魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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トパーズとアウィンのプリキュア

 大きな買い物袋を抱えた銀髪の少女が足を止めてまぶしい空を見上げる。彼女の後ろからついてきていた数匹の猫たちも同じように空を見上げた。

 

「フェンリル様、あれはなんにゃ?」

 

 足元の三毛猫のロナがニャーと鳴く声がフェンリルには言葉として届く。彼女は黙して商店街に現れた光の眩しさに目を細め、猫たちは怖くなってフェンリルの後ろに隠れ始めた。

 

「ついにロキ様が動き出したか。この世界が闇に染まるのも時間の問題だね」

 

 フェンリルは足元に集まる猫たちを見つめると、全てを諦めた空虚な笑みを浮かべる。

 

「魔法界が闇にのまれるその日まで、お前たちにはうまいものを食わせてやる。それがせめてもの礼だ」

 

 フェンリルが歩き出すと猫たちもその後に続く。彼女は歩きながらふと思った。今のフェンリルにとっては魔法界が平和であった方がありがたい。子分の猫たちには生きてほしいし、まだまだ料理の勉強もしたかった。

 

「希望がないこともないか。あいつらが手を組んだのなら、わずかだがロキ様に勝てる可能性が生まれるだろう」

 

 

 

 ダークネスはじっと相手の出方を見ていた。向こうが攻撃してこないのなら迂闊に手は出さない。相手がどんな能力を持っているのか分からない状態でしかけるのは危険だからだ。

 

「なんもしてこないねぇ」 

 

 退屈なウィッチがあくびをした。その時にヨクバールに変化が起こる。そして、ダークネスの目が鋭くなった。

 

「今ヨクバールが一回り大きくなったわ」

「え? ほんと?」

 

「大きくなったデビ、リリンも見たデビ」

 

 リリンがダークネスとウィッチの間で翼を動かしながら言った。

 

 3人が見ている前で、またヨクバールの体が膨らんだ。同時にヨクバールをおおい尽くす炎の勢いも強くなる。ウィッチがくりっとした青い瞳をさらに大きくした。

 

「うわあ、ほんとだ大きくなった!」

「様子を見ている場合ではなさそうね。すぐに倒しましょう」

 

 ダークネスとウィッチは足場にしている氷の結晶から同時に高く跳び、それを二つの群青の球が追尾していく。途中で群青の球が円に動いて作り出す大きな氷の結晶をもう一度足場に、二人はさらに高く跳んだ。群青と黒のプリキュア達の背後に雲が迫る。

 

 リリンの胸にあるディープブルーの輝石が輝き、ポンと群青色に輝く玉を生み出す。リリンがそれを両手で持ってコロコロ転がしていくと、どんどん大きくなっていく。そしてそれがリリンの体と同じくらいになると、リリンは頭の上に輝く玉を持ち上げた。

 

「ダークネス、ウイッチ、受け取るデビ!」

 

 リリンが投げた群青の輝きが二つに分かれ、ダークネスとウィッチが胸の前に置いたリンクルブレスレッドのアウィンに吸い込まれていく。

 

「行くわよウィッチ!」

「うん! やっちゃうよ~っ!」

 

 二人の姿が上空で交差し、位置を入れ替えてダークネスが右、ウィッチが左側に、後方で左手と右手をぎゅっと合わせる。

 

『冷厳なる理性よ、わたしたちの手に!』

 

 二人がはるか下に見えるヨクバールに向かって、つないでいない方の手をかざす。そして、二人が後ろでつないでいる手にはさらに力がこめられる。

 

『プリキュア! アウィンレクイエム!』

 

 ヨクバールに向けられている二人の手に群青の光が集まり、解き放たれた群青の光が光線になって下っていく。光線が五つに分かれると、ヨクバールの上空を覆うように群青色の五つの魔法陣が開く。五つの光線はそれぞれ五つの魔法陣に落ちる。すると光線を吸い込んだ面の反対側、ヨクバールに向いている方の魔法陣の面から、氷の結晶を無数に含んださらに強力な光線が五つ同時に放たれた。

 

「ヨ、ヨクバールゥ……」

 

