魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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二つのダイヤの魔法

 二人の姿を見たダークナイトが狼狽のあまり数歩後ろに下がっていた。

 

「バカな!? 光のプリキュアになっただと!? そんなリンクルストーンは宵の魔法つかいには存在しないはずだ!」

 

「青いダイヤの光のプリキュアモフ!」

 

 モフルンの声が希望そのものとなってミラクルとマジカルの胸に届いた。そしてプリーステスとルーンがジャンプして二人の横に並んだ。4人のプリキュアに向かってダークナイトが盾を前に構えて叫ぶ。

 

「姿が変わったとてダメージが回復するわけではない! むしろ光のプリキュアになったことで、このわたしの攻撃に対する耐性がなくなった! 一撃で片が付く!」

 

「先手必勝よ!」

 

 マジカルの凛とした声が砂漠を渡ってダークナイトの耳を撃つ。すでに二人の魔法は完成していた。ダークナイトが刺突の構えをとる。

 

「立っているのがやっとの状態の貴様らに、このわたしを倒すことなど叶わぬ!」

 

 ダークナイトが黒い闇の魔力をまとって激走する。

 

『フル、フル、リンクル!』

 

 二人がリンクルステッキで描いた光の線が具現化してリンクルストーンダイヤと同じ形の光の障壁となった。突っ込んできたダークナイトがそこに漆黒の剣を突き立てる。

 

「ぬおおおっ!」

 

 光と闇がぶつかり合って覇を競う。その時に光の障壁に白い魔法陣が現れて大きく広がった。

 

『プリキュア!』

 

 ミラクルとマジカルはリンクルステッキで天を突き、後ろ手につなぐ手に力を込めて、残された魔力の全てを魔法に込める。しかし魔法陣の前にダイヤが召喚される瞬間に、ダークナイトは自分と魔法陣の間に大盾を差し込んで隔たりをつくる。魔法陣から召喚されたダイヤは盾に衝突してダークナイトの封印を阻まれてしまった。それでもミラクルとマジカルはつないでいた手を開放し、その手を前にかざしてダイヤを叩きだした。

 

『ダイヤモンドーッ! エターナルッ!』

 

 凄まじい勢いで発射された巨大なダイヤがダークナイトを押し出す。

 

「無駄だ! この程度の魔法など!」

 

 ダークナイトが凄まじい力で押し返してダイヤの勢いが急激に減速されてついに止まってしまう。

 

「まだよ!」

「わたしたちの番だね!」

 

 二人が跳躍して空中でプリーステスの左手とルーンの右手が繋がる。

 

『ダイヤ! 聖心なる輝きよ、わたしたちの手に!』

 

 プリーステスとルーンが舞い降りた場所から焔のように立った青銀色の光が円状に燃え広がっていく。プリーステスが右手を上げるとブレスレットのブルーダイヤが輝き、ルーンが左手を上げれば同じくダイヤが青く輝く。飛んできたリリンが空中でクルリと回って二人のプリキュアの間に降りてくる。

 

『プリキュア!』

 

 プリーステスとルーンがブルーダイヤの輝く手を前にかざせば、目前に三日月月と星を抱いた青銀色の六芒星が現れ、同時にリリンの胸のブルーダイヤから鮮烈な光が放たれた。リリンがプリキュア達と同じように右手を前に出すと、六芒星の前に巨大な青いダイヤが召喚される。そして繋がる二人の手に力が込められて、より強く結ばれた。

 

『ダイヤモンドッ! ファイアストリーム!!』

 

 ダイヤから青白く燃え上がるような聖なる光が噴き出し、大きな光のうねりとなってダークナイトが止めているダイヤの後方に撃ち込まれた。

 

「むおおぉ!」

 

 ダイヤが光の波動に押されて圧力が加わり、同時に聖なる光がダイヤに力を与えていく。ダークナイトは徐々に押され、ダイヤが強く輝いたその瞬間に輝石の檻に閉じ込められた。

 

「これはまずい!」

 

 ダイヤの中に封印されたダークナイトが大剣を突き立てて内側からダイヤを貫き通す。瞬間にダイヤ全体に亀裂が入って爆発が起こった。直視できないような白光がドーム状に広がり、その中心にいたダークナイトの姿が見えなくなる。衝撃波が広がりたちまち砂嵐が巻き起こり、モフルンとリリンは飛ばされそうになってマジカルとプリーステスのマントにつかまって宙を泳いだ。

 

 光の爆発が収まっていくと全身から煙をあげるダークナイトが姿を現す。漆黒の鎧や盾には亀裂が入っていた。

 

「何ということだ、闇の鎧を破壊されるとは……」

 

