以前からご指摘頂いていた、設定の修正作業の完了をお知らせします。
今作での捏造設定を原作の設定に統合する形で一部変更して残すことにしました。
お手数ですが詳しい設定は2020/04/25の活動報告をご閲覧下さい。設定に基づき2〜3話は加筆修正済みです。
諸事情により前書きでのお知らせになってしまい大変申し訳ありません。
「やはり、追いつけんか」
国境周辺の村々が襲撃を受けているとの報告を受け、王の命令で隊を率いて敵を追っていた王国戦士長のガゼフ・ストロノーフは到着した村の惨状を見て苦々しく呟いた。
他の村より崩れている家は少なかったが、それでも何人かの村人の死体が野ざらしになっている。
やるせない気持ちで馬から降り、見開かれた村人の目を閉ざした。
「戦士長、あれを」
部下の声に肩越しから振り返ると、家の影から数人の村人がこちらの様子を伺っていた。少数であっても生き残りがいたことに安堵して立ち上がる。
「私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ! 襲撃を受けた村を回っている者だ! 敵ではないから安心して欲しい!」
それを聞いた村人達の中からガゼフに歩み寄ったのは杖をついた老人。しわがれた声で村長が襲撃で亡くなったため代理を務めている者だと名乗り、村人が集まる広場へ案内した。
「そうか……間に合わなくてすまなかった、私が謝って済むことではないが……」
「おやめ下さい、戦士長様のせいではありません。貴方が心を痛めて下さっているのはよく分かっておりますよ」
「いや、気を使う必要はない。殺された者の無念を思えば、私の心労など比べるまでもないだろうからな」
無力感がにじみ出た険しい表情でかぶりを振ったのを見て、老人は黙って頭を下げた。
「他の村々も同じように襲撃を受けているが、生き残ったものが明らかに多い。何があったか教えてくれないか」
「ええ、実は魔法の心得がある子がおりまして、その子が助けてくれたのですよ」
ガゼフはその隣で話を聞いていた補佐役の戦士と思わず顔を見合わせた。
言い方から察するにまだ若いのだろう。そんな身でありながら村を守るために力を使って退けたとはよほど優秀なのか。
老人の視線の先を追うと、老婆に付き添われる明らかに小柄な人影が見える。子供、と戦士が呟いた。
迷いなく歩み寄り目線を合わせる為に片膝をつく。だが大柄な男が怖いのか不安そうにしていたので、できるだけ穏やかに切り出した。
「俺はガゼフ、王国で戦士長をやっている。良かったら名前を教えてくれないか?」
「……クローネ、です」
詰まりながらも名前を教えてくれた少女の、自分の手ですっぽりと覆い隠せるほどの小さな手を取り、両手でしっかりと握る。
「クローネ、君がこの村を守ったと聞いた。怖い思いをしただろう……だがその勇気に感謝する。本当に、ありがとう」
ガゼフ・ストロノーフは肩書きや見た目こそ屈強な戦士そのものだが根は誠実な男。丁寧な物腰に人柄が伝わったのか、まだ影はあるものの安心したように手を握り返してくれた。
「大したことはしてません、戦士長さま」
「謙虚だな。俺ならば大声で自慢して回っているところだ、見習わなくては」
軽口に少女が少しだけ笑みを浮かべる。それを見たガゼフの顔も綻んだが、
「戦士長、お話中失礼します。周辺の調査が終わりました。敵は北西──やはりカルネ村を目指しているようです」
部下からの報告に緊張が走った。
「今すぐ護送を必要とするほどの重傷者はいないが、離れて人質にでもされたら打つ手がない」
「かといってただでさえ少ない隊を更に分断してはカルネ村を救うことも難しくなります。間に合う保証もありません」
そのまま村長代理の老人とガゼフ達の話し合いが始まり、離れるタイミングを見失ったクローネはゲルダと手を繋ぎながら話を聞いていた。
