モモンガ生誕祭
「モモンガさん!」
「お誕生日!」
『おめでとう〜〜!!!』
ギルメンの掛け声でクラッカーが鳴り、色とりどりの紙吹雪がキラキラと玉座の間に降り注ぐ。
黒を基調としたナザリック大墳墓に合う華やかながらシックな飾り付け。目の前に置かれたケーキのオブジェクトはロウソクと沢山の果物、俺の名前が書かれたプレートで彩られている。本物と見まごう精巧さに製作者の本気を見た。
どうやら今日は俺、モモンガこと鈴木悟の誕生日……だったらしい。正直言うと完全に忘れてた。
最近は仕事が忙しくて日課を済ませるだけだったが、ペロロンチーノさんからレイド戦の誘いがあってナザリックに来てみたらこの通り。
アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが勢ぞろいして俺の誕生日会を用意してくれていたんだ。
「まさか自分の誕生日忘れるくらい忙しいなんて思わなかったなー……時間大丈夫ですか? さっきから固まってますけど」
「だい゙じょゔぶでず……!!」
「うわめっちゃ涙声」
感極まった俺にペロロンチーノさんが背中をさするエモートをしてくれた。
「ちょっと愚弟〜モモンガさん泣かせないでよ〜」
「いや感動してんだろどう見ても、本当に泣いてたとしても俺のせいじゃな」
「発案はあんたでしょうが!」
「ぐほォ!」
ぶくぶく茶釜さんのたいあたりで隣にいたペロロンチーノさんが吹っ飛んでいった。それを見たギルメンが「またやってるよ」とゲラゲラ笑らい、顔から落ちたペロロンチーノさんに声をかけている。
俺もつられて笑っていると、弟にトドメを刺しに行った茶釜さんと入れ違いで白銀の鎧が近づいてきた。
「ははは、ぶくぶく茶釜さんも素直じゃない。発案者こそペロロンチーノさんだが、ケーキと飾り付けは彼女がブループラネットさんたちに頼んで用意したんだよ」
「そうなんですか!?」
ギルドが誇るワールドチャンピオン、たっち・みーさん。本人が言わなかった功績をそっと伝えてくれる面倒見の良さは、現役警察官なのを思い出させる。
皆にもだけど特にお礼を言わなくては。土下座のエモートを片手で確認していると、たっちさんが呟くように口を開いた。
「それに、泣くのはもう少し後にとっておいたほうがいい」
「? それってどういう……?」
意味がわからず聞こうとしたが、餡ころもっちもちさんの拍手に遮られる。
「はい皆ちゅうも〜く! ちょっとぐだったけどプログラム通りやるよ!」
(プログラムなんてあるのか、本格的だなー)
関心する俺に気付かず誕生日会は進んでいく。餡ころもっちもちさんからバトンタッチされた茶釜さんが俺に向かって話し始めた。
「おほん。本日はお日柄もよく絶好のサプライズ日和。ケーキは食べられないけど後で私室に移しておくので、ブループラネット以下モデリング班の汗と涙の結晶をゆっくり味わってね」
「仮にもケーキなのにその言い方どうよ」
「うるさい! そして最後に、皆からプレゼントがあります!」
「えっ」
ギィと玉座の間の入口が開いた。いつの間に出ていたのか、さっきまでここにいたウルベルトさんが扉を開けて入ってくる。その後ろに人影が見えるが、ウルベルトさんに隠れて誰なのか分からない。
コツコツとこちらに歩いてくる2人。いつの間にか他のギルメンは道を作るように整列していた。同じギルドに所属していながらマイペースなメンバーが多いウチでは異様な光景だ。
「設定考案、タブラ・スマラグディナ、ウルベルト・アレイン・オードル」
茶釜さんがまるで何かの式典のような厳かな声で名前を読み上げる。口を挟める雰囲気ではなかったので、慌てて背筋を伸ばした。
「キャラクターデザイン、ペロロンチーノ、ホワイトブリム」
ギルメンが作った花道を蹄と靴の足音だけが静かに響く。
「装備提供、やまいこ」
「ビルド考案、ぷにっと萌え」
並んでいるやまいこさんとぷにっと萌えさんが、こちらを見て小さく手を振ってくれた。
「カンパ&レベリング班、たっち・みーとアインズ・ウール・ゴウン一同!」
ウルベルトさんは俺の目の前に来るとそのまま右に曲がり、1人分空いていた列の先頭入っていく。残ったのはウルベルトさんの後ろにいたアバター。
それは小さい女の子だった。