 ダークナイトが地面に大剣を突き刺すと、そこから黒い魔法陣が広がり彼は姿をけした。そしてダークナイトとの激戦の跡が修復されていった。

 

 プリキュアたちは全員がその場に座り込んだ。そして魔力を使い果たしたために全員の変身が解けていく。

 

「やったぁ、みんなの力を合わせてやっつけたよ! でもすっごいつかれたぁ……」

 

 ラナが仰向けに寝て動かなくなる。みらいは倒れ込んで隣のリコに寄りかかった。

 

「みらいが大変モフ!」

「みらい、しっかりして!」

「これで……みんなで帰れるね……」

 

 みらいは意識を失ってしまった。その姿を小百合が悔恨に耐えないという面持ちで見つめていた。

 

「このままではまずいわ。早くどこかで休ませないと」

 

「もうみんな精も魂も尽き果ててる。最果て島から魔法学校に帰ることなんてとてもできないわ。どうしたらいいの……」

 

 リコが悲嘆にくれるとみらいの懐で何かが輝きを放ち、それが小さくなって消えていくと代わりにリコの目の前に紫色の輝石を抱くリンクルストーンが現れた。それがふわりと舞い上がっていく。

 

「アメジストのリンクルストーンが……」

 

 リンクルストーンアメジストはリコたちの姿を見下ろす高さで紫の閃光を放ち、そして少女たちの前に大きな扉が現れる。アーチ形の扉は温かみがあって木製に見える。扉の中央より少し上には伝説の魔法つかいを象徴するハートの五芒星が刻まれて、さらにその上の頂点にちかいところにある小さな五芒星の真ん中でアメジストが輝いていた。

 

「な、なんなのこのメルヘンチックな扉は?」

 小百合がそう言っているすぐ横でリコが目に涙を浮かべていた。

「はーちゃん、ありがとう」

 

 リコのその様子から、この扉が自分たちにとって大切なものだということが小百合には分かった。リコは気力を取り戻して元気な声で言った。

 

「この魔法の扉で魔法学校に帰れるわ!」

「この扉の向こうに魔法学校があるとでもいうの?」

 

「そういうこと! ただみんなの力が少しだけ必要なの」

「わかったわ。ラナ、起きなさい! 魔法学校に帰れるって!」

 

 熟睡しかけていたラナが小百合の声でぱちくりと目を開けて起き上がる。

 

「え、ほんとうに!?」そして魔法の扉が目に入って、「うわあ、なあにこれ!? でっかいドアだぁ」

 

「みらいはわたしが連れていくわね。こうなったのは全部わたしの責任だからね」

 

 小百合はリコの手を借りて、みらいをおんぶして立ち上がった。そして全員で魔法の扉の前に並んだ。リコが扉に手を置いていう。

 

「行きたいところをみんなでイメージするのよ」

 

 小百合とラナもリコと同じように扉に手をそえてイメージした。

 

「魔法学校モフ……」

 

「魔法学校! 魔法学校! 魔法がっこう~っ!」

 

「魔法の扉よ、この大悪魔リリンを魔法学校に連れていくデビ! いうこときかないと燃やしてしまうデビ!」

 

 二名ほど必要以上にしゃべる人がいて、リコと小百合はちょっとだけ気が散った。

 

 やがてみんなの願いが通じると魔法の扉が内側に向かって開いていく。少女たちが扉から一歩踏み出せば、そこは魔法学校の校門の真下であった。

 

「ほんとうに着いたわ……」

「やったぁ! バンザーイ!」

 

 両手を上げているラナの横で、小百合は懐かしの学び舎を見て心の底から安堵した。少女たちの後ろにある魔法の扉が閉まり、そして消えていく。あとに残ったアメジストがリコの手の中に落ちてきた。

 

 この時、リコたちの部屋で留守番していたチクルンが暇つぶしに窓から外を眺めていた。そうしているといきなり校門の下にリコたちが現れるので彼は驚いて窓から飛び出していった。

 

「おい、お前ら、何がどうなってんだよ!」

「あ~、チクルン、久しぶりだね~」

 

 ラナがまるで近所の友達にあったように軽く挨拶してきて、チクルンは余計に混乱してしまった。

 

「チクルンお願い! すぐに先生を呼んできて!」

 

 リコの切羽詰まった様子でチクルンは緊急事態を悟った。

 

「待ってろ、すぐに呼んでくるぜ!」

 チクルンはぴゅっと飛んで校舎の方に戻っていった。

 

 

 

 「どうなっているのですかこれは? みらいさんの疲労は普通ではありませんよ。これでは動けなくなるのは当たり前です」

 

 保健室に運ばれたみらいはベッドに寝かされていた。その傍らで、みらいの具合を見た教頭先生が眉を吊り上げて攻めるような目でリコと小百合とラナを見つめていた。チクルンとぬいぐるみ二人は少し離れたところで心配そうに見守っている。