しかし先程、カルネ村の名前が出た時の手の震えが気になったので、声を潜めて話しかける。
「ねえ、おばあちゃん、カルネ村って知ってるところ?」
「亡くなった親友の息子夫婦が暮らしているの、どうしましょう……」
思い詰めた表情で話を聞いているゲルダ。
すでに騎士達がこの村から発ってからかなり時間が経っていた。どのくらいの距離かは知らないが、話し合う大人の顔を見れば今から追いつくのは難しいと分かる。
「早急に決断しなくてはならないな……」
ガゼフの独特な低い声が耳に入り、思ったことを口にした。
「あの、馬に加速の魔法をかけてはどうでしょうか」
驚く大人達の視線が集まる。
クローネの提案はこうだ。まず加速の魔法を途切れさせないようガゼフ達に同行し、その間は村に広範囲の守りの魔法をかける。
さすがに一日は持たないが、長持ちする簡単な探知魔法を掛けておけばクローネに伝わるので即座に転移すれば対処出来るだろう。
「君の実力を疑っているわけではないが、負担がかかりすぎるのではないか?」
「どの魔法も簡単なものなので大丈夫です」
同行を願う理由は“ゲルダの知人を助ける”以外にもう二つある。騎士達との装備の差と
第3位階を防ぐほどではなかったが、微かに魔法で強化された鎧。対してガゼフの部隊はとんどが革製の軽鎧。プレートで補強していても魔法防御力など無いに等しい。
極小数ではあったが魔法で家を焼き放った術者の存在も確認出来ている以上、苦戦は免れないだろう。その間にカルネ村が受ける被害を考えれば協力を申し出るのは当然だった。
「分かった、だが危険だと思ったら君だけでもすぐに逃げろ」
村を預かる老人が同意したので渋い顔をしながらもガゼフは提案を受け入れた。すぐに出発の用意をするよう控えていた戦士に命じる。
「クローネちゃん、いいのよ、そんな」
「ちゃんと帰ってくるから心配しないで。間に合うかは分からないけど、とにかく行ってみる」
「……おばあちゃんとの約束は覚えてるわよね。友達の家族が亡くなっていても、絶対にやっちゃダメよ。なによりも貴女の安全が1番なのだから」
ゲルダの言葉に赤い瞳を伏せて頷いた。
家に戻り、昨夜から脱いだままだった装備に着替える。
足と手の装備は金属製だが、流石にドレス姿は目立つのでゲルダがフード付きのマントを貸してくれた。
諸々の準備を終え、手を引かれて馬に跨る。
「戦士長様、どうかよろしくお願いします」
「ああ、必ず生きて帰す」
心配そうに胸の前で両手を組むゲルダにガゼフは力強く誓う。
そして並ぶ部隊に顔を向けた。
「──全員揃ったな! 目指すはカルネ村、全速力で向かうぞ!」
登る太陽に届かんばかりに、戦士達の雄叫びが天高く響き渡った。
◆ ◆ ◆
数時間後。
エ・ランテル領北東、カルネ村。
ネムは震える足を必死に動かして走っていた。
姉のエンリが身を呈して庇い、時間を稼いでくれている。その隙に少しでも逃げなければ。
「あっ!」
石に躓いて転んでしまった。擦りむいた手と顔が痛くて目に溜まった涙がポタリと落ちた。
痛みで動けないなんて弱音を吐いてる場合ではないと、幼いながらも理解しているがもう限界だった。
ガシャ。
嫌な音がした。さっきまで散々聞こえていた、村を荒し回る襲撃者の足音だ。背後を見上げるように振り返ると、騎士が剣を構えてネムを見下ろしていた。
血の跡が残る剣は天を向くようにゆっくりと上げられる。
ああ、エンリは、お姉ちゃんは。
同じくらい怖がっていたのに自分を逃がすために手を引いて走ってくれたお姉ちゃんは。
逃げる途中に見た血まみれの村人と、騎士へ掴みかかったエンリが重なる。
ネムは残酷な現実を理解してしまった。もう逃げる気力は──残っていない。
騎士の剣が自らに振り落とされるのを見ていることしか、出来なかった。
「────〈
ところ変わってカルネ村の広場。
クローネが索敵魔法を使用し、敵の大半がここに居ると分かったのでこちらをガゼフの部隊が。