顎まで切りそろえられたサラサラの白い髪。その下から薄い青と白をツギハギした肌が覗き、瞳はぽっかりと浮かぶような赤色をしていた。
色こそ冷ややかで禍々しいが、くりくりと大きい目が困ったような顔でこちらを見上げている。
服装は丈を膝下まで短くしたような黒いウエディングドレスで、頭には青い薔薇のカチューシャと、ドレスと同色の細かい刺繍が施されたベールが垂れている。手には白い剣を大事そうに抱いていた。
闇に祝福された花嫁のような、喪に服した孤独な少女のような、不思議な女の子だ。
(めちゃくちゃ可愛い)(お姫様をゾンビにしてみたらこんな感じかなあ)(でも嫁に出るには小さくないかなあ)とぼんやり考えてから、そういえば茶釜さんはなんて言ってたっけ?と思い出す。
「ということでこちら、“モモンガお兄ちゃんが人間だった頃に死に別れたけどなんとか復活させた娘ちゃん(NPC)”でーす!」
「な」
「なんだってえええ───!!!?!」
◆ ◆ ◆
“死の支配者モモンガが人だった頃、戦乙女の妻と一人娘がいた。しかしなんという運命の悪戯か、未曾有の天災に巻き込まれ無常にも引き離されてしまう。
友の過去を憂いた至高の支配者達は各地を探索し、幸運にも娘の亡骸を発見した。それを繋ぎ合わせ魂を吹き込んだのが現在の姿である──”
「そういう訳で彼女が俺達からの誕生日プレゼント」
「俺に生き別れの娘がいるなんて初耳でしたよ……」
大草原で埋め尽くされるなか、ひっくり返った俺にタブラさんが説明してくれた。
この子はギルメンが協力しあって“ナザリックのお姫様”として作り上げたんだそう。
ナザリックのコンセプトと俺のロールの親和性に着目し、
「つっても俺はほとんど相槌係。俺よりもペロロンチーノとホワイトブリムさんが口出てたし」
ウルベルトさんがどことなく居心地悪そうにソワソワしていた。隣にいるタブラさんが意味ありげに笑顔の感情アイコンを浮かべている。
「まあ。モモンガくんへのプレゼントだけど、居てくれたら嬉しい性能を目指したからナザリックのお姫様に違いないよ」
「全弱体無効の汎用支援型ヒーラーでしたっけ」
「そうそう。やまいこさんが装備くれなかったら実現できなかったけどね」
やまいこさんとぷにっと萌えさんがうんうんと満足そうに頷いた。
「ちょっと待った! 性能抜きにしてもちゃんとお姫様してるでしょ! このヴィジュアル!」
「清楚系目指して頑張ったよ(グッ)」
「ハイハイ、頑張った頑張った」
「ちゃんと好みもリサーチしてホワイトブリムさんと打ち合わせしたのに、適当にあしらわれる俺……あまりにも報われない……」
「フェチズムは理解されるの難しいからしょうがないね……」
「好みなんて話しましたっけ、記憶にないんですが」
「ほら、ホワイトブリムさんがオススメしてくれた『むちむち戦乙女グ「ウオアァァァーー!!!」ゴフゥッ」
言い終えるよりも早く思い出した俺のアンデッドパンチが唸る。返す手でよろめくペロロンチーノさんの胸ぐらを掴んで勢いよく引き寄せた。
「酒の席の話は、お互い心の中でしまって置くのが暗黙の了解だったと思うんだが!!?」
「ゴメン、ユルシテ、ショウガナカッタ」
完全に取り乱して
「皆、全部知ってる」
俺は絶望した。
「さて、モモンガさんが泣いた(笑)ところで誕生日会のプログラムは終わり!これは最初にやるべきだったけど、今やるよ!」
「ギルドマスター・モモンガの生誕と、アインズ・ウール・ゴウンの繁栄を祝って──乾杯!!」
『アインズ・ウール・ゴウン万歳!!』
いじけた主役を差し置いてワイワイと酒盛りを始めたギルメン達を尻目に、気分を切り替えるために息を吐いた。
自分の性癖を暴かれたショックはまだ引きずっている。いや、かなり引きずっている。けれど皆が俺のために考えて祝ってくれたことに違いはない。
早くも酒が入ったギルメンに絡まれた、物言わぬ自分の娘を見る。設定こそ自分の縁者になっているが、本当はアインズ・ウール・ゴウンにとっての娘なのだろう。娘を囲む皆を見ているとよく分かる。
……頑張る理由が出来ちゃったな。苦労も多かったギルドの管理が急に楽しみになってきた。
でもまずは、冷蔵庫にある缶ビールを持ってきてあの輪に混ざってから頑張ろうと思う。
どうか、この楽しい日々が続きますように。
至高の41人はほとんど捏造です。
こんな雰囲気いいギルドが続かないわけがない(迫真)