魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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意地とプライドをかけた戦い

 マジカルとダークネスは同時に駆け出し、一直線に互いへと突き進んでいった。

 

「たあーっ!」

「はあーっ!」

 

 マジカルとダークネスの気合が重なる。地上でぶつかった二人は拳と蹴りの乱打、互いの攻撃を華麗な身のこなしで防御、回避し、時には拳や蹴りが衝突して見ているマジカルたちの方にまで風圧がきて乙女の身をなでていく。目にもとまらぬ打ち合いににもかかわらず、マジカルもダークネスも相手の攻撃を一撃も受けていなかった。

 

「すごい……」

「ナシマホウ界で見たアクション映画みたい!」

 

 ウィッチの言うことは相変わらずとぼけているが、ミラクルの方は二人の戦いに見入ってしまっていた。モフルンたちは3人そろって拳を握りしめて、正に手に汗握るという様子だ。

 

 しばらく打ち合いを続けたマジカルとダークネスは、同時に真上に跳んで空中で距離を取り、黄色い毬のような球が広がって円盤の形になった足場と、群青の光球が円を描いて咲かせた氷の結晶の上にぞれぞれ着地する。ダークネスが手の上に乗ってきた群青の光を前に飛ばすと、群青色の光の尾を残して飛んでいく玉の後に氷の道ができあがっていく。ダークネスはその上を走り、マジカルの方も空中にいながら目の前に道があるかのように走り出す。するとマジカルの足場になっていた黄色い円盤が細かくちぎれてマジカルの行く先に足が丁度乗るくらいの小型の円盤をマジカルの走りに合わせて展開していく。そして、空中を駆ける二人のプリキュアがまたぶつかり合った。

 

 ダークネスが先に仕掛けた。剣の刺突のように鋭い右ストレート、マジカルはそれを無駄のない動きで左手で内側から外へと払った。ダークネスの右の手首とマジカルの左手の甲が接触し、腕が手甲の上をすっと流れていく。ダークネスは不用意な攻撃を悔いる間もなくわきの下を右の掌底で打ち上げられる。下から突き上げる衝撃と一緒に体が氷の道から少し浮き、その隙にマジカルの右の掌底が胸に打ち込まれた。

 

「はっ!」

「うあっ!?」

 

声を上げてまっすぐ後ろへと吹っ飛んだダークネスを群青の光球が追う。そしてダークネスが落ちようとする地点に氷の道を開く。その上に着地して落下を免れたダークネスは、吹き飛ばされてきた勢いが余って、着地の態勢で薄氷の上を滑って後退していく。そしてその動きが完全に止まった時に、マジカルの姿を憎々し気に見据えた。

 

「あなたにしては単調な攻撃だったわね。アウィンの能力を過信しすぎているんじゃないかしら?」

 

「黙りなさい!」言い放ったダークネスがリンクルブレスレッドのある右腕を空を切るように真横に呪文を唱えた。

 

「リンクル・スタールビー!」

 

 ブレスレッドに輝く黒いダイヤが3本の白線が中心で交錯する丸い真紅の宝石に代わる。そしてスタールビーから生まれた深紅に輝く小さな球体がダークネスの胸へと吸い込まれていく。マジカルはダークネスを迎え撃つ構えを取って思考を走らせた

 ――スタールビーは短い時間だけれどルビースタイルと同じパワーを得る。そしてその能力を伝説の魔法つかい(わたしたち)にまで分け与えることができる。その魔法はすべての支えのリンクルストーンの中で最高峰と言えるわ。もしこの魔法を止めることができれば、わたしは大きなアドバンテージを得られる。トパーズの能力を最大限に活かせばできるかも。

 

 マジカルはトパーズスタイルでルビースタイルに匹敵するパワーを得る可能性をつかんでいた。しかし今までそれを試したことはないし自信もない。

 

 ダークネスがマジカルの視線の先で高くジャンプする。彼女がマジカルの目の前に降りてきた時が勝負だった。

 

 ――自信はないけれど迷いもない。やってやるわ。だって、あの人にだけは負けたくないし!

