ナザリックのお姫様   作:この世すべてのアレ

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周辺国家最強 対 威光の主天使 Ⅱ

 

 

 掲げた水晶から現れたのは、美しい純白の体を持った見上げるほど巨大な天使。日が落ちていてもその存在は天に祝福されたかの如く発光している。

 

「これは……」

 

 流石のガゼフも絶句し、肌で主天使が放つプレッシャーを感じていた。

 立ち向かう人類を寄せ付けぬ聖なるオーラに存在自体を否定されているような感覚は初めてだ。

 

 勝てない。

 

 長年の経験により、そう直感する。

 引くことは出来ないがせめて、クローネだけでも逃がさねばと考えた瞬間、隣から魔法の詠唱が聞こえた。

 

「〈混沌の鉄槌(ケイオス・ハンマー)〉──!!」

 

 突如、主天使がけたたましい音と共に爆撃され、色とりどりの煙が立ち込める。

 

「戦士長様、いけますか」

 

 ハッと隣にいたクローネを見ると、爆風で黒いベールをたなびかせ、取り乱した様子もなく真っ直ぐに主天使を見据えている。

 堂々としたその姿に天使以上の底知れない存在感と、年恰好からは想像も出来ない上に立つものの気迫を見た気がした。

 心強い味方に覚悟を決めたガゼフは問う。

 

「何か策があるんだな?」

 

「成功するかは戦士長様次第です」

 

「そうか、ここで乗らなければ男じゃないな」

 

 クローネが後ろに回り、ガゼフの背中に両手を向ける。

 

「先に謝っておきます、かなり辛いかもしれませんが耐えてください……〈勇者の奇跡〉」

 

 その言葉に頷こうとしたが、身体の中心からゴウ、と業火が立ち上ったような感覚に襲われ、自分の身体が暴れ馬のように制御が効かなくなる。剣を持つ手が震えるのを歯を食いしばって耐えねば身体が引きちぎられそうだった。

 湧き上がる得体の知れない力は身体を燃やし尽くし、ガゼフの肉体を()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「行ってください!」

 

 クローネの言葉に弾かれたように走り出す。

 身体は未だ燃えていたが一歩進む度に頭が冴え渡り、力が馴染んでいくのを感じる。重かった身体は羽根のように軽く、思考に追いついて加速していく。

 

(構想は以前からしていた。俺ではそこに到達することは出来ないと思っていたが、今なら!)

 

 クローネのスキル〈勇者の奇跡〉は1日に1回、他者を選択した敵一体と同じレベルに引き上げ、その分だけステータスも上昇させる。

 自分に使う場合、回数制限は無いがユグドラシルでは100lvが上限のため、上がりきってしまえば無用の長物。レベルアップで取得できる魔法もパッシブスキルも使えない死にスキルでしか無かった。

 しかし、この世界にはユグドラシルにはない“武技”という技能がある。

 

「行くぞッ!」

 

 気合は十分、ガゼフは主天使が目前に迫っても足を止めることなくソードを構えて勢いよく振りかぶる。

 

「〈魔法距離延長(エンラージ・マジック)高品質変化(マスターワーク・トランスフォーメーション)〉!」

 

 駄目押しの変化魔法が一時的に武器の品質を衝撃に耐えられる物へと変化させる。

 

 クローネの防御力を突破する強化魔法、レベル分のステータス向上とレベル差によるペナルティの無効化、そして日々の鍛錬と才能が合わり、その全てが剣筋に乗る。

 恐らく、誰もが想定していなかった化学反応がここで起きようとしていた。

 

 人類未踏の境地。少なくとも(プレイヤー)の血を引かぬ定命の人間では至ることの無いステージに、ガゼフは片足を踏み込んだ。

 

 

 

「武技────〈八光連斬〉!!」

 

 

 

 渾身の一太刀から生まれた八つの光が棒立ちの主天使を切り裂き、傷口から無数の亀裂を走らせた。

 建物が崩れるような重々しい音を響かせながら地面へと落ち、砂煙を上げて光へと変わっていった。

 

