魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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ミラクルの覚悟

「戦え! プリキュア共!」

 

ミラクルがマジカルを見つめた。マジカルはその瞳の中には強い覚悟の気持ちを感じる。

 

「何があってもわたしを信じて」

「わかったわ」

 

 そしてミラクルはダークネスの前へ、マジカルはウィッチの前に立つ。

 

「あら、ミラクルがわたしの相手をするの? どういう心境の変化なのかしらね」

 

「あなたの相手はわたしよ」

「むむむ、マジカルと戦うのかぁ……」

 

 ウィッチが不安そうにダークネスのことをちらちら見ている。

 

「いつもとは違う相手をぶつけて混乱を誘う作戦かしらね」

「そんなんじゃないよ。ダークネスの相手をするのはわたしじゃないとだめなの」

「そう、ならば心してかかってくるのね!」

 

 ダークネスはミラクルが動かないとみるや前に突出した。

 

「でやあーっ!」

 

 ミラクルが十字に組んだ腕にダークネスの先制パンチが炸裂する。ミラクルの体が地面に足をついたままかなりの勢いで吹き飛ばされる。

 

「ここで何もかも全て終わりにする!!」

 

 ダークネスはダイヤのように固い意志をもって叫び、前に跳躍してミラクルを追跡した。そのダークネスの意志はウィッチにも強く伝わった。そして彼女はいきなりマジカルに向かって舌をだした。

 

「べーっ! マジカルになんて負けないんだから!」

「はあぁっ!? あなたどういう神経してるのよ……」

 

 このプリキュア同士の真剣勝負に子供の喧嘩みたいな態度のウィッチにマジカルは呆れを通り越して困惑してしまう。

 

 ――調子狂うわね。けれどウィッチは単純だからダークネスのような戦略はないでしょう。できるだけ早く抑え込んでミラクルのサポートに回らないと。

 

「だあーっ」

 

 マジカルにウィッチが襲い掛かってきて、パンチとキックをやたらめったら打ち込んでくる。マジカルはそれを冷静に見て避けていく。

 

「やっぱり攻撃は単純!」

 

 マジカルのカウンターパンチが決まってウィッチが吹っ飛ばされる。

 

「うわあーっ!?」

 

 ウィッチの小柄な体は大地から突き出た岩に叩きつけられた。岩が砕けて立ち上る埃の中にウィッチが目を回して倒れこむ。

 

「きゅうぅ……」

 

 マジカルが追撃のためにウィッチに接近していく。

 

「かわいそうだけれど、動けなくなるくらいのダメージは与えないと」

 

 土埃の中から足をふらつかせながら出てきたウィッチに、マジカルは心を鬼にして全力のパンチをくりだした。その瞬間にウィッチの目を見て意識が震えた。ウィッチはマジカルの拳を体を海老反りにして避けると、鼻先を通った拳を両手で捕まえ、一緒に両足でマジカルの腕も取った。

 

「だあーーーっ!」

 

 ウィッチがマジカルの腕を軸に体を回転させ、マジカルはそれに合わせて体をもっていかれる。そして背中から地面にたたきつけられた。

 

「うあ!?」

「リンクル・インディコライト!」

 

 ウィッチはマジカルの腕を固めた状態でリンクルブレスレッドに青いトルマリンを宿した。

 

「やめなさい! そんなことをしたらあなたまで!」

 

 ウィッチは躊躇なく魔法を発動する。そしてマジカルがウィッチもろとも電流に撃たれて悲鳴をあげた。ウィッチの手足が緩み、マジカルが横に転がって脱出する。

 

「くうっ、なんてことを……」

「うぐぅ……」

 

 二人は体の痛みに耐えながら立ち上がる。そしてマジカルはウィッチの目を見て思わず一歩下がってしまった。その碧眼を燃え立たせるものはウィッチが今までに見せたことがない攻撃性だった。

 

「わたしはダークネスみたいに色々うまくできないから、だから何でもやってマジカルを倒す! そしてダークネスのお母さんを取り戻すんだ!!」

 

 そのウィッチの姿をみてマジカルは自分の間違いを悟った。

 

 ――わたしはウィッチをかわいそうだと言った。完全に下に見ていた。愚かだったわ。この子は覚悟が違う。ダークネスのために命をかけてる。油断なんてしたら負ける。

 

 しかしマジカルはミラクルのことがどうしても気になってそちらの方に目を向けた。そして思ってもみないことが起こっているのを知って心を乱す。

 

「であーーーっ!」

「きゃあぁーっ!?」

 

