魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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業火のヨクバール

 小百合とラナはそれぞれ魔法の箒に乗って飛んでいく。リリンは小百合のひざの上に乗って足を伸ばしてリラックスしていた。

 

 青空を背景にたくさんの綿あめみたいな雲が低くたれこめる海の上を二人の影が走っていく。ラナの箒の筆の根元から縄がたれていて、その先には銀色の大きなボウルに入っている複数のハリマンゴーがあって刺々しい山になっていた。

 

 小百合は自分の箒にぶら下がっているものが気になって何度もそれに目をやる。

 

「ちょっとラナ、エリーさんからもらったハリマンゴーまで持っていく理由をそろそろ聞かせてほしいんだけど」

 

 小百合の箒にぶら下がっている鉄の網に入っているハリマンゴーが、海からの上昇気流で棘鉄球のつぶてさながらに小百合の方に迫ってくる。

 

「ひいいぃっ!?」

 

 小百合が情けない声を出して慌てて上昇した。

 

「おおげさだなぁ。さすがに小百合のところまでは上がってこないよ」

 

「あんなのが迫ってきたら誰だって怖いんだからね! それよりもあれを持っていく理由を聞かせなさい! さっきからはっきりしないわね!」

 

 ラナはなぜかエリーからもらったハリマンゴーを持っていくと言ってきかなかった。そこまで言うのならよっぽどの理由があるだろうと小百合がたずねると、どうも歯切れの悪い返事しか返ってこない。と言っても、小百合はラナが何をしたいのかは大体わかっていた。

 

「えっとぉ、うっとぉ、もしさあ、小百合が良ければでいいんだけどさあ」

「なによ、はっきり言って」

「そのハリマンゴー、わたしがもらってもいいかなぁって……」

 

 ラナの声がどんどん小さくなって最後の方の言葉は風の音に負けて聞こえなかった。

 

「それで、ラナはそのハリマンゴーをどうしたいの?」

 

 小百合がラナの横に並んでその横顔を見つめると、彼女のサラサラの黒髪が海風に流れてほおをなでた。ラナは一瞬だけ小百合と目を合わせてから言った。

 

「プレゼントしたい人がいるんだよ」

 

 ラナは今度ははっきりと大きな声で言う。もう覚悟を決めたというようにまっすぐ前を向いて箒に乗る姿勢を正していた。

 

「あんたね、そういうことをして逆に相手を苦しめることもあるのよ」

 

「へ? ハリマンゴーもらって苦しむ人なんていないよぉ。あ、でも、まちがって棘が刺さったら痛くて苦しいね~」

 

 ラナがいつものように、ほわんとした感じで答えると、小百合のため息が出た。

 

「わたしが言いたいのはそういうことじゃないんだけれど、まあいいわ。あんたの好きにしなさい」

「ありがとう、小百合!」

 

 ラナが笑顔で言った時に、下の方に魔法商店街の街並みが見えてきた。

 

「低空を飛ぶときはハリマンゴーが人に当たらないように気を付けないと。棘がむき出しの状態だともはや凶器だわ」

 

 小百合が持っているハリマンゴーは網に入って全身の針がむきだしなので気を使わされた。その上、小百合は魔法の箒に乗るのが苦手なので苛々してくる。

 

「何でこっちのハリマンゴーはボウルに入れてこなかったのよ!」

「ちょうどいいのがなかったんだよ~」

 

 ラナは小百合の気など知らずにのんびりと答えながら魔法商店街の果物屋さんを目指していた。

 

「小百合、大変デビ、ハリマンゴーが人に当たってるデビ」

「えっ!? うそっ!?」

「うそデビ」

「あんたねーーーっ!!」

 

 リリンにおちょくられて怒鳴る小百合、ラナはそんなの気にしないで降下を始める。

 

「あった~、あそこだよ~」

 

 ラナの後ろで小百合がまだ怒っていた。

 

「リリン、次にこんな嘘ついたら晩ごはん抜きにするからね!」

「小百合が緊張していたみたいだったから、リラックスさせようと気を利かせたんデビ」

「リラックスどころか体が凍りついたわよ!」

 

 少女たちは魔法商店街で数百年も続く果物屋さんに向かって降りていった。

 

 

 

 上空で正八角形の魔法商店街の街並みを見下ろしている燃え上がるような赤い髪の男がいた。彼は体半分をおおっていた漆黒の毛皮のマントを後ろに送り、にやりと笑う。

 

「さてと、いよいよ俺様が動くわけだが、どう手を打つか」

 

 闇の王ロキは、先にあったフェンリルとプリキュアたちとも戦いを思い返した。

 

