魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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激突! フェンリルとダークネス!

そして彼女は不意に笑顔になると信じられない言葉を口にした。

 

「伝説の魔法つかいがいなくなれば、きっと闇の結晶がいーっぱい取れるデビ。そうしたらきっと、フレイア様も喜ぶデビ」

 

「な、なに言ってるのリリン!?」

 

 思わずリリンを見上げたラナの瞳から湧き水のように涙があふれ出る。小百合は感情のない目でリリンを見つめていた。リリンの顔から笑顔が消え、幼子が母親に疑問を投げかけるような無垢な表情になって言った。

 

「でも、小百合は本当にそれでいいデビ? 後悔しないデビ?」

 

 耳朶から衝撃を受けた小百合が目を大きく見開き、とたんに顔が苦し気に歪んだ。そして、心の奥から聞こえる母の言葉が小百合に苦悶を与えてくる。

 

【あなたに取り返しのつかない後悔はしてほしくない。そういう瞬間がきたら、正しい選択をしてほしい。最後に後悔する人生はきっと悲しいと思うから】

 

 そして、フレイアの声も小百合の中で繰り返される。

 

【時には非情になる事も必要なのです】

 

 母とフレイアの声が小百合の中で重なると同時に、胸の底から様々な思い出が湧き上がってきた。短かった魔法学校での生活でみらいとリコが友達として接してくれたこと、小百合の境遇を聞いて涙を流すみらいの顔、リコと協力してヨクバールと戦ったこともあった。

 

 小百合はぎゅっと目を閉じて、引き結んだ唇から苦し気に息と感情をもらす。小百合は水がせき止められて溢れる寸前の(せき)のように、感情が流れ出すのを必死に抑えつけていた。フレイアの期待に答えたい、フレイアの願いを叶えなければ母は戻らない、でも母の思いを裏切りたくなかった。

 

 最後に小百合の内に鳴り響いたのは母百合江の送ってくれた言葉であった。

 

「ラナ」

 

 小百合が右手を出すと、泣いていたラナが輝く太陽のような笑顔になる。そしてラナは小百合の手の平に左手を重ねた。

 

 

 

フェンリルはにやけた顔でモフルンを見おろしている。モフルンは身のすくむ恐怖と戦いながら、強い気持ちでフェンリルの前に立ち続けていた。

 

「そういうのは勇気とは言わないんだよ、くまちゃん」

 

 フェンリルはにやけ顔を無表情に変えていった。モフルンの後ろで倒れているマジカルが、顔だけを上げてフェンリルを見上げる。そして言いようのないフェンリルの嫌な雰囲気に目を細める。

 

「あなたは何なの? 光の戦士でありながら、そんな邪悪な気配を持っているなんて……」

 

「冥土の土産に教えてやろうか。閃光の魔法とは、あらゆるものを破壊する神域の魔法だ。その魔法の根源は行きすぎた光の感情」

 

 それを聞いたミラクルとマジカルはろくに動けない体で立ち上がろうとした。フェンリルの話の中にこのままでは終われない、このままにしておくことはできない、譲れないものを感じたのだ。フェンリルはそんな二人の姿を見つめながら言葉を続けた。

 

「愛も過ぎたれば狂気となり、優しさも過ぎたれば堕落につながる。そして、勇気も過ぎたれば無謀に転じる。それらは恐怖や憎悪などの闇の感情と似て非なるもの。光はどこまでいっても光なのだ。そこから閃光の魔法は生まれた。これだけは本能の部分で理解している」

 

 ミラクルとマジカルはフェンリルが話し終えるまでにひざを付いて起き上るので精いっぱいだった。フェンリルはモフルンだけを見つめて再び笑みを浮かべる。

 

「くまちゃんの無謀な姿には感激するよ」

 

「モフッ……」

「違う! モフルンは無謀なんかじゃない! モフルンはわたしたちのことを心配して!」

 

 必死な姿で訴えるミラクルを見つめるフェンリルは柔く組み合わせた両手を片方の頬に押し当て、男を誘惑でもするかのような蕩けた表情になった。

 

「愛情の上の自己犠牲か。素晴らしいな、無謀よりもさらに甘美だ」

 

 フェンリルの背後に白い翼が広がり、そして彼女は光そのものの羽根を散らして飛翔した。そして上空で彼女が手をあげると、空に向かった手のひらの上に真っ黒い玉が現れる。それはフェンリルの手の上で急速に膨れ上がり、彼女の体よりもはるかに大きな球体となった。

 

「プリキュアが消えてぬいぐるみ一匹が残されるのは不憫だろうよ。せめてもの慈悲だ、みんなまとめて消してやるよ」

 

 フェンリルの顔から笑みが消え、神秘的な二色の瞳に獲物を狩り殺す狼のような鋭さが冴えた。

 

「ダイヤモンド! カタストロフ!」

 