まばらに散った騎士を掃討する部隊を補佐役に任せ、今は2部隊に別れている。
ガゼフ達が予測していた罠、待ち伏せの用意が完了する前になんとか叩く事は成功したものの、村への被害は大きいものだった。
「生存者を守ることは出来ましたが、間に合ったとはとても言えませんね」
「そうだな、壊滅には至らなかったが復興には時間がかかるだろう。なんとか支援が行き届けばいいが、ままならんものだ」
助けた村人達からは感謝されたが払った犠牲と彼らの今後を思うと素直に受け止めることは難しい。憂いを帯びた目でお互いを労る村人達を見た。
「戦士長、ただいま戻りました」
「ああ、ご苦労。報告してくれ」
「はい。森林までの掃討は完了、村人は数名ですが保護出来ました。重傷の少女が1名いましたが、クローネさんの治癒魔法で傷は塞がりました」
「そうか。彼女には助けられてばかりだ、礼は弾まないとな」
「ええ、全くです」
「──そしてもう一つ報告を。村を囲うようにして新たな敵が接近しつつあります……如何されますか」
敵を目前にしたかのように眉間にシワが寄る。
間もなくガゼフを囮にして村人を逃がす作戦がクローネに伝えられた。
いくら王国戦士長とはいえあれだけの数の
同行が許されず落ち込んだ様子のクローネを見てガゼフは苦笑する。
「気持ちは嬉しいが君を無事に帰すと約束してしまったからな。
だが一つ言っておこう、俺は死にに行くのではないぞ。“王の剣”として国と民を守りに行くんだ」
「王の、剣……?」
なぜか驚いた顔で見上げるクローネの薄い肩に手を置く。
「あとは頼んだぞ」
幼い頃の自分よりもずっと頼もしい子供の、命を惜む優しさが誇らしかった。だからこそ大人として命を賭して守らなければならない。
平民時代に由来するその決意はガゼフを死地へと赴かせた。
──戦線に逃がした筈の戦士達が加わり、不利な戦況でありながらも一時は巻き返したかに思えた。
しかし増え続ける天使達を切り倒すことで精一杯。間合いを詰めようにも敵の
部下達は地に伏せ、立っているのは己のみ。
背中を切られ、腹を貫かれ、鎧も耐久値の限界を超え砕け散っている。
王国を守護する戦士長としての意地で立ち上がることは出来たが、頭にはこれまでの人生が走馬灯のように流れている。
「そんな夢物語を語るからこそ、お前はここで死ぬのだ、ガゼフ・ストロノーフ。その身体で何が出来る?」
「お前を殺したのち村人達も殺す。無駄な足掻きを止め、そこに大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」
敵の指揮官が嘲り笑い、歌うように死を宣告する。そんなことは言われずともよく分かっていた。
しかしガゼフにとってあの時からけして叶うことのない夢ではなくなっている。
(我ながら虫のいい、守ると誓っておきながら縋りつこうとしている。だが、)
「愚かな事だ。夢を見るからこそ希望がある。ここで俺が倒れたとしてもその次が、いつかお前達の喉元に食らいつくだろう」
副長に語った夢を体現する少女がいた。ならば自分も引くことなく戦うまで。そうすればいつかきっと届くはずだと信じて。
「だからこそ、今この先へは1人も通さん!!」
溢れ出る血を噛み締めながら、剣を握る手に力を込める。夕焼けに染まった空を覆うほどの天使達がガゼフに容赦なく迫った、その時。
『天使よ、去れ。ここはお前たちがいる場所ではない──此なるは死の王が戴く冠なり』
鳥肌が立つような禍々しい威圧感がガゼフを中心に周囲の天使を吹き飛ばし、瞬く間に光へと変えた。
呆然と上を向いていたが、目の前にいつの間にか先程まで思い浮かべていた人物が背を向けて立っている。
「……何故、君が此処に」
「あなたと同じ理由です、ガゼフ戦士長」
こちらを見つめる横顔には、あの不安そうな少女は何処にもいなかった。
次回「周辺国家最強 対 威光の主天使」