 

 マジカルは右の拳を引いてさらに体にひねりも加える。その瞬間に目の前にダークネスが降りてきた。

 

「愚かな! あなたに勝ち目はない!」

「はあーーーっ!!」

 

 空中で放たれたマジカルとダークネスのパンチが正面から激突した。同時に起こった衝撃波に二人とも弾かれるように吹き飛んだ。そして離れ離れになった二人は同時に黄色い円盤と氷の花の上に着地する。マジカルは顔をしかめて痺れている右手を振った。

 

「くぅっ、強烈っ」

「相打ちですって、そんな……バカな……何をしたの?」

 

 呆然としているダークネスを見て、マジカルは攻めるならここしかないと思った。

 

 ――こういうのはあまり好きじゃないけれど、戦うだけが勝負じゃないわ。

 

 マジカルはダークネスの斜め上に移動すると、相手を睥睨して言った。

 

「さて、わたしは何をしたでしょう? 当ててごらんなさい」

「このわたしをコケにするつもり! 許せない!」

「なんて、あなたに考える時間を与えるつもりなんてないし!」

「このっ!」

 

 マジカルはわざと相手をバカにするように笑みを浮かべる。

 

 ――ダークネスは頭がいいし思慮深いけれど怒りっぽくって火が付きやすい。それが弱点よ。

 

 マジカルは宙に躍り出ると、背後に展開された黄色い円盤を蹴って急降下しダークネスに接近する。ダークネスの間近に降りてきた黄色い球が扁平に広がると、その上にマジカルが着地し同時に思い切って右の拳を引いた。その時に二つある黄色い球のもう一方がマジカルの背後に配置されて、丸いクッションを思わせるような形になっていた。それがマジカルが引いた右腕の肘を受け止めて伸長していく。

 

 ――トパーズの能力で弾力のある物を生み出して!? これは弓の弦を引き絞るのと同じ原理!

 

 ルビースタイルに匹敵する威力を引き出す方法を見抜いたダークネスは手元に戻していた群青に光る球体を手のひらにそえて前に出す。球体が輝きを増すと、宙に氷が現れ瞬時に成長して凍てつく壁になった。

 

「氷の盾?」

 

 ダークネスの前に現れたそれがマジカルを少しだけ驚かせた。トパーズの能力で生み出される盾と全く同じ形をしていたからだ。マジカルは構わずに攻撃を続行した。

 

「はあーーーっ!!」

 

 後ろの黄色いクッションに肘を限界までめり込ませ、パンチにクッションの弾力が撥ね返す力を加えて放つ。マジカルの拳が氷の盾を割り砕き、両腕をクロスさせたダークネスのガードに炸裂し、弾き飛ばした。

 

「計算通りだし!」

 

 マジカルは会心の笑みを浮かべた。

 

「くっ、マジカル、なんてことを考えるの」

 

 ダークネスは吹っ飛びながら口にしていた。群青の光が先回りして作った薄氷の上にダークネスは背中から落ちて倒れ込んだ。すぐに起き上って片ひざを付いた状態で、かなり距離が開いてしまったマジカルの姿を見つめる。

 

「マジカルはトパーズの能力を最大限に引き出している。くやしいけれど、能力を活かすという点ではマジカルの方に分があるわね。わたしがアウィンスタイルを手に入れたのはつい最近のことだけれど、マジカルはトパーズスタイルで長く戦ってきているからね。この経験の差は大きいわ」

 

 ダークネスはマジカルから目を放さずに立ち上がると言った。

 

「接近戦では向こうの方が有利ね。逆に遠距離戦ではこちらに分がある。見ていなさいマジカル、今度はこちらがアウィンの力を思い知らせてあげるからね」

 

 一方、マジカルはダークネスの出方をうかがいながら考えていた。

 

 ――さっきの氷の盾、アウィンとトパーズは似たところがあるわね。伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいって、わたしが考えている以上に近しい存在なのかも。例えば姉妹のような関係とか。

 

 その時、上から空を切る音が聞こえてマジカルが空を仰ぐ。

 

「えっ!?」驚いて開眼するマジカルに向かって無数の氷柱(つらら)が落ちてきていた。マジカルはトパーズの能力で足場と作って移動しつつそれらを避けていく。

 

「あれは魔法陣!?」上空で群青色の光が大きく円を描き、その内側に群青色の線で月と星の魔法陣が浮んでいた。そこから氷柱が次々と現れては落下していた。

 