 上体を大きく反らしたフェンリルが巨大な暗黒の球体を二人のプリキュアと一体のぬいぐるみに向かって投げつけた。常識から逸脱した闇の力が大気のあらゆる成分を焼き尽くし、空間が歪んで地鳴りのような重々しい音響が辺りに広がる。迫りくる闇の前で、ミラクルはモフルンを抱きしめ、マジカルはただただ隕石のように落ちてくる闇を見つめていた。そんな彼女の思考は完全なる空白、なぜだか絶望的な気持ちにはならなかった。

 

 その時であった。ミラクルとマジカルの前に二人の黒い人影が現れる。

 

「なにぃっ!!? お前たちは!!?」

 

 ミラクルとマジカルに、そうフェンリルが叫ぶのが聞こえた。

 

『プリキュア! ブレイオブハートシールド!』

 

 強き魔法の言葉の後に続いたのは凄まじい衝撃と音、フェンリルの魔法の爆裂が辺りを黒く塗りつぶす。

 

「モフ―ッ!?」

 

 モフルンの声だけが暗闇の中に起こった。ミラクルとマジカルは声もなく闇の中に埋もれてしまった二人の姿を見つめていた。

 

 フェンリルの魔法がかき消され、闇が晴れ、上空に青空が広がった時、ミラクルのラベンダーとマジカルのマゼンダの瞳に、黒いプリキュアの後姿が映った。マジカルの目には黒いマントにかかる足元に届くほど長い黒髪のダークネスの後姿、ミラクルの目には頭に突き出るミドルサイズの黒いとんがり帽子とピンクのリボンに束ねられたレモンブロンドのポニーテール、そして黒いドレスの中で腰のあたりに咲く黄色の大きなリボン、そんなウィッチの後姿が見えていた。

 

「ダークネス!?」

「ウィッチ!」

 

 マジカルの衝撃的な声とミラクルの希望に満ちた声が重なる。

 

「もう大丈夫だよ!」

 

 ウィッチが後ろを振り返って言った。そして、リリンがモフルンの前に飛んでくる。

 

「モフルン、最高だったデビ! 君の勇気を尊敬するデビ!」

「リリン! ありがとうモフ!」

 

 空中のフェンリルは歯を食いしばり、鋭い犬歯をむきだしにした。

「きさまらっ、どうしてここに!!? ボルクスのやつ、また失敗したのかい!!」

 

 まくしたてるフェンリルを無視しでダークネスが言った。

 

「ウィッチ、あんたはここで二人を守りなさい。あいつはわたしが倒すからね」

「うん、わかった! ダークネスにぜんぶ任せた~」

 

 それを耳にしたフェンリルの中に猛然と戦意が膨らむ。

 

「このわたしを一人で倒すだと? 何の冗談だ?」

「わたしは冗談というのが大嫌いよ」

 

「言ってくれる。目的は何だ? 何のために伝説の魔法つかいを助ける!」

「この二人はわたしたちの手で倒すわ。余計な手出しはしないでくれる」

 

「ふっ、ままごどだな。まったく説得力のない言葉だ。お前たちプリキュアは、本質的に同士討ちできないのだ。どんなに敵対するふりをしていても、憎しみは生まれない。恐らくお前たち四人は共に戦う運命なのだろう。わたしにはそれが分かる」

 

「……あんたの今の言葉は胸に刺さったわ。よく覚えておく。わたしたちは何としても伝説の魔法つかいを倒さなければならないの。そうしなければならない目的があるんだからね」

 

 それを聞いたフェンリルの表情が和らぎ、狂暴さに代わって楽し気な笑みが浮かぶ。

 

「ほう、それは難儀だな。理由はわからんが、おまえの覚悟は本物のようだ。お前のその覚悟がプリキュアの本質を壊すというのなら、それはそれで好都合だ。だが! その可能性は低いと考える! ゆえに宵の魔法つかいも、伝説の魔法つかいも、ここで消し去る!」

 

「かかってきなさい」

 

 ダークネスの静かな言葉がミラクルとマジカルの耳朶に染み入るように深く響く。フェンリルが再び戦闘への狂気をまとって犬歯をさらして細月のような笑みを刻んだ。

 

「わたしはお前たち宵の魔法つかいを見た瞬間に宿敵だと分かった。お前たちとわたしの間に何があったのかはわからん。あるいは、なにもなかったのかもしれない。まあ、過去の事などはどうでもいい! わたしの本能が訴えるのだ! 宵の魔法つかいを何がなんでも倒せとな!」

 

「まるで血肉に飢えた猛獣ね」

 

 ダークネスが辟易と目を閉じてため息混じりに言うと、フェンリルが両手を強く握ってロキの闇の魔法を解除した。フェンリルの手足から黒いオーラが消え去る。

 