 凍てつく五つの光線を同時に受けたヨクバールが弱々しく鳴く。火炎と冷気がぶつかって商店街をおおうほどに凄まじく蒸気が発生した。

 

 ヨクバールに向かっていたミラクルとマジカルは、突然吹き荒れた白い蒸気を前に思わず足を止めていた。ミラクルは迫ってきた蒸気を防ぐように片手で顔を隠して言った。

 

「なにこれ、真っ白で前が見えない!」

 

「あの二人がヨクバールに攻撃をしかけたんじゃないかしら。もっと高く跳んで蒸気の上に出ましょう」

 

 ミラクルとマジカルがトパーズの能力で空中に足場を作ってさらに高い場所に移動すると、真白な霧でおおわれた街を見おろした。

 

「商店街が雲の中にあるみたい」

「どんな攻撃をしたらこんなことになるの……」

 

 ミラクルとマジカルはそれぞれ感想をもらしてから、再びヨクバールのいた方を目指す。

 

 モフルンとチクルンは大分遅れて二人の後を追っていた。チクルンが自分よりもずっと大きいモフルンの背中をつかんで移動している。モフルンはぬいぐるみなのでそんなに重くはないが、それでも体の小さなチクルンにとってはかなりの重量だ。

 

「ふたりとも行っちゃうモフ」

「しょうがねぇだろ。お前と一緒じゃ、あんなのおいつけねぇよ」

 

 

 

 街を渡る風が地上に沈み込んだ霧を洗い流していく。ダークネスとウイッチは氷の結晶の上からヨクバールがいた場所を見続けていた。やがてその姿が現れる。ヨクバールは先ほどよりだいぶ小さくなり、体中をおおっていた炎が消えたかわりに、爆弾の体と白い骨だけの翼があらわになっていた。

 

「ヨクッバアァーーールッ!!」

 

 狂気の叫びが街に響き渡る。それを聞いたダークネスとウィッチは絶望的な気持ちになった。

 

「倒しきれてない!!?」

「うえぇ。ど、どうしようダークネス」

 

「永久凍土の冷気を込めたアウィンの大魔法でも倒せないなんて……」

「もう一回やったら倒せるんじゃなあい?」

 

「無理よ、大魔法は魔力の消費が大きいから連続で使うことはできないわ」

「そ、そんなぁ」

 

 ウィッチが不安げにダークネスを見つめる。ダークネスでもヨクバールを倒す方法は思いつかなかった。そうこうしているうちに、ヨクバールの体が再び燃え上がる。それにはさすがのダークネスも焦りを見せた。

 

「そんな、再生能力まで持っているの!?」

 

 そう言うダークネスの姿と復活しつつあるヨクバールの姿をウィッチがさらに不安になりながら交互にみつめる。

 

「あれは今までのヨクバールと桁違いの能力をもっているみたいね。そして自分から攻撃する力をもたないぶん、防御の能力に優れているんだわ」

 

「でもお、防いでるだけじゃ意味ないよねえ?」

 

「あいつは多分、自爆してこの街ごとわたしたちを吹き飛ばすつもりなのよ」

 

「ええぇっ!? やばいよそれぇ!」

 

 混乱したウィッチが両手で頭をかかえて叫び出す。ダークネスは下唇を噛んで胸の内に押し込んでおきたい事実を思わずつぶやいてしまっていた。

 

「今なら後一度の大魔法であのヨクバールを倒すことができる。ミラクルとマジカルがこの騒ぎに気付いて来てくれることを願うしかないわね……」

 

 かくして、ダークネスの願いは叶えられるのであった。空中を移動してくるミラクルとマジカルが、ヨクバールと群青のプリキュア達の姿を視界にとらえていた。

 

「あなたたち!」

「うわぁっ! きたぁっ! 二人ともまってたよ~っ!」

 

 マジカルが呼びかけたとたんに、ウィッチがばんざいして大喜び、ダークネスも安堵して少しだけ表情が和らいだ。いま来たばかりのミラクルとマジカルには何が何やらわからない。

 

「説明をしている暇はないわ。このままでは商店街が危険なの。あんたたちの魔法でヨクバールに止めを刺して」

 

