魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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マジカルとダークネス、因縁の対決

「ぐっ……」ダークネスが頭を押さえると、マジカルの表情が硬くなった。彼女の目の前で唐突にダークネスが奇妙な違和感に包まれたのだ。そしてダークネスが顔を上げた時に、マジカルは驚いてしまった。顔つきがまるで違っていた。ダークネスが今までに見せたことがない攻撃性が表れていた。

 

「マジカル、戦いはこれからよ。あなたが持っている闇の結晶をかけて戦うのよ」

 

「なにを言っているの!? あなた、わたしたちが本気で戦ってどんなことになったのか、忘れたわけではないでしょう! あなたはあのことをとても後悔していたはずよ!」

 

「わたしはあなた達を倒さなければならない。お母さんを蘇らせるためには、そうするしかない」

 

 ダークネスの声はまるで呪いの魔法でも唱えるような異様さを含んでいた。マジカルにとって、それはもうダークネスの言葉ではなかった。ある方面ではマジカルはダークネスを誰よりも知っている。なぜなら、度々本気で衝突してきたからだ。だからこそ分かることもある。

 

「ダークネス、何があったの? あなた絶対おかしいわよ」

 

 ウィッチもダークネスの雰囲気が変わったのに気付いた。まるで知らない人が急に目の前に現れたようで、ウィッチは戸惑っている。

 

「ダークネス?」

 

「ウィッチ、伝説の魔法つかいを倒すわよ。協力しなさい」

「だ、だめだよお、こんなところで! 街があるんだよ! たくさん人がいるんだよ!」

 

 ダークネスを元凶にしてプリキュア達の間に嫌な空気が漂い始めていた。それを見ているモフルンたちも少し怖くなってくる。

 

「ダークネスはどうしてあんな怖い顔しているモフ?」

 

「あんなダークネス見たことないデビ。なにやら黒いオーラが出てるデビ」

 

「名前からして黒いオーラ出てそうだけどな。っていうか、あいつらまだ仲直りしてないのかよ?」

 

 チクルンが言うと、リリンが赤い星マークがまたたく青い瞳で小さな妖精を見おろした。

 

「モフルンのプリキュアとリリンのプリキュアは最初から仲間じゃないデビ。ずっと敵同士デビ」

 

「でも助け合ってるモフ。敵同士でも心はつながっているモフ」

 

「なんだそりゃ、よくわかんねえな……」

 

 モフルンとリリンの話を聞いて、チクルンは片方の眉を下げて珍妙な気持ちを表情に表していた。

 

 この時、マジカルはこの状況を収めるのに最善の決断をした。

 

「ここであなた達と争うくらいなら、この闇の結晶は譲るわ」

 

 マジカルが手のひらの闇の結晶を差し出すと、ダークネスはそれを見てマジカルをすごい形相で睨む。その表情には明らかな憎しみが込められていた。今までのダークネスには到底あり得ないことだった。普段のダークネスであれば、あっさりと闇の結晶を受け取って無駄な戦いは避けるだろう。

 

「それは許さないわ。その闇の結晶は戦って所有者を決める。ここで決着をつけるのよ」

 

 ミラクルもマジカルもダークネスの言葉と変わりように凍り付いた。ウィッチはもうどうしていいのか分からずに、ついに限界を迎えてわけのわからないまま口走ってしまう。

 

「あ~、つまりね~、こういうことなんだよ。ダークネスは前に負けたのがちょう悔しいから、もう一度勝負してほしいんだって!」

 

 それを聞いた瞬間にダークネスの表情が変わって嫌な違和感が吹き飛んだ。

 

「いつ誰がそんなこといった!? ねえ!?」

「いや~、ダークネスの顔にかいてあるよ~」

「くぅ、あんたは余計なことばっかり言って……」

 

 ダークネスは一度目を閉じて感情を落ち着かせてからもう一度マジカルと対峙する。

 

「そうね、ウィッチの言うことは当たってる。このさいだからはっきり言うわね。わたしはあなたに2度も負けている。それが悔しくて夜も眠れなかった時もあったわ」

 

「2度ってどういうこと?」

「なによ、はぐらかすつもり? すごく苛つくわ」

 

「わたしがあなたに勝ったのは、前にトパーズスタイルで戦ったあの一度きりだし」

「ちがう! その前にわたしはあなたにテストで負けているんだからね!」

 

「え!? あそこから始まってるの!?」

「何よその物言い、勝者の余裕っていうわけね」

「そ、そういうわけじゃないし……」

 

 ダークネスの恨めしい目は本気だった。まさかの展開にマジカルは言葉を失ってしまった。

 

