小百合とラナはリリンの声に合わせて頷くと、左手と右手を合わせる。そこに赤い三日月を後ろに抱く黒のとんがり帽子のイリュージョンが現れ、もう片方の手を高く上げて呪文を唱える。
『キュアップ・ラパパ!』
黒いローブ姿の二人の少女の背後から、群青色の光がまっすぐ天上へと打ち上げられる。飛び上がったリリンがコウモリのような翼と両手を広げると、雲を突き抜けた群青の閃光が鋭角に屈折してリリンの胸のブローチにまっすぐに降りてくる。そして、リリンのブローチに群青の光が集まり、その周りを氷の結晶が囲う。その結晶が粉々に砕けて光の粉を散らすのと同時に、リリンの胸に群青の宝石が現れた。
『アウィン!』
周囲が一瞬で凍てつき、青い氷に覆われた世界が現れる。氷の世界に花のような氷の結晶と、ふんわりとした綿雪が無数に漂い、下から吹き上がる吹雪が氷の花と一緒に小百合とラナを上空へと運ぶ。そして、二人の下に大きな氷の結晶が現れると、その上で少女たちは手をつなぎ、そこへリリンが飛んできて二人と手と手をつないだ。
『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』
3人は輪になって氷の上をすべるように華麗に円を描き、降り注ぐ氷の結晶の中で踊ると、リリンの体で深い青のハートが明滅する。リリンの手から二人の手へ青い光が伝わり、その光が二人の黒いローブを群青色にかえていく。
群青のローブ姿になった小百合とラナが左手と右手を放して手の平を上に向けると、辺りを漂っていたたくさんの綿雪が彼女らの頭上に集まって、ふわりとした白くて大きなハートの形になる。そのハートがはじけてに白薔薇の花吹雪が氷の世界に舞い上がる。
小百合の首に白い花吹雪が円を描いてまとわり、それが消えると下に向かって尖った形の黒のネックリボンが現れ、飛来した一枚の花弁がネックリボンの尖った先で消えて氷の結晶のオブジェに変わる。続いて無数の白い花びらが少女のしなやかな身体をめぐり、それが消えると雪のように白い光が小百合を包み込む。そして雪が吹き散らされるように白い輝きが散り散りになると全身にドレスが現れる。肩から胸元まで広く開いた群青色のドレスの袖はツララのように鋭く尖ったフリルになっていて、胸の部分は黒地に覆われ、右の腰から左の足元に向かって片側に長く垂れるスカート、その下に外側が黒いフレアスカート、内側が群青のミニスカートのダブルスカートになる。
続いて白い花びらがダークネスの腰回りに集まって円に舞うと、花弁が消えて青い帯に変化し、その右側に黒と群青の小さなストライプリボン、それから長く垂れる余りの部分の先はツララのように鋭く尖っている。そして、ストライプリボンの中央にある赤い月が光った。
白い花びらがラナの首を巻くように踊ると、青いフリル付きの中央に赤い星のついた黒いネックリボン、たくさんの氷の結晶がクルクル回りながらラナの前を通り過ぎると、群青に輝く衣がドレスに早変わり、袖に黒いフリルの付いたパフスリーブ、黒のスカートは短く内側にさらに群青色のスカートが見える。ドレスはほぼ青に統一されるが、胸の下からスカートまで青、黒、青の縦のストライプになっている。
ダークネスの両足が凍り付き、瞬間に氷が粉々になると、群青の宝石を飾った黒いハイヒールと、足首から大腿部までを群青色のレッグドレスにつつまれる。ウィッチが氷におおわれた両足を合わせてキンと高い音をたてると、砕けた氷が履き口の周囲にツララのフリルがある青いブーツに変わり、上からふってきた氷の結晶が足首のところで群青の宝石が光る黒いリボンになった。
ダークネスとウィッチが左手と右手を触れるか触れないかの感覚でふんわりとつなぐと二人の腕が同時に氷におおわれて、それが粉々に砕けた。するとダークネスの手甲から肘にかけて裾がツララのように鋭いフリルになっている青いサテングローブ、手首には銀色の腕輪が現れる。ウィッチの手に現れた黒いフィンガーレスグローブの裾は、先が鋭くなっている青と黒の2重フリル、手首には中心に群青の宝石が輝く小さな青いリボンがあった。
二人の髪型が同時に変化する。ダークネスの長い黒髪は左側に群青色のリボンに結わえられてサラリと流れるサイドテールになり、続いて頭の右側に赤い三日月のアピンが現れる。ウィッチのレモンブロンドは青いリボンで結わえられたふんわりサイドテールになり、テールからは何本かツララのように先の尖ったくせ毛が飛び出している。続いて頭の左側にミドルサイズの黒いトンガリ帽子が現れて、帽子の真ん中に赤い星が出現した。
