魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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脅威! 魔法戦士フェンリル!

「閃光の魔法戦士って何なの?」

「消えゆくお前たちが知る必要はないね!」

 

 ミラクルとマジカルが来ると思った瞬間に、フェンリルが目前に迫っていた。

 

「うおーーーっ!!」

『たあーっ!!』

 

 ミラクルとマジカルの気合が重なり、次々と繰り出されるフェンリルの攻撃を迎撃する。ミラクルとマジカルは、フェンリルの攻撃を受けるたびに手足が痺れるような衝撃に襲われた。しかし、フェンリルの実力はプリキュア一人と同じくらいだ。二対一なら攻撃する隙はいくらでもある。ミラクルが決定的な隙を見つけてフェンリルのお腹に拳を叩きつける。すると拳が跳ね返るような感覚があった。同時にフェンリルと目が合って背筋に寒気が走る。

 

「ふんっ!」

 

 ミラクルと相打ちに近い形でフェンリルのパンチが決まる。同じような攻撃を同時に受けたのに、ミラクルは悲鳴をあげて吹っ飛び、フェンリルは微笑のままその場に止まっていた。

 

 マジカルとフェンリルのさしでの勝負となり圧倒的不利な状況に追い込まれた。もうフェンリルの攻撃をいなすだけで精いっぱいだ。フェンリルが縦回転すると、マジカルはとっさにリンクルステッキを持って魔法を発動する。

 

「リンクル・ムーンストーン!」

「てやーーーっ!!」

 

 フェンリルの強烈な気合! それと同時に放たれた回し蹴りがマジカルの光のバリアに炸裂、そして瞬間にムーンストーンの守りが砕け散った。魔法を破られた時に衝撃があり、マジカルも悲鳴をあげて吹き飛んだ。

 フェンリルの背後に白く光る翼が広がり、彼女はその翼で舞い上がると、周囲に現れた黒い矢を草原に倒れたマジカルに向けて放った。マジカルが立ち上がった時に黒い矢が上から降り注ぎ、無数の爆発が起こって黒煙が上がった。

 

「マジカルっ!?」

 

 ミラクルの心痛な叫びが辺りに渡る。黒煙が晴れると傷つきながらひざを付くマジカルの姿が現れる。それを見たミラクルが怒ってジャンプし、空中のフェンリルに向かって拳を突きだす。

 

「たあっ!」

 

 フェンリルは不用意に空中戦を仕掛けてきたマジカルをしてやったりという笑みで迎え撃つ。マジカルが突き出してきた拳の手首をうまく両手で捕まえ、腕から肩にかけて両足を絡ませて瞬間的に関節技を決める。フェンリルが捕えた手首を少しひねると、

 

「くうぅっ!?」

 

 可愛らしいマジカルの表情に苦痛が広がる。フェンリルが翼を羽ばたいて回転すると、ミラクルは時計の針が高速で動くようにぐるりと位置を変え、技を解いたフェンリルによって地上に投げ捨てられた。そしてフェンリルは輝く翼を開いて空を走り、

 

「だあぁっ!」

 

 ゆっくりと落ちていくミラクルに上から強烈な蹴りを叩き込んだ。瞬間にミラクルは矢のように飛んで悲鳴と共に地上に叩きつけられていた。

 

「ミラクル!!?」

 マジカルの悲鳴にちかい叫びが起こった。

 

 

 

 その戦いを岩陰から見ている小百合は物事を冷静に分析する科学者のように無感情に言った。

 

「戦いが一方的すぎるわ。これは何かあるわね」

「小百合、助けてあげようよぉ」

 

 懇願するラナを小百合はぞっとするような目で見下した。

 

「どうして敵を助ける必要があるの? ここであの二人が倒れてくれた方が好都合じゃない」

「ほ、本気で言ってるの?」

「当然でしょう」

 