「わたしは一番をとるつもりだったけれど、あなたに負けた。内心は悔しくて仕方がなかったのよ!」

 

「あなたがそんな気持ちだったなんて想像もしなかったわ。わたしも負けず嫌いだけれど、あなたも相当なものね」

 

 そしてマジカルの中にも、ダークネスから受けた色々な悔しい思いが胸を突くように湧いて出てくる。特に期末テストで受けた印象には未だに悩まされいた。マジカルは無意識にダークネスを睨み返していた。

 

「ならわたしも言わせてもらうけれど、こっちはあなたに何度もやり込められたせいで、いつも苦い思いをしているわよ。この前もやっとテストで一番になれたのに、どうしてもあなたの姿を思い出して一番になった気がしないし! ちゃんと学校に来て正々堂々と勝負しなさい!」

 

「それができないことくらい、あなたには分かるでしょう。まあ、学校にいってテストが受けられれば、あなたを完膚なきまでに打ち負かしてすっきりする事だけは確かね」

 

「最初から勝った気でいるなんて、自信過剰もそこまでいくと病気ね! あなたのそういう上から目線なところも嫌いよ!」

 

「嫌いで結構よ。勝負するならその方が都合がいいわ」

 

 どんどんヒートアップしていく2人の言い合いに、ミラクルとウィッチはとても口など挟めなかった。ミラクルは心配し、ウィッチは口元にやんわりと作った小さな握りこぶしを当てておろおろするばかり。そんな二人の気持など蚊帳の外にして、ダークネスは顎を上げて視線を斜め下に、本当にマジカルを見下して言った。

 

「あなたも白黒つけないとすっきりできない性格でしょう。勝負を付けましょう、はっきりとね」

 

 ダークネスの態度にマジカルは苛つきがかくせない。マジカルはそれがダークネスの作戦だとちゃんとわかっている。戦う前にマジカルを怒らせて冷静さを失わせようというのだ。わかっていてもマジカルには抑えきれないものがあった。

 

「いいわ、わたしもこれ以上あなたに悩まされるのはまっぴらだし」

 

「やっぱり戦うのか~」

「二人ともお願いだからやめて……」

 

 ウィッチとミラクルが続けて言うと、寄りそって立っているその二人をダークネスが一瞥した。

 

「これはわたしとマジカルの私怨による勝負よ。それにパートナーまで巻き込むのは建設的ではない。戦いたくない人たちは見ていればいいわ。それに一対一の勝負なら、前みたいな魔法の暴走も起こらないでしょうしね」

 

「どうやらいつもの冷静なダークネスに戻ったみたいね」

 

 マジカルがそう言うと、ダークネスがまるで知らない噂話を突然聞かされでもしたように怪訝な顔をした。ミラクルとウィッチも何か言いたそうな顔をしていて、ダークネスはそっちの方も気になった。だが今の彼女にとって、マジカルとの対決が最優先事項である。

 

「勝負は人のいない街外れで行いましょう。勝てる自信がなければ、今ここで辞退することをお勧めするけど」

 

「冗談じゃないわ」

 

「ちょっとまってよ、勝負だったらテストで決めればいいじゃない。ダークネスとウィッチだって、いつかは魔法学校に戻ってくるんでしょう!? それに、テストで負けた事まで戦って決めるなんて絶対おかしいよ!」

 

 どうしても二人の戦いを止めたいミラクルが自分の希望も込めた言葉を聞いて、マジカルは申し訳ないと思いつつも、もうこの戦いが止められないものであることも承知していた。

 

 ダークネスがわずかに口端を上げて、ミラクルに対して物分かりの悪い子供を呆れて見下げる大人のような目を向けた。

 

「勝敗を決するのに戦うことこそが最善なのよ。テストでは知性の上下しか決められない。わたしたちが求めているものはそれだけではないわ。プリキュアとしての実力の上下もはっきりさせる必要がある」

 

「戦いに知性なんて関係ないよ!」

 

「ミラクル、あなたはそうでしょう。考えるよりも体が先に動くタイプよね。あなたはそれでいい。けれど、その分マジカルが考えて支えてくれていることに気づくべきだわ。戦いに知性は必要よ。実力が同じならば、戦略で勝った方が勝つ。特に魔法つかいプリキュア(わたしたち)は、数々の魔法を使うことができる。その魔法を使った戦略こそが勝敗を決めるのよ。力よりもむしろ知性の方が重要だわ」

 

 理路整然と語るダークネスにミラクルは何も言えなくなってしまった。

 

「ついてきなさい、マジカル」

 