回転する氷の結晶がダークネスとウィッチの胸に飛来する。ダークネスの肩回りを白い光が包み込んで、シクルの布のように薄く広がった光が、縁が黒いファーになっている青いショートマント変わる。マントの合わせ目になっている左胸に飛んできた氷の結晶が砕けて消えて、氷の結晶を模した六枚のリボンが開き、中央にある群青のアウィンが光を放つ。もう一つの氷の結晶はウィッチの胸で弾けて消えて、中央に群青の宝石が宿る大きな青リボンになった。
ダークネスとウィッチは深く青い氷の世界でリリンと再び手をつないで輪になると、鶴のように左足を上げ、バレリーナのように右足のつま先で立って華麗に円舞し凍てついた青い世界の底に消えていく。
白い大地にに現れた群青色の月と星の六芒星が高速に回転しながら舞い上がり、垂直の状態で落ちてきて回転を止めると、魔法陣の前にダークネスとウィッチとリリン召喚される。二人は後ろに壁のように立っている魔法陣を蹴って前に飛ぶと、二人の間にいたリリンは魔法陣から現れた氷の架け橋を滑って離脱した。
雪の上に青き乙女たちが舞い降りる。右側のダークネスがダイヤモンドダストのようなきらめきをまとった右手をゆっくり動かして、顔をなでるような軌道を描いて、演舞するスケート選手のようにその手を高く上げ、輝く冷気の尾を残しながら高く上げた手を右下へと振りおろし、
「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」
ダークネスの周囲に無数の氷の結晶が舞い上がる。
左側のウィッチは左手にキラキラと光る冷気をまといながら、その手で大きな円を描くと、極低温によってそれと同じ形の輝く円が宙に残った。彼女はその手を頭の上にかざし、右手を前に出して可愛らしくウィンク、
「可憐な黒の魔法、キュアウィッチ!」
ウィッチの上から回転する氷の結晶がたくさん降り注ぐ。
ダークネスとウィッチは左手と右手をつないで後ろ手にし、冷たい体を触れ合わせ、もう一方の手はその中に無垢な命でも存在するかのように優しく触れ合いながら両目を閉じる。そして背後でつないでいた手を前に、手のひらを返して華美な姿で言った。
『魔法つかいプリキュア!』
リリンは新たなプリキュアとなって現れた二人を見て瞳を輝かせて言った。
「アウィンのプリキュア、きれいデビ」
リリンが空中で両手を上げて喜ぶと、黒い巨人は新たなるプリキュアの出現に混乱した。
「お、俺は、おまえらのようなプリキュアは知らないぞ!?」
ダークネスとウィッチが自分たちの姿を見つめる。
「これがアウィンのプリキュア」
「やったよ! ついに違うプリキュアになれたよ! ファンタジックだよ~っ!」
それからダークネスとウィッチは、自分たちの周りをゆっくりとした速度で円を描いて周回している青い球体に気づいた。ウィッチが清水を救い上げるように両手を合わせると、まるでよくなついた小鳥のように、手の中に青い玉が降りてくる。
「うわぁ! こういうの欲しかったの!」
「喜んでいるところで悪いんだけれど、敵がくるからね」
黒い巨人が雪に大きな足跡を叩きつけ、ダークネスとウィッチに急接近してきた。
「うおおおぉっ!」
ボルクスが拳を打ち下ろす。二人のプリキュアは真上に跳んでそれをさけると、大きな拳によってえぐられた雪が飛散した。
ダークネスとウィッチの後からついてきた青く輝く球体が空中で円に動くと、それと同じ形に青い線が描かれ、青い真円の中に氷の結晶が現われる。二人はその上に着地して驚いてしまった。
「うわっ、すごいよ! トパーズのプリキュアと同じだよ!」
「確かに似ているけれど、アウィンにはトパーズとは違う可能性があるはずよ」
ダークネスがいうとウィッチが頷き、
『はっ!』ふたりで同時に跳んだ。そして、真下にいるボルクスに向かって急降下!
見上げたボルクスの頭に二人一緒のキックが命中すると同時に、ダークネスとウィッチの側にいる青い玉が光を強くする。するとボルクスの頭が一瞬で氷漬けになった。
「つ、つめてぇっ!?」
ボルクスがおもいっきり頭を振って貼りついた氷を吹き飛ばすと、彼から離れた場所に着地したところのアウィンのプリキュアたちに向かっていく。ダークネスとウィッチが同時に地面に手を付くと、二人の前からまっすぐに氷の道ができて、その上を走った巨人は足を滑らせる。
「ぬおお!?」
ダークネスとウイッチが再びジャンプして、先回りした二つの青い玉が協力して円を描いて、空中に大きな氷の結晶を生み出すと、暗い青色のプリキュアたちは、天井になっている氷の結晶を蹴って宙返りし、キラキラ輝く氷の輝きをまといながらボルクスに接近!