「任せなさい」

 

 マジカルが即答する。ミラクルとマジカルはダークネスを疑わなかった。今までの戦いの中で、ある意味では心を通わせている。だからダークネスに悪意がないことくらいはすぐにわかる。

 

「わたしたちがサポートするわ! ウィッチ、一緒に来て!」

「りょうかいで~す!」

 

「マジカル、わたしたちも行こう!」

「ええ!」

 

 再び炎をまとったヨクバールが商店街の道の真ん中で翼をひらいてまた光を放ち始めていた。それを挟み撃ちにするように、それぞれのペアが道に降りた。ミラクルとマジカルはヨクバールの正面、ダークネスとウィッチは背後を捉えていた。まずはダークネスがサポートに動く。

 

「二人に向かってヨクバールを弾き飛ばすのよ!」

 

 ダークネスにウィッチが頷き、二人で一緒に前方に突出した。

 

『はあーっ!』

 

 二人同時のパンチがヨクバールの背中にヒットして、爆弾を抱えた巨体が前にぶっ飛ぶ。ミラクルとマジカルはどんどん近づくヨクバールに対して、ダイヤが宿るリンクルステッキを構えた。

 

『リンクルステッキ!』

 

 ようやくモフルンとチクルンが追いついた時に、ミラクルとマジカルが大魔法を使おうとしていた。モフルンは焦ってしまった。モフルンがいないとミラクルとマジカルは大魔法が使えないのである。

 

「二人ともモフルンがいないのに気づいてないモフ! チクルン、モフルンを投げるモフ!」

「え? いいのかよ?」

 

「はやくしてほしいモフ!」

「わかったよ、いくぞ! そりゃーっ!」

 

 チクルンはモフルンを力いっぱい前に向かって投げた。モフルンが手足を大きく開いてミラクルとマジカルに向かって落ちていく。その時、モフルンの胸の黄色い宝石から光があふれて、黄色に輝く大きな玉となった。同時に世界が金色の光に染まり、モフルンは光の球にしがみ付いて一緒に転がっていく。

 

「モフゥ~ッ!」

 そしてモフルンが途中で玉から離れて地上に立つと、

 「モフッ」と上から落ちてきた黄色い光の球を頭でポヨンと弾いた。

 

 途中で二つに分かれた黄色い光の球に、ミラクルとマジカルは走って追いつき、テニスのラケットでボールを打ち返すようにリンクルステッキを一振りして黄色く光る弾を受け止めた。ミラクルのステッキのハートのクリスタルと、マジカルのステッキの星のクリスタルが金色の染まり、同時にに二人のステッキに宿っていたダイヤが黄色い宝石と入れ替わる。

 

『トパーズ!』

 

 二人は同時に地上から姿が見えなくなるほど高くジャンプして、ミラクルは右側で左手を、マジカルは左側で右手を後ろで合わせてつないだ。

 

『金色の希望よ、わたしたちの手に!』

 

 地上に着地したミラクルとマジカルが、つないでいない方の手にもっているリンクルステッキを高くかかげると、モフルンの胸のトパーズが金色の光を強く放つ。

 

 ミラクルとマジカルは金色に光るステッキの先端を合わせて一緒に金色の線を描いた。

 

『フル、フル、リンクル―ッ!』

 

 二人でステッキを回して円を描くと、それに合わせて描かれた金色の線が変形して渦を巻いていく。やがてそれが二人の頭上で巨大な金色の竜巻になった。

 

 高く上げたリンクルステッキのハートと星のクルスタルが合わさって、神秘的な響きと共に金色の閃光が竜巻の中心に吸い込まれていく。次の瞬間、金色の竜巻が一気にかき消されて、ミラクルとマジカル近くに、リンクルステッキが巨大になった幻影が現れた。それはまるで並び立つ2本の巨大な柱であった。それらと比べると、ミラクルとマジカルの姿はまるで小人だ。

 

