手からビーム的なものが出たり、大岩を持ち上げたり、空を飛んだり……そんな『異能力者』を専門に狙う殺人鬼がいましたとさ。

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異能力者殺し

「ついに追い詰めたぞ、殺人鬼め」

 

 パンツスーツの美女はたいそうお怒りのようだ。雑居ビルの谷間には俺たちの他に人影もなく、原発停止以降の省エネ公共サービスは街灯のひとつも灯しはしない。

 

 だから、自販機の明かりだ。突きつけられた日本刀が照り返しているのは。

 

「ヘルメットで顔は見えんが、男か。こんなところにバイクを停めていたのが運の尽きだ。生死問わずのそっ首、無様に地べたへ転がしてやるぞ」

 

 物騒な言い草だ。生け捕りにこだわらないということは、どこぞの組織からの討手ではないが。

 

「討つ前に聞く。どうして異能力者を狙う。国内でも、国外でも、お前の手にかかったと思われる異能力者は数知れない。しかも無差別だ。テロ組織の看板能力者を討った翌週に、何の罪もない学生を殺してまわるなど……!」

 

 ああ、なるほど。襲撃した学園の関係者か。そういえば師匠的な立場の教師が不在だったと後から聞いた。探す手間が省けたな。

 

「答えろ! 答えによっては、苦しむ時間を数秒でも短くしてやる」

 

 美女の身体から、まるで風呂上りの湯気のように立ち上る燐光―――エーテリック。主に先天的な才能に依存し、様々な奇跡を起こすオカルティックな力。

 

 彼女は強力な異能力者のようだな。見たところ『スーパーファイター』型か。

 

「……無差別ではないですよ。きちんと区別して殺しています」

「区別だと。口からでまかせを」

「嘘ではありませんよ。殺す基準はどれくらい人類の役に立つかです。害になる者は論外として、益になる者についても程度次第では殺します。私、殺した人間のエーテリックを活用できるので、そうした方が人類にとってプラスだと判断すれば……」

「貴様あっ!」

 

 アスファルトを壊す踏み込み。やはりスーパーファイター型だ。身体強化と得物強化で超人的な近接戦闘をするスタイルだから―――

 

「む! これが貴様の異能力か!」

 

 ―――重歩兵を呼び出して防がせる。すんごい音したが大盾は無事だ。

 

「エーテリック体の人形を操る……『サモンガーディアン』型とは片腹痛い」

 

 ギリギリと力比べをしながら、美女、これまた物騒な笑みを浮かべたものだな。

 

「自ら戦わず、戦えず、怯え隠れて人形を繰る! 臆病者の能力だ、こんなものは!」

「異能力型に貴賤はないと思いますが」

「どの口が言う!」

「え、それ、こちらの台詞なのですが。指導者がそんな風だから、あの学園、スーパーファイター型がスクールカーストのトップ集団を形成していたのでは?」

「強者が弱者を護る! 当然のこと!」

 

 おお、盾が斬られた。本当に強力なエーテリックだ。咄嗟に組みつかせてはみたものの、早くも関節が悲鳴を上げている。ゴリラみたいな美女だ。

 

「強者の義務ですか。わかります。異能力などという強い力は、弱き者を護るためにこそ使われるべきですからね」

「どの! 口があ!」

「いや、だから私、異能力者しか殺さないじゃないですか」

「未成年者を殺しておいて!」

「あの学園の若者たちは、異能力バトルにかまけてばかりでした。彼ら彼女らの世界は学園内で完結していたのです。それはつまり弱者など目にも入っていなかったということではありませんか」

「学んでいた! 鍛えていた! 全てはこれからの、十代の若者を!」

 

 いよいよまずい。重歩兵の手指が折られたばかりか、鎧までひしゃげてしまった。そればかりか腕も首ももぎ取るつもりか。

 

「素晴らしい未来の可能性を! 貴様は奪ったんだぞ!!」

「アホらしいですね。五歳にもなれず死んでいく子どもがいる世界で、何を甘ったれたことを」

 

 ゴスンと打撃音。美女が目を真ん丸にした。

 

 ゆっくりと崩れ落ちていった彼女の背後には、エーテリックで作った軽歩兵が、メイスを振り降ろし終えた姿で立っているわけだ。いやあ、気づかれず忍び寄らせるのに苦心した。

 

「き、きさ……ま……」

「二体目がいないと早合点した方が悪いでしょうよ。ちなみに、今のところ最大で千五百体ほど運用できます。まあ、この重歩兵レベルの強さでとなると数体が限界ですが……あなたのエーテリックを奪うことで、改善なり発展なりするでしょう」

 

 物陰に潜ませておいた三体目と四体目も呼ぶ。四体で四肢を抑え込ませる。念には念を入れてというやつだ。スーパーファイター型は生命力が強いからな。

 

 胸の中央に触れる。心臓を感じ取る。そこに脈ずく力強さからエーテリックを吸い取っていく。

 

「あ……あ……あ……」

「あ、そういえば、最後にひとつ聞いていいですか? 何で学園の異能力者たちにヘルメットなり何なり防具を身につけさせていなかったのです? 危なくないですか、あれ。教育的に考えて」

 

 残念、時間切れだ。もう亡くなってしまった。答えは聞けなかったが、本人からして刀は所持していても防具なしだったのだから察せられるものがある。戦闘を舐めている。恐らくは現実も。

 

 豊かな国で暮らしている限り、この種の油断は尽きることがないのだろう。

 

 悲しいけれど、いい狩場だ。

 

 せめてもの供養に遺体を整えよう。一般捜査部門の手間を取らせないために、犯行声明文を書いて胸元へ差し込んでおこう。何をしたところでご遺族には申し訳もないが。

 

「……大量のエーテリックをありがとうございました。これでさらに頭数を増やせます。紛争地帯に灌漑を施しているのですが、難民は増えるばかりでしてね。まだまだ数を増やさないといけないのですよ」

 

 目を閉じて意識を向ければ、数千キロメートルも離れた山中の風景が浮かんでくる。砂と石しかない土地だ。それでも、そこにいれば銃弾と刃が襲ってくることはない。国際社会に見捨てられて、そこへ逃れてくる人が後を絶たない。

 

 今も、私の人形たちが砂を掘っている。岩を運んでいる。休むこともなく。

 

「次のターゲットは近畿地方……この殺人もすぐに捜査されるだろうし……まだまだ眠れないなあ」

 

 バイクにまたがった。

 

 異能力者殺しには昼も夜もありはしない。



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