「はあっ!」ダークネスの3連突き、ミラクルがひらりと身をかわし、
「てやーっ!」マジカルの胴を狙った横からの叩き込みをダークネスが氷の槍を縦に突き刺して受け止める。
続いてダークネスがマジカルの足元を狙って払うと、マジカルは軽くジャンプしてよけて、同時に金色の棒を地面に突き立てた。そして側に浮いてる黄色いボールを後ろに移動させ、それを蹴って勢いよく自分の体を前に押し出し、棒を軸にした飛び蹴りをダークネスにみまう。ダークネスは縦に橋渡した氷の槍の中心でマジカルの蹴りを受け止めた。その衝撃で二人の距離が少し開く。
「はあぁーっ!」
「でやぁーっ!」
渾身の力で武器を合わせ、氷の槍と黄金の棒がクロスした瞬間に両方とも砕け散った。
ダークネスが手をあげると今度は氷の剣が現れる。マジカルも砕けた黄色の破片を集めて黄色の球に戻した後に、それをさらに変形させて黄金の剣を作り出した。少女たちの鮮烈な掛け声が周囲を震わせて二人の乙女が剣を合わせると鋭い響音が見ている者たちの耳朶に触れた。
「がんばれダークネス!」
鍔迫り合いを続ける二人のプリキュアにウィッチの声援が飛んだ。ミラクルもマジカルを応援したい気持ちになったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。そんなことをしたら、まるで二人の戦いを楽しんでみているようでよくないと思った。
マジカルとダークネスの激しくも華麗な戦いに、ギャラリーはすっかり見入ってしまっていた。
二人が勝負がつかない鍔迫り合を止めて距離と取ると、
「はあっ!」
「やあっ!」
互いの剣が閃いて目に見えないくらい速い打ち合いが開始された。剣がぶつかる度に金と氷の破片が散り、ミラクルとダークネスの周囲はたちまち美しい煌きに満ちた。
打ち合いも勝負がつかずに二人は再び離れて距離を取る。マジカルは黄金の剣を正眼に構え、ダークネスは氷の剣を斜め下に下ろして上がった息を整えていた。この時、ウィッチが興奮のあまり余計なことをしでかした。
「ダークネス、がんばれ~っ!」
ウィッチは応援がてら自分で作った氷の剣をダークネスに投げてよこしたのだ。それを反射的に空いてる方の手で受け取ったダークネスはウィッチに非難めいた視線を投げる。
「あっ、ずるい!? だったらわたしも!」
ミラクルは自分の側に浮いている2つの黄色い球をマジカルの方に移動させて、黄金の剣と一体化させた。そしてマジカルの剣は2倍の大きさになった。その状況にチクルンが怒りだす。
「おいおい、おまえら何やってんだよ!」
「だって、ウィッチが……」
「ごめ~ん、思わずやっちゃったよ」
すまなそうに言うミラクルに対して、ウィッチは後ろ髪をなでながらあっけらかんとしていた。
お互いの武器が強化され、ダークネスはおもしろいとでも言うように笑みを浮かべると2本の凍てつく剣を構え、黄金の大剣を持つマジカルに突貫した。
ダークネスの手数が格段に増えたのに対して、マジカルは武器が大きくなり攻撃の鋭さが減少している。次々と襲ってくるダークネスの斬撃をマジカルは幅が広くなった剣の刃を盾にして防御した。マジカルは防戦一方でダークネスが好きに打ち込んでいるように見えたが、マジカルが少し後ろに下がってダークネスの攻撃範囲外に逃れると、一瞬の隙をついて打ち込んだ。
「はあーっ!」
マジカルのバレリーナのような綺麗な回転から放たれた一閃、それを2本の剣で受け止めたダークネスは強烈な衝撃を受けて後退させられた。マジカルは手数が少ない代わりにパワーが段違いに高い。
「くうっ……」
ダークネスは痺れるような衝撃を受けた手で2本の剣を構えなおしてジャンプした。
「だあぁーっ!!」
ダークネスは上空から襲って2本の剣を叩きつけ、マジカルがそれを大剣で受け止める。剣を打ち込んだまま着地したダークネスが身を引くと、2本の氷の剣と黄金の大剣が擦れて高い響音が広がり、ぬいぐるみ達がびっくりして思わず耳を塞いだ。
そして、互いに勝負をかけた一瞬が訪れる。凛とした気合の声が重なり、互いに一歩踏み込んで渾身の斬撃を放とうとする。
「いい加減にしろーっ!!」
マジカルとダークネスの前に小さな姿が飛び込んできて、二人は慌てて攻撃を止めた。黄金の刃と氷の刃の間でチクルンが目を閉じて震えていた。二人ははっと息をのんで剣を引く。
マジカルもダークネスもチクルンの想像外の行動に驚いて言葉を失くしていた。チクルンはその二人に向かって言った。
「もうやめろよ! おまえらはこんな事しちゃいけないんだ!」
そしてチクルンが今度はミラクルとウィッチを指さしていく。
「お前も! お前も! 戦いをあおるような真似しやがって! それでも友達なのかよ!」
『ごめんなさい……』