 ダークネスの肩の上に浮いていた群青色の輝く光の球が宙に上がって階段状に薄氷の足場を作っていく。ダークネスはそれに次々と跳びのって魔法商店街の外に向かっていく。

 

 マジカルは俯いてしまっているミラクルに近づいて言った。

 

「ミラクル、ごめんなさい」

「マジカル……」

 

「ミラクルとウィッチが持っている感覚とでもいうのかしら。あなたたちは相手のことを何となく分かり合うことができるみたいだけれど、わたしには難しいわ。お互いに意見をぶつけあって、良いところも悪いところもはっきりさせないと友達になんてなれないし」

 

 ミラクルが顔を上げると、マジカルは安心させるように微笑して見せた。

 

「わたしもダークネスもお互いに負けたくないとは思っているけれど、憎んだりはしていないわ。勝負するのは目に見える結果がないとお互いに納得できないから。分かり合うためにそれが必要だからなのよ」

 

 ミラクルはマジカルに微笑を返して頷いた。そして自分を安心させるために言葉を尽くしてくれたマジカルを見て、先ほどダークネスがいった言葉の意味をかみしめていた。

 

「よ~し、勝負がついたらみんな仲間になるんだね!」

 

 変な勘違いをしたウィッチが目をきらっきらに輝かせていた。

 

「そ、それは難しいと思うわ」

 

 マジカルは苦笑いしながらそう言うしかなかった。

 

 

 

 マジカルは魔法商店街と周囲に広がる森の間にある草原地帯に降りた。

 

 ミラクルとウィッチは遠くに見える魔法商店街を背景にして互いのパートナーを見守り、少し後からきたモフルン達はミラクルとウィッチの前に集まってくる。

 

 先にきていたダークネスは乙女らしくしなやかな腕を組んでマジカルを見つめ、微笑を浮かべる口元とは対照的に真紅の瞳からは鋭い眼光を放っていた。

 

「今度は負けないよっ! そっちには黄色ポヨンがあるけど、こっちにだって青色フワンがあるんだからねっ!」

 

 と外野のウィッチが手のひらに群青色のフワフワした光を乗せながら言った。

 

 戦いを前にしてまったく空気を読まないウィッチの割り込みにマジカルもダークネスも呆気にとられてしまう。

 

「黄色ポヨンって、もしかしてこれ?」

「うんうん、それそれ!」

 

 隣のミラクルが近くに浮いている黄色い球を指さすと、ウィッチがこくこくと頷きまくる。それをダークネスがうざったそうに見つめる。

 

「あら、ずいぶんやる気じゃないの。戦いたければ参加してもいいのよ、ウィッチ」

「え? いやぁ、それはちょっとぉ……」

 

「なら黙って見ていなさい」

「ごめんなさい、自慢したかったの、青色フワン」

 

 素直すぎるウィッチにミラクルとマジカルは思わず吹き出してしまう。ダークネスは戦いの前だというのに調子を狂わされてため息がでてしまった。しかし、それもいつもの事だと思いなおし、すぐに気持ちを切り替えてマジカルと対峙する。

 

 高まっていく緊張の中でチクルンが言った。

 

「あいつら本当にやる気だぞ。いい加減に仲良くできないのかよ」

「大丈夫モフ」

「なにが大丈夫なんだよ?」

「なんとなくモフ」

「なんだよそれ……」

 

「やりたいなら勝手にやらせておけばいいんデビ。一対一の勝負なら問題ないデビ」

「お前やさしくねえなあ」

「悪魔に優しさなんて求めてはいけないのデビ」

「いや、猫だろ」

「悪魔デビ!」

 

 半ギレで悪魔を主張するリリンに、チクルンは苦笑いを浮かべた。それから再びマジカルとダークネスに目をやると、まだ睨み合いを続けていた。

 

「新たに手に入れたアウィンの力がどれ程のものなのか、試させてもらうわね」

「嫌な言い回しね、わたしは実験用のマウスじゃないんだから」

 

 ダークネスとマジカルはお互いに軽口をたたきながらも、裏腹に緊張感が極端に高まっていく。見ているだけのミラクルとウィッチの方がドキドキしたり固唾をのんだりしていた。

 

 一呼吸の短い沈黙があった。その瞬間に、ミラクルとウィッチは緊張が途切れる、布を引き裂くような感覚的な音を聞いた。

 

 マジカルとダークネスは同時に構え、そしてマジカルが叫んだ。

 

「いつでも来なさい!」

「では、遠慮なくいかせてもらうわ!」

 

