「私は、ある程度の土地を帝国に共同開発という名目で提供する事が可能です。そこを開発して大農場を作る。魅力的ではないでしょうか」
他国に土地を提供するなど聞いたことが無い。前代未聞の提案だった。
「··········意外な申し出だ。確かにモモンの領地は、肥沃な土地といえるが·····それはともかくそちらにあまりメリットがあるとは思えないのだが」
無欲な提案ほど危険な物はない。ジルクニフは経験からわかっている。欲があるからこそ操り易いのだ。欲のない人間は厄介だ。
「共同開発ですから。こちらは土地を提供し、そちらは労働力と資金を提供する。私の土地も肥え、そちらも新たな食料供給地を手に入れられる。悪くない提案ではないでしょうか?
悟は最後の一文を、低めの声で強調する。この低めの声は魔王ロールとして、悟がユグドラシルで磨き上げたものだ。その成果もあって説得力がある声である。
(·····なるほど。確かに悪くない提案だ。王国を直接支配するよりは合理的か。しかし·····併呑を覆すだけの魅力には欠けるか·····)
ジルクニフは、愛しい夫を笑顔で見守るラナーに目を向ける。
(黄金·····何を考えているんだ·····その笑顔は本物なのか?)
これがもし、ナザリック候こと悟のみであれば、素直に受け取れたかもしれない。だが、黄金ことラナーが絡んでいる事がジルクニフに警戒させている。
ちなみにジルクニフの脳内嫌いな女ランキングの一位に君臨しているのがラナーだ。しかし、同時に高く評価もしている。"頭はとても切れるが、同時に何を考えているか分からない気持ちの悪い不気味な化け物"·····そんな人物が目の前に居れば誰だって警戒するだろう。
当のラナーはといえば·····。
(真剣に対応するサトルってやっぱり素敵。惚れ直しちゃう。ううん、違うわね。さらにほれちゃうかしら·····?)
などと考えており、ジルクニフの苦悩には気づいていないように思える。
「それだけか?」
ジルクニフは問いかける。魅力はあるが、はいそうですかと言えるほどの内容でもない。帝国を強大な国にする為には豊かな土地は必要だが、欲しいものはそれだけではないのだ。
それに、あと一押しで王国は潰れる。手を引くには、それ相応の物が必要だ。つまり切り札である。
(黄金の事だ。必ず持っている。切り札·····それがなんなのか。ないはずはないだろ? )
ジルクニフはそう確信していた。
「私という唯一無二の盟友が手に入りますよ?」
「私と、サトルが陛下のお手伝いをいたします」
仲の良い新婚夫婦が言葉の協奏曲を奏でた。
(それが切り札か? いや、確かに黄金の頭脳は優秀だが切り札としては弱い·····ということは、まさかモモン·····ナザリック候が切り札だとでも?)
ジルクニフは困惑し、二人を交互に見やる。もっともその困惑は一切表情にはでないが。
(しかし、モモンの情報はほとんどない。治世に問題はないが·····。情報がないという事は隠しているのかもしれんな。黄金の糸·····いや意図か·····)
ジルクニフは目の前にいる黄金ことラナーの見えない糸に絡み取られているような気がしてきた。
「言うものだな·····国一つに匹敵するものが二人にはあるというのかな?」
優秀な人材は欲しているが、他国の王族とその伴侶というのは想定していない。臣下ではなく盟友というのは新しいが·····。
「だって私のサトルですよ!」
鼻息荒い感じのラナー。もちろん完全にお惚気である。何がだってなのだろうか?
「は、はあ·····」
さすがのジルクニフも、ラナーがあまりにも意気込んでいるので、気圧され苦笑いを浮かべるしかない。
(何がだってだ。·····何の説得力もないではないか·····いや、いやいや。待てよ·····そうか、黄金が選んだ相手と考えればよいのか?)
元々ナザリック候は、姉である第二王女の結婚相手の候補だったが、彼を一目見た第三王女ラナーが大変気に入り、結局自分の婚約者·····第三王女の婚約者にしたという話を聞いている。
(見た目に惹かれたのかと思っていたが、能力を評価してのことか。だとすれば·····切り札になり得るのではないだろうか。しかし、何を持ってそう評価しているのだ? そこがわからない)
聞いている噂や情報からだと、安定した治世を行い、夫婦仲はよく、バルブロを一蹴するだけの剣技の腕前がある·····その程度だ。
(わからん。それが知りたい·····)
このジルクニフの願いは、予期せぬ形で実現する事になる。
一言·····
繁忙期·····なのです。