「闇のエレメントを持つ宵の魔法つかい対して、闇のエレメントをまとっていてはこちらが不利だ。これでわたしのエレメントは光となり闇と相反となった。お互いに受けるダメージは倍加する。一瞬で片が付く!」

 

 ダークネスは深紅の瞳で空中のフェンリルを鋭く見据えると、右手を横に呪文と唱えた。

 

「リンクル・スターサファイア!」

 

 ダークネスの腕輪に三条の白線が中央で交錯するカボションの青い宝石が宿る。それからダークネスは飛翔してまっすぐにフェンリルに向かっていった。

 

「空飛ぶリンクルストーンか! おもしろい、この私に空中戦を挑むとはっ!」

 

 急上昇してきたダークネスとフェンリルの目線が合った。

 

「はあぁぁっ!!」

「どりゃーーーっ!!」

 

 ダークネスとフェンリルの覇気が重なり、最初の一撃の拳が空中で衝突する。重なったダークネスとフェンリルの拳の間から反発する力が広がり、上空の雲、地上の草や土や小石、それらが怒りを爆発させるような空気の烈流で荒れ狂う。ダークネスとフェンリルの戦いを見上げたマジカルは思わず口にしていた。

 

「何てすさまじい……」

 

 ダークネスとフェンリルの間で空中戦が展開される。目にもとまらぬパンチとキックの応酬、それらがぶつかる度に衝撃が起こる。

 

「てりゃーっ!」

 

 気合と共に繰り出されたフェンリルの強烈な上段蹴りに、ダークネスが防御を合わせる。堅く十字に組み合わせた腕で頭部を守ったにも関わらず衝撃が突き抜けてめまいがした。

 

「くあぁ……」

 

ダークネスが怯んだ隙をのがさずフェンリルは背後に回り込んだ。

 

「くらえーっ!!」

 

 フェンリルが組んだ両手を大槌のように振り下ろし、ダークネスを叩き落とす。そしてダークネスが地上にぶつかった瞬間に地面がめくり上がり、クレーターを形成した。

 

「うっ、くふう……」

 

 クレーターの中心で苦痛にうめくダークネスに、フェンリルが華麗に片足立ちする鶴のような態勢で突っ込んでくる。ダークネスは身を転がしてフェンリルの攻撃を直前で避け、同時に反撃に転じた。

 

「はあっ!!」

 

 ダークネスは低い態勢で地を蹴り、片足が地面に突き刺さってる状態のフェンリルに会心のパンチを打ち込む。その一撃でぶっ飛んだフェンリルは、すり鉢型になっているクレーターの中腹に激突し、細身で大きく地面を穿ちながら10メートル以上突き進んだ。

 

 盛り上がった土と石の塊の中からフェンリルが飛び出し、低空を飛翔してダークネスに接近、そして再びぶつかり合う。今度は地上すれすれの空中戦、高速の蹴り合い、それがしばらく続いた後、ダークネスが上段を狙うと見せかけ、途中で下段に軌道修正する技巧の蹴りがフェンリルの腹部に食い込む。

 

「ぐはっ!?」

「たああぁっ!」

 

 ダークネスはフェンリルにくらわせた足を振り抜いて相手を地面に叩きつけた。

 

 ダークネスが地上に降りると、地面に叩きつけられたフェンリルが土煙の中から突き抜け、神速でダークネスに迫る。そのあまりの速さにダークネスは防御の態勢をとることしかできない。

 

「せりゃーっ!」

 

 フェンリルはダークネスのガードの上に跳び膝蹴りを喰らわせると、背中の翼を羽ばたいて勢いを止めずにダークネスの体ごと後方に押し込み、そしてさっきまで小百合とラナが隠れていた大岩にダークネスを叩きつけた。ダークネスの体に凄まじい圧力がかかり、背中に接触した大岩が粉々に砕け散る。そしてダメージを受けて防御を解いたダークネスをフェンリルが蹴り上げた。

 

「うああぁっ!?」

 

 無数の石片と一緒に黒い乙女が宙を舞う。フェンリルは光をまとった翼でダークネスに追いつき、

 

「落ちろっ!」

 

 上からダークネスの胴部に両足の靴底を打ち込み叩き落とした。再びダークネスの体が地面に小さなクレーターを穿つ。

 

「うぐっ……くうぅ……」

 

 大きなダーメージを受けたダークネスが苦し気に片目を閉じる。その隙にフェンリルは上空高くへと上昇していく。

 

 それを見たマジカルが険しい顔になる。

 

「このままではダークネスが危ないわ」

「ダークネスを信じて」

 

 守護神となってミラクルとマジカルの前に立つウィッチが言った。ダークネスが劣勢でもウィッチは落ち着いている。彼女にしか分からないダークネスの雰囲気みたいなものがあるのだ。本当にダークネスが危険なときは肌で感じる。今はそれがなかった。

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