「宵の魔法つかいがあの場所に現れたのはフレイアの奴がなにかしたんだろう。問題は宵の魔法つかいがフェンリルを倒し、伝説の魔法つかいを助けたというところだが、これはお互いの利害が一致していたからにすぎない。フェンリルはどちらにとっても敵だったからな。伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいを直接ぶつければ戦いになるに違いねぇ。まずは4人のプリキュアをここに集める。ついでにあの街を消し去って絶望の大地を戦いのステージにしてやろう」

 

 ロキの左の手のひらに炎が燃え上がり、同時に弾いた右手の指が反響を呼ぶ。するとロキの目の前に導火線の付いた黒い球体の爆弾と、真っ黒な小石程度の闇の結晶が現われる。ロキが右手を空へと振りかざすと上空に巨大な黒龍の魔法陣が広がった。

 

「いでよ、ヨクバール!」

 

 闇の結晶と爆弾と火の玉、この三つが魔法陣に吸い込まれる。その直後に魔法陣から引きずり出された黒い影が翼を開いて鳥の形になった。その全身が燃え上がって黒い影が薄紙が消し炭になるように消え去ると、身体の中心に爆弾を抱えた火の鳥が現れて頭になっている竜の骸骨から雄叫びが上がった。

 

「ヨクバアァーーーールッ!!」

「てめえの役目はプリキュアを呼び寄せることだ。さあやれ、ヨクバール!」

「ギョイイィーーーッ!!」

 

 火鳥のヨクバールは翼を開き、燃え盛る全身から光を放ち始めた。

 

 

 

「トッドさん、ひっさしぶり~」

「やあ、ラナじゃないか」

 

 果物屋さんのお兄さんが上空から手を振るラナを見上げていた。

 

「エリーさんのお使いでハリマンゴーもってきたよ~」

「まっていたよ」

 

 ラナと小百合が店の前に降りてくると、トッドはさっそくボウルの中のハリマンゴーを目利きしていた。

 

「うん、エリーのハリマンゴーはいつも出来がいいね」

 

 トッドは懐から魔法の杖をだした。

 

「こいつは危険があるから慎重に運ばないとな。キュアップ・ラパパ、ハリマンゴーよ並べ」

 

 トッドが杖を振ると棚の空きスペースにハリマンゴーが順序良く並んでいった。

 

「次は魔法学校ね」

 

 小百合が何気なく言うとラナが目を丸くした。

 

「え!? なんでわかるの!?」

 

 ラナのその問いに答えは帰ってこなかった。小百合は強張った表情で上空を見つめていた。小百合だけではない、魔法商店街にいる大半の者がそうしていた。魔法界の上空に突如現れた太陽のような輝きに目を奪われていた。

 

「ふえ? なあにあれぇ?」

 

 ラナもそれを見上げるが、さらに輝きが強くなって見ていられなくなった。そして輝きの中から甲高い獣のような叫び声が上がる。

 

「ヨクバールだわ!」

 

 小百合が箒に乗るとラナもそれに合わせる。言葉もなく二人は同時に上昇した。そして、滑るように低空で街の上を飛び、同時に商店の屋根の上に着地する。

 

 小百合とラナが左手と右手を重ねると、赤い三日月を背後に背負った黒いとんがり帽子が輝きとなって一瞬だけ現れる。二人がつないでない方の手を天に向けると、瞬時に黒いローブの姿に変わり、

 

『キュアップ・ラパパ!』

 

 魔法の呪文と共に昇った群青の光線が雲を突き破り、鋭い角度で曲がると一瞬で空中を飛んでいるリリンの首元のブローチに落ちてくる。群青色の氷の結晶がはじけると、ハート型の台座の上で輝く群青のリンクルストーンがリリンのブローチに現れる。

 

『アウィン!』

 

 世界は瞬間的に永久凍土となり、小百合とラナとリリンが手と手とつないで輪を作ると、竜巻状に吹き上がる無数の綿雪と氷の結晶にのって上空へ。空中に大きな氷の花が咲き広がると、3人はその上で輪のまま向かい合った。

 

『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』

 

 リリンの体に群青色のハートの光が現れて点滅すると、3人は氷の花の上で回りながら華麗に舞い踊る。無数の氷の結晶が上から斜めに流星群のように降りてきて3人の姿はその向こう側に消えていく。

 

 魔法商店街に群青色の三日月と星の六芒星が現れると、それは回転しながらいちど上空へと舞い上がり、再び同じ場所に落ちてきて止まる。そして、空中で垂直に立っている六芒星の前に黒と群青に彩られた二人の乙女が召喚された。

 

 ダークネスとウィッチは背後の魔法陣を蹴って前に飛び、そして商店の屋根の上に舞い降りる。

 