 その時、ラナの目には小百合が別人になったように見えた。なにか恐ろしい悪霊のようなものが取りついて、小百合を支配している。そんな風に思えて怖くなる。そして、苦しんでいるリコとみらいを助けようとしない小百合に悲しくなり、碧眼が潤んで湖面のように光った。

 

【時には非情になる事も必要なのです】

 

 小百合の中では、かつて聞いたフレイアの言葉が繰り返されていた。

 

 ――フレイア様のいう通りよ。今は非情になるべき時だわ。それが正しいわ。

 

 小百合はそんな言葉を心の中で繰り返し言って自分の心を殺していた。

 

 強い風が吹き抜け、小百合の長い黒髪がさらわれる。草原の草々が無情な小百合を非難するかのように騒いだ。その時、マジカルがミラクルを助け起こす姿を見ていたラナの瞳から涙が零れた。

 

 

 

 傷だらけのミラクルとマジカルは二人で並んで立ち上がった。

 

「バラバラに攻撃していたらダメね」

「二人で一緒にいこう!」

 

 ミラクルにマジカルは頷きで返し、二人で一緒に走り出してフェンリルに迫っていく。

 

「何をやっても無駄さ!」

 

 フェンリルは嬉々として二人のプリキュアを迎え撃った。再び両者の気合と攻撃がぶつかりあい、周囲のものを震わせた。

 

 ――属性で優位に立っているフェンリルに勝てる可能性があるとしたら、こちらは数の優位を活かして、そして最大限の攻撃をすること!

 

 そんなマジカルの考えを知っているかのようにミラクルが動きを合わせる。フェンリルの作った隙に、二人同時のパンチが炸裂、

 

『でやーーーっ!!』

「ぬあっ!?」

 

 攻撃を受けたフェンリルの流麗な身体が折れ曲がって大きく後退する。地上に足は付いているものの、靴底が草原の草を削り取り、衝撃の大きさを物語る。ミラクルとマジカルはフェンリルを追って跳び、息を合わせた飛び蹴りで追撃した。

 

『はあーーーっ!!』

 

 フェンリルは二人同時の飛び蹴りを胸に受けて吹っ飛んだ。

「うあーっ!?」

 

 フェンリルの墜落地点から土と石片が巻き上がる。

「クッハハハハ! 驚いたな!」

 

 フェンリルは倒れたまま笑い声をあげてから、地震が落ちた衝撃で少し陥没した地面の上に立った。

 

「エレメントの守りがあるのにこれだけの衝撃を与えるとは大したもんだ。もし相手が闇のエレメントを持つロキ様であったと仮定するならば、今の攻撃は恐れるに値する。お前たちは間違いなくロキ様の脅威となる。おまえたちは何としても今ここで始末しなければならない!」

 

 フェンリルはしなやかな指をミラクルとマジカルに向けると、駆け足の初動で地面に深く靴跡を穿って風のように疾走する。ミラクルとマジカルが身構えて迎え撃とうとすると、フェンリルは彼女らの前で立ち止まり、大地を足で踏みつけた。途端に靴がめり込んだ地面から四方八方に亀裂が走り、高い土煙が上がった。思わぬ目くらましに二人は焦り、土煙の中から繰り出されるフェンリルの攻撃を次々に受けて、二人はほぼ同時に後方に弾き飛ばされた。

 

「ミラクル! マジカル!」

 

 小百合たちとは別の小さな岩の陰で見ていたモフルンが叫び、二人の乙女の細身が墜落と同時に地面を破壊する。

 

 フェンリルはダイヤ光る腕輪のある右手の人差し指で天をさした。

 

「ダイヤモンド・エンジェル・ハイロゥ!」

 

 フェンリルの指先から闇の魔力が広がって、巨大な黒いリングになった。フェンリルの使う魔法は本来は聖なる属性だが、それすら闇化されていた。フェンリルの腕の動きに合わせて黒いリングも動く。

 

「そおら、これがよけられるか!」

 