『はあぁーーーっ!』
氷の道の上で倒れまいと腕をブンブン振っている巨人の胸板に二人同時の空中蹴りが炸裂した。
「うおっ!?」
ボルクスの巨体が氷の上に倒れ伏す。
「決めるわよウィッチ!」
「うん!」
二人の中に魔法のイメージが自然にあふれ、リリンの胸のアウィンが強烈な輝きにみちる。
「デビ―ッ!」
リリンが叫ぶと胸のアウィンから、ポンと群青色に輝く玉が出てくる。リリンがそれを両手で持って地面の置くと、転がし始めた。すると、雪の上で雪玉を転がすように群青色の球が大きくなっていく。
「デビデビデビデビ、デビッ!」
リリンは2倍くらいに大きくなった群青の光玉を頭の上に持ち上げておもいっきり投げた。それが途中で二つに分かれると、ダークネスとウィッチが高くあげたリンクルブレスレッドのアウィンにそれぞれ吸い込まれる。
二人の足元が凍りつき、せりあがって、天を突くように氷柱が立ち上がる。その上に乗っていたダークネスとウィッチも必然的に高い場所へと持ち上げられる。ダークネスとウィッチはそこから跳躍してさらなる高みへ。
『アウィン! 冷厳なる理性よ、わたしたちの手に!』
ダークネスとウィッチは空中で交差した瞬間に左手と右手を背後でつなぎ、ブレスレッドの手を二人一緒に前に出して広げる。二人の手の内に群青の光の粒が集まっていく。そして、二人の手から五つの凍てつく光線が放たれた。
『プリキュア! アウィンレクイエム!』
漆黒の巨人ボルクスの上に、五つの群青色の魔法陣が広がる。それらは宵の魔法つかいを象徴する、中央に三日月、周りに六つの星が散りばめられた六芒星魔法陣だった。上からふってきた五つの群青の光線は、五つの魔法陣の中に吸い込まれる。そして、五つの月と星の魔法陣が強く輝いた。
ボルクスが見上げたその時、五つの魔法陣から無数の氷の結晶を散りばめた群青の波動が吹き出し、五つの凍てつく波動は地上に向かって収束し、ボルクスに撃ち込まれる。一瞬にして巨人は氷漬けになった。
世界の全てが氷に覆われると、巨人の足元にひびがはいり、鏡が割れるように氷の大地が砕ける。その向こう側に現れた暗黒の空間に全てが吸い込まれていく。
「うおおぉ……」
氷の巨像と化したボルクスは無限の闇に落ち、その姿が闇にのみ込まれると、粉々に砕け散って漆黒の中に輝く氷の花が咲いた。そして、氷の輝きの中から淡い光に包まれた10個の闇の結晶が飛び出してきた。
雪の大地に降りたダークネスとウィッチの周りに闇の結晶がふってくる。
「やったぁ! 闇の結晶がいっぱいだぁ!」
「こんなにたくさんの結晶を取り込んでいたのね」
二人の前にリリンが飛んできて言った。
「二人ともよくやったデビ! リリンは必ず勝つと思っていたデビ!」
黒猫のぬいぐるみが何だか偉そうに言うと、ダークネスは微笑した。それから3人は雪の中でうずくまって震えている緑色の巨人を見つめた。服装は以前のボルクスと変わらないが、体が少したるんで全体的に丸っこくなっている。ダークネスが彼の前まで歩いて腕を組むと、巨人が頭だけで動かして上を見た。垂れぎみの目に青い瞳、厚いたらこ唇には愛嬌がある。身体は大きいばかりで妙に弱々しくて怖さというものが少しもない。
「ひいぃ!」
巨人はダークネスの赤い瞳に見下されて顔を伏せてしまった。ダークネスは少しイラっとした。
「すっかり毒気が抜けたわね。それがあんたの本当の姿というわけね」
「ゆ、ゆるしてくれ。俺は強くなりたかっただけなんだ」
「きっと、強くなりたい気持ちをロキに利用されたデビ」
震えているボルクスを見かねてリリンが言うと、ダークネスの中に納得できないものが生まれてくる。
「そんなでかい図体してるのに強くなりたいって、どういうことなのよ?」
ボルクスがまた恐る恐る顔を上げ、ダークネスの見上げて話し始める。
「お、俺は空にある緑島の山の中に住んでいたんだ。山のふもとの村に行くとよぉ、人間の子供がバカにするんだよぉ。俺に石を投げたり、悪口いってきたりしてよぉ。俺は何にもしてないのに、いじめるんだよぉ。だからよぉ、強くなって見返してやりたかったんだ」
その話の聞いたダークネスの中で何かが切れる音がした。
「そんなでっかり図体しているのに、何でそんなに気弱なのよ! そんなんだからいじめられるんでしょ!」
「ひいぃ、すみません! すみません!」