 マジカルはその隙をつかれウィッチの攻撃をまともに受けてしまった。その体が大きく弧を描いて飛んでいった。

 

 

 

 ダークネスの攻撃を受けて飛ばされたミラクルは、ダークネスが目の前に降りてくると構えを解いて腕を下げた。

 

「なんのつもり?」

 

「ダークネス聞いて! わたしたちは戦っちゃいけないんだよ。伝説の魔法つかいと宵の魔法使いは表裏一体で姉妹みたいな関係なの。校長先生が色々しらべてくれて、それがわかったの!」

 

「……だからなに? どうしてそんなつまらない事をわざわざ伝えるの? それでわたしが戦いを止めるとでも思ったの?」

 

「そうは思ってない。ただわたしの意志を伝えたかったの。わたしはもうダークネスとも、ウィッチとも戦わない、絶対に!」

 

 それを聞いたダークネスの真紅の瞳が一瞬見開かれ、そしてつぎに襲ってきた正体のわからない嫌悪感と憎悪に表情が変わり、刃物を思わせるほどに鋭い視線がマジカルに突き付けられた。

 

「ミラクル! ふざけるのもいい加減にしなさい!」

 

「わたしはふざけてなんていないよ」

 

「そう、あなたの気持ちはよくわかったわ。あなたがどう出ようと、わたしは目的の為にやるべきことをするだけよ!」

 

 ダークネスの拳をまともに受けたミラクルの悲鳴が尾を引く。ダークネスはミラクルが墜落する方向に風を切って疾走し、地面に落ちてから立ち上がったミラクルにとびかかる。

 

「はあぁっ!」

 

 ミラクルは横からの回し蹴りを腹部に受けて弾けると倒れた状態のまま地面の上を滑っていった。その場面を見たマジカルがウィッチの攻撃で吹っ飛んでいった。

 

「ううっ……」

 

 ミラクルは苦痛に耐えながら再度立ち上がりダークネスと向かいあった。

 

「戦いなさい! ミラクル!」

「いやだ! 戦わない!」

「なら、あなたはここで終わりよ! 本当にそれでいいの!?」

 

 ミラクルは言葉にはせず自分の意志をラベンダー色の瞳に込めて伝えた。ダークネスの拳に力がこもる。しかしその手は震えていた。

 

 ――腕が上がらない……。

 

 彼女の体がミラクルに攻撃することを拒絶しているようだった。その時にまたあの声が聞こえてきた。

 

(苦しい、助けて、早くわたしを助けに来て)

 

 心の奥底から呼びかける怪しい声でダークネスの意志がかき乱される。まるで自分が自分でないような感覚になり、同時に母を助けるという一念だけに支配されていく。

 

 ダークネスの瞳から光がなくなりミラクルは心臓を直に握られるような恐ろしい気持になった。そしてダークネスが瞬時にミラクルに接近し躊躇のない全力のパンチをあびせた。

 

「きゃあぁーーーっ!!」

 

 ミラクルの悲鳴が最果て島にこだました。

 

 その戦いを傍観し続けるロキはダークネスの変化を見て笑いが止まらなかった。

 

「いいぞ! 魔法がいい具合に効いていやがる。俺様の闇の魔法はダークネスの奥底に潜んで精神をあやつる。この魔法を見つけて除去することなど誰にもできない。こりゃあ宵の魔法つかいの勝利で終わりそうだな」

 

 

 

 マジカルはウィッチと交戦しながらミラクルの悲鳴を聞いて胸がざわついた。

 

「ウィッチ! あなたは何も感じないの!? 無抵抗のミラクルをあなたの親友が攻撃しているのよ!」

 

 ウィッチはマジカルと拳を交えながら返す。

 

「つらいよ! 胸だって苦しいよ! でもわたしはダークネスについていくの!」

「道を間違えていたらそれを正してあげるのが友達でしょう!」

 

「わたしはダークネスを信じてる! 間違えてるように見えて正しいことだってあるよ!」

「無抵抗の相手を平然と攻撃するのが正しいというの!? それじゃ救いようがないじゃない!!」

 

 マジカルの怒りの回し蹴りがウィッチの胸を突き上げる。

 

「うわあぁっ!?」

 

 ウィッチが吹っ飛ばされるとマジカルは向きをかえてミラクルの悲鳴が聞こえた方角を目指して疾走した。

 

 

 