 ダークネスとウィッチの攻撃で吹っ飛んできたヨクバールが、ミラクルとマジカルの目前に迫る。巨大になった2本のリンクルステッキがゆっくりと前に倒れて、そこに突っこんできたヨクバールは2本のリンクルステッキの間に挟まれ、そこで動きが止まった。とたんに金色のハートの五芒星がヨクバールの前に現れて動きを封じ、巨大なリンクルステッキの周囲に金色の光の円が連なってバネのような形になった。

 

 ミラクルとマジカルが後ろ手につないだ手を高く上げて力を込め、リンクルステッキを持っている腕を斜め前で合わせて交差させると、強く温かな魔法の言葉を唱えた。

 

『プリキュア! トパーズエスペランサ!』

 

 ミラクルとマジカルが体を引く動きに合わせて、巨大なリンクルステッキの方に巻き付いている金色の魔法のバネが縮んで途方もない力を蓄積させる。そして二人が同時にリンクルステッキを前に力強く突き出すと、それに合わせて魔法のバネに蓄積されていた力が解放される。瞬間、金色の魔法陣で封印されているヨクバールが豪速で弾き出された。

 

「ヨクバァーーールッ!!?」

 

 金色の球と化したヨクバールが大地を跳ねるたびに地面を大きくえぐり、最後は大地に深くめり込むと、周囲の地面に亀裂が走り、その亀裂から金色の光りが噴出した。そして大爆発が起こってすべてが金色の光に飲み込まれる。その時に一塊の炎と爆弾と闇の結晶が光の中から現れていた。

 

 炎はすぐに空中で消え去り、闇の結晶と爆弾だけが残った。闇の結晶はマジカルが拾い上げ、危険な爆弾はミラクルが拾ってすぐに導火線を抜き取った。

 

「二人ともモフルンがいないのに魔法つかっちゃダメモフ! モフルンが追いつかなかったら大変なことになってたモフ!」

 

 モフルンがかわいい足音をたてながら怒った顔で二人に近づいてきた。

 

「あ、ごめんねモフルン」

「すっかり失念していたわ。変身した後に移動したから、モフルンをおいてきぼりにしてしまっていたのね」

 

 ミラクルとマジカルが申し訳なさそうに言うと、モフルンの機嫌が戻ってくる。

 

「チクルンがいなかったら間に合わなかったモフ。感謝するモフ」

「いやあ、大したことねえって。でもよ、また役に立てたのなら嬉しいぜ!」

 

「チクルンはやる男デビ」

「そんなに褒めるなよーって、誰だよ!?」

 

 チクルンが後ろからかけられた声に振り向くと、蝙蝠の羽を動かしながら浮いているリリンが挨拶代わりに片手を上げた。

 

「リリンじゃねえか。それにお前らも」

 

 ダークネスとウィッチが一緒になってすぐ近くまで来ていた。そこでマジカルは落ち着いて二人の姿を見ることができた。当然、今までに見たことがないプリキュアの姿だ。

 

 ――やっぱり新しい守護のリンクルストーンを手に入れていたわね。どんな能力なのかしら?

 

「すごい、すごい! 二人ともすごくかっこよかったよ~っ!」

 

 ウィッチがいきなり走ってきて、並んで立っているミラクルとマジカルに同時に抱きついてきた。

 

「ちょ、ちょっとーっ!?」

「ウィッチ!?」

 

 マジカルは考える間も与えられずに驚き、ミラクルは少し嬉しそうだった。それを見たダークネスは少しだけ顔をしかめたが、今回は何も言わなかった。

 

 ミラクルは妹でもあるかのようにウィッチの頭をなでていた。そうするとウィッチは嬉しそうな顔で子猫のようにすり寄っていく。ダークネスはため息をつきながらも、それを見なかったことにしてマジカルに言った。

 

「今回は感謝するわ。わたしたちだけでは、あのヨクバールを倒すことができなかったの。今までの奴とはまるで違っていたわ」

 

「ヨクバールがさらにパワーアップしているっていうことね。何が起こっているのかしら……」

 

 ダークネスがマジカルと対峙したこの瞬間に、あの声が聞こえてくる。

 

(苦しい、助けて、早くわたしを助けに来て)

 

 夢で見た母の声が異常な鮮明さでダークネスの頭の中に響くように入ってきた。

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