 その時、リリンが空を見上げた。

「二人の心が広がっていくデビ」

 

 地の底から凍てついた大地が躍動する振動と地鳴りが起こる。

 

「な、なんだぁ??」

 

ボルクスは謎の振動を本能で恐れて表情を歪める。地鳴りがさらに大きくなり、上空から竜の雄叫びが降ってきた。小百合とラナとリリンは、目の前にボルクスがいるのも忘れて、氷の火山のある方を見つめる。さっきまで山の上空を飛んでいたアイスドラゴンの群れが山から離れてこちらに大挙して押し寄せていた。

 

「なにが起こってるの?」

 

 飛んでいくアイスドラゴンの群れを呆然と見上げていた小百合が言うと、更に振動と地鳴りが激しさを増す。そして、遠くにひときわ高く突き出ている山の頂が、白い煙とクリスタルのように輝く無数の氷の粒を高く吹き上げた。ひゃっこい島の氷の火山が数千年ぶりに爆発した瞬間だった。

 

 空に広がっていく冷気の煙と輝く破片の中に、深く青い輝きが生まれる。その輝きは遠くにいる小百合たちやボルクスの目にもはっきりと見えた。その光は凍てつく噴火の勢いに飛ばされ、弧を描いて小百合たちに急接近してくる。

 

 群青の輝きが小百合とラナとリリンの前に降りてきた。その青い光がちりぢりになって消え去ると、3人の前にはハート型の黄金の台座の上で群青の輝きを放つリンクルストーンが現れていた。

 

「二人とも、変身するデビ!」

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