「体が大きいくせに気が弱いから余計に面白がっていじめられのよ! それじゃあ宝の持ち腐れどころか、宝の持ち痛手よ! 男なら、もっとしゃきっとしなさいっ!」
「すみません! すみません!」
「まあまあ、ダークネス、そんなに怒らないで。オーガはそういう種族だから仕方ないんだよ」
ボルクスが可哀そうになってウィッチが止めに入ると、まだまだ言いたいことがあったダークネスは、言葉を留めて消化不良の思考を抱えて言った。
「体が大きくて気が弱いって、どういう種族なのよ、釈然としないわね……」
その時になって散り散りに逃げていた商人たちが様子を見に戻ってきた。そして、ダークネスとウィッチの姿を見た白髭の老人が言った。
「あなた方は、もしや伝説の魔法つかいプリキュアでは?」
「その通り! わたしたちはプリキュアだよ! でも、伝説の魔法つかいの方じゃないけどね!」
「は?」
老人は不思議そうな顔をしていた。できるだけ当たり障りなくやり過ごしたいダークネスの気持をウィッチがあっさりと裏切ってくる。
「あの、そこの巨人は……?」
最初にラナとあいさつを交わした若い女性が尻をつき出して震えている巨体を指していた。その時にダークネスは名案を思い付いて言った。
「そうだわ。あんた、みんなに迷惑かけたんだから手伝いなさい」
「へ? 手伝う?」
「まずしゃきっと立つ!」
「はいぃっ!?」
ダークネスの一喝でボルクスが立ち上がってきおつけをする。
「みんなの荷物を持つ!」
「はいっ、持ちます、持たせていただきますっ!」
ボルクスは商人たちからピーカンミカンの籠を次々受け取っていくと、腕一杯に抱え込んだ。そんな巨人の姿を見てダークネスがうんうんと頷いていると、近くにあつまっていた商人たちの話声が聞こえてくる。
「完全に氷漬けだ」
「まるで水晶にように硬くて美しい氷だ。これはアイスドラゴンの吐息によるものではないぞ」
商人たちが逃げた時にその場に置き去りにしたピーカンミカンが一つ残らず氷漬けになっていた。ウィッチはそれを興ありげに見つめていて、その隣にきたダークネスの顔は次第に青ざめていく。そして、ウィッチが心底疑問に思ったことを口にする。
「知らない間に凍っちゃったんだって、不思議だね~」
「バカッ! わたしたちの魔法で凍ったに決まってるでしょーっ!」
商人たちの商品を台無しにした責任に追い込まれたダークネスは、ウィッチの頭を後ろからガシッとつかんで、自分と一緒に強制的に頭を下げさせた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
商人たちはピーカンミカンの籠三つ分程度の損失など気にしなかった。なにしろ、ダークネスとウィッチには命を助けてもらったのだ。むしろ感謝の気持ちの方がずっと大きかった。
ダークネスとウィッチが去った後に、白髭の老人は凍ったミカンを拾い上げて見つめる。ミカンをおおった氷が鏡面のように光を反射して老人の目を撃つ。
「プリキュアが凍らせた冷凍ミカンか」
小百合とラナはひゃっこい島の縁に立って無数の氷山が浮ぶ海を見つめていた。
「アウィンのリンクルストーンが見つかってよかったね」
「ラナのおかげよ、ありがとう」
「わたしはただ、小百合のお願いをかなえたいって思っただけなんだ」
「わたしは……」
「うん?」
小百合は助けられてばかりで情けないと言いたかったけれど止めた。ラナに余計な気を使わせてしまうと思ったからだった。次の瞬間には小百合の気持ががらりと変わり、攻撃的な笑みを浮かべる。
――アウィンスタイルならば、トパーズスタイルに対抗できるわ。
「闇の結晶がいーっぱい手に入ったから、フレイア様のところに行くデビ」
小百合とラナの後ろに付いて飛んでいるリリンが言った。小百合が頷いて闇の魔法陣のタリスマンを出すと、3人の姿がその場からスッと消えてなくなった。
ひゃっこい島でのプリキュアとボルクスの戦いを最後まで見たロキは少しばかり渋い顔をしていた。
「アウィンのリンクルストーンを手に入れて、ボルクスの闇の守りを破ったか。ま、奴には最初からあまり期待はしていなかったがな」
ロキが指を弾くと、小気味よい音が辺りに響き渡る。そして、彼の目の前の空間に広がっている映像が切り替わった。
「フェンリルの方はうまくやっている。伝説の魔法つかいは確実に倒せるぜ」