前話はマジでなんも考えずに書きすぎたので加筆と修正を行いました。
読み直すか、第1話の後書きをご確認頂けると助かります。
今後も試行錯誤が続くかと思いますが、何卒よろしくお願い致します。
「はぁ、気になるけどそんなすぐには思いつかないし、そろそろレベリング行くか」
誕生日会から数日後。俺は娘の隣に座って装備の確認をしていた。
あの後、飲みながらこの子のステータスと育成状況を教えて貰った。
種族はアンデッド。職業はクレリック等の信仰系を中心に、世にも珍しい隠し職業の
タブラさんの強い希望で取得したと言っていたが、お姫様で勇者なところがギャップ萌えのツボを押すのだろうか。俺にはギャップ萌の属性はないからなあ。
ヒーラーとして育成はしてあるが、カンストまではあえて進めなかったらしい。「娘なのだからモモンガさんにも育てる時間をあげたかった」とぷにっと萌えさんは言っていた。
なので今は80レベルで止まっている。
(80台のレベリングって何処に行けば良いんだったか……しばらく連続でロストすることも無かったから忘れてるなあ。パワーレベリングするには少し心もとないし)
これまで通りなら拠点NPCを育てるのにレベリングは必要ない。
しかし最近になって拠点を所有するギルド向けのアップデートがあり、作成した拠点NPCを同時に5人まで外に連れ出せる『連れ歩き機能』が追加された。
最初に連れ出してから一定の期間が設けられ、一部高難易度バトルとPvPを除く全ての戦闘に参加する事が出来る。
ただし参加できるのはカンストするか、期間が終わるまでの間だけ。その後は『連れ歩き機能』を使っても本当に連れて歩けるだけらしい。
到来のレベルの振り分けが無くなった訳ではないので、これは一部のコアなユーザー向けに作られたお遊び機能だ。
もしNPCを連れ歩いてる時に拠点が制圧されても自己責任、という注意書きには少し運営に殺意が湧いた。
レベリングの話に戻ろう。
高レベルプレイヤーの戦闘で得た経験値で、低レベルなプレイヤー(またはNPC)のレベルアップを高速化するパワーレベリングは一般的な方法だ。
しかしユグドラシルでの異形種はなにかと狙われやすく、レベリングをするにも一苦労。いくら俺が最上位の『
追加された機能の中には“PvPには参加出来ないがPTリーダーがロストするとNPCもロストする”なんて仕様もあった。
生まれて間も無い娘にそんな苦労はさせたくない。一端の父親になった気分で腕をまくった。
コンソールでウェブサイトを開き、それらしい情報を漁って記憶を掘り起こしていると、たっちさんから入室許可を求める通知が来た。なんの用だろう?
「こんばんは、モモンガさん。日課が終わってないメンバーで集まってるんだが一緒にどうだろう」
「あー、すみません。俺はもう終わってて、これから娘のレベリングに行くんです」
「ああ、娘ちゃんの」たっちさんの嬉しそうな声から、娘を気に入ってることが伝わってきてちょっとニヤニヤした。たっちさんのちゃん付けってレアだな。
「人手は足りてるのかい?」
「いや、実は──」
ぷにっと萌えさんの気遣いを理由に誰も誘ってない事を伝えた。
「それなら俺のセバスを貸そう」
「いいんですか?」
「もちろんだ。困っている友を助けるのは──いや、それもあるが、俺はあまり使ってやれてないからな」
「ああ…なるほど。それじゃあ遠慮なく」
申し出を有難く受け取り、さっそくマスターソースを開いた。するとまた入室許可の通知が来たので反射で承認してしまったが、名前を見て「しまった」と少し後悔する。
「モモンガ、ちょっとダンジョンに用事が──あ?」
「……ウルベルトさん」
最高に空気が重い。犬猿の仲である二人をカチ合わせた後悔は少しどころじゃ足りなかったかもしれない。睨み合う二人に冷や汗を流しつつ、空気を変えようと娘のレベリングの話をウルベルトさんにもした。
「へえ、じゃあ俺のデミウルゴスも連れて行けよ。盾にはなるし魔法の練習相手にも丁度いい」
「ほう……」
「何か文句でも? 人を人とも思わない悪魔と自分のNPCを同じにパーティに入れたくないとか?」
「いや、娘ちゃんのレベリングが安全に行えるならそれが良いと思う」
「…………」
「…………」
口を挟む隙もなく、火花が散る睨み合いにレベルアップしてしまった。レベリングはしたかったけどこれは違う。
オロオロする俺に気付いてくれたのか、幸い睨み合いは長く続かず、ウルベルトさんが諦めるようにため息をついてこちらを向いてくれた。
「そういえば娘としか呼んでないけど名前はまだ決まってないのか」
「……迷ってて」
「ネーミングセンスないもんな」
「ウッ」
ここ最近悩んでいたことを清々しいくらいにバッサリと切り捨てられた。
「だから俺は皆が付けた名前が良いって言ったじゃないですか……思いついた名前は全部、茶釜さん達に『正直ナイワー』で却下されるし」
「自分の少ないボキャブラリーで決めようとするからだろ。みんな色々調べてるんだから見習えよ。青い薔薇つけてるから青子とか、モモンガと似てるからムササビとか、適当な名前付けられる娘の気持ちとナザリックのコンセプトを考えろ」
「モモンガさんには悪いが、ムササビは俺もどうかと思う……」
ウルベルトさんの容赦ない指摘と、たっちさんの控えめな一言がグサッと突き刺さる。普段、仲の悪い2人の意見が一致してる事実がなお辛い。分かっている、分かっているが俺の心はもう傷だらけだ!