「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」

「可憐な黒の魔法! キュアウィッチ!」

 

 二人は左手と右手をつないで後ろ手に、目を閉じて冷気をまとう体で触れ合いながら、別の手は愛おしい者にふれるように柔らかく重ね合わせた。そして背後でつないでいた手を前に、手のひらを返して高貴な姿を見せる。

 

『魔法つかいプリキュア!』

 

 アウィンスタイルに変身したダークネスとウィッチが天高く輝き続けるヨクバールを見つめる。

 

「あのヨクバール、攻撃してくる気配がないわ」

「なんなんだろうね~。光りたいだけなのかなぁ」

 

 ウィッチが首を傾げる。

 

「輝きを放つことに何の意味があるというの?」

 

 そう言ってダークネスはすぐにはっとなった。

 

「わざと目立って呼び寄せているの?」

「よぶってなにを?」

 

「わたしたちと、あとあの二人も。だとしたら、4人まとめて倒すつもりなのかしら」

「じゃあ、めっちゃ強いんじゃん、あのヨクバール」

 

「……それにしては変ね。今ここにプリキュアは二人しかいない。今のうちに攻めた方が有利なのに」

 

 ヨクバールは光っているだけで全く動かない。

 

「もっと近づいてヨクバールの姿を確認しましょう」

 

 二人の周囲を惑星の衛星のように周回している群青色の光の球が舞い上がり、真円を描いて空中に氷の結晶で足場を作る。ダークネスとウィッチは群青の光が次々咲かせる凍てつく花に飛び移ってヨクバールの真上まできて見おろした。その時にヨクバールの鳥の姿を見ることができた。ダークネスは油断なく敵に集中しながら言った。

 

「ここまで近づいても攻撃してこない……」

「本当に光っていたいだけみたいだねぇ」

 

 ウィッチも特に何もしないヨクバールを見おろしていた。

 

 

 

 その頃、リコたちも魔法商店街の上空へと至る。

 

「どこか人目のないところで変身しましょう」

「あそこがいいよ」

 

 みらいが魔法商店街のとある広場を指さした。二人は箒を降下させて、以前ルビーを手に入れた猫の石像の陰に降りると、右手と左手を合わせた。そこに金色のとんがり帽子が現れ、もう一方の手を二人同時に上げると、リコは紫に輝くローブ、みらいはピンク色の輝きのローブに身を包まれる。

 

『キュアップ・ラパパ!』

 

 金色の光に満ちた世界が広がると、みらいとリコの周囲から、大地よりいでる噴泉のごとく4本の光の柱が噴き上がり、二人が立っている金色の大地が爆発して崩れると、二人とも深く広がる金色の空間へと放り込まれる。そこに現れたモフルンが青いキャンディーを捕まえて包みを広げると、飴玉の代わりにトパーズのリンクルストーンが飛び出して、モフルンの胸のブローチに収まった。

 

『トパーズ!』

 

 みらいとリコとモフルンが手をつないで輪になると、大輪の花のように広がって回転しながらさらに金色の中を下っていく。

 

『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!』

 

 モフルンの体に金色のハートが現れて点滅すると、金色の円環が3人を囲い、それがハート型になって回転すと、無数で色とりどりの大きなキャンディーがふってきて、3人の姿はその中に消えていった。

 

 

 広場の上空に金色のハートの五芒星が現れると、そこからミラクル、モフルン、マジカルの順に飛び出してくる。

 

「二人の奇跡、キュアミラクル!」

「二人の魔法、キュアマジカル!」

 

 ミラクルとマジカルは静かに目を閉じて可憐な乙女の姿になり、その中にか弱い命があるかのようにやんわりと手を合わせる。次の瞬間には一転して二人は楽し気な笑顔で後ろにつないだ手を上にあげ、くるりと回って背中合わせになると、二人で一緒に美脚を高く上げてから、

 

『魔法つかい、プリキュア!』 

 

 二人の強き絆を示すように、ミラクルの左手とマジカルの右手が強く前で結ばれた。

 

 黄色のプリキュア二人の近くに二つの黄色い玉が現れる。二人は球で扁平円の足場を作って高い場所に移動した。ミラクルは光に照らされる街を見下ろしてほっとした。

 

「よかった、商店街は無事みたいだね」

 

「何だよありゃ、光ってるだけかよ」

「まぶしいモフ」

 

 チクルンとモフルンが太陽のように光るものを見上げて言った。

 

「まずはあの光の正体を突き止めましょう」

 

 そう言うマジカルにミラクルが頷き、二人はトパーズスタイルのオプションで足場を作って光の元凶に向かって急いだ。

 

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