「氷柱が落ちてくる範囲は決まっているんだから、ここから離れれば!」

 

 遠くで傍観していたダークネスがタイミングを計って呪文を唱える。

 

「リンクル・オレンジサファイア!」

 

 ブレスレッドのブラックダイヤが夕日のような輝きをもつサファイアと入れ替わり、ダークネスがマジカルに向けた手の周囲に複数の火球が現れ、撃ちだされていく。氷柱の範囲外に逃れようともがいているマジカルはその動きに気づいた。

 

「来る、オレンジサファイアの魔法が!」

 

 氷柱を避けながらダークネスの魔法にも注意していたマジカルだったが、火の玉は狙いが外れてマジカルの上空で着弾し次々に爆発した。すると爆炎と共に噴き出した白いものがマジカルの視界をさえぎる。

 

「なにこれ、蒸気で何も見えない!?」

 

 前が見えなくとも氷柱が落ちてくるのはわかる。マジカルはリンクルステッキを手にして即座に魔法で対応した。

 

「リンクル・ムーンストーン!」

 

 マジカルはリンクルステッキを真上に白く輝くバリアを展開する。パラソルのように広がったバリアに氷柱が次々と叩きつけられて砕けていく。

 

「ダークネスはあえて氷柱を狙ったんだわ! わたしの視界を奪うために!」

 

 マジカルがダークネスが次に起こす行動を予測した時、もうどうにもできないと気づいて背筋が寒くなった。彼女の周囲の蒸気を消滅させて無数の火の玉が現れて、しなやかな乙女の身体に熱と衝撃を与えた。

 

 マジカルは爆炎に吹き飛ばされ、炎と煙をまといながら悲鳴をあげた。その体は黄色い球が大きく広がった円形の薄膜に拾われて、トランポリンの上にでも落ちたように少し跳ね返った。

 

「よかったわねマジカル、氷柱の雨から脱出できて」

 

 ダークネスがマジカルを見おろす位置で腕を組み、氷の花の上に立っていた。マジカルは悔しくて歯軋りししたいくらいだったが、胸に手を置いて自制心を取り戻す。

 

「そうね、あなたには感謝するべきかもね。あの状況ではあなたの魔法を受けるか、あなたの魔法を回避して氷柱をこの身に受けるかの2択しかなかったから、あなたの魔法でここまで吹き飛ばされたのは不幸中の幸いだった。氷柱の雨の中に止まっていたら状況は今よりもっと悪くなっていたわ」

 

「ふん、減らず口を」

 

 ダークネスの不快さに歪んだ顔が、マジカルが言ったことがただの負け惜しみではないことを裏付けていた。

 

 ダークネスはマジカルを睥睨しながら強く指さして言った。

 

「マジカル、あなたはわたしに近づくことはできないと宣言しましょう。あなたはわたしの魔法に狙い撃ちにされ、何もできずに敗北するのよ」

 

「それはどうかしら」

 

 と言いつつも、マジカルには見た目ほど余裕がなかった。

 

 ――距離を取ったのは明らかな失敗だわ。アウィンスタイルがこれほどの能力を持っているなんて。それに、あれだけ挑発したのにぜんぜん乗ってこない。怒って不用意な攻撃をしかけてくると思っていたんだけれど甘かったわね。ほんと計算通りにいかない人だわ。

 

 マジカルは普段決して口にはしない言葉を心の中でつぶやいた。

 

 にわかに風が強くなって、空中で対峙するマジカルの菫色(すみれいろ)の髪とダークネスの濡烏色(ぬれからすいろ)の髪が美しくたゆたう。それを見上げるウィッチは白熱する戦いに興奮していた。

 

「二人ともすごいね! どっちが勝つんだろ~?」

「そんなのどっちだっていいよ。わたしはただ……」

 

 ミラクルはただただ二人の無事を祈っていた。

 

 ダークネスの顔に絶対的優位を確信する三日月のような笑みが浮かんだ。そしてダークネスの前で群青に輝く球が光の尾を引いて円を描くと。その円の範囲内から先が鋭く尖った氷柱が生えてきて、ミサイルのように撃ちだされていく。マジカルは矢継ぎ早に迫る氷柱をトパーズの能力で作った足場に移動しながら避けつつ、ダークネスに近づこうとする。