 

「全部わたしが悪いんです」

 

 小百合が言うと教頭先生がため息をついた。

 

「あなたたちはずっと学校を休んでいましたね。急に現れたかと思えばこんな問題を持ち込んで……。それにいくら校長先生がお許しになっても、これ以上学校を休むのなら退学も考えなければなりませんよ」

 

 それを聞いた小百合が教頭先生の目が希望の光そのものであるかのように見つめる。教頭先生は怒った顔から一変して、子供を見守る母親のようにやさし気に言った。

 

「あなたたちのことは校長先生から色々とうかがっています。ですから多くは聞きません。ただ、今の話だけは肝に銘じておいてください」

 

 それから教頭先生はその場にいる全員の顔を見てから厳しい口調で言った。

 

「みらいさんは絶対安静です! いいですね!」

 

『はいっ!』と全員同時にきをつけして、全員同時の返事をした。

 

 教頭先生が出入り口の扉に向かって魔法の杖を振ると扉がひとりでに開いた。

 

「後のことは校長先生が帰ってきたらこちらで相談します。あなたたちも帰ってお休みなさい」

 

 そして出ていこうとする教頭先生の背中に向かって小百合は深く頭を下げた。

 

「教頭先生、ありがとうございます!」

「ございます!」とラナも慌てて小百合の隣にきて頭を下げる。

 

 教頭先生は二人に向き直って言った。

 

「小百合さん、ラナさん、一日も早く魔法学校に戻ってきて下さい」

 

 教頭先生の優しさに触れて小百合は目頭が熱くなった。

 

 教頭先生が出ていくと、緊張が解けて全員が強烈な疲労感にみまわれた。みらい程ではないにしろ、ほかの3人も立っているのが辛いくらいの状態であった。しかしリコは、みらいの近くに椅子を持ってきて座り、休む気配を見せなかった。

 

「リコ、あなたも休んだほうがいいわ」

「もう少しだけここにいるわ」

 

「そう……。わたしはすぐに出ていくわ、ここにいて良い人間じゃないからね」

「小百合……」

 

 リコが悲しそうに小百合のことを見つめる。するとリリンが足音をたてて小百合の足元に歩いてきた。

 

「小百合、お話ししたいことがあるデビ」

「どうしたの急に?」

「リリンは一度命をなくした時にお母さんに会ったデビ」

 

 小百合は声が出なくなった。リリンがお母さんと呼ぶ人は一人しかいない。小百合の母の百合江だ。リリンは凍り付いたように立ち尽くしている小百合を見上げて言った。

 

「このリンクルストーンはお母さんがくれたデビ」

 

 リリンは両手で包み込んでいたリンクルストーンを小百合に見せた。青い輝きのダイヤのリンクルストーンだった。

 

「お母さんは小百合に言いたいことがあったデビ。それを今伝えるデビ」

 

 リリンは黒い翼で飛んで小百合の目の高さまで浮かんでから言った。

 

「いままでありがとう」

 

 小百合の顔が悲しみに染まり黒い瞳から涙が溢れてくる。小百合は目の前のリリンを抱きしめてその場に座り込んだ。

 

「ああ……」

 

 小百合は声も上げず誰にも顔を見せずに泣き続けた。彼女の中でたくさんの悲しみが押し寄せ、一緒にたくさんの苦しみが洗い流されていった。

 

(あなた達に希望の光を託します)

 

 百合江は小百合の夢の中で確かに言った。青き輝きが希望に続く道を照らす。リンクルストーンブルーダイヤこそがその希望であった。

 

 

 

 セスルームニルの広間に続く薄明かりの通路を黒い鎧の騎士が体を引きずるようにして歩いていく。彼は時間をかけてフレイアの待つ玉座の前まで来ると、主の前で膝をつき頭を垂れて敗残の姿を晒しながら無念の思いを吐き出した。

 

「申し訳ありません、フレイア様に仇成す者を討つことができませんでした……」

 

 フレイアからは何の言葉も返ってこなかった。主の不興を買ったと思い込んだダークナイトはこの命をもって償う覚悟で女神の尊顔を仰ぐ。そして彼は女神の笑顔を見て息をのんだ。それはいつも浮かべている仮面の笑顔ではなかった。フレイアが闇の女神となったあの日以来見たことがない心の底から歓喜する微笑みだった。フレイアと共に永遠に近い時を生きている彼にはそれが分かった。

 

「あなた様はもしや……」

 

 フレイアは何も語らずに満ち足りた笑顔を浮かべていた。ダークナイトは再び顔を伏せ、バッティも彼の隣で膝をつく。二人の従者は闇の女神に最大の敬服を示した。

 

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