 ダークネスが前屈みで走り出すと、アウィンの魔力によって彼女の周囲に生み出される超低温が空気を凍らせて、無数の目に見えない小さな氷の粒がそれぞれダイヤのように輝き、元の気体に戻って消えていく。そんな世にも美しい軌跡を残しながらダークネスがマジカルとの距離を詰めて、そして跳躍する。

 

「はっ!」

 

 群青に輝く玉が円を描き空中に氷の足場を作ると、ダークネスはそれを蹴って鋭角に曲がり、上空からマジカルを攻める。それに対してマジカルが手をあげると、トパーズの能力、二つの黄色い球が一つに合わさり硬質化して盾を(かたど)る。

 

「たあっ!!」

 

 気合ととともに鋭角から燕のように舞い、突き刺さるように鋭い跳び蹴りが黄色い盾に炸裂する。

 

その時のマジカルは疑うような目をしていた。彼女はダークネスにしては単純すぎる攻撃だと思った、ダークネスの顔を見るまでは。黄色い盾に足を叩きつけた彼女は勝ち誇った笑みを浮かべていた。マジカルが何か来ると思ったその瞬間に黄色い盾が凍り付いた。

 

「ええっ!?」

 

 マジカルを守る盾は完全な氷漬け、ダークネスはそれにもう一度足下を叩き込む。

 

「はああぁっ!」

 

 マジカルを守っていた黄色い盾が鏡のように粉々に砕けた。そして、黄色い破片がマジカルの周囲にパラパラと落ちていく。

 

 ――なんていう能力なの!?

 

 マジカルはアウィンの能力に驚きながらもきっちり後ろに跳んで逃げていた。しかし、ダークネスはその動きを予測して追撃してくる。

 

「逃がしはしない!」

 

 ダークネスが手から群青の光球を放つと、それがマジカルの着地に追いつき、マジカルの周囲をぐるりと円に回る。途端に群青の玉の軌跡と同じ形に氷柱が次々と地面から突き上げて、地面から生えた巨大な氷の檻にマジカルは閉じ込められてしまった。

 

「こ、これって!?」

 

 空中に開いた氷の結晶の上にダークネスが降りてきて氷牢の中のマジカルを見おろす。そして手をあげると、その手のひらの中に群青の光が戻ってきて輝きを強くする。そしてそこから氷が生まれ、ダークネスの手の上で急成長していく。それを見上げたマジカルは目を見開いた。ダークネスは巨大な氷の球を手にしていた。

 

「このままじゃ!」

 

 マジカルは背一杯の気合を込めて目の前の氷の柱に拳を叩きつけるが、

「か、かたい、びくともしない!」

 

「あなたから受けた屈辱を倍にして返してあげるわ!」

 

 ダークネスが放った巨大な氷塊の影がマジカルを覆い尽くし、氷の牢獄が粉々に砕けて冷たい衝撃が周囲に広がった。

 

「マジカルっ!?」

 

 ミラクルがマジカルを心配する声にウィッチは痛々しい表情を浮かべる。

 

「きゃああぁっ!!?」

 

 無数の氷の破片と一緒に吹っ飛んだマジカルが地面に叩きつけられ、同時に大きな氷の破片も次々と降ってくる。

 マジカルがすぐにひざを付いて立ち上がろうとすると周囲に再び氷の柱が立った。

 

「アウィンはトパーズの上を行く。それは間違いなさそうね」

 

 氷柱の牢獄の外からダークネスの声が聞こえてくるとマジカルの表情が険しくなった。

 

「トパーズの能力を封じられていたらとても対抗できないわ。早く戻ってきて」

 

 マジカルが目を閉じて集中する。氷の牢の外ではダークネスが手のひらを返し、その上に群青の光球を乗せていた。

 

「もう一度氷の洗礼を受けなさい!」

 

 ダークネスの手の上で群青の球が光を強くしたその時、背後に接近する気配を感じた。ダークネスが振り向くと、黄色い球が目の前に迫っていた。身をかがめてそれをかわすと、彼女の頭の上を通り過ぎた黄色い球が星形に変化して高速回転し、氷柱の牢を切り倒していく。

 

「完全に凍らせたはずなのに、もう復活したのね」

 

 全ての氷柱が倒れ、姿が現れたマジカルの元に黄色い星型の刃が戻り、マジカルはそれを捕まえてダークネスの方に向けた。

 

「結論を出すのが早すぎるんじゃないかしら? トパーズの能力は、まだまだこんなものじゃないから!」

 

「フッ、ならばじっくり試してあげましょう」

 

 マジカルとダークネスは同時に駆け出し、一直線に互いへと突き進んでいった。

 

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