 

「無駄よ、近づけやしないわ! リンクル・オレンジサファイア!」

 

 氷柱のミサイルに火の玉が加わる。しかもダークネスはマジカルの動きを読んで完璧な波状攻撃をしかけてきた。マジカルはダークネスの攻撃をよけるのが精いっぱいで、とても近づくことなどできなかった。

 

「このままじゃ本当に狙い撃ちにされて負ける。何か手があるはずよ、考えるのよ」

 

 マジカルは一度大きくジャンプして、さらにダークネスの射程外まで離れた。攻撃を止めたダークネスは少し不機嫌になって相手を非難する色の目を細めた。

 

「戦う気が無いのなら負けを認めなさい」

「これから先輩プリキュアの年季の違いを見せてあげるわ」

「あら、それは楽しみ」

 

 ダークネスが余裕を見せて笑み、マジカルは覚悟を決めて敵を見据える。

 

 ――リンクルストーンの魔法を上手く使えばダークネスに接近することはできるわ。でもそのためにはある程度は近づかないと。信念よ、必ず敵を討つという信念がなければこの方法は成功しない!

 

 マジカルは弾力のある黄色い壁を背後に作り、それを蹴るとダークネスに向かって矢のように飛び出した。

 

「行くわよ!」

「強行突破するつもり? あなたらしくもない」

 

 マジカルがダークネスの射程に入り攻撃が再開される。火の玉と氷柱が乱れ飛ぶ中をマジカルが巧みにかわしながら距離を縮めていく。ダークネスに近づくほどに攻撃の命中精度が上がって回避が難しくなっていくが、マジカルは被弾を覚悟して突っ込んでいく。ついにマジカルの右腕に氷柱がぶつかって砕ける。

 

「いったい!? けど気合よ!」

 

 今度は正面からきた火球を受けて爆炎に身を包んだ。

 

「その調子で強行突破なんてしたら、わたしの前に来る頃にはボロボロになるわよ!」

 

 マジカルはダークネスは忠告を無視して更に前に出てくる。

 

 ――一体なにを考えているの? マジカルが無意味にこんな無謀なことをするとは思えないけれど、万が一接近されたとしてもブラックオパールの護りの魔法もあるし、ジェダイトで吹き飛ばすことだってできる。わたしに死角はない。

 

 ダークネスはさらに氷柱を生み出して、かなり接近してきているマジカルを正確に狙い撃った。マジカルは黄色い円盤の足場を蹴ってさらに前進する。そして球になった二つの黄色い物体を合わせて扇風機の羽のような四枚刃のカッターに変形させ、それを高速回転して前からきた無数の氷柱ミサイルをかき氷のように細切れにして削りきった。

 

「そこまで変幻自在だとはね。ならば、これならどう! リンクル・オレンジサファイア!」

 

 ダークネスの手から三つの火球が撃ちだされる。その瞬間にマジカルの瞳が鋭く煌いた。

 

「それを待っていたわ! リンクル・アメジスト!」

 

 マジカルのリンクルステッキに紫の宝石が輝き、マジカルの前にハートの五芒星が開く。火の玉はその中に吸い込まれ、同時にダークネスの目の前にも同じ魔法陣が開いた。

 

「なあっ!?」ダークネスが虚を突かれて声をあげる。そんな状態でも彼女は機転を利かせて目の前に氷の盾を作り出した。

 

 魔法陣から三つの火の玉が出てきて氷の盾に当たって爆発した。そして、氷の盾が見る間に溶けていく。

 

「しまった!? 相反エレメントの魔法で氷の盾が!?」

 

 氷の盾の消滅と同時に目の前の炎を振り払ってマジカルが姿を現す。

 

「はあっ!」

 

 ダークネスはマジカルの上から踏みつけるような蹴りをその身に受けて、悲鳴と一緒に墜落して地上に叩きつけられた。マジカルは即座に移動して地上へと舞い降りる。ダークネスは彼女自身が落ちた衝撃で周囲に亀裂が走っている場所の中央でうずくまって近くに降りてきたマジカルを憎々し気に睨みつけた。

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