──そう、悟は困っていた。悟には名前の善し悪しが分からぬ。自分のプレイヤー名も適当に付け、ギルメンと遊んで暮らしてきた。
飲み会ではタガの外れた仲間にネーミングセンスのなさをネタにされ、メロスもかくやと言わんばかりの苦悩を仕事で誤魔化してきたが、そろそろタイムアップか。
「所詮はデータに過ぎないかもしれない。けどせっかくできた娘なんだ、この子もお父さんから名前を貰った方が嬉しいさ」
「デミウルゴスはいつでも貸すからじっくり考えろ」
入ってきた時の険悪な様子とはうって変わり、二人揃って退出して行った。
「はぁぁ……たっちさんもウルベルトさんも簡単に言うよなあ、もう」
俺のセンスはパンドラズ・アクターで限界なんだが、いつまでも『No Name』でいさせるのも可哀想だとは自分でも思っていた。
観念してモモンガを椅子に座らせ、俺も座ってる椅子の上で大きく伸びをする。そのままひざ掛けに寄りかかって頬杖をつき、娘を見つめた。
モモンガの生き別れの娘でナザリックのお姫様。母親はモモンガが愛した女、正確にはちょっとエッチな漫画の主人公がモデル(タブラさんの設定では失われた神話に登場する戦乙女)だけど……この話を深追いするのはやめよう。傷が開く。
そしてなによりギルドメンバー全員で作った子供。俺抜きとはいえ、ギルドを上げて作ったものなんてスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン以来だ。他のギルドの人間からすればただのNPCだが、ナザリックにとってはワールドアイテム級のNPCに違いない。
そんな子を本当に俺が貰っていいのか。遠慮する気持ちが無いと言ったら嘘になる。
正直に言って、俺はたっちさんの推薦があったからギルド長なんてものやっているだけで、皆をまとめる資格やら資質やらがある訳じゃない。やっていることは雑務だし、ロールプレイのためにビルドを構築したのもあって戦力としても抜きん出たものは無く、ぷにっと萌えさんのように戦術を立てられるわけでも、ペロロンチーノさんのようなムードメーカーでもない。どこにでも居る普通のサラリーマンだ。
(──待てよ、そんな俺に皆がここまで心を割いてくれて、その結果創り出されたものならギルド長の証と言ってもいいんじゃないか?)
ハッと閃いた俺は椅子から背を浮かせた。
忘れないうちにブラウザで翻訳事典を開き、目当ての単語をタップして翻訳結果を指で追った。
「英語ではクラウン……ドイツ語では……“クローネ”か。うん、女の子っぽくていいな。それにパンドラズ・アクターも俺にとって子供みたいなものだから、ドイツ語が由来なのも良い」
クローネ。その名前が意味する言葉は“冠”。支配者の証を象徴するにはこれ以上になく打って付けだ。
“ナザリックの支配者として君臨するモモンガにとって、娘こそが己が地位を示す唯一無二の宝である──”なんて、
我ながら良い名前だと自画自賛するのは、今だけ自分に許すことにしよう。
それにしてもウンウンとあんなにも悩んでいたのが嘘のように、あっさりと決まってしまって少し拍子抜けだ。俺が頭を痛めていた数日間は一体なんだったんだ……
もしかしたら本当の敵はネーミングセンスではなく、皆への遠慮だったのかも。
(だからといって自惚れるつもりはないさ。認めてくれた皆がいて初めて、俺はナザリックの支配者の冠を被れるんだ)
気を引き締め直してからプロフィールを開き、放置していた名前の欄を記入する。用が済んだコンソールを閉じると、俺と同じ赤い目がこちらを見ていた。
「これからよろしく、クローネ」
低い位置にある白い頭を骨の手で撫でても、クローネの表情は変わらない。それでも俺は良い名前がつけられて満足だった。
皆には後で報告するとして、まずは発破をかけてくれたウルベルトさん達にお礼を言いに行こう。
名前を聞いたみんなの反応を想像しながら、クローネを連れて自室を後にした。
評価並びにお気に入り登録ありがとうございます。
完結を約束することは出来ませんが、気が済むまで話は続くぜ!