 フェンリルが右腕を横なぎに振ると、漆黒の輪が高速で回転しながら再び立ち上がったミラクルとマジカルに接近していく。

 

『はっ!』

 

 二人同時にジャンプして闇のリングをさけると、フェンリルの顔に勝者の笑みが浮かび上がる。彼女はもう一度、指先を高く上げてから、下に向かって振り下ろした。すると、闇色のリングがミラクルとマジカルの上から降りてきて、二人をすっぽりとリングの内側に閉じ込めた。

 

「えっ!?」

 

 ミラクルが困惑して声を上げた時にフェンリルが開いた右手をぎゅっと握ると、リングが反応してすぼまり、ミラクルとマジカルを捕えてきゅっと締め上げる。

 

「しまった!!?」

 

 マジカルはリングから抜け出そうともがいてみるが、びくともしなかった。

 

「終わりだ」

 

 そう言うやフェンリルが指を鳴らす。ミラクルとマジカルの足元から黒い魔法陣が広がって、そこから猛烈な勢いで黒い炎が吹き上がり、黒炎の柱が天を貫くほど高く上がった。黒き炎は二人の苦痛と悲鳴も飲み込んで燃え続けた。

 

「ミラクルッ!! マジカル―ッ!!」

 モフルンが隠れていた小さな岩の陰から身を乗り出して叫んでいた。

 

 

 

「あう、ああ……」

 

 ラナが言葉にならない声をあげた。ミラクルとマジカル飲み込む黒い火柱を見上げて涙を流していた。そしてラナは小百合を見上げ、小百合の右手を両手でギュッと握って訴えた。

 

「お願い小百合、ミラクルとマジカルを助けてよぅ!」

「必要ないわ」

 

 冷たい、感情のない声が、ラナの心をおののかせる。リリンも星の宿る瞳を瞬いて悲し気に小百合を見下ろしている。

 

 ――違う、こんなの小百合じゃない。小百合が変になっちゃってるよぅ。

 

 ラナは今目の前にいる小百合に言いようのない怖さを感じる。それでも勇気を振り絞って言った。

 

「みらいもリコも友達でしょ! 助けようよ!」

「友達じゃないわ、敵よ」

 

 無情な言葉を投げつけられたラナは、濡れて宝石のように輝く瞳を見開いてポロポロと涙を零した。小百合はそんなラナを見おろして言った。

 

「泣くぐらいなら見なければいいのよ」

 

 まるで別人のように冷酷になった小百合、そして傷つけられていくミラクルとマジカルの姿、打ちのめされたラナは言葉を紡ぐ気力を失ってしまった。

 

「あっ、モフルンデビ!」

 リリンは視線の先でモフルンが別の岩陰から飛び出してくるのを見た。

 

 

 

 黒い炎の柱が消え去った跡にミラクルとマジカルは倒れ、その体からはいくつもの細い煙があがっていた。もうろくに動けない二人のプリキュアに、フェンリルが一歩ずつゆっくりと近づいていく。

 

「もうやめるモフ―ッ!!」

 

 モフルンがミラクルとマジカルの前に立って両手を広げた。彼女の胸で輝くダイヤが太陽の光を反射し、モフルンの拒絶する意思を示すかのようにフェンリルの目に強い光を撃ち込んだ。その光にフェンリルは目を細めつつ、恐ろしい笑みを刻んだ顔でさらに近づいてくる。

 

「おやおや、勇敢なナイトさんだねぇ」

 

 フェンリルは立ち止まると、強く輝く瞳で見上げてくるクマのぬいぐるみに言った。

 

「モフルン、だめ、逃げて……」

 ミラクルが絞り出すような声で言っても、モフルンは動かなかった。

 

 

 

「モフルン……」

 勇敢なモフルンの姿を見つめていたリリンが小百合の目の前に飛んできた。そして彼女は不意に笑顔になると信じられない言葉を口にした。

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