チクルンに怒られて二人ともしゅんとして謝った。
少し怖い顔をしたダークネスがチクルンに近づいてくる。
「これはわたしとマジカルの問題よ。邪魔をしないでちょうだい」
ダークネスに見おろされたチクルンは言葉がつまってしまった。ダークネスの姿は穏やかなようでいて、言いようのない迫力があった。その時チクルンにこれ以上ない助け船がやってきた。
「彼の言う通りだ、もうよかろう」
天より声が降ってきて、みんなえっと思って見上げる。そこには空飛ぶ絨毯にのっている校長先生の姿があった。
『校長先生!?』
ミラクルとマジカルの驚く声が重なった。銀髪の美丈夫はにこやかに言った。
「心配になって見にきたのだ。君たちの勝負はあえて止めなかったが、これ以上戦いを続けることは許さぬ。商店街から離れているとはいえ、これ以上この地を傷つけるのもしのびなかろう」
マジカルとダークネスは校長先生に言われて初めて自分たちの戦いで荒れ果てた大地に目を向けて罪悪感に襲われた。二人の様子が落ち着くのを見て校長先生はこう付け加えた。
「それに、これ以上勝負を続ける必要がないことはお互いに分かっているのではないかな?」
それを聞いたダークネスの表情がいきなり悲愴に染まり、氷の剣を手放してその場に崩れ落ちた。
「え?」
「ふえ?」
ミラクルとウィッチから間抜けな声が出る。二人にはダークネスがそんなに落ち込む理由がよくわからなかった。
ダークネスは肩を落としたまま立ち上がるとウィッチに背を向けたまま言った。
「ウィッチ、帰りましょう……」
「う、うん」
ウィッチはダークネスの急な変わりようについていけずに戸惑ってしまった。
「ウィッチなにしてるデビ、はやくくるデビ」
ダークネスの後に付いたリリンに促されて、ウィッチは小走りでミラクルから離れていった。やがてダークネスたちの姿が見えなくなると、マジカルは緊張が解けてふうと吐息をついた。
みらいとリコが寮の部屋に戻る頃には、魔法学校は夕日で燃え上がるように赤く染まっていた。寮の部屋の窓から差し込む朱の斜陽が部屋を温かい色に染めていた。少し薄暗いけれどランプに火を入れて部屋を明るくするのがもったいないような風情があった。
疲れ果てたリコは夕陽に沈む部屋のベッドにもたれてため息をついた。それをみらいが心配そうにのぞき込む。
「リコ、大丈夫?」
「へっちゃらよ、少し疲れただけ」
その時いきなり窓が開いてみらいの足元にコロンと黒いものが転がってきた。
「え? えっ!? 窓からおっきいウニが入ってきたーっ!?」
「大きいウニ?」
少し怯えて立ち尽くしているみらいの足元に、棘だらけの黒くて丸い物体が転がっていた。
「それはウニじゃなくてハリマンゴーよ」
「ハリ、マンゴー??」
「魔法界で果物の女王と呼ばれているの。棘が鋭いから絶対にさわっちゃだめよ」
「今、果物の女王っていいました!?」
リコが大きく頷くと、
「魔法界の果物の女王様!? ワクワクもんだぁ!」
それからみらいは首をかしげた。
「でも、どうして果物が窓から?」
みらいが窓から外を見つめると学校から離れていく二つの人影があった。もう遠くて人の形ははっきりしないけれど、二人の乗っている箒が暮れなずむ太陽に照らされて赤く輝いているのが分かる。みらいはその人影が見えなくなるまで窓辺にいた。その背後でリコが魔法のランプに灯を入れて部屋を明るくする。
「せっかくだし頂きましょう」
リコが魔法でハリマンゴーをテーブルの上に乗せて二つに割った。その周りにみんなで集まって中の白い果実をつまむ。チクルンが一口食べて夢心地のような顔になった。
「うめぇ~」
「お口の中でとろけるモフ~」
「魔法界に住んでいるわたしでも年に一度くらいしか食べられないのよ」
「おいしい……」
みらいの眼尻に涙が浮んでいた。こんな贈り物をしてくれる友達と敵対関係でいることが苦しかった。そんなみらいにリコは言った。
「わたし小百合たちとは近いうちに分かり合えるんじゃないかなって思うわ。今は敵対しているとしても、わたしたちが最後に目指す場所は一緒なんじゃないかって、そんな気がするの。もしそうなら論理的に考えてもわたしたち4人は協力して戦うことになるでしょう」
「わたしもそうなるって信じてる」
みらいは瞳に溜まった涙をぬぐってリコに笑顔を見せた。
「いってえーっ!? 手に棘がささったーっ!」
チクルンが急に大声を出して、リコもみらいも目を丸くする。
「気を付けてって言ったでしょう。ちょっと待ってて、その辺に薬箱があったはずだから」
「確か押し入れにあったと思うよ」
みらいとリコが薬箱を探し出し少しだけあわただしくなった。おいしいハリマンゴーと少しの悲しみとチクルンの災難と共に魔法学校に夜が訪れるのであった。