魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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わたし絶対にあきらめないから

彼女にしか分からないダークネスの雰囲気みたいなものがあるのだ。本当にダークネスが危険なときは肌で感じる。今はそれがなかった。

 

 フェンリルは高高度から立ち上がろうとしているダークネスに狙いを定めると、翼の羽ばたき一つで周囲の空気を爆ぜて超高速で急降下する。輝きを放つ拳を突きだし、ダメージを受けて肩で息をしているダークネスの背中に接近し勝利を確信する。

 

「ダイヤの光で天へと導いてやろう!」

 

 その瞬間に立ち上がったダークネスが後ろを振り向き、オッドアイと真紅の瞳の視線が重なった。ダークネスの燃え上がるように赤い瞳には、相手を確実に倒すという確固たる信念の光があった。本能からフェンリルは背中に蛇が這うようなぞっとした感触が駆ける。

 

 ――攻撃を止めないとまずい!!

 

 フェンリルがそう思っても、止めとばかりに放った一撃だったので勢いが付きすぎていた。音もなくすっとダークネスの体が動き、光をまとったフェンリルの右の拳を鼻先を掠めるような近接で避け、それとほとんど同時に突き出されたフェンリルの右手首がつかまった。そしてダークネスがつかんだ手首にひねりを加える。

 

「はっ!」

 

 ダークネスは相手の攻撃してきたパワーを全て返してフェンリルを投げた。プリキュア二人分に相当する威力で放たれた壮絶なる合気であった。

 

「うわあああああぁっ!!?」

 

 下に叩きつけられたフェンリルは地面を破壊しながら転げまわり、その身で粉塵を叩き上げながら万里の長城のように高々とした土埃の壁を作り上げた。その勢いは止まらず、切り立った岩壁に叩きつけられたフェンリル自身が、大きな崩落を引き起こす。砕けた岩がフェンリルの上に降り積もって山となっていく。

 

「いぃやった~っ!」

 

 ウィッチが片方の手をあげるのと一緒に飛び跳ねて喜ぶ。

 

「いいえ、まだよ」

 

 ウィッチの背中にマジカルの硬い声が投げつけられた。

 

 ダークネスは崩落してできた岩山を無言で見つめている。すると、岩山の隙間から強烈な白い閃光がもれた瞬間に、無数の巨大な岩が吹き飛ばされ、フェンリルが上昇していく。その姿を見上げていくダークネスの視界が青空の色に染まり、その中で唯一の異物であるフェンリルが白き翼を大きく開いて叫ぶ。

 

「おのれプリキュアァーーーーっ!! なにもかも消し去ってやるっ!!」

 

 フェンリルの高く上げた手のひらの上に光の玉が現れ、急速に膨れ上がり見ていられない程に輝く球体になる。先ほどとは真逆に白い輝きの中にダイヤのようにキラキラとした7色の光が入り込んでいる。

 

「これこそが閃光の魔法! あらゆるものを破壊し尽くす光の魔法だ! 受けてみろ!」

 フェンリルが光の球を乗せた手を後ろに引いてダークネスに狙いを定める。

 

「ウィッチ、お願い!」

「はぁ~い」

 

 鬼気迫るダークネスの呼びかけに、ウィッチが素直にお母さんの言うことを聞く子供みたいな返事をしてミラクルとマジカルの前からジャンプしていなくなる。同時にダークネスもジャンプして、ウィッチと空中で手を取り合った。

 

『生命の母なる闇よ、わたしたちの手に!』

 

 ダークネスとウィッチが着地すると闇が広がり大地を星の瞬く宇宙に塗り替えていく。ダークネスとウィッチが右手と左手を上げれば、二人のブレスレッドのブラックダイヤが輝く。飛んできたリリンは空中ででんぐり返しして二人のプリキュアの間に降りてくる。ダークネスとウィッチが手を前に出せば、中央に赤い三日月、周りに赤い星が輝く闇色の六芒星魔法陣が現れ、同時にリリンの胸のブラックダイヤから光が広がり、それが六芒星と重なると、巨大な黒いダイヤが現れた。後ろでつながるダークネスの左手とウィッチの右手に力が込められ、より強く身体と心がつながる。

 

『プリキュア! ブラック・ファイアストリーム!』

 

 ダークネスとウィッチの魔法の呪文と共に、巨大な黒いダイヤから闇夜に7色の星が強く輝くような奔流がフェンリルに向けて放たれた。

 

 一方、フェンリルもダークネスとウィッチに向けて巨大な輝く塊を投げつける。

 

「ダイヤモンドッ! カタストロフ!!」

 

 二つの魔法が空中でぶつかり、凄まじい魔力の衝撃が島全体の草木やはるか下の海面まで激しく揺さぶる。ミラクルとマジカルは光と闇のせめぎ合いに刮目していた。

 

 やがて闇を引き裂いてダークネスとウィッチに迫っていた光球の勢いが衰えていく。

 

「フェンリル! あんたの魔法じゃわたしたちには勝てない!」

 

 ダークネスがいい放つと同時に、フェンリルの魔法は宇宙の闇の波動に突き破られて霧散する。成す術のないフェンリルは声もなく闇にのみ込まれ、宇宙に向かって昇る黒い彗星となって飛ばされていく。