「──ーーッ!!!」

 

 もはや言葉が出ないニグンは、戦場であることを忘れて自らに迫る危険を察知するのが遅れた。

 

 砂煙に紛れて主天使を切った勢いのままこちらに迫るガゼフの切っ先を急所から外したのは意地かプライドか、即死は間逃れたが致命傷には違いない。

 

「が、あ、ッ」

 

 自らが召喚した天使と同じく倒れ伏し、息の上がったガゼフに鼻先へバスターソードを突きつけられる。

 

 完敗だった。しかし1度は倒しかけた人間相手に命乞いをするほど、矜恃を捨てた訳では無い。自分を倒したところで終わるわけでは無いのだから。

 

「ふッ……ふ、ふはは、はは……これで、終わったと思うな、よ……ガゼフ・ストロノーフ……!

 大局の見えないお前では、人類を救う英雄には、成り得ない……決してだ……ッ!! 精々、箱庭の中で、仮初の平和を楽しむのだな……!」

 

 血を吐き滴らせながら足を掴み、血走った目でこちらを見るニグンにガゼフは息を整えて言い放った。

 

「俺は“王の剣”、それ以上でも以下でもない。そんなことは誰よりもよく知っている」

 

 その言葉を最後に喉笛を切り裂かれ、陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは息絶えた。

 

 

「戦士長──!」

 

 声に振り返ると、敵を鎮圧した部下達がガゼフの奮闘を讃えるように、疲れも忘れて満面の笑みで手を振っていた。

 それに手を振り返そうとして、視界が暗転する。

 

「ガゼフさん!」

 

 意識が飛ぶ直前、自分を呼ぶ少女の声がした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ガゼフが目を覚ましたのは深夜だった。

 

 夜明け前の深い紺色の空が目に入り、周囲を見渡すと焚き火の近くで引かれた毛布に寝かされていた。

 カルネ村の一角で野営をしているようで、見張りの戦士はいない。

 

 しかしなんだか腹の辺りが暖かい。気になって首を動かしてみると、ガゼフの腹を枕にしてクローネがスヤスヤと眠っていた。

 まだ戦場での高揚感が抜けきれていないのか、なんだか酷く現実離れした光景に見える。

 それでもあどけない表情で眠る少女が可愛く思えて白い頭に手を伸ばそうとした。

 

「う、ぐッ!」

 

 動かした腕から全身に激痛が走る。

 まるで全身が筋肉痛になったよう、というか実際にそうなのだろう。覚えのある痛みに呻き声が出た。

 声で目が覚めてしまったのか、まだ眠たそうにぐずっていたが、悶絶するガゼフを見てクローネは飛び起きた。

 

「え、ガゼ、戦士長さま! だ、駄目ですよ急に動いたら!」

 

「起こしてしまってすまない、そんなつもりは、ぐッ、無かったんだが」

 

「わたしは居眠りしてただけだから良いんです。でも、目が覚めて本当に良かった……」

 

 泣きそうなクローネを落ち着かせるために、ガゼフは長時間寝たままなのも身体が辛いと言って支えてもらい、なんとか上体を起こす。

 焚き火の前に座り、その右隣にクローネが座る。動く度に痛みが走ったが一旦は落ち着くことが出来た。

 

「すみません、こんなに酷い疲労状態になるとは思わなくて、魔法では取り除けないんです」

 

「何を言うかと思えばそんなことか、そんなこと気にしなくていい。君が居なければ俺は今頃──」

 

 言いかけた言葉を察したのか、俯いてしまった。しかし礼を言われて落ち込むようなことは無いはずだが、と疑問に思った。よく見れば顔色も良くない。

 

「どうした、元気がないな」

 

「あの、その事なんですけど、実は」

 

 戦闘で亡くなった部下がいると聞かされた。クローネが加勢する前に致命傷を負った者はガゼフも戦闘中に確認している。

 生き残った戦士によって遺体は回収され、準備を整えてから荷車で王都へ帰還させる手筈だという。

 