 ダークネスは自分の攻撃で飛んでいったミラクルを追いかけていた。そしてミラクルに迫り墜落する前に背中に飛び蹴りを入れて前方に弾き飛ばす。弱って細くなった悲鳴があって、ミラクルは前方にあった崖から投げ出されてしまった。その時、ダークネスは罪悪感に襲われて胸に強い痛みを感じるが、それらを心の奥から聞こえてくる声が壊そうとする。ダークネスの中でロキの魔法と自分の精神とのせめぎあいが起こり、きんと頭が痛くなった。

 

 ダークネスはミラクルを追って崖下へと飛び降り、気を失って倒れているミラクルの前に立った。傷だらけのミラクルを見ているとさらに頭痛がひどくなった。

 

「ううぅ…ぐっ……」

 

(苦しい、助けて、早くわたしを助けに来て)

 

 ダークネスの頭の中で母の声で何度もその言葉が繰り返される。

 

「うるさいっ! うるさい、黙りなさい!! お母さんはそんな簡単に助けなんて呼ばない! そんな弱い人じゃない! あんたは偽物よ!!」

 

 その瞬間にダークネスに寄生していたロキの魔法は打ち砕かれた。ミラクルは闇の魔法を破ったダークネスの強い声に導かれて目を覚ましていた。

 

 マジカルが切立った崖の上から跳躍してきて、ミラクルから少し離れた場所に着地した。

 

「ミラクル!」

「とあーーーっ!」

 

 マジカルはミラクルに近づく間も与えられずに上空からウィッチの急襲を受ける。スターサファイアの魔法で空中で翻(ひるがえ)りながらのウィッチの連続回し蹴りをマジカルは受けきれずに真横に吹っ飛んで砂の地面に飛び石のように何度も打ちつけられる。そしてマジカルが体制を戻して立ち上がったところにウィッチが突っ込んできた。

 

「たあーーーっ!!」

「邪魔をしないでよっ!!」

 

 マジカルはウィッチが突き出してきた拳をとらえて投げ飛ばした。ウィッチの小柄な体が叩きつけられた岸壁が大きく陥没して崩れ落ちていく。

 

 二人の激しい戦いを目の当たりにしたミラクルは涙が止まらなくなった。

 

「もうやめて……」

 

 ダークネスは悲しみの海の底に沈んでいるミラクルを見下ろしていた。

 

 ――もうミラクルに戦う力は残されていない。あと一撃で勝負が決まる。これでお母さんを取り戻せる。何も考えず心を消して遂行するのよ。

 

 その時だった、ミラクルがダークネスの前で両ひざをついて神にでも祈るように手を組んで見上げた。

 

「ダークネス、わたしを倒せばお母さんに会えるんだよね」

 

 ミラクルが目を閉じると目じりから涙が零れ落ちる。彼女の覚悟を知ったダークネスの胸が打ち震えた。

 

 マジカルはダークネスにその身を差し出そうとしているミラクルを見て、考えるより先に体が動いていた。猛然とダークネスに向かっていく。

 

「だめよ! それはだめよ! ミラクルっ!!」

「うああーーーっ!!」

 

 怒涛のごとく突っ込んできたウィッチがマジカルに抱きついて押し倒す。

 

「何をするの!? 放して!!」

「大丈夫だよ! そんなことできるわけないんだ!!」

 

 ダークネスは最上の苦悶で表情を歪めたまま拳を振り上げる。そしてその状態のままでミラクルにそれを振り下ろすことができないでいた。

 

 

 

 セスルームニルでフレイアたちもこの戦いを見守っていた。

 

「なぜダークネスは止めをささないのだ?」

 

 黒い鎧の騎士が虚空に映し出されたミラクルとダークネスの姿を見つめながら感情のこもらない声でいった。

 

「それは不可能なのです」

「フレイア様、それはどういう意味でしょうか?」

 

「プリキュアとは何者にもひるまぬ勇気と人を思いやる心ある乙女だけがなれるものです。ですから相手を思っている者を倒すことなどできはしないのです」

 

「それではダークネスには決してミラクルを倒すことはできない」

 

 フレイアが無言で頷くとダークナイトがフレイアの前に出てきて跪いて低頭した。

 

「ならばこのわたしが始末をつけましょう。フレイア様、よろしいですかな?」

「お任せします」

 

 フレイアの顔からいつもの笑顔がなくなっていた。

 

 

 

 ダークネスはついに振り上げた拳を下ろし苦渋のあまり目を固く閉じて項垂れた。

 

「できない……ただひたすらにわたしのことを思ってくれる人を倒すことなんて……」

 