 

「うわああぁーーーっ!!?」

 

 フェンリルが地球を越え、宇宙の果てまで吹き飛ばされたその先で無限の星々が広がると、さらにその向こう側に闇よりもなお深い真円の空間が口を開け、広がった星々を飲み込んでいく。一変の光も残さずに全てを飲み込んだ闇が口を閉ざすと、暗黒から淡い光に包まれた偽のダイヤと元の少女の姿に戻ったフェンリルが現れて、もと居た場所へと召喚される。

 

「優しい闇が怖い光を包み込んでいく」

 

 ミラクルは世界が変わってゆくのを感じながら言った。フェンリルが振りまいていた肌が泡立つような刺々しい魔力が払われ、何とも言えぬ穏やかな魔力が広がっていく。

 

「これが、宵の魔法つかいの持つ力なんだわ」

 

 マジカルはこの瞬間に宵の魔法つかいが存在する意味が分かりかけてきた。

 

 それはダークネスも同じだった。彼女は空からふってきて倒れたままのフェンリルに近づいていく。

 

「わたしたちの持つ闇の魔力はヨクバールを強くしてしまう。どうしてそんな力をもっているのかずっと不思議だった。けれど、あんたと戦って、その意味が分かった気がする」

 

 ダークネスはそこに真実があるかのように自分の手のひらを見つめて言った。

 

「必要とされていたんだわ、この力が」

 

「……そいつはよかったね、おめでとう」

 傷だらけのフェンリが倒れたまま皮肉を込めて言った。

 

「あんたは一体何なの?」

 

「……実のところ、わたしにもよく分からない。記憶がないのさ。この世界で目覚めた時に覚えていたのは、生きるのに最低限必要なことと、自分の名前と、わたしの持つ力が古代超魔法ということだけだ」

 

「そう……。それにしても闇の王であるロキに光の戦士が従っているなんて奇妙ね」

 

「ロキ様はわたしをこの世界に解き放ってくれた。だから、その恩を返したかったのさ。ただそれだけの話だ」

 

 フェンリルは自分のすぐ近くで光っている宝石を手に取って見つめると、悲し気に眉を八の字に下げた。ダイヤのコピーリンクルストーンには亀裂が入っていた。

 

「わたしの力は完全に失われた、もうお前たちの邪魔をすることはできない。だから、もうかまわないでおくれよ」

 

「邪魔をしないなら戦う理由はないわ」

 

「そうかい。なら、これからは好きに生きていくさ、ロキ様に始末されずに済めばの話だけどね」

 

 フェンリルが痛む体で苦心して起き上ろうとすると、ダークネスが手を差し出す。フェンリルは素直にその手を取ってダークネスの手を借りて立ち上がった。それから彼女は少しふらつく足で島の外に向かって歩き出し、途中で白猫の姿になって光の翼で飛び上がった。負けたにもかかわらず、飛んでいく白猫の後姿はどこか晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 ウィッチがミラクルとマジカルの前に走ってくると、浮き浮きした感じで両手を上げていった。

 

「二人ともだいじょうぶ?」

「大丈夫よ。ありがとう、あなた達が来なかったらどうなっていたか」

 

 そういうマジカルにウィッチが笑顔の花を咲かせる。

 

「お互い様だよ~、この前は二人に助けてもらったしね!」

 

「モフルンも無事でよかったデビ」

「ちょっとだけ怖かったモフ」

 

 ようやく緊張から解放されたモフルンがリリンに向かってふぅと息をつく。そんな和気あいあいとしたところに歩いてくるダークネスにミラクルが小走りで近づいて笑顔になる。

 

「ダークネス、助けてくれてありがとう」

「わたしはあなた達を倒すと言ったわ、聞いていなかったの?」

 

 ダークネスの言葉は落ち着いていたが、彼女の赤い瞳にはミラクルに対する拭いきれない嫌な気持ちが現れて、必要以上に燃え上がる炎のように激しい輝きがあった。それに対してこれまでは悲し気だったミラクルは、今までとは全く違う反応をする。笑顔でありながらもラベンダー色の瞳に強い強い輝きを持ってダークネスを見つめていた。

 

「わたし絶対にあきらめないから」

「あきらめない……ですって……?」

「うん、あきらめない! ダークネスといつか分かり合えるって信じてる!」

「下らないことを……」

 

 こともなげに言うダークネスの内心は荒れていた。まっすぐに信じて見つめるミラクルを見ているのと胸が苦しくなる。

 

「ウィッチ! 敵と馴れ合ううんじゃないの!」

「は、はいぃっ!?」

 

 肩を震わせたウィッチが慌ててダークネスの方に走ってくる。リリンもモフルンの前から飛んでダークネスの腕の中に納まった。ダークネスは踵を返すと速足でミラクルとマジカルの前から去っていった。

 

 

 

 みらいとリコとモフルンは無人島から箒に乗って飛んでいく小百合たちの姿を見上げていた。言葉はないが、見つめる3人の瞳には感謝の気持ちがこもっていた。その頃には日が傾き、魔法界の空が朱に染まりつつあった。

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