「わたし、その……」

 

 思い詰めた顔を見てなるほど、とガゼフは思った。

 

「それはゲルダという女性との約束に関係があるか?」

 

「!」

 

 あの時の会話をガゼフは聞いていた。そして戦場で見たクローネの力は人の枠を超え、あの帝国の化け物魔法詠唱者(マジックキャスター)に匹敵する所か、超えてさえいる。

 致命傷すら完治させる癒しの魔法を使い、その先があるとしたらそれは……

 王国にもその魔法を使う冒険者はいるが、なんの後ろ盾もなく危険な場所に躍り出ることを厭わない少女が使ったとしたら、その末路は言うまでもないだろう。

 

「クローネ、少しいいか?」

 

 名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げた。

 

「元々、この任務で俺は死を覚悟していた。罠だということは分かっていたからな。それは部下達も一緒だ」

 

「それを助けてくれた事に感謝しても、助けなかったからと責めるつもりはない。君が背負おうとしているものは俺が背負わなければならないことだ」

 

 ガゼフの労りはクローネを更に辛くさせた。力を持つ自分を許してくれる優しさに応えられないのだから。

 

「だが、そうだな。俺だけでは潰れてしまうかもしれない。困ったな」

 

「え?」

 

 急に話の流れが変わって戸惑うクローネにガゼフは右手を差し出した。

 

「一緒に背負ってくれるか、クローネ」

 

 差し出された手とガゼフの優しい眼差しに目頭が熱くなる。駄々を捏ねた自分に気を使わせてまったことに気づいて恥ずかしくなったのだ。

 

「……はい!」

 

 目を拭ってから左手を置く。まるで大きさの違う貝が合わさるように、大きな手と小さな手が固く繋がれた。

 

「そうだ、良かったらガゼフと呼んでくれないか。堅苦しいのは抜きにしよう」

 

「うん、ガゼフさん。……ありがとう」

 

 焚き火に照らされたクローネのあどけない笑顔。戦場での冷たくも凛とした姿からは想像もできない、普通の少女の顔だった。

 ガゼフは初めて見たクローネの満面の笑みに不思議と目が吸い寄せられる。

 

「?」

 

「あ、ああ。いや、なんでもない。こちらこそ、ありがとう」

 

 一瞬頭をよぎった言葉を頭を振って追い出した。

 まだ認めるには少し早い感情がどう転ぶのか、それはまだ先の話である。

 

 




 
 
『大墳墓の屍姫 クローネ』
 マジのガチの姫。戦い方も姫。
 現地のレベルキャップ無視とかバグ技みたいなバフを持ってる。
 4話でデミウルゴスが言ってた通り剥き出しの状態で放っておいていい存在ではない。
 タブラとウルベルトが考えたとは思えない性格設定だが…?

『ガゼフ・ストロノーフ』
 オリ主タグとはなんだったのか。
 人民を守る勇者にはなれても人類を救う英雄にはなれないし、なろうとしない不器用な漢。
 看病してくれた儚げ美少女が元気取り戻して笑ってくれたらどんな男もイチコロだからしょうがないね。
 他の奴だったら手を出して死んでる。

『ニグン・グリッド・ルーイン』
 助演男優賞。いいヒールでした。

『スレイン法国(監視)』
 は?

威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)
 今作では第7位階相当の召喚モンスター。強さは1.7ガゼフ。

白亜の装飾剣(ゴシックソード・オブ・チョーク)
 見た目は剣でありながら分類はワンド。
 切り付けても相手を殺す事はおろか傷つけることも出来ない。

『魔法とスキル:いっぱい』
 一部元ネタからオバロの表記にあわせて名称を変更しています。

前話までの誤字報告、お気に入り、評価、感想ありがとうございます。

3話の時点で用意していた詳細なプロットはほぼ消化、ひと段落ついたので良いところですがちょっと休憩します。やりきったぜ…
約1ヶ月の間、一緒に走ってくれた読者の方々ありがとうございましたー!


次回「世界征服宣言」(仮)

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