 ダークネスの赤い瞳に涙が滲んだ輝きが下から見上げるミラクルの瞳に映る。

 

「もっと恨んでほしかった、もっと憎んでほしかった。でもあなたは、どんな目にあってもわたしのことを心配して悲しい目で見つめてくる」

 

 ミラクルは立ち上がるとダークネスと体を重ねて優しく抱き寄せた。

 

「わたしたち、きっと分かりあえるよ」

「ミラクル……」

 

 長い時を経てようやく分かりあえた少女たちを邪魔するように闇の気配が濃くなってゆく。

 

「そうかい、それがお前たちの出した答えか。ならば処刑を開始する!」

 

 邪悪な男の声が最果て島を席巻する。プリキュアたちの戦いを見て楽しんでいたロキが、すさまじい形相になっていた。その表情が唐突にぎょっとした驚きに満ちる。

 

「てめえら、いつの間に!?」

 

 マジカルとウィッチがすでにリズとエリーを捕らえる魔法陣の真下まで走りこんできていたのだ。二人は同時にジャンプして闇色の魔法陣に接近する。

 

「させるかよ!」

 

 リズとエリーの頭上に開いた暗黒の空間から黒い雷が走りマジカルとウィッチを撃つ。強烈な衝撃を受けたマジカルとウィッチが声を上げながら墜落していく。

 

「そこで見ているがいい! お前らの仲間が消えていく様をなぁ!」

 

「お願いやめてーっ!!」

 

 天に祈るようなミラクルの叫びが奇跡を呼び起こす。黒い魔法陣に磔にされているリズとエリーの間に突然まばゆい光が生まれてロキを驚愕させた。

 

「な、なんだ、この光はっ!!?」

 

 見るものをやさしい気持ちにさせる緑の輝きがさらに強くなっていく。プリキュアたちはその光の元となっているリンクルストーンを認めるとミラクルとマジカルの驚く声が重なった。

 

『エメラルド!?』

 

 聖なる光によって空中に映し出されているロキの幻影は消えかけていた。

 

「またてめえか、マザーラパーパの分身! なめるんじゃねぇっ!! この程度の干渉では俺様の魔法は止められん!!」

 

 天井にぽっかり空いた暗黒空間から闇そのもので作り上げた鎖が幾本も出て天上から地上に走り、リズとエリーを黒い鎖の牢獄に閉じ込めた。鎖に囲まれた円柱状の空間が少し狭くなってエメラルドの輝きが小さくなる。エメラルドがロキの魔法に抵抗してリズとエリーを守っている。ミラクルとマジカルにはそこにキュアフェリーチェがいて必死に戦ってくれているように見えた。

 

「エメラルドの光が消えた時がこの女どもの最後だ!」

 

 ロキの勝ち誇った笑い声が響いて広がっていく。消えかけていたロキの幻影は今やはっきりと映し出されている。

 

 ミラクル以外のプリキュアたちがジャンプして闇の鎖に攻撃を加え始める。ミラクルはダメージが大きすぎて動くことができずに、それを見ているしかなかった。プリキュアたちがどんなに攻撃を加えても闇の鎖はびくともせず、それどころかさらに空間を狭めてリズたちに接近した。彼女らは諦めずに攻撃し続けた。

 

「こんな時になにもできないなんて……」

 

 ミラクルの目に涙が浮かぶと不意にリンクルストーンが目の前に現れて華やかに光る。

 

「どうしてピンクトルマリンが……」

 

 刹那的にミラクルはフェリーチェからのメッセージを理解した。

 

「ピンクトルマリンは生命の花から生まれたリンクルストーン! わかったよフェリーチェ!」

 

 ミラクルは虚空に現れしリンクルステッキを右手に持ち、

 

「リンクルステッキ! リンクル・ピンクトルマリン!」

 

 花の形をしたピンクの輝石を宿したステッキを高くかかげた。

 

 ステッキの先端のハートのクリスタルから華やかな光が広がり、エメラルドがそれに共鳴する。そして二つのリンクルストーンの相乗効果で互いの光が強く大きくなっていった。

 

「なっ、なあにいぃーーーっ!!? こんなバカなぁーーーっ!!?」

 

 聖なる光によって闇の鎖は次々とちぎれ、リズとエリーを捕えていた漆黒の魔法陣も粉々に砕けて消え去る。そして最後にロキの幻影が光に浄化されて完全に消滅した。

 

 マジカルがリズをダークネスがエリーを空中で抱きとめて静かに着地する。そして暗黒の雲が瞬時に消えて晴れ渡った。

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