ぐわーっ!(評価を食らう)
俺がギルド長としての自分を認めてからしばらく、アインズ・ウール・ゴウンはギルドランキング9位にまで登り詰め、ユグドラシルでも指折りの悪の異形ギルドとして有名になった。
ある時は、以前から嫌がらせを続けてくる敵対ギルドに堪忍袋の緒がブチ切れたギルメンが中心となり、綿密に練った作戦でおびき寄せた相手ギルドのワールドアイテムを全て奪取。
とてつもなく腰が低い嘆願のメールをオープンな掲示板に貼り付け、見せしめにして
ある時は、未完成だったナザリックの全制作過程が終了し、完成を祝って誕生日会以上のどんちゃん騒ぎ。その結果、過半数が二日酔いと寝坊で会社や家族から大目玉を食らってPKする気も起きず、襲ってきた人間種を瀕死で済ませたり。
もっと個人的な出来事を言うなら、カッコイイと思ってたドイツ語から熱が冷めて、パンドラズ・アクターとクローネを見る度に顔を覆って床を転げ回りたくなる衝動に襲われるようになった。
クローネはともかくパンドラズ・アクターは頭のてっぺんからつま先まで、軍服で敬礼で、全体的にドイツなのが……あああ思い出しただけで恥ずかしい。
ちなみにクローネは期待通り便利な回復キャラとして育成を終えて「何故パーティに誘えないのか!」と回復を兼ねることもある主にタンク役のギルメンに泣いて縋りつかれる程になった。
奪取したワールドアイテム“
ハロウィンイベントで“人化の指輪”を持たせて人間の仮装をさせたら、妙にテンションの高いホワイトブリムさんが常に着けるように迫ってきたっけ。白い髪が映えるようにほんの少し褐色肌にしただけなんだけど……
振り返ってみると有名になる前とやってることはあまり変わらないな。その方がユグドラシルでわざわざ異形種を選んだ俺達らしいのかも。
まだまだ語りきれないほどユグドラシルの思い出はたくさんある。
しかしその中で最も心に残ったことを挙げるなら『総勢1500人の討伐隊によるナザリック侵攻戦』が一番だ。
あれはギルドのメンバーの誰もが忘れることの出来ない戦いだった。
俺達が作り上げたナザリックの凄さをユグドラシル中に知らしめる絶好の機会。悪の異形ギルドとして最高のロールプレイが披露できるイベントだ。
まあ、開始早々、俺は王座の間に放り込まれて、待機していたギルメンと実況ライブを楽しんでいただけだったりするんだけど……
攻め込んできたプレイヤーを各階層守護者とモンスター達が順番に迎え撃ち、虎の子のヴィクティムで次々とログアウトしていく光景は圧巻だった。
結局王座の間で俺と対峙したプレイヤーはいなかったが、過去に例を見ない大きな戦いを41人で乗り切ったことが誇らしかった。
どれもこれも、目を閉じればつい昨日の事のように思い出せる。
そう、楽しかった。楽しかったんだ。きっと俺だけじゃない、皆も。
それが崩れ始めた切っ掛けはなんだったのか。
最初の1人が引退した時は「リアルがあるから仕方ない」と引退するメンバーを惜しみながら見送ったことを覚えている。
そこからまた1人、また2人と少しずつ辞めて行く人が増えた。のんきにも俺は残念に思うだけで、落ち込みながらも何処か楽観的でいた。
まさか全員が全員アインズ・ウール・ゴウンを捨てるはずがないと思っていたのだ。俺達の、栄光あるナザリックを。
辞めたメンバーがいつ帰って来てもいいように残った人間で頑張ればいいと。
嫌な予感がしたのは、たっちさんが辞めると言った時だ。
この時ばかりは流石に驚いた。本人の意思は固く、リアルの忙しさを知っていたから強く引き止めることは出来なかった。申し訳なさそうに、でもこれまでの感謝を伝えて、何処までも誠実なまま引退していった。
ワールドチャンピオンに上り詰めるほどやり込んでいた、あのたっちさんが辞める。そこからは早かった。
また1人、また2人、また3人。俺は精一杯、快く見送った。
元々オンラインゲームは金のかかる趣味だ。いくら社会人とはいえ付き合いで続けるほど安い娯楽じゃない。それに、本人にはどうしようもない事情だってある。辞めると決意した人を引き止める権利なんて誰にもないんだ。
ナインズ・オウン・ゴールからの付き合いだった6人が特に別れを惜しんでくれたのは、不幸中の幸いとでも言おうか。
親友と言ってもいいウルベルトさん、ペロロンチーノさんも。
気付いたら1人になっていた。
残ったのは見慣れすぎた装備と溢れるほどのアイテム。そして誰もいない広大なナザリック地下大墳墓。
ギルドの帳簿にはまだ3人残っていたが、オフラインのまま連絡がつくことは無かった。
この頃、既にユグドラシルは“かつて絶大な人気があったDMMO-RPG”というポジションにいた。運営が用意した未知なる冒険はそのほとんどが掘り尽くされ、イベントも焼き増しばかり。当然の流れだと言えばそうだろう。
1人になってからも俺はログインし続けた。ナザリックの維持には金貨がいる。また誰かが攻略しに来て、俺達の場所を踏み荒らされるなんて耐えられない。
ソロでギルドの維持費を稼ぐのは大変だけど不可能ではなかった。時間は必要だが単純作業は得意だ。
誰も居なくても俺はナザリックが好きだから、頑張れる。
────なんて、いま思えば他にやることが無かっただけだ。リアルの俺は侘しくて、つまらない人間だったから。
生まれて初めて友達が出来て、リーダーに抜擢してもらえて、未知のダンジョンを皆で攻略して、誕生日を祝って貰って……それを思い出にしたくなくてみっともなく縋り付いている。
俺にとってかけがえのないものがアインズ・ウール・ゴウンで、皆はそうじゃなかった。それだけの話だ。
でも、それでも、叶うなら皆ともう一度遊びたい。
そう願うのは、間違っているのだろうか────
「…………夢か」
目が覚めるとナザリックの私室で突っ伏していた。
仕事から帰って、ログインしたまま寝てしまったらしい。やけに懐かしくて寂しい夢だった。
「ふあぁ。インタフェース付けたまま寝落ちなんていつ以来だろう、しかも夢まで見るなんて」
インタフェースをずらして目を擦って隣を見ると、クローネを立たせたままだったのを思い出した。今日は俺の気分で人化バージョンだ。
さっきの夢の余韻が残ってるのか、なんとなく心細くなった俺はいつもの様に白い頭を撫でる。
「クローネ、お前も寂しいよな……ごめんな、ずっと連れて行ってやれなくて。だいぶプレイヤーも減ったし、たまには……」
──ということでこちら、“モモンガお兄ちゃんが人間だった頃に死に別れたけどなんとか復活させた娘ちゃん”でーす!
クローネを紹介した時のぶくぶく茶釜さんの声が甦り、撫でる手が止まった。
──まあ。モモンガくんへのプレゼントだけど、居てくれたら嬉しい性能を目指したからナザリックのお姫様に違いないよ
──まさか自分の誕生日忘れるくらい忙しいなんて思わなかったなー……時間大丈夫ですか? さっきから固まってますけど
「クソッ!」
もう戻らないと分かっている過去の記憶に苛立ちが抑えきれず、気が付くと机を殴っていた。
同時に自分の行動の馬鹿馬鹿しさに呆れて頭を抱える。
「は、何やってんだろ俺。いくら話相手がいないからってNPCに話しかけるなんて……それにノルマ全然終わってないのに連れ回してどうするよ」
「もう自室には来ないようにしようか。特に意味があった訳でもないし、寝る時間は確保しないとな」
まくし立てるように結論を出した後、チラッとクローネを見る。黙ったままこちらを見上げる幼い顔にさっき呆れた自分がまた出てくるのを感じた。
「……ごめん、お前の顔見てると思い出して辛いんだ」
そう言い捨てて、俺は思い出から逃げた。
どれだけ物分りのいい振りをしても自分の心には嘘が付けない。誰も悪くないと分かっているけれど、向き合うのは辛かった。
いつか、俺が受け入れる少しの間だけ、逃げたかった。
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